第20話 生きて帰ろう、皆一緒に-ハイヤマクズシ-
時間を割いた情報交換。
原村和にとって、それはとても重要なものだった。
和に強い力はない。だがしかし、論理的な思考能力がある。
そしてその能力は、情報を多く持てば持つほど発揮されるものなのだ。
原村和にとって、それはとても重要なものだった。
和に強い力はない。だがしかし、論理的な思考能力がある。
そしてその能力は、情報を多く持てば持つほど発揮されるものなのだ。
(負けられない……どんな手段を使ったっていい……)
外道に堕ちる覚悟はとうに出来ている。
弱音も胃液も一人の時に吐き尽くした。
ただ冷徹に、機械のように冷静に、普段のように計算して、そして最高効率の答えを選び取るだけだ。
弱音も胃液も一人の時に吐き尽くした。
ただ冷徹に、機械のように冷静に、普段のように計算して、そして最高効率の答えを選び取るだけだ。
(殺してしまった須賀君の分まで、優希のために動かなくちゃいけませんからね……)
それは、なんてことない言葉だった。
最初に手にかけた少年は、優希と仲がとてもよかった。
だから、彼の分まで優希を守る――それだけの、本当にそれだけの言葉だった。
最初に手にかけた少年は、優希と仲がとてもよかった。
だから、彼の分まで優希を守る――それだけの、本当にそれだけの言葉だった。
(優希を……“生き残らせなくちゃいけない”……?)
ただ、あらゆる要素を分析し立ち回り方を考えていた和の脳に、その単語は引っかかってしまった。
心のどこかに引っかかっていたことが、これをキッカケに表に引き摺り出されてくる。
心臓を鷲掴みにされたかのような感覚に、和は喉を詰まらせた。
心のどこかに引っかかっていたことが、これをキッカケに表に引き摺り出されてくる。
心臓を鷲掴みにされたかのような感覚に、和は喉を詰まらせた。
(私は……優希を“生き残らせなくちゃいけない”と考えている……?)
思えば、ずっと和は優希のことを“生き残らせなくてはならない”と考えてきた。
何故か?
それは、一番の友人と呼べる相手が優希だからだ。
中学の頃からの友人だから。
転校などで友人を失っていった自分に残った数少ない友人だから。
だから。
何故か?
それは、一番の友人と呼べる相手が優希だからだ。
中学の頃からの友人だから。
転校などで友人を失っていった自分に残った数少ない友人だから。
だから。
――だから、一番大切な人なのだ。
(私は――優希を、宮永さんと天秤にかけている)
それは、否定のしようがない事実だった。
友人に優劣をつけるなどという卑劣なことはしたくなかったが、状況が状況なのだから仕方が無い。
その結果、京太郎らは切り捨て、一番の友人である咲と優希を助けるために動くことに決めたのだ。
友人に優劣をつけるなどという卑劣なことはしたくなかったが、状況が状況なのだから仕方が無い。
その結果、京太郎らは切り捨て、一番の友人である咲と優希を助けるために動くことに決めたのだ。
(でも――違う。二人の扱いが、本当は、違う……)
しかし――和は、思ってしまっていたのだ。
優希は“生き残らせなくてはいけない”と。
“生き残らせたい”ではなく、だ。
優希は“生き残らせなくてはいけない”と。
“生き残らせたい”ではなく、だ。
――ならば。先ほどの言は、次のように言い換えるのが正しいのではないだろうか。
一番の友人と呼べる相手は優希“だった”と。
中学の頃からの友人だから。
転校などで友人を失っていった自分に残った数少ない友人だから。
だから、その恩義故に、“一番から引きずり落とすということが躊躇われた”と。
中学の頃からの友人だから。
転校などで友人を失っていった自分に残った数少ない友人だから。
だから、その恩義故に、“一番から引きずり落とすということが躊躇われた”と。
(私は、私は――――――)
その考えは、実はずっと心のどこかに眠っていた。
だからこそ、こうして些細なキッカケで叩き起こされ、どーんと心に居座るのだ。
そうして居座ったそれは、もう簡単には動かせない。
冷静な思考回路で導かれた結論は、客観的な事実として和の脳に刻みつけられる。
だからこそ、こうして些細なキッカケで叩き起こされ、どーんと心に居座るのだ。
そうして居座ったそれは、もう簡単には動かせない。
冷静な思考回路で導かれた結論は、客観的な事実として和の脳に刻みつけられる。
(宮永さんが、一番好きだったんだ――)
気付いてしまえば、簡単なことだった。
今までにも、ヒントは沢山あったのだ。
今までにも、ヒントは沢山あったのだ。
同列のように扱っていた咲と優希。
だがしかし、好きな理由を語ろうとすると、優希の方が長くなる。
しかしそれは、決して優希の方が好きだということを意味しているわけではない。
むしろその逆。
優希はそれだけ多くの理由付けをして、初めて咲に並べていたのだ。
だがしかし、好きな理由を語ろうとすると、優希の方が長くなる。
しかしそれは、決して優希の方が好きだということを意味しているわけではない。
むしろその逆。
優希はそれだけ多くの理由付けをして、初めて咲に並べていたのだ。
勿論、優希が嫌いなわけではない。
優希のことは大好きである。
それこそ、一番の親友であるべき理由を挙げられるくらい大好きだ。
ただ、そんな親友を特別な理由もなく軽々追い抜いた、咲という少女が特別すぎるだけで。
優希のことは大好きである。
それこそ、一番の親友であるべき理由を挙げられるくらい大好きだ。
ただ、そんな親友を特別な理由もなく軽々追い抜いた、咲という少女が特別すぎるだけで。
(優希……)
ハンマーで後頭部を殴られたような衝撃を受けながら、和は優希をちらりと見やる。
やはり、優希のことは愛おしかった。
それでも、冷静に考えれば考える程、咲の方が愛おしいと感じてしまう。
やはり、優希のことは愛おしかった。
それでも、冷静に考えれば考える程、咲の方が愛おしいと感じてしまう。
「それで、あの……一ついいでしょうか?」
和の思考が中断される。
福路美穂子がおずおずと切り出したのは、自信の持っている情報を開示し終えた後だった。
申し訳なさそうに俯きながら、彼女は一つの提案をする。
いや――提案というよりも、それはむしろ“お願い”に近かったけど。
福路美穂子がおずおずと切り出したのは、自信の持っている情報を開示し終えた後だった。
申し訳なさそうに俯きながら、彼女は一つの提案をする。
いや――提案というよりも、それはむしろ“お願い”に近かったけど。
「別行動を、取らせてもらいたいのだけど……」
別行動、という単語を聞き、龍門渕透華が華奢な体をわなわなと震わせる。
「な、な……」などと意味不明な単語を発し、驚いたように目を見開いてた。
その言葉が、よほど意外でショックだったのだろう。
「な、な……」などと意味不明な単語を発し、驚いたように目を見開いてた。
その言葉が、よほど意外でショックだったのだろう。
「ダメ、かしら」
申し訳なさ気な美穂子を見つめ、やれやれと言わんばかりに国広一は溜息を吐いた。
透華と違い、一にはこうなってしまう予感があった。
ハギヨシに至っては、今までここに居てくれただけ御の字だと思っている程である。
透華と違い、一にはこうなってしまう予感があった。
ハギヨシに至っては、今までここに居てくれただけ御の字だと思っている程である。
二人は、もう分かってる。
美穂子の意志が堅いことを。
美穂子の意志が堅いことを。
「な、何で……」
「池田さん、ですか」
「池田さん、ですか」
今度は、和が割り込む番。
和にとっても、この申し出は想定の範囲内だ。
だがしかし――美穂子という存在は、和にとってあまりに不明瞭な存在。
唯一、動向の読めない人物であると思っている。
和にとっても、この申し出は想定の範囲内だ。
だがしかし――美穂子という存在は、和にとってあまりに不明瞭な存在。
唯一、動向の読めない人物であると思っている。
「…………ええ」
和が透華達の前に姿を現したのは、到着して数分後の事だった。
まず木の影に身を隠し、呼びかけ人数を把握する。
そこに優希がいなかったため、最初は襲撃しようと思った。
だがしかし、サブマシンガンを持った者が居ることに気付き、躊躇いが生じたのだ。
そこで、狙撃後すぐに逃げ出せる位置に移動しようと画策。
しかし物音が発生し、一に銃を向けられたというわけだ。
あとは両手を上げて出ていき、味方のフリをする。
それが、和が合流した経緯。
まず木の影に身を隠し、呼びかけ人数を把握する。
そこに優希がいなかったため、最初は襲撃しようと思った。
だがしかし、サブマシンガンを持った者が居ることに気付き、躊躇いが生じたのだ。
そこで、狙撃後すぐに逃げ出せる位置に移動しようと画策。
しかし物音が発生し、一に銃を向けられたというわけだ。
あとは両手を上げて出ていき、味方のフリをする。
それが、和が合流した経緯。
――そして透華は、冗談交じりに言ったのだ。
そんな和の登場シーンが、美穂子のそれと被っている、と。
そんな和の登場シーンが、美穂子のそれと被っている、と。
「来てくれるかもって思ってたけど……華菜、やっぱりまだ来られないみたいだから」
直接見ていたわけではない。
だがしかし、もし美穂子が自分と同じだとしたら?
自分と同じで、獲物を襲おうとして、見つかったのではないだろうか?
だがしかし、もし美穂子が自分と同じだとしたら?
自分と同じで、獲物を襲おうとして、見つかったのではないだろうか?
勿論、そうでない可能性の方が大きい。
普段を見る限り美穂子は極度の善人であるし、サブマシンガンを持っている以上見つかったからと素直に出ていく必要もない。
『池田華菜の情報を集めようとした結果』など、色々こじつけられたりはするけども。
普段を見る限り美穂子は極度の善人であるし、サブマシンガンを持っている以上見つかったからと素直に出ていく必要もない。
『池田華菜の情報を集めようとした結果』など、色々こじつけられたりはするけども。
「だから、私から迎えに行きたいの」
だから――確かめよう。
和は、決める。今後の立ち回りを。
和は、決める。今後の立ち回りを。
「華菜は――大事な、後輩だから」
「そう、ですわよね……確かに、池田華菜のことは、なんとかしたいと思ってましたわ」
「そう、ですわよね……確かに、池田華菜のことは、なんとかしたいと思ってましたわ」
透華が、美穂子の言葉に同調する。
透華は、そもそも華菜をどうにかしたいと考えていた代表的人物だ。
華菜を救える可能性が美穂子にはある。
その美穂子を向かわせることに、反対する理由はない。
透華は、そもそも華菜をどうにかしたいと考えていた代表的人物だ。
華菜を救える可能性が美穂子にはある。
その美穂子を向かわせることに、反対する理由はない。
「でしたら、全員で――」
「呼びかけを続けるなら、さすがに全員で移動は出来ないんじゃないかなぁ」
「ですね。来ている人は、もうこの辺に来ているでしょうし」
「呼びかけを続けるなら、さすがに全員で移動は出来ないんじゃないかなぁ」
「ですね。来ている人は、もうこの辺に来ているでしょうし」
一と和が立て続けに透華の意見を却下する。
確かに、と言わんばかりに、透華は口をつぐまされた。
確かに、と言わんばかりに、透華は口をつぐまされた。
「華菜以外にも、近くに居るのに声をかけられない人が居たら、声をかけて連れてくるわね」
にこり、と美穂子が笑む。
チームを二分することは、もはや決定事項といった流れであった。
問題は――どう、チームを分けるかというわけで。
チームを二分することは、もはや決定事項といった流れであった。
問題は――どう、チームを分けるかというわけで。
「…………」
不意に、すっと手が上がる。
最初にそれに気が付いたのは、正面に居た美穂子だった。
掌から視線を下げると、そこにあるのは桃色の髪。
挙手をしたのは原村和。
最初にそれに気が付いたのは、正面に居た美穂子だった。
掌から視線を下げると、そこにあるのは桃色の髪。
挙手をしたのは原村和。
「私も――」
和の心の中で、天使のような悪魔が微笑む。
「私も、行きます」
美穂子の腹が読めないなら、堂々読ませて貰えばいい。
二人っきりになることで、その正体を明かさせる。
乗っているなら、同盟を結ぶ。
乗っていないなら、サブマシンガンを奪い取る。
ただ、それだけだ。
二人っきりになることで、その正体を明かさせる。
乗っているなら、同盟を結ぶ。
乗っていないなら、サブマシンガンを奪い取る。
ただ、それだけだ。
「だ、だったら私も行くじぇ!」
そのためには、優希は絶対に来ては駄目だ。
優先順位が下がったとは言え、極力優希は生かしておきたい。
悪い言い方をすれば、宮永咲を失った時、彼女の“かわり”にするのだから。
優先順位が下がったとは言え、極力優希は生かしておきたい。
悪い言い方をすれば、宮永咲を失った時、彼女の“かわり”にするのだから。
「それはいけません」
だから、毅然としてその申し出を却下する。
美穂子が乗っていれば戻るが、乗っていなければここへはもう戻らない。
美穂子を、ついでに言えば華菜を殺す気でいる以上、透華達と敵対するのは間違いないと言えるだろう。
優希を、そんな危険に巻き込ませるわけにはいかない。
美穂子が乗っていれば戻るが、乗っていなければここへはもう戻らない。
美穂子を、ついでに言えば華菜を殺す気でいる以上、透華達と敵対するのは間違いないと言えるだろう。
優希を、そんな危険に巻き込ませるわけにはいかない。
むしろ、敢えて自分と敵対する集団に属させることで、『自分のせいで親友が人を殺した』と思わなくさせるメリットがある。
まさか敵対している相手に守りたい人が居るだなんて思わないだろう。
……とはいえ、敵対する以上自分の攻撃で誤殺する可能性があり、優先順位が最上位だとこの戦法は怖くて取れないのだけれど。
敵対しようという決意は、優希と咲を順位付けした結果だった。
まさか敵対している相手に守りたい人が居るだなんて思わないだろう。
……とはいえ、敵対する以上自分の攻撃で誤殺する可能性があり、優先順位が最上位だとこの戦法は怖くて取れないのだけれど。
敵対しようという決意は、優希と咲を順位付けした結果だった。
「染谷先輩を手にかけてしまったことを気に病んでいるようですし、
そこにいきなり清澄の人間が二人も現れたら、逃げ出してしまうからもしれません」
「だったら、のどちゃんも行かない方がいいんじゃ……」
「私達清澄の人間への負い目だけで合流が出来ていないなら、彼女の事を許してあげる役目の人も必要ですから」
そこにいきなり清澄の人間が二人も現れたら、逃げ出してしまうからもしれません」
「だったら、のどちゃんも行かない方がいいんじゃ……」
「私達清澄の人間への負い目だけで合流が出来ていないなら、彼女の事を許してあげる役目の人も必要ですから」
この言葉に嘘はない。
本当に華菜を受け入れる場合、和か優希のどちらか一人がついていくべきと考えている。
だからこそ言葉に説得力が出るし、優希を黙らせることが出来た。
本当に華菜を受け入れる場合、和か優希のどちらか一人がついていくべきと考えている。
だからこそ言葉に説得力が出るし、優希を黙らせることが出来た。
「それに、聞きましたけど――優希は、確かまだ、許せるか分からないって言ってましたよね。
別に、責めるつもりはないですし、それで普通だと思います。
だから、優希の代わりに、私が行くんです」
別に、責めるつもりはないですし、それで普通だと思います。
だから、優希の代わりに、私が行くんです」
そして、優希でなく自分が行くべきだという理由を説明する。
アドリブなので破綻しないよう気を回しながら言葉を紡ぐ。
アドリブなので破綻しないよう気を回しながら言葉を紡ぐ。
「じゃあ、もう、許してるんだ?」
「ええ……痛みを感じれずに逝けただけよかったのかも、と思えてしまう程度には」
「ええ……痛みを感じれずに逝けただけよかったのかも、と思えてしまう程度には」
一の問いにも素直に答える。
好感度が下がるかもしれなかったが、今更一や透華の評価を気にする必要なんてない。
嘘で固めてボロが出ぬよう、嘘を吐く必要性の無い所では真実を語っていく。
それが、嘘を吐くコツだ。
好感度が下がるかもしれなかったが、今更一や透華の評価を気にする必要なんてない。
嘘で固めてボロが出ぬよう、嘘を吐く必要性の無い所では真実を語っていく。
それが、嘘を吐くコツだ。
「じゃ、じゃあ私が……」
「透華お嬢様は、呼びかけの仕事が残っていますよ」
「あんだけガンガン喋ってる人が不在なのは、ボクもちょっとどうかと思うな」
「透華お嬢様は、呼びかけの仕事が残っていますよ」
「あんだけガンガン喋ってる人が不在なのは、ボクもちょっとどうかと思うな」
そして、透華の同行も従者二人に却下される。
和と行動したかったようだが、あれだけ人を呼んだ本人が不在というわけにもいくまい。
すると残りはハギヨシと一ということになるのだが――
和と行動したかったようだが、あれだけ人を呼んだ本人が不在というわけにもいくまい。
すると残りはハギヨシと一ということになるのだが――
「私は残りますよ。残った方々を守らなくてはなりませんから」
そう言って、カラシニコフをカチャリと鳴らす。
戦力比を考えると、妥当な所ではあった。
これで残すは一をどうするかということだけになったが――
戦力比を考えると、妥当な所ではあった。
これで残すは一をどうするかということだけになったが――
「それで、どうしますか?」
「ボクは……うん、ボクも残るよ。さっき、透華を守るって言っちゃったばかりだし」
「ボクは……うん、ボクも残るよ。さっき、透華を守るって言っちゃったばかりだし」
そう言って、武器のない透華を守るために使うと決めたコンバットマグナムを掲げる。
人数比だけで考えるなら一はついてくるべきだったが、戦力比を考えるなら残るのが妥当と言えた。
人数比だけで考えるなら一はついてくるべきだったが、戦力比を考えるなら残るのが妥当と言えた。
何せ、透華は武器を所持しておらず、優希の武器は2発だけのデリンジャーなのだから。
唯一高い威力を誇るカラシニコフはオート射撃ですぐ弾切れを起こすという弱点持ちなのだ。
つまり彼女らは連射が効かない集団であり、弾幕で足止めしながら逃走などは出来ないということになる。
唯一高い威力を誇るカラシニコフはオート射撃ですぐ弾切れを起こすという弱点持ちなのだ。
つまり彼女らは連射が効かない集団であり、弾幕で足止めしながら逃走などは出来ないということになる。
となったら、援護がいるのは明白だ。
結局一は、サブマシンガンと拳銃のコンビなら大丈夫だろうと判断し残ることに決めたのだった。
……単純に透華の傍を離れたくない、という考えがあったことも、否定はしきれないのだけども。
結局一は、サブマシンガンと拳銃のコンビなら大丈夫だろうと判断し残ることに決めたのだった。
……単純に透華の傍を離れたくない、という考えがあったことも、否定はしきれないのだけども。
「……本当に二人で大丈夫ですの?」
透華が不安そうな声を上げる。
仲間に死んでほしくない。そんな想いの現れだろう。
仲間に死んでほしくない。そんな想いの現れだろう。
「大丈夫ですよ。武器だけなら、そちらよりも充実していますから」
「……武器を使うことになんて、ならなければいいんですけど」
「……武器を使うことになんて、ならなければいいんですけど」
はぁ、と透華が溜息を吐く。
その甘さに、和は内心唾を吐いた。
冷静に、論理的思考をしなくてはならないのに、透華は夢しか見ていない。
その甘さに、和は内心唾を吐いた。
冷静に、論理的思考をしなくてはならないのに、透華は夢しか見ていない。
――透華は、殺害しておきたい人物のナンバーワンである。
本人は無能極まりなく、そのくせに影響力を持っている。
一やハギヨシと言った冷静に物事を考えられる連中を、愚策のために動かせてしまう。
更に一とハギヨシが透華の意見に絶対服従とした場合、実質彼女は多数決において三票を最初から有していることになる。
無能者の独裁政権――大切な友人を置いておくには、あまりに危ない環境に思えた。
一やハギヨシと言った冷静に物事を考えられる連中を、愚策のために動かせてしまう。
更に一とハギヨシが透華の意見に絶対服従とした場合、実質彼女は多数決において三票を最初から有していることになる。
無能者の独裁政権――大切な友人を置いておくには、あまりに危ない環境に思えた。
「……申し上げにくいのですが……」
ハギヨシが、歩み寄りながら和と美穂子に声をかける。
和にしてみれば、ハギヨシの言葉は聞く価値があるものが多い。
気分のいいものではないが、必要なことを言うのだろう。
そう思ったので、「何でしょう」とだけ返した。
透華の気分を極力害したくないのか、ちらりと透華の顔を覗い、それからハギヨシは言葉を紡ぐ。
和にしてみれば、ハギヨシの言葉は聞く価値があるものが多い。
気分のいいものではないが、必要なことを言うのだろう。
そう思ったので、「何でしょう」とだけ返した。
透華の気分を極力害したくないのか、ちらりと透華の顔を覗い、それからハギヨシは言葉を紡ぐ。
「染谷まこ様のアタッシュケースを、回収してきて頂けますか?」
言われて、そこで始めてまこの分のアタッシュケースがここにはないことに気が付いた。
透華や一といった面々がアタッシュケースを割りと適当に置いていたため、どれが誰のものかなどが分かりにくく、それ故に数にまで意識がいかなかった。
一人に一つ、というのが分かりやすければ、もっと早くに“余りの数”に違和感を抱けたのだろうけど。
今見ると、明らかに数が合わない。
透華や一といった面々がアタッシュケースを割りと適当に置いていたため、どれが誰のものかなどが分かりにくく、それ故に数にまで意識がいかなかった。
一人に一つ、というのが分かりやすければ、もっと早くに“余りの数”に違和感を抱けたのだろうけど。
今見ると、明らかに数が合わない。
「どうしても、一度に持ち歩ける数には限界がありますからね」
ハギヨシは、同時に2個が限界だろうと思っている。
掌を空に向けた状態で、人差し指と中指に一つ目のアタッシュケースを引っ掛け、薬指と小指にニつ目をかける。
指が多少痛みはするが、その程度ならどうということはない。
親指にも引っ掛けられないことはないが、そうなるとアタッシュケース同士が密集しすぎてしまい移動の度にゴツゴツと音が鳴ってしまう可能性がある。
あまり推奨すべき数ではないだろう。
掌を空に向けた状態で、人差し指と中指に一つ目のアタッシュケースを引っ掛け、薬指と小指にニつ目をかける。
指が多少痛みはするが、その程度ならどうということはない。
親指にも引っ掛けられないことはないが、そうなるとアタッシュケース同士が密集しすぎてしまい移動の度にゴツゴツと音が鳴ってしまう可能性がある。
あまり推奨すべき数ではないだろう。
となると、両手で合計4つまでなら持ち歩けそうに思えるが――
両手をアタッシュケースで埋めるなんて行為、自殺行為以外の何者でもない。
実際は片手に武器を、そして片手に2つのアタッシュケースを持つのが限界だろう。
両手をアタッシュケースで埋めるなんて行為、自殺行為以外の何者でもない。
実際は片手に武器を、そして片手に2つのアタッシュケースを持つのが限界だろう。
実際ハギヨシは、睦月と星夏のアタッシュケースを回収直後こそ持ち歩いていたが、結局途中で捨てて来ている。
死体から離れたブッシュの中で、中身だけを自身のアタッシュケースへと移し替えることにしたのだ。
一番体積の多い支給品に合わせてあるのか、アタッシュケースはかなりの容量を誇る。
2リットルのペットボトルを計4本移した後、食料品やナタと行った支給品まで放り込むことが出来た。
ハギヨシの収納術の賜物でもある。
死体から離れたブッシュの中で、中身だけを自身のアタッシュケースへと移し替えることにしたのだ。
一番体積の多い支給品に合わせてあるのか、アタッシュケースはかなりの容量を誇る。
2リットルのペットボトルを計4本移した後、食料品やナタと行った支給品まで放り込むことが出来た。
ハギヨシの収納術の賜物でもある。
一つのアタッシュケースに移した理由として、パッと見では複数人の荷物を持っていることが分からないようにしたというのが挙げられる。
殺し合いに乗っていると判断され襲われたら溜まったものではないのだから、それは当然と言えよう。
他にも、少しでも荷物を減らし射撃精度を高めたいという理由があった。
本来ハギヨシの支給品であるカラシニコフは、片手でバンバン撃つものではない。
故に戦闘になった際は素早くアタッシュケースを投げ捨て両手でカラシニコフを持つ必要がある。
荷物は少ない方がよかったというわけだ。
殺し合いに乗っていると判断され襲われたら溜まったものではないのだから、それは当然と言えよう。
他にも、少しでも荷物を減らし射撃精度を高めたいという理由があった。
本来ハギヨシの支給品であるカラシニコフは、片手でバンバン撃つものではない。
故に戦闘になった際は素早くアタッシュケースを投げ捨て両手でカラシニコフを持つ必要がある。
荷物は少ない方がよかったというわけだ。
「それに――持っていくとは、切り出しにくい状況でしたから」
荷物を持っていく、と言っていたら、透華が苦言を呈していただろう。
あまり透華に嫌われて、別行動を取られでもしたら厄介である。
華菜を切り捨てた直後というのもあって、少しでも揉める可能性は減らしたかった。
かといってデリンジャーと違ってこっそり回収するというのも困難であり、放置してきたというわけだ。
デリンジャーさえ回収したら、後はもう2人分のゆとりがある水と食料しかない。それも回収を諦めた理由である。
リスクを犯してまで、回収すべきものではない。
いや、なかったというべきか。
あまり透華に嫌われて、別行動を取られでもしたら厄介である。
華菜を切り捨てた直後というのもあって、少しでも揉める可能性は減らしたかった。
かといってデリンジャーと違ってこっそり回収するというのも困難であり、放置してきたというわけだ。
デリンジャーさえ回収したら、後はもう2人分のゆとりがある水と食料しかない。それも回収を諦めた理由である。
リスクを犯してまで、回収すべきものではない。
いや、なかったというべきか。
「あまり、亡くなった人の荷物を奪うのは感心は出来ませんわ」
「ですが、必要なことです。心苦しいですが、どうか理解して下さい」
「ですが、必要なことです。心苦しいですが、どうか理解して下さい」
亡骸から奪い取ったデリンジャーが既に流れで利用することになっている今、荷物を利用させてもらうことへの抵抗は薄れている。
嫌な気分になることはあれど、猛反対は出来ないだろう。
だからこそ、このタイミングで荷物を回収してもらおうとハギヨシは考えた。
大所帯となる以上、水と食料に更なるゆとりを持たせたいという目論見もある。
嫌な気分になることはあれど、猛反対は出来ないだろう。
だからこそ、このタイミングで荷物を回収してもらおうとハギヨシは考えた。
大所帯となる以上、水と食料に更なるゆとりを持たせたいという目論見もある。
「……分かってますわ」
「水や食料にゆとりがあるに超したことはないですからね」
「だじぇー。さすがに一人ペットボトル二本ぽっちじゃ少ないからなー」
「水や食料にゆとりがあるに超したことはないですからね」
「だじぇー。さすがに一人ペットボトル二本ぽっちじゃ少ないからなー」
籠城するには十分かもしれないが、山道を動き回る可能性を考えると、やはり二本では心もとない。
更に言えば、戦闘で傷ついて、傷口を洗わなければならない時が来るかもしれない。
そのためにも、和はペットボトルの確保には賛成だった。
更に言えば、戦闘で傷ついて、傷口を洗わなければならない時が来るかもしれない。
そのためにも、和はペットボトルの確保には賛成だった。
「それなんですが……現在の余りの水、どういう風に分けましょうか」
現在、ここのメンバーは合計六人。
そして、余ったペットボトルは四本。
ここにニ本が加われば、合計六本。
華菜が仲間に加わって七人になると考えても、一人辺り一本弱余分に水を貰えるという計算になる。
そして、余ったペットボトルは四本。
ここにニ本が加われば、合計六本。
華菜が仲間に加わって七人になると考えても、一人辺り一本弱余分に水を貰えるという計算になる。
「普通に一人一本くらいは大体行き渡るけど……?」
「それなんですが……」
「それなんですが……」
和は、少し、躊躇う。
これを言うということは、目的が露見する可能性の急上昇を示している。
だが――
これを言うということは、目的が露見する可能性の急上昇を示している。
だが――
「先に貰ってもいいでしょうか」
言った。
水の入ったペットボトルを先にくれ、と。
水の入ったペットボトルを先にくれ、と。
「どうかしましたの……?」
透華が怪訝そうに尋ねてくる。
そりゃそうだ。
普通に考えたなら、華菜を拾って帰ってきた後で、水を分配すればいい。
それこそ、拠点を移す時までは別に分配しなくてもいいくらいだ。
そりゃそうだ。
普通に考えたなら、華菜を拾って帰ってきた後で、水を分配すればいい。
それこそ、拠点を移す時までは別に分配しなくてもいいくらいだ。
「……正直に、言います。
私がここに戻ってくると、断言することは出来ません」
「の、のどちゃん!?」
私がここに戻ってくると、断言することは出来ません」
「の、のどちゃん!?」
下手な嘘は通じない。
だからこそ、真実を告げる。
肝心要を隠しながら。
だからこそ、真実を告げる。
肝心要を隠しながら。
「こちらが襲撃にあって、帰りようがなくなる可能性もあります。
私達が襲撃にあい、帰れなくなる可能性だってあります。
それに――――」
私達が襲撃にあい、帰れなくなる可能性だってあります。
それに――――」
最後の言葉を告げるのは、正直相当躊躇われた。
大好きな人に告げるに等しいことなのだ。
私の中で、貴女以上に大事な人が出来ました、と。
大好きな人に告げるに等しいことなのだ。
私の中で、貴女以上に大事な人が出来ました、と。
「宮永さんに関する情報が手に入ったら、私はそちらを優先すると思いますから」
「のどちゃん……」
「のどちゃん……」
それでも、言った。
水を頂戴する理由に、真実味を付加するためにも。
そして――親友である優希に対する優先順位を、明確に引き下げるために。
これは、いわば決意表明なのだ。
水を頂戴する理由に、真実味を付加するためにも。
そして――親友である優希に対する優先順位を、明確に引き下げるために。
これは、いわば決意表明なのだ。
「なるほど。よく、分かりました。離脱も止めることは出来ないでしょう」
「まあ、出来れば帰ってきて欲しいけどね」
「まあ、出来れば帰ってきて欲しいけどね」
和の言葉に応えたのは、驚いた顔の透華でなく、その腹心二人だった。
これも、和にとっては想定の範囲内。
この二人は、理論的な言葉を返してくるだろう。
自分達の失うものを極力減らすべく、間違いなく水の供給に反対してくる。
これも、和にとっては想定の範囲内。
この二人は、理論的な言葉を返してくるだろう。
自分達の失うものを極力減らすべく、間違いなく水の供給に反対してくる。
「ですが……池田様と福路様は、無事な限り戻ってきて下さるのでしょう?」
こくり、と美穂子が頷く。
ハギヨシ達が全滅して合流できない可能性もあるのだが、そこについては触れても仕方ないので和もハギヨシも触れない。
ハギヨシ達が全滅して合流できない可能性もあるのだが、そこについては触れても仕方ないので和もハギヨシも触れない。
和もハギヨシも、お互いがあくまで『理論的』な大義名分を掲げようとしていることに気付いている。
それ故に相手の出方が読みやすく、戦略を練りやすい。
ならば決定打以外は、予定調和にしておく方がいいというもの。
その方が、下準備をしやすいのだから。
それ故に相手の出方が読みやすく、戦略を練りやすい。
ならば決定打以外は、予定調和にしておく方がいいというもの。
その方が、下準備をしやすいのだから。
「池田様と福路様が戻って来られて、原村様が抜けられたら、私達は6人になります」
「……そうですね」
「そして余分な水も、6本」
「ちょ、ハギヨシ……!」
「……そうですね」
「そして余分な水も、6本」
「ちょ、ハギヨシ……!」
透華が顔を顰める。
透華とて馬鹿ではない。
人数を挙げた理由くらいは理解できた。
透華とて馬鹿ではない。
人数を挙げた理由くらいは理解できた。
「なるほど、切りよく分けられる、と……」
「はい。申し訳ありませんが、そこまでゆとりがあるわけでもありませんので……」
「悪いけど……回収したアタッシュケースはこっちに持ってきてもらっていいかな?」
「はい。申し訳ありませんが、そこまでゆとりがあるわけでもありませんので……」
「悪いけど……回収したアタッシュケースはこっちに持ってきてもらっていいかな?」
一が、和にではなく美穂子に言う。
思わず、美穂子も「え、ええ」などと答えてしまった。
一の狙いは、最初から美穂子にあった。
思わず、美穂子も「え、ええ」などと答えてしまった。
一の狙いは、最初から美穂子にあった。
ここで水の供給を断っても、一達のいないところで美穂子が和に水をあげたらそれまでだ。
美穂子の甘い性格上、まこも同じ清澄の後輩に譲りたいと思うがだろうから、などと言い出してもおかしくない。
しかしこうして持って帰ると言わせた以上、生真面目な美穂子はきちんと回収してくるだろう。
自身の水なら大丈夫と与える可能性もあったが――別に、“美穂子が最初から持っていた水”がなくなる分には一達は困らない。
美穂子の甘い性格上、まこも同じ清澄の後輩に譲りたいと思うがだろうから、などと言い出してもおかしくない。
しかしこうして持って帰ると言わせた以上、生真面目な美穂子はきちんと回収してくるだろう。
自身の水なら大丈夫と与える可能性もあったが――別に、“美穂子が最初から持っていた水”がなくなる分には一達は困らない。
「と、いうわけだから、悪いけど――」
「分かってます。貰えるとは、思っていません」
「分かってます。貰えるとは、思っていません」
和とて、馬鹿ではない。
最初から一本丸々貰えるとは思ってなんかいなかった。
最初に無茶な要求をし、真の狙いを妥協点とすることで通りやすくする。
基本中の基本である。
最初から一本丸々貰えるとは思ってなんかいなかった。
最初に無茶な要求をし、真の狙いを妥協点とすることで通りやすくする。
基本中の基本である。
「ですから……飲みかけの私の水と、新品のペットボトルを交換してもらってもいいですか」
これが、落とし所。
これならば、手間もかからず『ペットボトル1本にも満たない水』を得ることが出来る。
ハギヨシも一も、まあそうくるのであろうことは予想していた。
これならば、手間もかからず『ペットボトル1本にも満たない水』を得ることが出来る。
ハギヨシも一も、まあそうくるのであろうことは予想していた。
「それなら、まあ……」
「離れる恐れが高くても、仲間ですからね」
「離れる恐れが高くても、仲間ですからね」
だから、その妥協点に敢えて乗る。
その先の手が分からぬが、無碍に断る理由も薄い。
断固として断った末に透華が乱入してくるようでは困るのだ。
きちんとデジタル的に道筋立ててやり取りをしている限りは、まだ不満そうにしながらも見守ってくれてはいるが、
結論ありきで論理性を少しでも欠けば和の方に肩入れするのは間違いない。
何せ透華は、和に死んでほしくないはずなのだから。
その先の手が分からぬが、無碍に断る理由も薄い。
断固として断った末に透華が乱入してくるようでは困るのだ。
きちんとデジタル的に道筋立ててやり取りをしている限りは、まだ不満そうにしながらも見守ってくれてはいるが、
結論ありきで論理性を少しでも欠けば和の方に肩入れするのは間違いない。
何せ透華は、和に死んでほしくないはずなのだから。
「そうですか、ありがとうございます」
にっこりと、和が微笑む。
そして、アタッシュケースを堂々と開いた。
一もハギヨシも一度中を見せてもらっていたが、その時は武器が隠されていないかのチェックに夢中で、ロクに水は見ていなかった。
目に飛び込んでたはずなのに、ラベル部分で残量が見難かったのもあって、記憶には残ってなかった。
そして、アタッシュケースを堂々と開いた。
一もハギヨシも一度中を見せてもらっていたが、その時は武器が隠されていないかのチェックに夢中で、ロクに水は見ていなかった。
目に飛び込んでたはずなのに、ラベル部分で残量が見難かったのもあって、記憶には残ってなかった。
「これは……」
「助かります、本当に。何せ、私の水はもうこれだけしかありませんでしたから」
「助かります、本当に。何せ、私の水はもうこれだけしかありませんでしたから」
ペットボトルの、およそ半分。
和は既に、それだけの水を消費してしまっていた。
ペットボトルのラベルのやや下の辺りで、水がちゃぷちゃぷと揺れている。
和は既に、それだけの水を消費してしまっていた。
ペットボトルのラベルのやや下の辺りで、水がちゃぷちゃぷと揺れている。
「……もうそんなに飲んじゃったの?」
一度許可を出した以上、トレードは覆らない。
苦々しげに、一は素直な疑問をぶつけた。
苦々しげに、一は素直な疑問をぶつけた。
「山道が、きつかったもので」
「まあ、確かにきつかったけど、普通もうちょっと節約しようとか考えるんじゃ……」
「……あの拡声器、意外と高性能なんですよ」
「まあ、確かにきつかったけど、普通もうちょっと節約しようとか考えるんじゃ……」
「……あの拡声器、意外と高性能なんですよ」
水の配分という些事における狐と狸の化かし合い。
その勝利宣言をすべく、和は拡声器を見やる。
その勝利宣言をすべく、和は拡声器を見やる。
「この声が聞こえてから、ここにくるのに結構かかりましたから。
普通の道なんて通るわけにもいきませんでしたし、優希に早く会いたくてたくさん走ったので――
たくさん、汗もかきましたから」
「……あー」
普通の道なんて通るわけにもいきませんでしたし、優希に早く会いたくてたくさん走ったので――
たくさん、汗もかきましたから」
「……あー」
美穂子ですら、優希ですら、そしてハギヨシが居たこともあるが透華ですら、
遮蔽物のない道の真ん中を通ることはしなかった。
皆が皆、険しい道を自ら選び、汗水を流し時間をかけて登ってきたのだ。
遮蔽物のない道の真ん中を通ることはしなかった。
皆が皆、険しい道を自ら選び、汗水を流し時間をかけて登ってきたのだ。
そして皆腰をおろし、ここで休息を取った。
今後を考え、必要最低限の水のみ摂取して。
今後を考え、必要最低限の水のみ摂取して。
「最初から、こっちの水をあてにしてたんですね」
「はい。水分補給は出来る時にしておきたかったですから」
「はい。水分補給は出来る時にしておきたかったですから」
和もしれっと答える。
嘘ではない。実際、透華達の水をあてにし水分補給を遠慮せずに行った。
嘘ではない。実際、透華達の水をあてにし水分補給を遠慮せずに行った。
――放送を聞いて友人を手に掛けたことを思い出し、盛大に嘔吐したということこそ、大量な水分補給の主な原因だったが。
いくら冷静を装って修羅になることを選んでも、和も所詮はただの女子高生。
震えをこらえてその手にかけるまではよかったが、それでもすぐに割り切れるほど大人にはなりきれない。
ハギヨシに比べ、のどかはまだ割り切りが甘かった。
殺害の事実を隠すため持っていくわけにもいかず、とりあえず腹に入れておくかと殺害した二人の水と食料を腹に入れていたのも、嘔吐の原因ではあるが。
震えをこらえてその手にかけるまではよかったが、それでもすぐに割り切れるほど大人にはなりきれない。
ハギヨシに比べ、のどかはまだ割り切りが甘かった。
殺害の事実を隠すため持っていくわけにもいかず、とりあえず腹に入れておくかと殺害した二人の水と食料を腹に入れていたのも、嘔吐の原因ではあるが。
「それに……これで証明できたのではないかと思っています」
「証明?」
「証明?」
一は、和の提案が水を大量に手に入れるものだったのかと納得した。
しかしハギヨシはそうではない。
たったそれだけのために、わざわざ提案してくるとは考えにくいと思っている。
しかしハギヨシはそうではない。
たったそれだけのために、わざわざ提案してくるとは考えにくいと思っている。
これは、一とハギヨシの意識の差。
『人を実際に殺しているか』の差と言ってもいい。
ハギヨシは、この殺し合いの場において、冷徹に嘘を吐き合うということをリアルに想定できている。
何せ、実際に自分が嘘を吐き続けているのだから。
ただ目的をぼかすだけで嘘を吐いた試しのない一とは、嘘に対する警戒心に違いが出る。
『人を実際に殺しているか』の差と言ってもいい。
ハギヨシは、この殺し合いの場において、冷徹に嘘を吐き合うということをリアルに想定できている。
何せ、実際に自分が嘘を吐き続けているのだから。
ただ目的をぼかすだけで嘘を吐いた試しのない一とは、嘘に対する警戒心に違いが出る。
そして和も、また手を汚し嘘を吐いて来た身として、全員をこんな子供騙しな勝利でだまくらかせると思っていない。
だから、真実を述べる。
嘘ではなく、数ある真実の一つを。
だから、真実を述べる。
嘘ではなく、数ある真実の一つを。
「はい。私が、頭脳派として非常に優秀ということを、です」
「随分自信満々な言い方をしますわね……」
「随分自信満々な言い方をしますわね……」
透華が軽く目を丸くする。
普段の和の性格からは、あまり考えられない言葉だ。
普段の和の性格からは、あまり考えられない言葉だ。
「こんな状況ですし、自分を売る他ありませんから」
「生き残るための知恵、ですか」
「はい。運動神経は決して優秀ではないですが、戦略面で役立てることをお約束します」
「生き残るための知恵、ですか」
「はい。運動神経は決して優秀ではないですが、戦略面で役立てることをお約束します」
やられた、とハギヨシは内心舌打ちをする。
和の狙いはもう読めた。
そして同時に理解したのだ、もう止めようがないことを。
和の狙いはもう読めた。
そして同時に理解したのだ、もう止めようがないことを。
「ですから、お願いがあります」
そもそも和は、こんなことをして優秀性をアピールする必要はない。
既に透華が仲間認定をしており、誰がとう見ても透華が和に入れ込んでるのは明らかだ。
和としても、全くそれに気が付いていないというわけではないだろう。
既に透華が仲間認定をしており、誰がとう見ても透華が和に入れ込んでるのは明らかだ。
和としても、全くそれに気が付いていないというわけではないだろう。
にも関わらず、反感を買うリスクがあるのにこんなことをした理由。
そんなのは、一つだけしか浮かばない。
そんなのは、一つだけしか浮かばない。
和本人が既に透華の“仲間”であり“優先順位の極めて高い合流対象”である以上、
和のスキルを見せつけることで“有用だからと優先順位を引き上げられる”のは、和以外の誰かということになる。
和の親友の一人・優希は既に合流済みで透華のこれまでの行いから切り捨てられる心配はないだろうとなった以上、もう残る人物候補は一人だけ。
和のスキルを見せつけることで“有用だからと優先順位を引き上げられる”のは、和以外の誰かということになる。
和の親友の一人・優希は既に合流済みで透華のこれまでの行いから切り捨てられる心配はないだろうとなった以上、もう残る人物候補は一人だけ。
「宮永さんを見かけたら、どうか保護してあげて下さい」
宮永咲。
先程、和が優希よりも優先すると宣告した人物。
優秀な頭脳戦担当者である和を仲間にするためには、彼女を引き入れねばならないということだ。
龍門渕の“家族”と違い、ハギヨシ達にとってみれば無条件では信頼出来ない相手なのに、透華が贔屓している和のためには彼女を何としてでも引きこまなくてはならない。
ハギヨシが苦々しく思っても仕方ないだろう。
何せ相当面倒なことが増えたのだから。
先程、和が優希よりも優先すると宣告した人物。
優秀な頭脳戦担当者である和を仲間にするためには、彼女を引き入れねばならないということだ。
龍門渕の“家族”と違い、ハギヨシ達にとってみれば無条件では信頼出来ない相手なのに、透華が贔屓している和のためには彼女を何としてでも引きこまなくてはならない。
ハギヨシが苦々しく思っても仕方ないだろう。
何せ相当面倒なことが増えたのだから。
「もし、恐怖で動転し過ちを犯していても、許してあげて下さい」
「……貴女方が池田様を許して下さったように、ですか」
「はい」
「……貴女方が池田様を許して下さったように、ですか」
「はい」
ハギヨシとしては、危険人物は排除していきたいのに、この状況はよろしくない。
華菜だって、本当なら発狂してしまう前に楽にしてやりたかったくらいだ。
そして、それを出来なかった理由は、勿論――――
華菜だって、本当なら発狂してしまう前に楽にしてやりたかったくらいだ。
そして、それを出来なかった理由は、勿論――――
「そんなの、言われなくても分かっていますわ!」
この、お人好しの君主のせい。
そして、和の狙いに勘付いても止めることは諦めた理由もまた、透華の存在だった。
別に、和はハギヨシ達に咲は生かしておくべきだと思わせたかったわけではない。
ただ、あくまで自然に、どれほど自分が咲を助けて欲しいのかを伝えることが目的だったのである。
その伝達の対象は、ハギヨシ達に指示を出せる唯一の少女。
そして、和の狙いに勘付いても止めることは諦めた理由もまた、透華の存在だった。
別に、和はハギヨシ達に咲は生かしておくべきだと思わせたかったわけではない。
ただ、あくまで自然に、どれほど自分が咲を助けて欲しいのかを伝えることが目的だったのである。
その伝達の対象は、ハギヨシ達に指示を出せる唯一の少女。
「心配しなくても、宮永咲は絶対に私達が保護してさしあげますわ!」
これで、目出度くハギヨシ達は咲を殺せなくなったというわけだ。
例え咲が明確な殺意を持って襲ってきても、透華は恐らくトドメを刺すのに反対してくるだろう。
下手をしたら、反撃の発砲にすら抗議をしてくるかもしれない。
例え咲が明確な殺意を持って襲ってきても、透華は恐らくトドメを刺すのに反対してくるだろう。
下手をしたら、反撃の発砲にすら抗議をしてくるかもしれない。
「ありがとうございます。これで、安心して行くことが出来ます」
ようやく事態に気がついて顔をしかめる一とは対照的に、和はにこりと笑みを浮かべる。
それは、勝利を確信した笑みだった。
それは、勝利を確信した笑みだった。
ハギヨシは、和の意図に気が付いた際、一瞬だけ表情筋を硬直させた。
ハギヨシに狙いを絞り注意して観察していた和は、その一瞬を見逃さなかった。
ハギヨシに狙いを絞り注意して観察していた和は、その一瞬を見逃さなかった。
そして和は確信する。
ハギヨシは、気付けるように公開した意図に“自ら気付いた”と思っているということを。
和は知ってる。自分自身が理論派だからこそ分かる。
理論派の、上を行く方法を。
ハギヨシは、気付けるように公開した意図に“自ら気付いた”と思っているということを。
和は知ってる。自分自身が理論派だからこそ分かる。
理論派の、上を行く方法を。
(一度納得のいくロジックで謎を解き明かしたら、もうその謎は気にもとめない。
何せもう、終わったことなんですから……くよくよせずに、次は負けないようにと思考をスパっと切り替える……)
何せもう、終わったことなんですから……くよくよせずに、次は負けないようにと思考をスパっと切り替える……)
だから和は餌を与えた。
咲の保護が目的だという、『真実の一部』を敢えて与えた。
そこに辿り着き、ハギヨシは“納得”を得た。
内側から疑念は霧散してしまった。
もう、ハギヨシの中にこの行動への疑念はない。
既に、解決したものとなったのだから。
咲の保護が目的だという、『真実の一部』を敢えて与えた。
そこに辿り着き、ハギヨシは“納得”を得た。
内側から疑念は霧散してしまった。
もう、ハギヨシの中にこの行動への疑念はない。
既に、解決したものとなったのだから。
(私の、勝ちです)
勿論咲を保護させたいというのもあるが、それが一番の目的ではない。
何せ、場合によっては美穂子を殺し一人離脱しようというのだ。
そう長いこと自分のために咲を優先してもらえるとも思えない。
何せ、場合によっては美穂子を殺し一人離脱しようというのだ。
そう長いこと自分のために咲を優先してもらえるとも思えない。
だから、本当の目的は他に多数ある。
例えば、咲の保護の確約を目的としてると思わせることで、透華達を裏切るという可能性から目を背けさせる。
まさか、そんなに早く手を切られるとはハギヨシ達も思わないだろう。
例えば、咲の保護の確約を目的としてると思わせることで、透華達を裏切るという可能性から目を背けさせる。
まさか、そんなに早く手を切られるとはハギヨシ達も思わないだろう。
(これで、乗っていてくれたら言う事はないんですけど)
チラリと美穂子の方を見やる。
もしも美穂子が殺し合いに乗っていた場合、事は円滑に進む。
もしも美穂子が殺し合いに乗っていた場合、事は円滑に進む。
自分が生き残ろうと美穂子が乗っていた場合、華菜を殺し適当に戻って来ればいい。
しかし真に助かるのは、和のように風越の誰かのために乗っていた場合だ。
しかし真に助かるのは、和のように風越の誰かのために乗っていた場合だ。
その場合、華菜は生かして美穂子と一緒にここに帰す。
そして、大切な人の生還のために脱出を目指させる。
一方で和は咲の情報を得たとして別行動で人を減らし、脱出が可能となったら何食わぬ顔で美穂子達に合流する。
見敵必殺していけば人殺しとバレることもないだろうし、美穂子の受け入れに誰かが難色を示しても同盟を結んだ美穂子に味方してもらえばいい。
そして、大切な人の生還のために脱出を目指させる。
一方で和は咲の情報を得たとして別行動で人を減らし、脱出が可能となったら何食わぬ顔で美穂子達に合流する。
見敵必殺していけば人殺しとバレることもないだろうし、美穂子の受け入れに誰かが難色を示しても同盟を結んだ美穂子に味方してもらえばいい。
別行動を取るための説得力として、咲への入れ込みをアピールしたことも生きる。
自然にマシンガンを譲り受けて別行動することも可能だと言えよう。
自然にマシンガンを譲り受けて別行動することも可能だと言えよう。
「そろそろ、行きましょうか」
「ええ……」
「ええ……」
和が、美穂子に声をかける。
殺し合いに乗ってるのかはゆっくり聞き出せばいい。
今は、ここを移動しよう。
あまりのんびりしては、優希に再び情が移ってしまいかねない。
殺し合いに乗ってるのかはゆっくり聞き出せばいい。
今は、ここを移動しよう。
あまりのんびりしては、優希に再び情が移ってしまいかねない。
「のどちゃん……」
「優希……」
「優希……」
心配そうに、優希が声をかけてくる。
元より弱っていたのに、ようやく出会えた親友が仲間相手に騙し討ちのようなことをしたのだ。
そのショックは大きいだろう。
更に、和とハギヨシ達との間に割って入って仲裁出来なかったことも、優希の心に影を落とす。
島中の争いを止める気でいるのに、自分はあまりに無力だと見せつけられてしまったようで。
元より弱っていたのに、ようやく出会えた親友が仲間相手に騙し討ちのようなことをしたのだ。
そのショックは大きいだろう。
更に、和とハギヨシ達との間に割って入って仲裁出来なかったことも、優希の心に影を落とす。
島中の争いを止める気でいるのに、自分はあまりに無力だと見せつけられてしまったようで。
和達のやり取りは、優希には困難すぎた。
「……また、会えるよね……?」
「……ええ」
「……ええ」
不安げに見つめてくる優希の体を、そっと和が抱き寄せる。
自身の汚れを移したくないとでも言うのか、まるで脆いガラス細工を抱くように、優しくそして遠慮がちな抱擁。
布越しに感じる体温が、たまらなく愛おしかった。
自身の汚れを移したくないとでも言うのか、まるで脆いガラス細工を抱くように、優しくそして遠慮がちな抱擁。
布越しに感じる体温が、たまらなく愛おしかった。
それでも、離れなくてはならない。
和は、もう後戻り出来ないのだから。
和は、もう後戻り出来ないのだから。
「――――――――――」
最後に、一言。
優希の耳元で小さくメッセージを残す。
それを聞き、優希の表情が歪んだ。
優希の耳元で小さくメッセージを残す。
それを聞き、優希の表情が歪んだ。
「…………のどちゃん?」
和は表情を崩さない。
優希に“そんな顔”をされるのは辛かったが、言わねばならなかったのだ。
優希に“そんな顔”をされるのは辛かったが、言わねばならなかったのだ。
視線から逃れるようにくるりと背を向け、透華達と話していた美穂子へと歩み寄る。
それに気付いた美穂子が、アタッシュケースを手にとった。
それに気付いた美穂子が、アタッシュケースを手にとった。
「行きましょうか」
美穂子は最後に一礼して歩き出す。
和は、振り返らなかった。
振り返ると、優希を見ると、色々なものが揺らいでしまいそうだから。
和は、振り返らなかった。
振り返ると、優希を見ると、色々なものが揺らいでしまいそうだから。
「原村和!!」
そんな和の背中に向かい、透華が声を張り上げる。
本当に危機感がない、と和は内心苦言を呈した。
本当に危機感がない、と和は内心苦言を呈した。
「私は貴女のライバルとして、この論理(デジタル)的思考力を持って、ハッピーエンドに導いてさしあげますわ!」
和は、数秒だけ立ち止まった。
しかしすぐに歩みは再開される。
振り返ることはない。
しかしすぐに歩みは再開される。
振り返ることはない。
「妥協とか、つまらない現実とか、クソ食らえですわ」
戸惑いながら美穂子が後をついてくる。
いいのか、と言わんばかりの美穂子に、作り笑いを浮かべてやった。
そういう形の友情もあるとでも思ったのか、美穂子は特に何か言う事はなかった。
いいのか、と言わんばかりの美穂子に、作り笑いを浮かべてやった。
そういう形の友情もあるとでも思ったのか、美穂子は特に何か言う事はなかった。
「勝利条件は役満上がることのみみたいな状況――でも、上がり目がないわけじゃない。
心を折られてベタオリなんてさせませんわよ」
心を折られてベタオリなんてさせませんわよ」
和の中で、透華への評価がほんの少しだけ変わる。
もしかすると、性善説のお人好しっぷりは、わざとやっているのかもしれない、と。
全員脱出という目的だけを見据えるからこそ、無謀とわかりつつその上がり条件に向かって、彼女なりに最も効率のいいやり方をしているのではないかと。
もしかすると、性善説のお人好しっぷりは、わざとやっているのかもしれない、と。
全員脱出という目的だけを見据えるからこそ、無謀とわかりつつその上がり条件に向かって、彼女なりに最も効率のいいやり方をしているのではないかと。
「ですから――ここにいる全員、宮永咲も含めて!
私も! 貴女も! 一人残らず!」
私も! 貴女も! 一人残らず!」
だが――それももはやどうでもいいことだった。
どの道既に道は違えた。
運良く透華が首輪を解除し、和が罪を犯した過去を隠し通せた時以外、再び交わることもないだろう。
どの道既に道は違えた。
運良く透華が首輪を解除し、和が罪を犯した過去を隠し通せた時以外、再び交わることもないだろう。
「生きて帰りますわよ、皆一緒にッ!」
きっと、それは叶わない。
そう思いながらも、胸が確かに締め付けられるのを感じながら、和は軽く腕を挙げて言葉に応えた。
咲に勝利を誓った時と比べると、随分虚しい虚仮威しなポーズだな、と自嘲する。
透華の声はそれを最後に途絶え、和と美穂子は気が付いたら山頂を脱していた。
そう思いながらも、胸が確かに締め付けられるのを感じながら、和は軽く腕を挙げて言葉に応えた。
咲に勝利を誓った時と比べると、随分虚しい虚仮威しなポーズだな、と自嘲する。
透華の声はそれを最後に途絶え、和と美穂子は気が付いたら山頂を脱していた。
――自分の信ずる勝利に向かい、各々が小さな一歩を積み重ねた。
それは確かに力を持ち、塵が積もって大きな山となりつつある。
それは確かに力を持ち、塵が積もって大きな山となりつつある。
だがしかし、山と山とは一つにならない。
目指す先が違うのだから、綺麗に共存なんて出来ない。
目指す先が違うのだから、綺麗に共存なんて出来ない。
まるで崩されるために積み上げられた牌山のように、この先山は崩されていく。
“上がり”のために積み上げられた各々の行動は、“山を崩す”ために積み上げられたとも言える。
これは、そんな無慈悲なゲーム。
“上がり”のために積み上げられた各々の行動は、“山を崩す”ために積み上げられたとも言える。
これは、そんな無慈悲なゲーム。
和と美穂子の別行動は、山崩しの号砲だ。
もう崩れるのは止められない。
もう崩れるのは止められない。
――かくして崩壊は始まる。
【残り25人】
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第19話 | 原村和 | 第23話 |
第19話 | 龍門淵透華 | 第21話 |
第19話 | 福路美穂子 | 第23話 |
第19話 | 国広一 | 第21話 |
第19話 | 片岡優希 | 第21話 |
第19話 | ハギヨシ | 第21話 |