第17話 廃人一歩手前交差点-チートイツ-
膝を抱え込んだまま、鼻から下を足に埋める。
この目に生気は無いだろう。
虚ろな瞳は宙を映すが、頭の中には何ひとつ入ってこない。
『虚空を眺める』と表現するのが相応しいように思えた。
下唇を噛みながら、しかめっ面で駄々をこねた子供のように座り続ける。
この目に生気は無いだろう。
虚ろな瞳は宙を映すが、頭の中には何ひとつ入ってこない。
『虚空を眺める』と表現するのが相応しいように思えた。
下唇を噛みながら、しかめっ面で駄々をこねた子供のように座り続ける。
私――池田華菜は、もうずっと長い間こうしていた。
(うう……)
私は、卑怯だ。そんでもって、どうしようもなく弱虫だ。
分かっている。そんなことは自覚している。
図々しくも開き直って歩み始める――それすら出来ない哀れな存在。
それが、今の私である。
分かっている。そんなことは自覚している。
図々しくも開き直って歩み始める――それすら出来ない哀れな存在。
それが、今の私である。
(誰か……助けてよ……)
膝を抱える腕に一層力が篭る。
私は、最低な意味で図々しかった。
開き直ることさえ出来ずにいるくせに、救いを求めてしまっている。
そして、誰も救ってくれないことに、八つ当たりめいた感情を抱いているのだ。
私は、最低な意味で図々しかった。
開き直ることさえ出来ずにいるくせに、救いを求めてしまっている。
そして、誰も救ってくれないことに、八つ当たりめいた感情を抱いているのだ。
――底抜けに明るいやっちゃのう。
思い出される、パーマヘアーの少女が浮かべた苦笑い。
メガネをかけたその少女――染谷まこが言っていた程、私は強い人間じゃなかった。
伏せた視界の隅に映る、染谷まこの細く白い手。
それを辿って視線を上げると、ぐったりとした染谷の姿が目に飛び込む。
メガネをかけたその少女――染谷まこが言っていた程、私は強い人間じゃなかった。
伏せた視界の隅に映る、染谷まこの細く白い手。
それを辿って視線を上げると、ぐったりとした染谷の姿が目に飛び込む。
『私は龍門渕高校副将! 長野のアイドル・龍門渕透華ですわっ!!!』
突如として響き渡る、謎の大声。
その声は、機械越し故に音割れを起こしている。
その声は、機械越し故に音割れを起こしている。
『片岡優希とはじめの言葉に共感し、馳せ参じましたわっ!』
龍門渕透華とは、少しの間だけだったがこの島で一緒に居た。
本当に“居た”だけで、何かを共にしたわけではないけども。
本当に“居た”だけで、何かを共にしたわけではないけども。
『ハギヨシも一緒ですわ! ですから、皆さん、恐れないでくださいましっ!』
龍門渕は、強かった。
ハリボテの厚顔さと虚勢で生きてる私なんかとは違う。
龍門渕は、本当に自分を信じ、自信満々に派手な立ち振る舞いをしている。
本当にタフで、強くて、気高くて――良い意味で、図々しかった。
私とは、全然違う。
ハリボテの厚顔さと虚勢で生きてる私なんかとは違う。
龍門渕は、本当に自分を信じ、自信満々に派手な立ち振る舞いをしている。
本当にタフで、強くて、気高くて――良い意味で、図々しかった。
私とは、全然違う。
『一緒に考えれば、こんな状況チョチョイのチョイで打破できましてよ!』
それに彼女は、しっかり前へ進んでいる。
彼女は確かに、事態を好転させている。
そして何より、彼女は優しい。
私なんかにも、優しく手を差し伸べてくれた。
彼女は確かに、事態を好転させている。
そして何より、彼女は優しい。
私なんかにも、優しく手を差し伸べてくれた。
『……と、いうことです。依然変わらず、山頂で待っています』
これはきっと、この島の皆に向けたメッセージだろう。
普通に考えるなら、そう解釈できるメッセージ。
普通に考えるなら、そう解釈できるメッセージ。
けれどもここで自惚れさせて頂くと、このメッセージは私に向けられたものだと読み取れる。
これは、皆に向けたと見せかけた私へのメッセージじゃないだろうか。
ついていくことができなかった、恥知らずのバカ女へのメッセージ。
これは、皆に向けたと見せかけた私へのメッセージじゃないだろうか。
ついていくことができなかった、恥知らずのバカ女へのメッセージ。
『私達は、これからも定期的に声を届けていきますわっ!』
合宿や今回の件を経て、分かった。
龍門渕は、あんな風でいて優しい。
それも、物凄く優しい。
龍門渕は、あんな風でいて優しい。
それも、物凄く優しい。
『ですから! 気が向いたらでいい、勇気が出たらでいい――』
だからこうして、私に語りかけてくれる。
私のことを、それこそ受け入れてくれようとする。
きっと龍門渕なら、私のことを許そうとしてくれるだろう。
私のことを、それこそ受け入れてくれようとする。
きっと龍門渕なら、私のことを許そうとしてくれるだろう。
『それからでもいいですから、是非私達の声を頼りにここまで来て下さいまし』
でも――私は、顔を上げられなかった。
一歩を踏み出す勇気がなかった。
踏み出そうにも、邪魔をするものがあった。
一歩を踏み出す勇気がなかった。
踏み出そうにも、邪魔をするものがあった。
(…………龍門渕、無事に合流したんだ……)
それは、とても分厚く重たい板。
要するに、とてつもなく巨大な壁。
要するに、とてつもなく巨大な壁。
私と彼女の間には、大きな大きな壁があった。
その壁は、私の前にどんと立ち塞がっていた。
そして前へと進むことを邪魔してくる。
その壁は、私の前にどんと立ち塞がっていた。
そして前へと進むことを邪魔してくる。
――その壁は、『人殺し』という名前であった。
(行けるはず、ないし……だって……私はもう……)
その壁の前に、私は阻まれてしまった。
壁を登ることはできたはずなのに、その勇気が出なかった。
壁を登ることはできたはずなのに、その勇気が出なかった。
いや――本当は壁なんてないはずなのに。
向こう側とこちら側には、どうにもならない壁があると思い込んでいる。
一歩を踏み出す勇気があれば、簡単にその手を取れるのに。
向こう側とこちら側には、どうにもならない壁があると思い込んでいる。
一歩を踏み出す勇気があれば、簡単にその手を取れるのに。
それでも。
分かっていても、その壁は消えてくれはしなかった。
今でも私の目の前で、どーんと腰を下ろしている。
分かっていても、その壁は消えてくれはしなかった。
今でも私の目の前で、どーんと腰を下ろしている。
(どうして……こんなことになっちゃったのかな……)
殺意なんて、これっぽっちもなかったのに。
なのに気付けば、人殺しになってしまった。
そんな奴が、受け入れられるはずがない。
そんな奴が、堂々と会いに行っていいわけがない。
なのに気付けば、人殺しになってしまった。
そんな奴が、受け入れられるはずがない。
そんな奴が、堂々と会いに行っていいわけがない。
(やり直したい……やり直したいよぉ……)
めそめそしてても誰も助けてなんかくれない。
分かっていても、そう簡単に止められるものではなかった。
刻一刻と時間が浪費されていく。
分かっていても、そう簡単に止められるものではなかった。
刻一刻と時間が浪費されていく。
『皆さん聞こえてますか? 龍門渕透華ですわ』
そして再び、龍門渕の声が聴こえてきた。
龍門渕が言っていた、定期的な呼びかけだろう。
再び呼びかけが行われる程の時間を、無駄に過ごしてしまった。
そのことに、また少し自己嫌悪する。
龍門渕が言っていた、定期的な呼びかけだろう。
再び呼びかけが行われる程の時間を、無駄に過ごしてしまった。
そのことに、また少し自己嫌悪する。
『私達は山頂に居ますわ。共に殺し合いを打破しようと考える方は是非来て下さいまし』
時間が経てば経つほどに、龍門渕の元に行けなくなってくる。
頑張っている彼女に、合わせる顔がなさすぎて。
時間が経てば経つほどに、「今更のこのこ出ていけない」という気持ちが強まって。
頑張っている彼女に、合わせる顔がなさすぎて。
時間が経てば経つほどに、「今更のこのこ出ていけない」という気持ちが強まって。
『またしばらくしたら呼びかけますから、その声を頼りにやってきて下さいまし。それじゃあ――』
結局また、顔ひとつ上げられずに呼びかけを無視してしまった。
助けてほしい、受け入れて欲しい――
なのに差し出されたその手を、素直に握り返せない。
助けてほしい、受け入れて欲しい――
なのに差し出されたその手を、素直に握り返せない。
(私は、どうしたらいいんですか……)
うじうじしてても何にもならない。
県大会決勝戦でそう学んだ。
だけど、人殺しという重い原因の今回は、そう簡単に立ち直ることが出来ないでいる。
県大会決勝戦でそう学んだ。
だけど、人殺しという重い原因の今回は、そう簡単に立ち直ることが出来ないでいる。
(助けてください、キャプテン……)
想った。
聖女のようなあの人のことを。
聖女のようなあの人のことを。
思った。
あの人なら、何があっても私の味方でいてくれるんじゃないかと。
あの人なら、何があっても私の味方でいてくれるんじゃないかと。
でも――同時に、思った。
あの人にまで見捨てられたら、きっと心が折れてしまうと。
あの人にまで見捨てられたら、きっと心が折れてしまうと。
だから、積極的に探して回ることすら出来ないでいた。
『あーあー、聞こえまして!?』
キィンという雑音の後、再び龍門渕の声が流れる。
先程と比べ、あまりにも早すぎる呼びかけ。
何事か、と俯いたまま考える。
もしかして、何かSOSだろうか?
そうだとしたら、私は彼女を助けに行けるのだろうか?
先程と比べ、あまりにも早すぎる呼びかけ。
何事か、と俯いたまま考える。
もしかして、何かSOSだろうか?
そうだとしたら、私は彼女を助けに行けるのだろうか?
『新たに呼びかけに応えて下さった方がいらしたから、紹介しますわっ!』
なるほど、そういうことか。
国広一と会った時にそうしたように、新たな仲間が出来た時も逐一報告しようというのだ。
声が異常に弾んでいるのも、そういうことなら納得できる。
龍門渕は、着実にゴールに近付いているのだ。
国広一と会った時にそうしたように、新たな仲間が出来た時も逐一報告しようというのだ。
声が異常に弾んでいるのも、そういうことなら納得できる。
龍門渕は、着実にゴールに近付いているのだ。
『ほら……何か言ってあげてくださいまし!』
そう言う龍門渕の声が、ほんの少し遠ざかる。
おそらくは、新しい仲間とやらに拡声器を渡したのだろう。
おそらくは、新しい仲間とやらに拡声器を渡したのだろう。
『え……っと。これでいいのかしら?』
――予想通り、聞こえてきたのは、龍門渕とは違う声だった。
『そう、よかった……えっと、こんにちは』
恐らく龍門渕に聞こえていると言われたのだろう。
挨拶をしてくるその声は、少しばかりホッとしているようだった。
挨拶をしてくるその声は、少しばかりホッとしているようだった。
「…………っ」
しかし、どうでもよかった。そんなことは。
最初の一文字を聞いて以来、些事は頭に入ってこない。
それまで呼びかけはぼんやりとした頭で聞き流していたが、今では全神経を傾けている。
よぉく知った声を聞き、意識が覚醒したのだ。
最初の一文字を聞いて以来、些事は頭に入ってこない。
それまで呼びかけはぼんやりとした頭で聞き流していたが、今では全神経を傾けている。
よぉく知った声を聞き、意識が覚醒したのだ。
『私は、風越女子高校の先鋒――』
弾かれたように、顔も上空に向かされた。
視線は真っ直ぐ、声のする方を向いている。
まるで、視線の先に求めるものがあるかのように。
視線は真っ直ぐ、声のする方を向いている。
まるで、視線の先に求めるものがあるかのように。
『――福路美穂子です』
キャプテン。
私達の、キャプテン。
その声の主は、確かにずっと会いたかった人のもの。
私達の、キャプテン。
その声の主は、確かにずっと会いたかった人のもの。
『聞こえてる、華菜……?』
そしてその声は、確かに私の名を呼んだ。
「聞こえてるかな?」と言ったのかも知れないけど。
私の耳には、確かに、私の名前を呼んだように聞こえたのだ。
「聞こえてるかな?」と言ったのかも知れないけど。
私の耳には、確かに、私の名前を呼んだように聞こえたのだ。
聞こえてます、キャプテン。
しっかりと、貴女の言葉は届いています。
しっかりと、貴女の言葉は届いています。
『龍門渕さんから、話は聞いたわ』
息が、止まる。
まるで喉を絞めつけられたような感覚。
まるで喉を絞めつけられたような感覚。
もし、もしもキャプテンが私を許してくれなかったら。
私は、私の心は、どうなってしまうのだろうか。
私は、私の心は、どうなってしまうのだろうか。
『皆も聞いてるから、あまり深くは言えないけれど……』
額に生まれた大粒の汗が、垂れ下がる眉を伝って頬へと垂れる。
抱き抱えた膝をぎゅうと握りながら、続く言葉を待った。
抱き抱えた膝をぎゅうと握りながら、続く言葉を待った。
『私は、貴女の味方よ、華菜。何があっても』
その言葉は、とても短かったけれど。
それでも、分厚い聖書なんかよりよっぽど心の支えになるもので。
先程までとは違った意味での涙が目尻に溜まってきた。
それでも、分厚い聖書なんかよりよっぽど心の支えになるもので。
先程までとは違った意味での涙が目尻に溜まってきた。
『辛いなら、その辛さを私にも分けてほしい。
苦しいなら、せめてその苦しさを私にも背負わせて欲しい。
悲しいのなら、その悲しさが和らぐように、一緒に……隣に居てあげたい……』
苦しいなら、せめてその苦しさを私にも背負わせて欲しい。
悲しいのなら、その悲しさが和らぐように、一緒に……隣に居てあげたい……』
嬉しかった。
キャプテンが、そこまで言ってくれることが。
キャプテンが、自分を受け入れてくれたことが。
キャプテンが、そこまで言ってくれることが。
キャプテンが、自分を受け入れてくれたことが。
申し訳ないけれど、龍門渕のそれとは受ける影響が全然違う。
龍門渕の慰めには、『共犯者からの慰め』という側面があった。
龍門渕に許されても、清澄の連中に許されなければ意味が無いという想いがあった。
龍門渕の慰めには、『共犯者からの慰め』という側面があった。
龍門渕に許されても、清澄の連中に許されなければ意味が無いという想いがあった。
けれど、今は。
許されたというだけで、前を向くことが出来る。
愛しい人に許されるというだけで、こうも重荷が軽減されるものなのか。
許されたというだけで、前を向くことが出来る。
愛しい人に許されるというだけで、こうも重荷が軽減されるものなのか。
――キャプテンさえ居てくれたら、世界中が敵に回っても生きていける。
そんなことを思わせてくれた。
そんなことを、思わせてくれる人なのだ。
そんなことを、思わせてくれる人なのだ。
『かつて貴女がそうしてくれたように、私も貴女の傍で貴女の辛さを分かち合いたい』
ゆっくりと、立ち上がる。
飛び上がって走り出せるほど、気分は上昇していない。
それでも、ようやく立ち上がることが出来た。
飛び上がって走り出せるほど、気分は上昇していない。
それでも、ようやく立ち上がることが出来た。
『だから――ここに来て、華菜。また、貴女のその顔を見せて』
よろよろと足を前に運び始める。
それは“歩み”などという上等なものからは程遠い、腐肉か何かに誘引されるがままヨロヨロと動く亡者のそれのようだった。
ぎこちない足取りで、一歩一歩動いていく。
それは“歩み”などという上等なものからは程遠い、腐肉か何かに誘引されるがままヨロヨロと動く亡者のそれのようだった。
ぎこちない足取りで、一歩一歩動いていく。
『待ってるわ――』
その言葉で、キャプテンの言葉は締め括られた。
待っている、という言葉が、頭の中で何度も再生される。
キャプテンは、私なんかを待っていてくれているのだ。
待っている、という言葉が、頭の中で何度も再生される。
キャプテンは、私なんかを待っていてくれているのだ。
(染谷……)
視界の端に映り込む、物言わぬ骸と化した染谷まこ。
先程まで目を合わせることも出来なかった染谷の顔を、今なら見ることが出来る。
とは言っても、未だに恐る恐るだけど。
それでも、キャプテンの言葉のおかげで、少しだけだけど、向きあう勇気が持てた。
先程まで目を合わせることも出来なかった染谷の顔を、今なら見ることが出来る。
とは言っても、未だに恐る恐るだけど。
それでも、キャプテンの言葉のおかげで、少しだけだけど、向きあう勇気が持てた。
(ごめん……ほんと、ごめん)
そして、ありがとう。
こんな私を、仲間だって思ってくれて。
こんな私を、仲間だって思ってくれて。
「……行くね」
この言葉は、声に出した。
ある種の宣誓である。
ある種の宣誓である。
そして、ゆっくりとだが、歩き始めた。
見えなくなるまで、染谷の死体を振り返り続ける。
やがて見えなくなった頃に、再び拡声器から声が聴こえてきた。
見えなくなるまで、染谷の死体を振り返り続ける。
やがて見えなくなった頃に、再び拡声器から声が聴こえてきた。
『……と、いうことでしてよ』
どうやら、拡声器が再び龍門渕の手に渡ったらしい。
キャプテンの『私からは、以上です』という言葉からしばしの間が空き、再び声が聞こえてきた。
拡声器を受け取った龍門渕は、軽快に言葉を続ける。
キャプテンの『私からは、以上です』という言葉からしばしの間が空き、再び声が聞こえてきた。
拡声器を受け取った龍門渕は、軽快に言葉を続ける。
『これで私達は私、はじめ、ハギヨシ、片岡優希に福路美穂子の5人組となりましたわ』
殺し合いの参加人数を考えると、かなりの大集団と言えよう。
そこに私が加われば、数の力で色々できるかもしれない。
私にも力になれるかもという希望が、足取りを軽くする。
依然表情は堅いままだが、それでも胸中は先程までと打って変わって明るいものとなりつつあった。
そこに私が加われば、数の力で色々できるかもしれない。
私にも力になれるかもという希望が、足取りを軽くする。
依然表情は堅いままだが、それでも胸中は先程までと打って変わって明るいものとなりつつあった。
『山頂に変わらず居ますので、是非私達と力を合わせて脱出しましょう!
どなたでもウェルカム、学校問わず待ってますわっ!』
どなたでもウェルカム、学校問わず待ってますわっ!』
キャプテンに会える。
それだけを原動力に、ただ足を動かし続ける。
それだけを原動力に、ただ足を動かし続ける。
人殺しの私なんかが、受け入れられるのだろうか。
そんな不安が、足取りを重くしてくる。
そんな不安が、足取りを重くしてくる。
しかし――
『それと……片岡優希と、話をしましたわ』
龍門渕の声のトーンが落ちる。
それで、悟った。
きっと今から発する言葉は、先程キャプテンがそうしたように、自分に向けたものなのだと。
それで、悟った。
きっと今から発する言葉は、先程キャプテンがそうしたように、自分に向けたものなのだと。
足取りが一層重くなる。
意識のほとんど全てが、龍門渕の声へと傾けられていた。
それでも、無意識の内に足は前へと運ばれていく。
意識のほとんど全てが、龍門渕の声へと傾けられていた。
それでも、無意識の内に足は前へと運ばれていく。
顔色の悪さもあって、歩みを止められない亡霊兵士か何かのように見えることだろう。
それ、いっちにー、いっちにー。右、左、右、左。
さあ、何も考えずに足を動かしましょう。
それ、いっちにー、いっちにー。右、左、右、左。
さあ、何も考えずに足を動かしましょう。
『まだ、気持ちの整理が出来ていないそうです』
当たり前だ。
慕っていた先輩を失ったのだ。
そして――そして、自惚れの類でなければ、合宿ではトップクラスで仲良くやっていた相手である私が下手人なのだ。
簡単に、割り切れるわけがない。
慕っていた先輩を失ったのだ。
そして――そして、自惚れの類でなければ、合宿ではトップクラスで仲良くやっていた相手である私が下手人なのだ。
簡単に、割り切れるわけがない。
『でも――許したい、と言ってましたわ』
何を、とは言わなかった。
私以外にも聞いている人がいるだろうし、私に配慮しているのだろう。
私の名前すら出していない。
けれどそれは、どう考えても私へのメッセージ。
私以外にも聞いている人がいるだろうし、私に配慮しているのだろう。
私の名前すら出していない。
けれどそれは、どう考えても私へのメッセージ。
『ですから――どうか、逃げないで下さいまし』
逃げたかった。
怖かった。
染谷のことを責められるのが、たまらなく恐ろしかった。
怖かった。
染谷のことを責められるのが、たまらなく恐ろしかった。
けど、今は。
『――待ってますわ』
今でも怖いし、逃げ出したい。
足はガクガク震えるし、皆に会うのを想像すると胃液が込み上げて来そうになる。
上手く合流出来るように、何度も何度も頭の中でシミュレートし、その度にマイナス思考に陥っているくらいだ。
足はガクガク震えるし、皆に会うのを想像すると胃液が込み上げて来そうになる。
上手く合流出来るように、何度も何度も頭の中でシミュレートし、その度にマイナス思考に陥っているくらいだ。
それでも歩みは止まらない。
そこに確かに、希望が存在していたから。
許しという希望は、確かに大きな輝きを放っていたから。
そこに確かに、希望が存在していたから。
許しという希望は、確かに大きな輝きを放っていたから。
その輝きは、決して幻なんかじゃない。
手の届く、確かな存在なのだ。
歩みを止めるわけがない。止まるわけがない。
手の届く、確かな存在なのだ。
歩みを止めるわけがない。止まるわけがない。
――そう、思ってたのに。
「…………?」
ぷわぁん、という機械音。
よく知っている。
もう何度も耳にした、拡声器の発する音だ。
よく知っている。
もう何度も耳にした、拡声器の発する音だ。
『あーあー、皆さん聞こえまして!?』
もう呼びかけが行われる時間だろうか?
随分短い間隔だと思った。
ただ単に、私が全然進んでいないだけだろうか。
今の徒歩速度の遅さを考えると、ありえない話じゃなかった。
随分短い間隔だと思った。
ただ単に、私が全然進んでいないだけだろうか。
今の徒歩速度の遅さを考えると、ありえない話じゃなかった。
『幸いなことに、更に仲間が増えましたわっ!』
しかし実際には、臨時呼びかけだったらしい。
龍門渕のその声は、先程以上に浮かれポンチだ。
龍門渕の連中でも来たのだろうか。
そんなことを考えながら、声を頼りに更に歩を進めていく。
龍門渕のその声は、先程以上に浮かれポンチだ。
龍門渕の連中でも来たのだろうか。
そんなことを考えながら、声を頼りに更に歩を進めていく。
『これで6人、全員が手を取り合える未来も随分近付きましたわ!』
参加者の五分の一が集まっている。
確かに、手を取り合える未来は近付いている気がした。
――手を取り合えるのなら、だけども。
確かに、手を取り合える未来は近付いている気がした。
――手を取り合えるのなら、だけども。
『その子も入れたら、七人になるのかしら』
『正確には六人と一匹、ですわね。七人と言った方が、七人の侍みたいで格好良いですけど』
『正確には六人と一匹、ですわね。七人と言った方が、七人の侍みたいで格好良いですけど』
小さく、キャプテンの声がした。
恐らく、龍門渕への冗談を拡声器が拾ったのだろう。
その冗談に、龍門渕が冗談を返す。
恐らく、龍門渕への冗談を拡声器が拾ったのだろう。
その冗談に、龍門渕が冗談を返す。
しかし、私に取っては、冗談ではない話だった。
『それじゃあ、代わりますわ』
手を取り合いたいとは思ってる。
キャプテンにだって勿論会いたい。
でもまだ怖くて、会える気がしない奴らがいる。
今行けるのだって、あのタコス娘が私を許してくれたからだ。
キャプテンにだって勿論会いたい。
でもまだ怖くて、会える気がしない奴らがいる。
今行けるのだって、あのタコス娘が私を許してくれたからだ。
『……皆さん、聞こえていますか?』
キャプテンと龍門渕の、あのやりとり。
何か分からないが、一人とカウント出来るような連れがいるということだ。
そしてあの言い草からすると、それは人間の類じゃない。
人ではない生命体のような見た目の何かを持っている者――
その条件で思い浮かぶ参加者は、ただ一人。
何か分からないが、一人とカウント出来るような連れがいるということだ。
そしてあの言い草からすると、それは人間の類じゃない。
人ではない生命体のような見た目の何かを持っている者――
その条件で思い浮かぶ参加者は、ただ一人。
『宮永さん、聞こえていますか?』
背中が汗でぐっしょりと湿る。
息が荒くなってきた。
この声は、もう、間違いない。
息が荒くなってきた。
この声は、もう、間違いない。
『私です――原村和です』
足が、止まった。
【残り25人】
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第14話 | 龍門淵透華 | 第19話 |
第14話 | ハギヨシ | 第19話 |
第14話 | 福路美穂子 | 第19話 |
第04話 | 原村和 | 第19話 |
第12話 | 染谷まこ | ― |