第15話 暗闇に火をつけろ-ドウコウ-
空が見える。
もうすっかり明るくなった、青い空。
長野では綺麗な星が当たり前すぎて、空を見上げる機会なんてなくなっていた。
こうしてスローモーションの世界で空を眺めるなんて、どれだけぶりのことだろう。
もうすっかり明るくなった、青い空。
長野では綺麗な星が当たり前すぎて、空を見上げる機会なんてなくなっていた。
こうしてスローモーションの世界で空を眺めるなんて、どれだけぶりのことだろう。
(な――――)
おしりを地面で殴打する。
たかだかスカート1枚だけでこの衝撃を緩和できるはずもなく、擦るように殴打した臀部がヒリヒリと痛んだ。
特に左側の尻に痛みを覚える。
たかだかスカート1枚だけでこの衝撃を緩和できるはずもなく、擦るように殴打した臀部がヒリヒリと痛んだ。
特に左側の尻に痛みを覚える。
(何で――――)
何故こんなことになったのか。
根本的な原因までは不明だが、直近の原因ならわかっている。
久々空を見上げたのも、おしりを殴打してしまったのも、全て清澄の大将が原因だ。
清澄の大将があたしを突き飛ばしたから、あたしは空を眺めながら臀部をクリーンヒットするはめになった。
根本的な原因までは不明だが、直近の原因ならわかっている。
久々空を見上げたのも、おしりを殴打してしまったのも、全て清澄の大将が原因だ。
清澄の大将があたしを突き飛ばしたから、あたしは空を眺めながら臀部をクリーンヒットするはめになった。
「…………っ!!」
では何故、清澄の大将は突き飛ばしなんてしてきたのか。
その原因を探って、あたしがこんな目にあった根本的な原因を探ってみましょうか。
とりあえず、清澄の大将が突き飛ばしたのは口論が理由じゃない。
まあ、口論が招いたピンチのせいという意味では、口論が原因と言っても間違いではないのだけど。
その原因を探って、あたしがこんな目にあった根本的な原因を探ってみましょうか。
とりあえず、清澄の大将が突き飛ばしたのは口論が理由じゃない。
まあ、口論が招いたピンチのせいという意味では、口論が原因と言っても間違いではないのだけど。
とにかく、直接の原因は暴走車だ。
いきなり現れたソイツから、あたしを庇って突き飛ばしたのだ。
そして、庇った清澄の大将は――――
いきなり現れたソイツから、あたしを庇って突き飛ばしたのだ。
そして、庇った清澄の大将は――――
「大将さんッ!!」
飛び跳ねるように起き上がる。
ドンという衝突音が確かにした。
だとすると、清澄の大将は――――――
ドンという衝突音が確かにした。
だとすると、清澄の大将は――――――
「清澄の大将さん……」
気が抜けたようにペタンと地面に座り込む。
視界には、同じく座り込んでいた清澄の大将が映っていた。
その向こうには、へし折られた樹木。
そして、横転した大型車。
視界には、同じく座り込んでいた清澄の大将が映っていた。
その向こうには、へし折られた樹木。
そして、横転した大型車。
「…………」
清澄の大将は、ガタガタと震えていた。
――そんなに怖かったのに、あたしだけでも逃がそうと突き飛ばしてくれてたのか。
――そんなに怖かったのに、あたしだけでも逃がそうと突き飛ばしてくれてたのか。
(……非力ですね、まったく)
思わず苦笑いを浮かべる。
腕力が想像以上に無かったらしい彼女の突き飛ばしでは、大した距離を移動できなかったらしい。
ハンドルを切って道路の向こうにある山中まで車が行ってくれなければ、おそらくあたしも一緒に轢かれていただろう。
腕力が想像以上に無かったらしい彼女の突き飛ばしでは、大した距離を移動できなかったらしい。
ハンドルを切って道路の向こうにある山中まで車が行ってくれなければ、おそらくあたしも一緒に轢かれていただろう。
(でも……思っていた以上に、強い人かもしれませんね)
そんな非力な人間が、ガタガタ震えた人間が、ほとんど反射的にとは言え他人のために動いたのだ。
評価しないわけにはいくまい。
評価しないわけにはいくまい。
(清澄の、なんて付けずに、素直に大将って慕ってもいいくらいに思えてきましたよ)
あ、大将、別にコレは浮気ってわけじゃないですよ?
本当の大将はあくまで貴女一人ですからね?
ただこの殺し合いというシチュエーションに限っては清澄の大将を大将と呼ぼうかなあというだけでして……
本当の大将はあくまで貴女一人ですからね?
ただこの殺し合いというシチュエーションに限っては清澄の大将を大将と呼ぼうかなあというだけでして……
「……ありがとうございます。庇って、くれたんですね」
再び腰を上げると、清澄の大将へと歩み寄った。
そしてペコリと頭を下げる。
そしてペコリと頭を下げる。
「い、いいよそんな……轢かれそうになったのも、私のせいだし」
確かにそうだ。
とはいえ、バツが悪そうな表情を見ると、そんなことを口にする気にはなれない。
それに、恩義を感じたのは本当のことだし。
とはいえ、バツが悪そうな表情を見ると、そんなことを口にする気にはなれない。
それに、恩義を感じたのは本当のことだし。
「……あはは……立てないや」
苦笑を浮かべる清澄の大将。
どうやら腰を抜かしたらしい。
無理もあるまい、何せ彼女は直撃コースだったのだから。
出会った時の臆病っぷりを考えると、失禁していないだけ頑張った方と言えるのではなかろうか。
どうやら腰を抜かしたらしい。
無理もあるまい、何せ彼女は直撃コースだったのだから。
出会った時の臆病っぷりを考えると、失禁していないだけ頑張った方と言えるのではなかろうか。
「手、貸しますよ」
手を差し伸べ、立ち上がらせようとする。
清澄の大将は、遠慮がちに「でも……」なんて言ってきた。
清澄の大将は、遠慮がちに「でも……」なんて言ってきた。
「困った時はお互い様ですよ。さっきは助けられましたし」
「でも、結果的にあまり意味なかったし……」
「こーいうのは気持ちの問題ですよ。
相手と互いに助け合うこと、相手のために自分に出来ることを精一杯やること――
それが仲間ってもんだと、ウチの大将が言ってましたしね」
「でも、結果的にあまり意味なかったし……」
「こーいうのは気持ちの問題ですよ。
相手と互いに助け合うこと、相手のために自分に出来ることを精一杯やること――
それが仲間ってもんだと、ウチの大将が言ってましたしね」
あたしこそ、何にも出来ない無能者だから。
清澄の大将の悲しみを止めることが出来なかったくらいの無能者だから。
せめて、このくらいはさせてほしい。
清澄の大将の悲しみを止めることが出来なかったくらいの無能者だから。
せめて、このくらいはさせてほしい。
「ありがとう、上柿さん」
「ぎっひ。どういたしまして」
「ぎっひ。どういたしまして」
差し伸べた手が握り返される。
ダンスをエスコートするように、優しく手を引き立ち上がらせた。
まだ力が入らないらしく、抱きつくようにもたれかかられる。
危うく転倒しかけるも、何とか踏みとどまることができた。
ダンスをエスコートするように、優しく手を引き立ち上がらせた。
まだ力が入らないらしく、抱きつくようにもたれかかられる。
危うく転倒しかけるも、何とか踏みとどまることができた。
「ついでにこちらにも手を貸して頂けますか?」
急に声をかけられて、思わずビクリとしてしまう。
握った手は、何とか離さなかったけど。
握った手は、何とか離さなかったけど。
「えと……貴女は、確か……」
「私は南浦数絵。個人戦ではお世話になりました」
「私は南浦数絵。個人戦ではお世話になりました」
どうやら相手は南浦数絵というらしい。
団体戦決勝戦じゃ姿を見てない奴だとは思ったけど、そうか、そういえば個人戦で目立っていたポニーテールの奴か。
団体戦決勝戦じゃ姿を見てない奴だとは思ったけど、そうか、そういえば個人戦で目立っていたポニーテールの奴か。
「それで、助けてっていうのは……」
「私の仲間が、まだ閉じ込められています」
「私の仲間が、まだ閉じ込められています」
そういい、すっと後方を指さす南浦。
視線をやると、その指の先に横転した車が見えた。
車は木にぶつかっていたらしく、へし折れた木にフロント部分をめり込ませている。
その車の破損したフロントガラスの手前、助手席の扉が開けっ放しなことに目が行った。
こいつ、あそこから出てきたのか。
視線をやると、その指の先に横転した車が見えた。
車は木にぶつかっていたらしく、へし折れた木にフロント部分をめり込ませている。
その車の破損したフロントガラスの手前、助手席の扉が開けっ放しなことに目が行った。
こいつ、あそこから出てきたのか。
「はぁ!? てことは、アンタ達があたし達を轢き殺そうと――!」
「事故です、あれは。ですが謝罪は致します。申し訳ありません」
「事故ってアンタ……! こっちは死にそうな想いをしたんですよっ!」
「事故です、あれは。ですが謝罪は致します。申し訳ありません」
「事故ってアンタ……! こっちは死にそうな想いをしたんですよっ!」
相手の“如何にも自分は悪くない”オーラに少々カチンと来てしまう。
もう少し、すまなそうな顔くらいしてもいいじゃあないか。
もう少し、すまなそうな顔くらいしてもいいじゃあないか。
「分かりました……ごめんね上柿さん……私は大丈夫だから、助けに行ってあげてくれる?」
「まぁ、大将さんがそう言うなら……」
「まぁ、大将さんがそう言うなら……」
まだ納得はできないが、自分以上に怖い目に合わされた人がそう言うのなら、従わないわけにはいかない。
ゆっくりと清澄の大将を座らせる。
ゆっくりと清澄の大将を座らせる。
「結構派手にイッてますけど、運転手は大丈夫なんですか?」
「エアバッグが備え付けられていたし、私が出る直前も喋っていたから無事だとは思いますが……」
「エアバッグが備え付けられていたし、私が出る直前も喋っていたから無事だとは思いますが……」
車に駆け寄り、タイヤに足掛けよじ登る。
助手席から運転手を引きずり降ろそうとしたところで、後部座席の扉が開いた。
助手席から運転手を引きずり降ろそうとしたところで、後部座席の扉が開いた。
「あー……死ぬかと思った」
出てきたのは、パイナップルのような頭をした少女。
こちらは南浦と違い、団体戦でも個人戦でも見かけた記憶がさっぱりない。
出ていたのかも知れないが、記憶には残っていない程度の選手だったということだろう。
こちらは南浦と違い、団体戦でも個人戦でも見かけた記憶がさっぱりない。
出ていたのかも知れないが、記憶には残っていない程度の選手だったということだろう。
「ったぁー……だから嫌だって言ったんだ、私は」
腕の擦り傷を摩りながら、パイナップル頭がぼやく。
どうやら後部座席に座っていたらしいが、大きな怪我はないらしい。
……シートベルト効果って、そんなに凄いものだったっけ?
どうやら後部座席に座っていたらしいが、大きな怪我はないらしい。
……シートベルト効果って、そんなに凄いものだったっけ?
「ワハハ。反省はしてるって。だから出してくれないかなー」
「ちょっと待ってったら。……ん? アンタは?」
「ちょっと待ってったら。……ん? アンタは?」
車内に向かって喋っていたため、こちらをよく見てなかったらしい。
見上げた先に見慣れぬ奴がいたことに、少し驚いているようだ。
……それにしても、この立ち位置は何か嫌だ。
相手が這い上がる途中のせいで、スカートの中へ話しかけられているような構図になっている。
さすがに少し恥ずかしいので、スカートの裾を抑えつけた。
見上げた先に見慣れぬ奴がいたことに、少し驚いているようだ。
……それにしても、この立ち位置は何か嫌だ。
相手が這い上がる途中のせいで、スカートの中へ話しかけられているような構図になっている。
さすがに少し恥ずかしいので、スカートの裾を抑えつけた。
「あたしゃそこの南浦さんに助けを乞われたんですよ。アンタ達に轢かれかけたってーのに」
「……悪かったって、マジで」
「ワハハ。ちょっとスピード出しすぎたかなー」
「……悪かったって、マジで」
「ワハハ。ちょっとスピード出しすぎたかなー」
ホントに反省してるのか、おのれら。
「エアバッグが邪魔臭すぎてしょうがないなー。ワハハ、これ窒息もあるんじゃないか?」
「ねぇよ。あったら欠陥構造じゃん」
「確かになー。ワハハ」
「ねぇよ。あったら欠陥構造じゃん」
「確かになー。ワハハ」
そしてこの気の抜けっぷりである。
後部座席から侵入した南浦さんがカッターナイフでエアバッグの空気を抜き、
私とパイナップルの人がワハハと笑っていた人を引っ張り上げる形を取る。
その作業の最中に、立ち上がれるようになっていた清澄の大将が傍にやってきた。
後部座席から侵入した南浦さんがカッターナイフでエアバッグの空気を抜き、
私とパイナップルの人がワハハと笑っていた人を引っ張り上げる形を取る。
その作業の最中に、立ち上がれるようになっていた清澄の大将が傍にやってきた。
「蒲原先輩……?」
「ワハハ。久しぶりだなー清澄の」
「ワハハ。久しぶりだなー清澄の」
ワハハと笑うバカ面の女は蒲原というらしい。
運転手ということは、こいつが轢き逃げ未遂犯ということになる。
その可能性は高いとは思っていたけど、やはり清澄の大将の知人だったか……
運転手ということは、こいつが轢き逃げ未遂犯ということになる。
その可能性は高いとは思っていたけど、やはり清澄の大将の知人だったか……
「悪かったなーさっきは。怪我はなかったかー」
「ええ、一応……避けてくれましたから」
「……避けたのは助手席に座ってた南浦がハンドル切ってくれたからだけどな」
「ワハハ。持つべきものは仲間ってことだなー」
「ええ、一応……避けてくれましたから」
「……避けたのは助手席に座ってた南浦がハンドル切ってくれたからだけどな」
「ワハハ。持つべきものは仲間ってことだなー」
どうすりゃそういう結論に落ち着くんだ。
エアバッグで頭打っておかしくでもなったんですか。
エアバッグで頭打っておかしくでもなったんですか。
「……行きましょう大将。もう手助けは済みましたし」
正直、この状況で呑気こいて人殺しそうになった奴と一緒になんて居たくない。
戸惑う清澄の大将の手を引いて、スタスタと歩み去った――はずだったのに。
戸惑う清澄の大将の手を引いて、スタスタと歩み去った――はずだったのに。
「待って下さい。まだ、話はあります」
「……一体、何の御用で?」
「……一体、何の御用で?」
露骨に嫌な顔をしてみせる。
清澄の大将はそんな私に少し戸惑っているようだ。
……むしろ、不快感を示さない清澄の大将の方が理解に苦しむんですが。
清澄の大将はそんな私に少し戸惑っているようだ。
……むしろ、不快感を示さない清澄の大将の方が理解に苦しむんですが。
「私達に力を貸して頂きたい。この殺し合いを打破するために」
「……出来るんですか? 悪意無き参加者を殺しかける人達に」
「か、上柿さんっ……」
「……出来るんですか? 悪意無き参加者を殺しかける人達に」
「か、上柿さんっ……」
確かにこちらは殺し合いに乗る気はない。
だからといって、誰でもいいからホイホイ仲間に引き入れますという気もない。
何せ命がかかっているのだ。
仲間の取捨選択は慎重にしなくては……
だからといって、誰でもいいからホイホイ仲間に引き入れますという気もない。
何せ命がかかっているのだ。
仲間の取捨選択は慎重にしなくては……
「……貴女も同じ考えですか、宮永咲さん?」
ポニーテール――確か南浦と呼ばれていた――が、清澄の大将へと向き直る。
そして、尋ねた。その目をしっかりと見つめながら。
そして、尋ねた。その目をしっかりと見つめながら。
「私……は、その……正直、怖かったですし、ちょっと、怒ってます」
ちょっとなんてレベルでなく、烈火の如く怒ってもいい。
何せこっちは死にそうな思いをしたのだから。
何せこっちは死にそうな思いをしたのだから。
「でも……頭が冷えたのも事実ですから……許したい、とも思います」
頭が冷えた。
確かにそれはそうかもしれない。
悲しみがなくなったわけじゃないだろうが、仲間の死に発狂する雰囲気ではなくなった。
確かにそれはそうかもしれない。
悲しみがなくなったわけじゃないだろうが、仲間の死に発狂する雰囲気ではなくなった。
「……マジで許す気ですか大将」
「うん……私、嬉しかったから。上柿さんが私の事を許してくれて」
「うん……私、嬉しかったから。上柿さんが私の事を許してくれて」
私が許した……?
ああ、飛び出したことですか。
そりゃぁまあ、あの失態は突き飛ばしでチャラでもおかしくないですから……
ああ、飛び出したことですか。
そりゃぁまあ、あの失態は突き飛ばしでチャラでもおかしくないですから……
「だから、今度は私が許したいから……そうしないと、きっと皆で手を取ることはできないだろうし……」
「……まあ確かに、脱出には協力が必要ですけども……」
「……まあ確かに、脱出には協力が必要ですけども……」
それにしたって、いくら何でもお人好しすぎじゃなかろうか。
確かに全力で回避をしてくれたとはいえ、事故を起こしかけたのだ。
その事故がまた起きないとは限らない。
誤殺騒動に巻き込まれるのは正直御免だ。
確かに全力で回避をしてくれたとはいえ、事故を起こしかけたのだ。
その事故がまた起きないとは限らない。
誤殺騒動に巻き込まれるのは正直御免だ。
「上柿さんは……どうしても、嫌?」
ああ、そんな顔しないで下さいよ。
ちょっと卑怯じゃあないですか?
ちょっと卑怯じゃあないですか?
「大将……」
「ていうか、何で大将? 二人共清澄だっけ?」
「ていうか、何で大将? 二人共清澄だっけ?」
うるさい黙れパイナップル。
話の腰を折るんじゃない。
話の腰を折るんじゃない。
「わ、私は別に大将なんかじゃ……上柿さんも学校が違うし……」
「まぁ、確かに――」
「まぁ、確かに――」
溜め息一つ吐いた後、やれやれと言葉を紡ぐ。
一方的な押し付けだとはわかっている。
打算的なことを言えば、こうすることで自分を庇護対象に入れねば罪悪感を持つように仕向けている。
そうして清澄の大将に取り入ろうとしているのだ。
自分のあまりの醜さに、正直自分で驚愕する。
一方的な押し付けだとはわかっている。
打算的なことを言えば、こうすることで自分を庇護対象に入れねば罪悪感を持つように仕向けている。
そうして清澄の大将に取り入ろうとしているのだ。
自分のあまりの醜さに、正直自分で驚愕する。
「そりゃあ確かに最初は単に貴女が清澄の大将だったから大将と呼びましたよ?」
それでもそれ以外にも、大将と呼んだのには理由があった。
「でも、今は。貴女の行動に感服し、敬意を表しているから、大将と呼ぶんですよ。
付き従うべき人間であり、大将と呼ぶにふさわしい人間――あたしはそう判断しました」
付き従うべき人間であり、大将と呼ぶにふさわしい人間――あたしはそう判断しました」
清澄の大将を、単純に気に入ったから。
取り入ろうと思っているのも本当だが、今は純粋に仲良くやりたいとも思っている。
だからこそ、今はもう『清澄の大将』ではなく、『大将』と呼んでいるのだ。
取り入ろうと思っているのも本当だが、今は純粋に仲良くやりたいとも思っている。
だからこそ、今はもう『清澄の大将』ではなく、『大将』と呼んでいるのだ。
「だから、まぁ、つまり何かってーとですね……」
何だか小っ恥ずかしくなり、頬を掻きながら視線を逸らす。
「大将が本気でソイツらと行きたいってーなら、あたしゃ黙って付き従うだけですよ。
あたしゃ大将の判断を信じてるんでね」
「ワハハ。じゃあ決まりだなー。よろしくな、これから――――っ!」
あたしゃ大将の判断を信じてるんでね」
「ワハハ。じゃあ決まりだなー。よろしくな、これから――――っ!」
握手を求めて来たので、渋々応じてやった。
すると、どうだろう。
ヘラヘラ笑いの表情が、一気に固まったではないか。
すると、どうだろう。
ヘラヘラ笑いの表情が、一気に固まったではないか。
「……どうかしたんですか、蒲原さん?」
「ふむ……怪我をしているようですね」
「ふむ……怪我をしているようですね」
心配する大将には「だいじょぶだいじょぶ」なんて言ってはいたが、南浦にはお見通しのようだった。
どうやらこいつ、車が横転した際に下になった右手を負傷したらしい。
よりにもよって利き手を負傷するなんて……
どうやらこいつ、車が横転した際に下になった右手を負傷したらしい。
よりにもよって利き手を負傷するなんて……
「だ、だだだ大丈夫ですか?」
「いやー参った参った。でもほら、命に別状はないし」
「つかさ、蒲原サンが怪我したんなら、誰が車を運転するわけ?」
「いやー参った参った。でもほら、命に別状はないし」
「つかさ、蒲原サンが怪我したんなら、誰が車を運転するわけ?」
………………あ。
「ワハハ。大丈夫大丈夫。片手でだって運転は」
「ねえよ!」
「さすがに無理では」
「両手でやっても事故起こしたのに、どっから沸くんですかその自信は……」
「ねえよ!」
「さすがに無理では」
「両手でやっても事故起こしたのに、どっから沸くんですかその自信は……」
片手で運転するなんて空恐ろしい事を言う。
こいつ、免許取り上げるべきなんじゃあなかろうか。
こいつ、免許取り上げるべきなんじゃあなかろうか。
「とにかく……車での移動は断念した方が良さそうですね」
「え、じゃあどうすんの。まだ目的の場所までケッコーあるっしょ」
「え、じゃあどうすんの。まだ目的の場所までケッコーあるっしょ」
南浦の妥当な提案に、パイナップルが苦言を呈する。
どうやら彼女達は目的を持って車で移動していたようだ。
どうやら彼女達は目的を持って車で移動していたようだ。
「あ……」
「あのっ……!」
「あのっ……!」
ふと、気が付く。
彼女達は、ここが目的地から遠い場所だと知っていた。
つまり――――
彼女達は、ここが目的地から遠い場所だと知っていた。
つまり――――
「ここがどこか、分かるんですかっ!?」
「はぁ?」
「ええ、まぁ」
「お、教えてもらえますかっ!? 私達、迷っていて……」
「はぁ?」
「ええ、まぁ」
「お、教えてもらえますかっ!? 私達、迷っていて……」
あまり借りを作りたくないというのが本音なのだが、まぁこれについては致し方あるまい。
見栄を張って現在地を知る機会を失うことほど愚かなことはないだろう。
……まあ、大将の場合、そこまで深く考えずに“仲間”に聞いただけという認識なんだろうけど。
見栄を張って現在地を知る機会を失うことほど愚かなことはないだろう。
……まあ、大将の場合、そこまで深く考えずに“仲間”に聞いただけという認識なんだろうけど。
「で、今私達はここにいます」
「結構、最初の体育館に近いんだ……」
「結構、最初の体育館に近いんだ……」
一体どういうことなんだ。
とにかく、ものすご~~~~~~く歩き回り続けた結果、スタート地点から遠く離れた体育館の近くに来ていたらしい。
また、南浦達は、その体育館から続く道を目指していたらしい。
とにかく、ものすご~~~~~~く歩き回り続けた結果、スタート地点から遠く離れた体育館の近くに来ていたらしい。
また、南浦達は、その体育館から続く道を目指していたらしい。
「何でまたそんなところを?」
「なんか、仲間を見つけるためだってさ」
「体育館のザフィケル達を倒して首輪を無効化するとする場合、この道を通るでしょうから」
「なんか、仲間を見つけるためだってさ」
「体育館のザフィケル達を倒して首輪を無効化するとする場合、この道を通るでしょうから」
そう言って、南浦は地図上の道を指さした。
見ると、そこは道がYの字に分かれている。
内一本は、体育館へと続く下り坂に続いていた。
見ると、そこは道がYの字に分かれている。
内一本は、体育館へと続く下り坂に続いていた。
「恐らく皆さんが考え付く首輪の無効化方法は、何とかして禁止エリアに入らずに奴らの拠点を潰すというもの……
となると、爆弾のような何か威力の高いものを、高い位置から落とすというのが一番なように思われます。
さすがに、ライフルのようなものは支給されていないでしょうし」
「そうは言いますけど、結構距離ないですか?
いくら高低差があっても、届かせるのは無謀なんじゃ……」
となると、爆弾のような何か威力の高いものを、高い位置から落とすというのが一番なように思われます。
さすがに、ライフルのようなものは支給されていないでしょうし」
「そうは言いますけど、結構距離ないですか?
いくら高低差があっても、届かせるのは無謀なんじゃ……」
手榴弾を放ろうとしても、女子高生の肩ではそう遠くまでは飛ばないだろう。
そう思い、疑問を口にする。
……南浦達への反発から来た質問ではと言われたら、正直反論は出来ない。
そう思い、疑問を口にする。
……南浦達への反発から来た質問ではと言われたら、正直反論は出来ない。
「……ここがどんな場所か、お分かりですか?」
「はぁ? ……殺し合いの舞台、じゃあないんですか」
「そういうことではなく――この場所が、殺し合いの舞台でなければどんな場所かお分かりですか?」
「……島、ってことですか」
「はぁ? ……殺し合いの舞台、じゃあないんですか」
「そういうことではなく――この場所が、殺し合いの舞台でなければどんな場所かお分かりですか?」
「……島、ってことですか」
いまいち言いたいことが分からない。
そのことに多少なりともイライラする。
それでも極力顔には出さない。
顔に出したら、多分大将も困るだろうから。
そのことに多少なりともイライラする。
それでも極力顔には出さない。
顔に出したら、多分大将も困るだろうから。
「ええ。それも無人島ではなく、人の住んでいた島です」
「まあ、そうでしょうね、道路も整備されてますし」
「ちなみに……お二人はもう村か民家には入られましたか?」
「まあ、そうでしょうね、道路も整備されてますし」
「ちなみに……お二人はもう村か民家には入られましたか?」
質問の意図が分からずに、しばし大将と顔を見合わす。
それから揃って首をふるふると振った。
それから揃って首をふるふると振った。
「そうですか……行けば分かると思いますが、生活の痕跡がそのままあります。
私達は道中立ち寄った民家で工具や包丁などを頂いてきました」
「ええ? それって、泥棒なんじゃ……」
私達は道中立ち寄った民家で工具や包丁などを頂いてきました」
「ええ? それって、泥棒なんじゃ……」
大将が、おずおずと言う。
でも大将、人を殺すか殺されるかって状況で、泥棒行為の是非を問うってのもどうかと。
でも大将、人を殺すか殺されるかって状況で、泥棒行為の是非を問うってのもどうかと。
「この状況下では盗みも許されるんですよ。あらゆる行為が合法となるのです。
それに……島民達は、現金と金目の物以外は置いて行かされています。
つまり、殺し合いでは日用品を駆使しろというメッセージがあるのです」
「ハズレ引いた奴は民家に群がって包丁奪い合えってメッセージなのかもしれないけど」
それに……島民達は、現金と金目の物以外は置いて行かされています。
つまり、殺し合いでは日用品を駆使しろというメッセージがあるのです」
「ハズレ引いた奴は民家に群がって包丁奪い合えってメッセージなのかもしれないけど」
あたし達より一足早く南浦に情報を聞いていたらしいパイナップルが話に入ってくる。
パイナップルは、果物ナイフを掲げてみせた。
どうやら彼女が民家で得た武器を使っているらしい。
ロクなものを貰えなかったのだろうか。
パイナップルは、果物ナイフを掲げてみせた。
どうやら彼女が民家で得た武器を使っているらしい。
ロクなものを貰えなかったのだろうか。
「話がそれましたね。とにかく、生活の痕跡はあらゆる場面に残っているのです」
「だから何だって言うんですか?」
「つまり、残っているということです。
――こういうモノを動かすためのアイテムが、そこら中に」
「だから何だって言うんですか?」
「つまり、残っているということです。
――こういうモノを動かすためのアイテムが、そこら中に」
そう言って南浦は親指で後方を指し示した。
その先へ視線を送ると、そこには横転した車が。
その先へ視線を送ると、そこには横転した車が。
「ギャンブルとして、車の鍵を入手したら車を突っ込ませるという手に出る可能性はあります。
爆発物を乗せていたら、少しはダメージもあるでしょうし。
アクセルに重石を置けばいいとか、気軽に考えつけそうですから」
「なるほど、確かにその通りですね……
あたし達も、車があったら同じ事を考えてたかもしれないですし」
爆発物を乗せていたら、少しはダメージもあるでしょうし。
アクセルに重石を置けばいいとか、気軽に考えつけそうですから」
「なるほど、確かにその通りですね……
あたし達も、車があったら同じ事を考えてたかもしれないですし」
悔しいが、南浦の言うことは正論だ。
確かに、あたし達みたいなのが反逆を企てたら、あの坂の上から車を突っ込ませるという手段に行き着くだろう。
その際に通り掛かるであろう場所を陣取っておくのは、仲間集めには効率がいい。
確かに、あたし達みたいなのが反逆を企てたら、あの坂の上から車を突っ込ませるという手段に行き着くだろう。
その際に通り掛かるであろう場所を陣取っておくのは、仲間集めには効率がいい。
「ちなみに同じ思考の危険人物がいても、あの車に乗ってりゃ安心だったんだけどね」
「ワハハ。そこらにある車との差別化か、防弾仕様だったみたいだしなー!」
「まっさか、あんな形でダメになるとは思わなかったけど」
「ワハハ。そこらにある車との差別化か、防弾仕様だったみたいだしなー!」
「まっさか、あんな形でダメになるとは思わなかったけど」
そしてその作戦を、あたし達との接触事故でふいにしたと。
あたしはまだ南浦達を許しちゃいないが、同様に南浦達もこちらを恨んでいるかもしれない。
あたしはまだ南浦達を許しちゃいないが、同様に南浦達もこちらを恨んでいるかもしれない。
「んで……皆さんはどうやって首輪を無効化する算段で?
やっぱり車が支給されたし、爆発物でも乗せて突っ込ませるとか?」
「まさか。そんなことはしませんよ。道も真っ直ぐではないですし、成功率は5割行けばいい方ですから」
「んじゃ、どうする気で?」
やっぱり車が支給されたし、爆発物でも乗せて突っ込ませるとか?」
「まさか。そんなことはしませんよ。道も真っ直ぐではないですし、成功率は5割行けばいい方ですから」
「んじゃ、どうする気で?」
まるで自分がその他大勢とは違う特別な存在だと言わんばかりのその言い草。
それがいちいち癇に障る。
それがいちいち癇に障る。
「聞いて驚けー。私達はなんと! 脱出の方法を知ってるのだー! ワハハ」
「何でアンタがいばるんだよ……全部南浦サンのおかげだろ……」
「脱出の方法……本当に、分かるんですか!?」
「何でアンタがいばるんだよ……全部南浦サンのおかげだろ……」
「脱出の方法……本当に、分かるんですか!?」
大将が食いつきをみせる。
親しくない南浦の話は黙って聞いていたけれど、顔見知りの運転手――蒲原、だっけ――には思わず尋ねてしまったようだ。
親しくない南浦の話は黙って聞いていたけれど、顔見知りの運転手――蒲原、だっけ――には思わず尋ねてしまったようだ。
「ふっふっふ……さっきからカズちんの話を聞いていて何か気付かなかったかー?」
「だから何でアンタが偉そうなんだよ」
「ワハハ。細かいことを気にしたら負けだぞーパイナップルちん」
「え、その呼び名確定?」
「だから何でアンタが偉そうなんだよ」
「ワハハ。細かいことを気にしたら負けだぞーパイナップルちん」
「え、その呼び名確定?」
カズちん……?
流れ的に南浦のことだろうけど、なにゆえカズちん……
まあ、それはともかく……
流れ的に南浦のことだろうけど、なにゆえカズちん……
まあ、それはともかく……
「気付くって……何にですか?」
「頭がいいんだなぁとは、思ったけど……」
「フッフッフ……まあ、美味しい所はカズちんに譲ってやろうじゃないか。
カズちん、正解をどうぞ!」
「頭がいいんだなぁとは、思ったけど……」
「フッフッフ……まあ、美味しい所はカズちんに譲ってやろうじゃないか。
カズちん、正解をどうぞ!」
こいつ腕怪我してんのに元気だなオイ。
南浦もやりにくそうにしている。
こっちとしても正直言ってやりにくかった。
南浦もやりにくそうにしている。
こっちとしても正直言ってやりにくかった。
「コホン。
……私は、以前平滝高校で行われた殺し合いの優勝者です」
……私は、以前平滝高校で行われた殺し合いの優勝者です」
なっ……!
「何だってーーーー!?」
「嘘……そんな……!」
「嘘……そんな……!」
驚愕を顔に浮かべるあたし達を見て、何故だか蒲原が不敵な笑みを浮かべる。
「ワハハ。驚いただろー。カズちんはこのプログラムに詳しい偉大な先輩なんだ。
だからさっきみたいな一歩進んだ考察の元動けるし、脱出の策も考えられるんだなーこれが」
だからさっきみたいな一歩進んだ考察の元動けるし、脱出の策も考えられるんだなーこれが」
そりゃあ驚く。
こっちは殺し合いなんてものに驚き慄き戸惑っているレベルだというのに、「殺し合いなんて経験済みです」って奴が混ざっていたのだ。
これで平然としている方がどうかしている。
こっちは殺し合いなんてものに驚き慄き戸惑っているレベルだというのに、「殺し合いなんて経験済みです」って奴が混ざっていたのだ。
これで平然としている方がどうかしている。
「そう……なんですか」
「なんていうか、その……」
「気にしないで下さい。
嫌な思い出ではありますが、今はあの経験が活きるのですから」
「なんていうか、その……」
「気にしないで下さい。
嫌な思い出ではありますが、今はあの経験が活きるのですから」
そういうことじゃないんだけどな……
「それに、私は積極的に人を殺してはいないのでご安心を。
勿論、一人も殺してないとは言えませんけど」
勿論、一人も殺してないとは言えませんけど」
……こいつは、人を殺している。
あたし達が超えるのを躊躇う線を超えているのだ。
その差は、大きい。
あたし達にとって人殺しは『はじめてのできごと』であり、超えがたいラインだが、こいつにとっては『既にしたことをまたするだけ』なのだから。
あたし達が超えるのを躊躇う線を超えているのだ。
その差は、大きい。
あたし達にとって人殺しは『はじめてのできごと』であり、超えがたいラインだが、こいつにとっては『既にしたことをまたするだけ』なのだから。
「そう……なんですか」
しかしこれ以上深く追求も出来ない。しても仕方ない。
過去の事を糾弾しても、「で、君は何をしたいの?」と言われるのが関の山だ。
無駄に対立を煽って不利を招くほど、あたしは愚か者ではない。
過去の事を糾弾しても、「で、君は何をしたいの?」と言われるのが関の山だ。
無駄に対立を煽って不利を招くほど、あたしは愚か者ではない。
「それで……どうやったら、あたしらは脱出できるんで?」
正直、そうホイホイと経験者だからと脱出の案が浮かぶとは思っていない。
どちらかというと、孤立することの恐ろしさを理解していて駒を得るためデマカセ言ってる可能性の方が高い。
それでも、やはり聞いておくべきだろうとは思った。
どちらかというと、孤立することの恐ろしさを理解していて駒を得るためデマカセ言ってる可能性の方が高い。
それでも、やはり聞いておくべきだろうとは思った。
「それなんですが……既にご存知の通り、これは麻雀力強化プログラムです」
「はぁ……」
「まぁ、にわかには信じがたいですけどね……」
「そのため、麻雀バトルを促す機能がこの首輪にはついています」
「はぁ……」
「まぁ、にわかには信じがたいですけどね……」
「そのため、麻雀バトルを促す機能がこの首輪にはついています」
そう言って、南浦は自身の首輪に触れる。
カチャと音を立て持ちあげられた首輪が、太陽に照らされチカリと光った。
カチャと音を立て持ちあげられた首輪が、太陽に照らされチカリと光った。
「外交レベルの闘牌となると、衝撃波や必殺技が飛び出します」
「既にこっからツッコミ所満載だけど、真面目に聞いてやってもらえる?」
「笑っても駄目だぞーワハハ」
「既にこっからツッコミ所満載だけど、真面目に聞いてやってもらえる?」
「笑っても駄目だぞーワハハ」
どうやらギャグではないらしい。
微妙な表情になりながら話を聞く。
微妙な表情になりながら話を聞く。
「この首輪は、それを疑似体験させてくれます。
一般人が、衝撃波に満たないレベルの技で上がった際、ダメージを失点側に与えるのです。
こう、電撃などを使って」
「またそんなハイテクノロジーの無駄遣いを……」
「ワハハ。技術大国日本さんさすがだよなー」
一般人が、衝撃波に満たないレベルの技で上がった際、ダメージを失点側に与えるのです。
こう、電撃などを使って」
「またそんなハイテクノロジーの無駄遣いを……」
「ワハハ。技術大国日本さんさすがだよなー」
この国はどうかしている。
麻雀のために殺し合いさせるわ、殺し合いの手段に麻雀取り入れるわ、無駄にハイテク仕様の首輪を作るわ……
政治家はバカだと思ってはいたが、ここまで狂っているだなんて誰が思っただろうか。
麻雀のために殺し合いさせるわ、殺し合いの手段に麻雀取り入れるわ、無駄にハイテク仕様の首輪を作るわ……
政治家はバカだと思ってはいたが、ここまで狂っているだなんて誰が思っただろうか。
「殺し合いの手段は何も撃ち合い殴り合いだけではないということですよ。
それはつまり、殺し合いをしているフリをするだけなら、多少の痛みに耐えて麻雀を打つだけでもいいということになる。
時間はこれで稼げます」
「にわかには納得しがたいですけど……」
「割り切って下さい」
それはつまり、殺し合いをしているフリをするだけなら、多少の痛みに耐えて麻雀を打つだけでもいいということになる。
時間はこれで稼げます」
「にわかには納得しがたいですけど……」
「割り切って下さい」
案外強引だなこいつ……
もうちょっと現実的な会話をしてくれるとばかり思ってたんだが。
もうちょっと現実的な会話をしてくれるとばかり思ってたんだが。
「そして――その麻雀に強く関わったハイテク首輪だからこそ、首輪の解除にも麻雀が関わってきます」
「は……?」
「まあ、そういうリアクションになるわな……」
「私達も最初はポカンとしたもんなー。ワハハ」
「は……?」
「まあ、そういうリアクションになるわな……」
「私達も最初はポカンとしたもんなー。ワハハ」
一万歩譲って麻雀が関係するとしよう。
じゃあ、具体的にはどんな風に関わっているんだ?
じゃあ、具体的にはどんな風に関わっているんだ?
「具体的にどうするのかまで、まだお話できませんが……この作戦には、一定以上の麻雀力が必要です。
そこで、宮永さんに是非とも協力をお願いしたいのです」
「わ、私……?」
「はい。個人戦3位の貴女なら申し分ないですから」
そこで、宮永さんに是非とも協力をお願いしたいのです」
「わ、私……?」
「はい。個人戦3位の貴女なら申し分ないですから」
なるほど、だから大将をご指名ね。
真偽はともかく、一応設定はしっかりとしているわけか。
真偽はともかく、一応設定はしっかりとしているわけか。
「ワハハ。遠回しにお前ら戦力にならないって言われてるぞー」
「アンタもだよ! 何でそんなに上からなんだ!」
「私はこれでも決勝3位の高校の部長だぞー」
「見てたけど、特に何もしてませんでしたよね貴女」
「アンタもだよ! 何でそんなに上からなんだ!」
「私はこれでも決勝3位の高校の部長だぞー」
「見てたけど、特に何もしてませんでしたよね貴女」
個人戦でも団体戦でもパッとしなかった私とパイナップルは勿論論外として、実際の所蒲原は麻雀力で云々とやらの戦力になるのだろうか?
分からないことが多すぎる。
分からないことが多すぎる。
「まあ、いざとなったら蒲原さん達の力もお借りしますよ」
「ワハハ。ほらなー。カズちんもああ言ってる」
「いやいや“達”って言ってるから」
「しかも“いざとなったら”とすら言われてますよ」
「か、上柿さん……そこまで言わなくても……」
「ワハハ。ほらなー。カズちんもああ言ってる」
「いやいや“達”って言ってるから」
「しかも“いざとなったら”とすら言われてますよ」
「か、上柿さん……そこまで言わなくても……」
あ、大将がこんなアホなやり取りで罪悪感を持っている。
自分が何か言ったわけじゃないのに。
連帯感というか感受性というか……とにかくそういうのが強すぎるのかもしれない。
下手に南浦達に感情移入しないよう目を光らせねば。
自分が何か言ったわけじゃないのに。
連帯感というか感受性というか……とにかくそういうのが強すぎるのかもしれない。
下手に南浦達に感情移入しないよう目を光らせねば。
「とにかく……貴女の力が必要なんです。改めて、ご協力お願いします」
「はい……! こんな私でよろしければ!」
「はい……! こんな私でよろしければ!」
プロポーズか。
……甘い言葉に釣られて後悔しちゃう未来があってもおかしくないという点でも、まさにこいつはプロポーズだな。
一緒の墓に入る可能性も大きいし。一括埋葬的な意味で。
……甘い言葉に釣られて後悔しちゃう未来があってもおかしくないという点でも、まさにこいつはプロポーズだな。
一緒の墓に入る可能性も大きいし。一括埋葬的な意味で。
「ワハハ。これで私ら仲間だなー」
「……よく考えたら、私らすごくね? 生き残りの五分の一が仲間なわけじゃん」
「凄いのは私達じゃなくてカズちん、なんだろー?」
「いいだろ、こういう時は全体を褒めても。
疑心暗鬼になってもおかしくないってのに、でっかいチームを作れたんだ。全員の功績だって」
「疑心暗鬼になるかなんて分からないぞー? 案外皆大きなチームを組んでるかも」
「だったら放送で首飛んでるだろ」
「……よく考えたら、私らすごくね? 生き残りの五分の一が仲間なわけじゃん」
「凄いのは私達じゃなくてカズちん、なんだろー?」
「いいだろ、こういう時は全体を褒めても。
疑心暗鬼になってもおかしくないってのに、でっかいチームを作れたんだ。全員の功績だって」
「疑心暗鬼になるかなんて分からないぞー? 案外皆大きなチームを組んでるかも」
「だったら放送で首飛んでるだろ」
……大体分かってきた。
蒲原は、脳天気だ。多分裏表はないが、恐らく何も考えずに発言している。
大事な話でも話半分に聞いておくのが一番なのかもしれない。
パイナップルは、少しは物を考えているようだけど、イエスマンの印象を受けた。
自分で疑問を抱いたりはするけど、自分より賢く経験者の南浦に依存し、全てを南浦に委ねている。
疑心暗鬼の可能性は考慮しているのに、自分達のチームは安全と思い込んでいるフシがあった。
本当に、こいつらと組んで大丈夫なんだろうか。
まあ、出来る人間への依存という点では、あたしも人のこたぁ言えませんけどね。
蒲原は、脳天気だ。多分裏表はないが、恐らく何も考えずに発言している。
大事な話でも話半分に聞いておくのが一番なのかもしれない。
パイナップルは、少しは物を考えているようだけど、イエスマンの印象を受けた。
自分で疑問を抱いたりはするけど、自分より賢く経験者の南浦に依存し、全てを南浦に委ねている。
疑心暗鬼の可能性は考慮しているのに、自分達のチームは安全と思い込んでいるフシがあった。
本当に、こいつらと組んで大丈夫なんだろうか。
まあ、出来る人間への依存という点では、あたしも人のこたぁ言えませんけどね。
「ワハハ。不安そうだなー……えーっと」
いけない、顔に出ていたか。
それとも意外と鋭いのか、野生のカンだけは働くのか。
とにかく、不安を感じ取られたらしい。
それとも意外と鋭いのか、野生のカンだけは働くのか。
とにかく、不安を感じ取られたらしい。
「……上柿です。上柿恵」
「カッキー。私達はカッキー達を裏切らないし、疑念はゆっくり晴らしていけば――」
「いやいやいやいやちょっと待って下さい。何ですかカッキーって」
「カッキー。私達はカッキー達を裏切らないし、疑念はゆっくり晴らしていけば――」
「いやいやいやいやちょっと待って下さい。何ですかカッキーって」
何やらドヤ顔で格好良いことを言っているが、思いっきり遮ってやる。
毒にも薬にもならない偽善トークを聞くくらいならツッコんでおきたかった。
毒にも薬にもならない偽善トークを聞くくらいならツッコんでおきたかった。
「ん? あだ名だぞー。あだ名は友情の一歩だからな。ワハハ」
「いやそれにしてもカッキーって」
「ほら、パイナップルもいるし、当て馬フルーティーコンビということで。ワハハ」
「ワハハじゃねーよ当て馬言うなっつってんだろっていうかパイナップル言うな」
「いやそれにしてもカッキーって」
「ほら、パイナップルもいるし、当て馬フルーティーコンビということで。ワハハ」
「ワハハじゃねーよ当て馬言うなっつってんだろっていうかパイナップル言うな」
パイナップルよりマシとはいえ、それでもカッキーというのはどうなのだろう。
そもそもあだ名って仲良くなってから付けるものであって、いきなり付けるようなものじゃないと思うのだが。
そもそもあだ名って仲良くなってから付けるものであって、いきなり付けるようなものじゃないと思うのだが。
「百歩譲ってもガッキーでしょうに……」
「ワハハ。それだと柿っぽくないだろー。食べ物で揃えた方が仲間っぽいだろ」
「……揃えるってからには、アンタも食べ物のあだ名あるわけ?」
「ああ、ハンドルネームで使ってた『かまぼこ』とかなー」
「何でかまぼこ……」
「ワハハ。それだと柿っぽくないだろー。食べ物で揃えた方が仲間っぽいだろ」
「……揃えるってからには、アンタも食べ物のあだ名あるわけ?」
「ああ、ハンドルネームで使ってた『かまぼこ』とかなー」
「何でかまぼこ……」
ああ、ほら、南浦が何か会話に入れなくなってる。
あまりに殺し合いの場に不釣合な会話内容に、ちょっと引いてるんじゃないだろうか。
大将はくすくす笑っているけど。
あまりに殺し合いの場に不釣合な会話内容に、ちょっと引いてるんじゃないだろうか。
大将はくすくす笑っているけど。
「じゃあ南浦さんは何になるわけ?」
「カズちんは、ほら、カズだし……数の子?」
「渋っ……もうフルーツから大分遠くなりましたよ」
「ていうか、原型あんまり留めてないし」
「カズちんは、ほら、カズだし……数の子?」
「渋っ……もうフルーツから大分遠くなりましたよ」
「ていうか、原型あんまり留めてないし」
これには南浦も苦笑い。
いくら何でも数の子は酷いだろう。
……そもそも何で“カズちん”なんだ?
下の名前がカズなんとかなんだっけ?
いくら何でも数の子は酷いだろう。
……そもそも何で“カズちん”なんだ?
下の名前がカズなんとかなんだっけ?
「……ちなみに……だとしたら大将は何になるんです?」
「……え?」
「あ、そっか……私の名前、宮永咲って、どうやっても食べ物にならないもんね……」
「……え?」
「あ、そっか……私の名前、宮永咲って、どうやっても食べ物にならないもんね……」
そう、これによって統一感は崩壊だ。
それは即ち、無理して食べ物で統一しようとしたあだ名にしても無意味だということである。
つまり、あたしはカッキーなんてあだ名を回避してもいいわけだ。
それは即ち、無理して食べ物で統一しようとしたあだ名にしても無意味だということである。
つまり、あたしはカッキーなんてあだ名を回避してもいいわけだ。
「えーっと、うーん……ちょっと待ってろー、今考えるから」
「考えてまで統一するもんでもないでしょうに」
「そもそも他にもまだ食べ物っぽくない奴なんてゴロゴロしていたと思うし、無理に統一する意味なんて無くね?」
「考えてまで統一するもんでもないでしょうに」
「そもそも他にもまだ食べ物っぽくない奴なんてゴロゴロしていたと思うし、無理に統一する意味なんて無くね?」
そりゃそうだ。
この先も仲間を作って行く気なら、無理に食べ物で統一なんてしない方が楽だと思う。
この先も仲間を作って行く気なら、無理に食べ物で統一なんてしない方が楽だと思う。
「う~~~~~~~ん…………サキ、イカ……とか?」
「それはちょっと……」
「もはやただの嫌がらせですよねそれ」
「私のパイナップルの時からすでにただの嫌がらせになってたけどな」
「それはちょっと……」
「もはやただの嫌がらせですよねそれ」
「私のパイナップルの時からすでにただの嫌がらせになってたけどな」
さすがの大将も苦笑い。
こいつ駄目だセンスねぇわ。
こいつ駄目だセンスねぇわ。
「ていうか、殺し合いの場でこんな呑気な話してていいんですか?
もっと話さなくちゃいけないことがあるんじゃあ……」
「そうですね。移動が不可能となった今、今後の方針は話し合っておきたいです」
「ワハハ。まぁでも、大事だぞー。どんな時でもこういう雰囲気でいるってのは」
もっと話さなくちゃいけないことがあるんじゃあ……」
「そうですね。移動が不可能となった今、今後の方針は話し合っておきたいです」
「ワハハ。まぁでも、大事だぞー。どんな時でもこういう雰囲気でいるってのは」
蒲原が一層顔を綻ばせる。
そして、言った。
そして、言った。
「殺し合いの場だからこそ、こういうのは忘れちゃ駄目だ。
こういう普段感じてた空気を忘れて、悲しみだけに囚われてると、悪い風に転がっちゃうからなー」
「はぁ……」
「よく言うねェ。散々悲しみに囚われたくせに」
「だからこそ、さ。経験者は語るぞー」
こういう普段感じてた空気を忘れて、悲しみだけに囚われてると、悪い風に転がっちゃうからなー」
「はぁ……」
「よく言うねェ。散々悲しみに囚われたくせに」
「だからこそ、さ。経験者は語るぞー」
つまり、なんだ?
明るく振る舞うことが大事だから、このノリをしているというのか?
正直、だとしたら勘弁してほしい。
このノリは少々疲れる。
明るく振る舞うことが大事だから、このノリをしているというのか?
正直、だとしたら勘弁してほしい。
このノリは少々疲れる。
「蒲原先輩、何かあったんですか……?」
「それがさぁー、こいつ放送後泣き喚いて大変だったのよ」
「ワハハ……面目ない」
「それがさぁー、こいつ放送後泣き喚いて大変だったのよ」
「ワハハ……面目ない」
そういえば、蒲原の所属する鶴賀学園からも、死人が出ていた。
というか、決勝四校からは等しく犠牲者が出ていた気がする。
まあ、決勝出場者だけで参加者の三分のニを占めているわけだから、当然の結果といえば当然の結果という気もするけども。
というか、決勝四校からは等しく犠牲者が出ていた気がする。
まあ、決勝出場者だけで参加者の三分のニを占めているわけだから、当然の結果といえば当然の結果という気もするけども。
「むっきーが呼ばれて悲しくてさ……
立ち止まってもむっきーは喜ばないだろうし、生き残ってる他の皆と一緒に帰れるチャンスを棒に振るう恐れもあったっていうのに、
自棄になったかのように喚き散らしちゃってさー……」
「蒲原先輩……」
「でも、意外なことにパイナップルちんとカズちんが私を説得してくれたんだなーこれが。
こんな頭して、結構熱かったんだぞーパイナップルちん」
「うっせ。ていうか頭は関係ないっしょ」
立ち止まってもむっきーは喜ばないだろうし、生き残ってる他の皆と一緒に帰れるチャンスを棒に振るう恐れもあったっていうのに、
自棄になったかのように喚き散らしちゃってさー……」
「蒲原先輩……」
「でも、意外なことにパイナップルちんとカズちんが私を説得してくれたんだなーこれが。
こんな頭して、結構熱かったんだぞーパイナップルちん」
「うっせ。ていうか頭は関係ないっしょ」
明るい脳天気馬鹿っぽいのに、やはり仲間の死は堪えるのか。
あまり想像できないが、相当トラブったらしい。
大将ですらああなったのだ、今頃各地で各学校の奴が泣き叫んでいるかもしれない。
あまり想像できないが、相当トラブったらしい。
大将ですらああなったのだ、今頃各地で各学校の奴が泣き叫んでいるかもしれない。
「上柿さんも、悲しくて混乱してた私を助けてくれたよね」
「まぁ、大将のサポートがあたしらコッパのお仕事ですから」
「だからその大将っていうの、恥ずかしいからやめようよぉ……
宮永とか咲とか、名前で呼んでくれたらいいから」
「まぁ、大将のサポートがあたしらコッパのお仕事ですから」
「だからその大将っていうの、恥ずかしいからやめようよぉ……
宮永とか咲とか、名前で呼んでくれたらいいから」
そんなことを言われましても、大将は大将ですから。
それに、何か名前で呼ぶ方が小っ恥ずかしい気がしますし。
それに、何か名前で呼ぶ方が小っ恥ずかしい気がしますし。
「私や上柿さんは同じ高校の知り合いがいませんからね……
蒲原さんのように、友人が亡くなって混乱する心配はありません」
「私も一人しか居ないしねぇ」
「そういう点で、私達なら宮永さんや蒲原さんを支えられます」
「ワハハ。当て馬にも出来ることはあるってところ、見せてくれたよな」
「当て馬言うな。ていうかアンタ人のこと言える実力なのか? 試合観てないから知らないけども」
蒲原さんのように、友人が亡くなって混乱する心配はありません」
「私も一人しか居ないしねぇ」
「そういう点で、私達なら宮永さんや蒲原さんを支えられます」
「ワハハ。当て馬にも出来ることはあるってところ、見せてくれたよな」
「当て馬言うな。ていうかアンタ人のこと言える実力なのか? 試合観てないから知らないけども」
確かに、それはあたしや南浦達の長所だろう。
知り合いがいないため、嘆き悲しむことがない。
故に、放送を常に冷静に聞くことができる。
友人の死に暴走しかける仲間を、止めてやることが出来る。
その立場の人間が、3人に増えるというのは大きいかもしれない。
知り合いがいないため、嘆き悲しむことがない。
故に、放送を常に冷静に聞くことができる。
友人の死に暴走しかける仲間を、止めてやることが出来る。
その立場の人間が、3人に増えるというのは大きいかもしれない。
「そういう点でも、やはり一緒にいる方がいいと思いますよ」
「……あたしゃ大将が一緒に行くと決めた時点で同行するのに納得することにしましたって」
「……あたしゃ大将が一緒に行くと決めた時点で同行するのに納得することにしましたって」
嘘だ。本当はまだ不満を抱いているし、南浦に疑念を持っている。
そしてそれは、南浦には筒抜けらしい。
けれども別に構わない。
警戒していると示すことで、下手な動きを取りづらくさせられるだろうから。
そしてそれは、南浦には筒抜けらしい。
けれども別に構わない。
警戒していると示すことで、下手な動きを取りづらくさせられるだろうから。
「いやほんと、仲間というのはいいものだぞー。ワハハ。
楽しいときは数倍楽しめるし、苦しい時は半分以下で済むんだからな」
「……またクッサイことを」
「――って、ブロッケンが言ってた」
「誰!?」
楽しいときは数倍楽しめるし、苦しい時は半分以下で済むんだからな」
「……またクッサイことを」
「――って、ブロッケンが言ってた」
「誰!?」
まぁしかし、南浦に言ったように、大将が仲間になると決めた以上付いて行くしかないのも事実。
不安は残るが、今は信じるしかないだろう。
裏切られないという意味でなく、最低限各々の仕事をこなしてくれるという意味での信頼だ。
不安は残るが、今は信じるしかないだろう。
裏切られないという意味でなく、最低限各々の仕事をこなしてくれるという意味での信頼だ。
「Jrの方だったような……」
「お、カズちん、イケる口だね~」
「え、何、私が少数派なのか!?」
「お、カズちん、イケる口だね~」
「え、何、私が少数派なのか!?」
裏切りについては、あたしが目を光らせればいい。
大将達“特別な人”が運転する脱出へと続く列車に、凡夫のあたしが乗せてもらうんだ。
そのくらいはしようじゃないか。
……別に善意などではない。
そうしないと、いつか切り捨てられそうで不安なのだ。
大将達“特別な人”が運転する脱出へと続く列車に、凡夫のあたしが乗せてもらうんだ。
そのくらいはしようじゃないか。
……別に善意などではない。
そうしないと、いつか切り捨てられそうで不安なのだ。
「さすがカズちんは知識豊っ……!?」
「か、蒲原さん!?」
「腕折ってるのにサムズアップなんてするから……」
「アホだな」
「か、蒲原さん!?」
「腕折ってるのにサムズアップなんてするから……」
「アホだな」
列車からいつ叩き出されてもおかしくない、特別でないただの人。完璧な無能者。
だからこそ、出来ることだけはしっかりやらせてもらいますよ。
出来ることは少ないけど、その出来ることをあたしなりに精一杯取り組ませて頂きます。
だからこそ、出来ることだけはしっかりやらせてもらいますよ。
出来ることは少ないけど、その出来ることをあたしなりに精一杯取り組ませて頂きます。
だからどうか、あたしを見捨てないでやってくだせぇ。
特別な何かになれない惨めな人間だけど、せめて“特別なヒーローに可愛がられる特別でないただの人”でありたいから。
そのために、頑張らせてもらいますよ。
普段でも殺し合いでも、それは変わりありません。
特別な何かになれない惨めな人間だけど、せめて“特別なヒーローに可愛がられる特別でないただの人”でありたいから。
そのために、頑張らせてもらいますよ。
普段でも殺し合いでも、それは変わりありません。
「つーかこれ、マジで骨折なの?」
「分かりません……医療知識まではさすがにありませんから……」
「ワハハ……ちょっと涙出るほど痛い」
「こりゃマジで運転なんて無理だな……」
「なら……いっそここを拠点にする、か……」
「分かりません……医療知識まではさすがにありませんから……」
「ワハハ……ちょっと涙出るほど痛い」
「こりゃマジで運転なんて無理だな……」
「なら……いっそここを拠点にする、か……」
ようやく、真面目な方針会議が始まる。
ベストな位置ではないが、自動車特攻をかます人が通る場合二分の一の確率でこちらを通るのだからということで、ここを拠点にすることが決まった。
何より防弾仕様の車は遮蔽物として優秀すぎる。
また、木の上で見張りを立てることにもなった。
南浦達は民家で双眼鏡までパクってきていたらしい。
さすが経験者、手際いいことで。
ベストな位置ではないが、自動車特攻をかます人が通る場合二分の一の確率でこちらを通るのだからということで、ここを拠点にすることが決まった。
何より防弾仕様の車は遮蔽物として優秀すぎる。
また、木の上で見張りを立てることにもなった。
南浦達は民家で双眼鏡までパクってきていたらしい。
さすが経験者、手際いいことで。
「それと……折角仲間ができましたが、一端パーティを分散しなくてはなりません」
「別行動……ってこと?」
「はい。脱出に必要なもの……麻雀牌を探すついでに仲間を探す班と、ここで体勢を整える班とに分けたいと思います」
「別行動……ってこと?」
「はい。脱出に必要なもの……麻雀牌を探すついでに仲間を探す班と、ここで体勢を整える班とに分けたいと思います」
さあ、第二幕の開幕ですよ。
ようやくゴールが見えてきました。
……やってやりましょう、大将。
大将の友人のためにも、“あたし達”が勝利するんです――!
この真っ暗な殺し合いという暗闇に、共に火を灯しましょう!
ようやくゴールが見えてきました。
……やってやりましょう、大将。
大将の友人のためにも、“あたし達”が勝利するんです――!
この真っ暗な殺し合いという暗闇に、共に火を灯しましょう!
【残り25人】
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第13話 | 上柿恵 | ― |
第13話 | 宮永咲 | ― |
第08話 | 南浦数絵 | ― |
第08話 | 蒲原智美 | ― |
第08話 | 門松葉子 | ― |