第19話 のどっちの論理ショー-ホンイツ-
「私は変わらず待っていますわ」
そう言って、龍門渕透華は拡声器の電源を切る。
そんな光景を眺めながら、原村和は手にした拳銃を弄んでいた。
そんな光景を眺めながら、原村和は手にした拳銃を弄んでいた。
ブローニング・ハイパワー。
FNハイパワーとも呼ばれるこの拳銃は、装弾数が13+1発と非常に多いのが特徴である。
シングルアクション自動拳銃の集大成とも言える武器であり、女子高生が扱うにはやや荷が重いように感じられた。
FNハイパワーとも呼ばれるこの拳銃は、装弾数が13+1発と非常に多いのが特徴である。
シングルアクション自動拳銃の集大成とも言える武器であり、女子高生が扱うにはやや荷が重いように感じられた。
「落ち着かない?」
そんな和の姿は、不安でいっぱいに見えたのだろう。
共に見張りをしている、福路美穂子に声をかけられた。
共に見張りをしている、福路美穂子に声をかけられた。
「皆が心配よね……でも、焦っても仕方がないわ」
実際――和に不安はあった。
こうしている間にも、大切な友達の一人が危険な目に合っているのかもしれないのだから。
ここに居たというもう一人の友人も、離れた所で休んでいるためまだ再会は出来ていない。
もっとも、後者については、友人を休ませるため、休憩中と聞いた和が自ら行くのを自粛した結果なのだけど。
こうしている間にも、大切な友達の一人が危険な目に合っているのかもしれないのだから。
ここに居たというもう一人の友人も、離れた所で休んでいるためまだ再会は出来ていない。
もっとも、後者については、友人を休ませるため、休憩中と聞いた和が自ら行くのを自粛した結果なのだけど。
「その通り! いつも通り冷静に、この状況を打開する策を考えるのが一番ですわ」
拡声器を手に、透華が無い胸を張ってそう言った。
透華のその言葉も、美穂子の口にした言葉も、和には薄っぺらいものに聞こえた。
根拠のない、虚しいだけの熱い言葉。
それに打ち震えられるほど、和のおつむは悪くなかった。
冷静で、知的。それ故に、二人の言葉には嫌悪感すら抱いてしまう。
透華のその言葉も、美穂子の口にした言葉も、和には薄っぺらいものに聞こえた。
根拠のない、虚しいだけの熱い言葉。
それに打ち震えられるほど、和のおつむは悪くなかった。
冷静で、知的。それ故に、二人の言葉には嫌悪感すら抱いてしまう。
(そんなに言うのなら、何か打開策を提案してみたらいいのに)
口には決して出さないが、心の中でそう毒づく。
無意味に苛立つのは、神経が磨り減っている証拠である。
いつどこで襲われるか分からないということは、予想以上のストレスだった。
警戒しすぎたせいか、学校からここまで移動するのにも相当な時間を要している。
無意味に苛立つのは、神経が磨り減っている証拠である。
いつどこで襲われるか分からないということは、予想以上のストレスだった。
警戒しすぎたせいか、学校からここまで移動するのにも相当な時間を要している。
「そういえば、さ……あんまりこんなこと言いたくはないんだけど……」
「なんですの、はじめ」
「なんですの、はじめ」
ストレス耐性は高い方だと思っていたが、どうやら自分を買いかぶっていたらしい。
和は密かに自分自身の予想以上の脆さに嘆いていた。
透華のように何も考えていないのではと思えるような人間の方が、ストレスには強いということなのかもしれない。
――もっとも、透華も何も考えていないわけではないのだけれど。
和は密かに自分自身の予想以上の脆さに嘆いていた。
透華のように何も考えていないのではと思えるような人間の方が、ストレスには強いということなのかもしれない。
――もっとも、透華も何も考えていないわけではないのだけれど。
「どうしようか、武器の分配」
和にとって、国広一は有り難い存在だった。
透華と比べ、現実的な意見を口にしてくれる。
楽観的な透華の良い右腕という感じだ。
それ故に、味方でいる内はいいものの、敵にまわすと厄介だとも思っている。
透華と比べ、現実的な意見を口にしてくれる。
楽観的な透華の良い右腕という感じだ。
それ故に、味方でいる内はいいものの、敵にまわすと厄介だとも思っている。
「確かに……銃の数は足りませんね」
言って、和はその場の皆の武器を見渡す。
和の手には、透華に貰ったブローニング・ハイパワーが。
それをくれた透華はというと、拡声器しか持っていない。
一番真面目に見張りをしてくれている一は、会った時からずっとS&W357マグナムを握り締めている。
そして、美穂子は――
和の手には、透華に貰ったブローニング・ハイパワーが。
それをくれた透華はというと、拡声器しか持っていない。
一番真面目に見張りをしてくれている一は、会った時からずっとS&W357マグナムを握り締めている。
そして、美穂子は――
「私は、別に無くても……」
その手に、他の誰のそれよりもしっかりした黒い塊を抱えている。
他のものの銃と違い、フォルムも長方形の箱に取っ手を付けたような形となっていた。
他のものの銃と違い、フォルムも長方形の箱に取っ手を付けたような形となっていた。
それを、人はサブマシンガンと呼ぶ。
「問題は、それを誰が持つかですよね」
「確かに……まあ、普通に考えたら揉めるよねえ」
「確かに……まあ、普通に考えたら揉めるよねえ」
一の言うよう、普通に行けば揉めるだろう。
サブマシンガンなんてものは、おそらくこの殺し合いの場じゃ最強威力を誇る武器。
それが手に入る機会をみすみす逃す阿呆はいない。
サブマシンガンなんてものは、おそらくこの殺し合いの場じゃ最強威力を誇る武器。
それが手に入る機会をみすみす逃す阿呆はいない。
「私も、別にいりませんけど」
――と思っていたのだが、透華はどうやら阿呆に属するイキモノらしい。
平然と、この最強装備の入手を辞退してくれた。
真っ先に手放すことを容認した美穂子といい、ここには阿呆が多いらしい。
拡声器なんてものに応える連中だ、それも無理は無いのかも知れない。
何としてでも手に入れたい和としては、それは大変有り難いことである。
平然と、この最強装備の入手を辞退してくれた。
真っ先に手放すことを容認した美穂子といい、ここには阿呆が多いらしい。
拡声器なんてものに応える連中だ、それも無理は無いのかも知れない。
何としてでも手に入れたい和としては、それは大変有り難いことである。
「というか、それは福路美穂子に持たせていればいいんじゃありませんの?
私の武器を原村和に譲るだけ、とした方が、分かりやすいと思うんですけど」
私の武器を原村和に譲るだけ、とした方が、分かりやすいと思うんですけど」
しかしながら、透華のこの提案で、その入手は遠ざかるはめになった。
確かにあのサブマシンガンは美穂子が持って来たものだ。
美穂子が持つのが一番妥当と言えるだろう。
確かにあのサブマシンガンは美穂子が持って来たものだ。
美穂子が持つのが一番妥当と言えるだろう。
「……それだと透華が危ないよ」
この決定に不服なのは、和だけではないようだ。
一も、この決定には反対の意を示す。
もっとも、サブマシンガンが欲しいから反対したい和と違い、一は純粋に透華を危険に晒したくないという想いから反対しているのだけど。
一も、この決定には反対の意を示す。
もっとも、サブマシンガンが欲しいから反対したい和と違い、一は純粋に透華を危険に晒したくないという想いから反対しているのだけど。
「それなら、ボクが手ぶらになるよ」
そう言って、一は自身の手にしていたS&W357マグナムを差し出した。
しかし、透華は受け取らない。
しかし、透華は受け取らない。
「大丈夫ですわ。こんな殺し合いなんかで、この私が命を落とすはずがない!
それに――私は皆を信じると決めましたわ。
なら、そんな無粋なものは持たない方がいい」
「でも……」
「それに、万が一危機が迫っても、貴女が助けてくれるんでしょう?」
それに――私は皆を信じると決めましたわ。
なら、そんな無粋なものは持たない方がいい」
「でも……」
「それに、万が一危機が迫っても、貴女が助けてくれるんでしょう?」
言いながら向けられた微笑みに、一は顔を赤くする。
よくもまあ、そんなことを自信満々に言えたものだ。
よくもまあ、そんなことを自信満々に言えたものだ。
「そりゃあ、守るけど……」
「なら、ノープロブレム! 私ははじめを信じてますしね」
「なら、ノープロブレム! 私ははじめを信じてますしね」
そう言われると、もう一には言い返しようがなくなってしまう。
一は、理解しているのだ。
ピンチが訪れた時、自分が他の者を全て見捨ててでも透華を助けるだろうことが。
そして、その事を透華も分かっているのであろうということが。
だから、他の二人のどちらかの武器を透華に持たせるなんてことは画策しない。
上記のことを理由にされ、辞退されるのが目に見えてるから。
一としては、無駄なことをして透華の評価を落としたくはない。
一は、理解しているのだ。
ピンチが訪れた時、自分が他の者を全て見捨ててでも透華を助けるだろうことが。
そして、その事を透華も分かっているのであろうということが。
だから、他の二人のどちらかの武器を透華に持たせるなんてことは画策しない。
上記のことを理由にされ、辞退されるのが目に見えてるから。
一としては、無駄なことをして透華の評価を落としたくはない。
「何か、悪いわ。私なんて非力だし、上手く扱えるか分からないのに」
「それ、ウージーだっけ?」
「それ、ウージーだっけ?」
申し訳なさそうに言う美穂子に、一が銃の名前を聞く。
一は透華達と行く海外旅行で射撃の経験があるらしく、この中では一番銃のことは詳しかった。
それでも、そこらのミリタリー同好会の人間よりもお粗末な知識だけれども。
一は透華達と行く海外旅行で射撃の経験があるらしく、この中では一番銃のことは詳しかった。
それでも、そこらのミリタリー同好会の人間よりもお粗末な知識だけれども。
「ええ。ウージー9ミリサブマシンガンって書いてあったわ」
「確か、狙いを付けるのは比較的容易だったはずだよ」
「説明書にもそう書いてあったわ。けど……」
「確か、狙いを付けるのは比較的容易だったはずだよ」
「説明書にもそう書いてあったわ。けど……」
一拍置いて、困ったように眉を下げて美穂子は言った。
「私、機械の扱いは苦手なの」
「いや、機械っていうか……うん……」
「まぁ……容易と言っても、私達はあまり肉体派じゃありませんからね。
コントロールが効かなかったときに被害が増大しそうですし、ここぞと言う時以外は使わない方がいいかもしれませんわ」
「いや、機械っていうか……うん……」
「まぁ……容易と言っても、私達はあまり肉体派じゃありませんからね。
コントロールが効かなかったときに被害が増大しそうですし、ここぞと言う時以外は使わない方がいいかもしれませんわ」
確かに、銃の反動は思っていたよりも大きい。
和自身、それは試射で痛感していた。
自身の位置を知らせる行為になるためあまり数を撃てなかったが、その数回で銃の扱いの難しさは痛感している。
男性であるハギヨシや、射撃経験のある一には、大きなアドバンテージがあると言ってもいいのではないか。
和自身、それは試射で痛感していた。
自身の位置を知らせる行為になるためあまり数を撃てなかったが、その数回で銃の扱いの難しさは痛感している。
男性であるハギヨシや、射撃経験のある一には、大きなアドバンテージがあると言ってもいいのではないか。
「試し撃ちをしてみたらどうですか」
だから、和はウージーを欲したのだ。
透華にとっては、仲間を誤射する危険性のある危ない武器でも、
ほとんどの者を撃ち殺す気の和にとっては、狙い付けが曖昧でも仕留める可能性を秘めた有り難い武器なのだ。
よって、美穂子が「扱えない」と判断して手放すように、試射を提案してみる。
もっとも、期待はあまりしていなかったけど。
透華にとっては、仲間を誤射する危険性のある危ない武器でも、
ほとんどの者を撃ち殺す気の和にとっては、狙い付けが曖昧でも仕留める可能性を秘めた有り難い武器なのだ。
よって、美穂子が「扱えない」と判断して手放すように、試射を提案してみる。
もっとも、期待はあまりしていなかったけど。
「それは出来ませんわ。そんなことをしたら、怯えながらこちらに来ていた方が逃げてしまうかもしれませんし」
そして案の定、これは透華に却下された。
再び、場を沈黙が支配する。
和は、一旦サブマシンガンの入手を諦めることにした。
親友である片岡優希がここに居る以上、どの道すぐには手を出せないのだ。
ゆっくり懐柔していけばいい。
それに――自分には、上手く隠したコルトパイソンという切り札もある。
今は、機を窺おう。
再び、場を沈黙が支配する。
和は、一旦サブマシンガンの入手を諦めることにした。
親友である片岡優希がここに居る以上、どの道すぐには手を出せないのだ。
ゆっくり懐柔していけばいい。
それに――自分には、上手く隠したコルトパイソンという切り札もある。
今は、機を窺おう。
「…………」
誰も言葉を発しない。
それぞれが、何かを考えている。
美穂子は俯き、一は外を警戒している。
各々が、腹に一物抱えているように見えた。
ただ、目の前に座る透華だけが、沈黙を気まずそうに視線をうろつかせている。
それぞれが、何かを考えている。
美穂子は俯き、一は外を警戒している。
各々が、腹に一物抱えているように見えた。
ただ、目の前に座る透華だけが、沈黙を気まずそうに視線をうろつかせている。
(さすがに……むやみに言葉を発するほど愚かではない、ということですか)
和は、そんなことを思う。
実際は美穂子が来た後で、気まずい沈黙を打ち破るように透華が一人で喋りまくってたのだが、一に注意されたのだ。
それくらい、透華の声は大きく、周囲を危険に晒すものだと言える。
透華自身は、駆けつけた人がここを見つけやすくなるからと主張したのだが、その駆けつけた人の足音が消されるという意見の前に封殺された。
結局、透華は渋々ながら口を閉じることとなる。
ゴリ押しすることもできるが、理が相手にある状況で立場を笠に好き放題をするほど、透華は落ちぶれていない。
実際は美穂子が来た後で、気まずい沈黙を打ち破るように透華が一人で喋りまくってたのだが、一に注意されたのだ。
それくらい、透華の声は大きく、周囲を危険に晒すものだと言える。
透華自身は、駆けつけた人がここを見つけやすくなるからと主張したのだが、その駆けつけた人の足音が消されるという意見の前に封殺された。
結局、透華は渋々ながら口を閉じることとなる。
ゴリ押しすることもできるが、理が相手にある状況で立場を笠に好き放題をするほど、透華は落ちぶれていない。
「はぁ……はぁっ……!」
しかし――かつての透華と同じく、静かに出来ない者はもう一人いる。
その少女は、息を荒げてやってきた。
バキバキと容赦無く枝を踏みつけているため、接近してきていることが和達にはよく分かった。
その少女は、息を荒げてやってきた。
バキバキと容赦無く枝を踏みつけているため、接近してきていることが和達にはよく分かった。
「誰!?」
音のする方に銃を向け、一が音の主に問う。
和も、ワンテンポ遅れて銃を構えた。
そんな二人に透華は顔をしかめる。
美穂子はと言うと、透華の忠告に従ってか、サブマシンガンを掲げることをしなかった。
というか、脇に置いたままである。
せめて持て。
和も、ワンテンポ遅れて銃を構えた。
そんな二人に透華は顔をしかめる。
美穂子はと言うと、透華の忠告に従ってか、サブマシンガンを掲げることをしなかった。
というか、脇に置いたままである。
せめて持て。
「私だじぇ!!」
姿が見えるよりやや早く、聞き慣れた声が飛んでくる。
おかげで飛び出してきた影を反射的に撃たずに済んだ。
それでも、銃を下ろすのは間に合わなかったけれども。
一体何故、何に間に合わなかったかって?
おかげで飛び出してきた影を反射的に撃たずに済んだ。
それでも、銃を下ろすのは間に合わなかったけれども。
一体何故、何に間に合わなかったかって?
「のどちゃん!!!」
不意をつくように親友に飛びつかれてしまったから、だ。
折角の再会なのに、銃などという無粋なものを掲げたままになってしまった。
もっとも、そのおかげで、腕を下ろしているよりも数秒早く抱き返すことが出来たのだけど。
折角の再会なのに、銃などという無粋なものを掲げたままになってしまった。
もっとも、そのおかげで、腕を下ろしているよりも数秒早く抱き返すことが出来たのだけど。
「優希……優希っ……!」
抱きしめた、小さな背中。
その温もりが嬉しくて、視界がじんわりと滲んできた。
滲む視界に、ハギヨシが現れる。
その温もりが嬉しくて、視界がじんわりと滲んできた。
滲む視界に、ハギヨシが現れる。
「ハギヨシ……起きたんですのね」
「ええ。原村様がやってきたことを告げたら、矢のように飛んできてしまいました」
「構いませんわ……本人達も、嬉しそうですから」
「ええ。原村様がやってきたことを告げたら、矢のように飛んできてしまいました」
「構いませんわ……本人達も、嬉しそうですから」
嬉しくないわけがなかった。
ようやく、ようやく会うことが出来たのだ。
大切な、私の親友。
ようやく、ようやく会うことが出来たのだ。
大切な、私の親友。
「よかった……優希が無事で、本当に……」
優希は、和にとって唯一無二の親友だ。
ずっと昔から、自分の親友でいてくれている。
かけがえのない存在。
ずっと昔から、自分の親友でいてくれている。
かけがえのない存在。
「のどちゃんも……生きててくれてよかったじぇ……」
ぎゅうと、互いの体をきつく抱く。
もっと、ずっと、こうしていたい。
大切な友人と、こうして再会を喜んでいたい。
もっと、ずっと、こうしていたい。
大切な友人と、こうして再会を喜んでいたい。
しかし、そういうわけにもいかないことは、和自身が百も承知だった。
「……とにかく、これで今いるメンバーは全員集まったわけだね」
ある程度再会を噛み締めさせてくれた所で、一が口を開いた。
和が知る限り、このメンバーでは一と透華が意見を出す役割を担う。
場を仕切るのも、往々にしてこの二人だ。
和が知る限り、このメンバーでは一と透華が意見を出す役割を担う。
場を仕切るのも、往々にしてこの二人だ。
だがしかし、現実的かつ有益な意見を出す者は、一だけだと言える。
透華の意見は、その大多数が善意という基板のもとに成り立っている脆い空想の押し付けであり、とてもではないが役に立つとは言い難かった。
もっともそれはあくまで和の主観であり、人を疑う気がない優希辺りにしたら、透華の意見は非常に心地がいいものなのかもしれなかったが。
透華の意見は、その大多数が善意という基板のもとに成り立っている脆い空想の押し付けであり、とてもではないが役に立つとは言い難かった。
もっともそれはあくまで和の主観であり、人を疑う気がない優希辺りにしたら、透華の意見は非常に心地がいいものなのかもしれなかったが。
「改めて、情報交換でもしておこうか」
優希とハギヨシは、美穂子と和の情報を聞いていない。
そして、透華や一も美穂子と和に津山睦月と文堂星夏の死については未だ教えていなかった。
ハギヨシから簡単に聞いただけだったので、上手く伝える自信がなかったというのもあるし、今伝えてもしょうがないと考えたというのもある。
そして、透華や一も美穂子と和に津山睦月と文堂星夏の死については未だ教えていなかった。
ハギヨシから簡単に聞いただけだったので、上手く伝える自信がなかったというのもあるし、今伝えてもしょうがないと考えたというのもある。
その事を伝えるべき時と人は、きっと今。
ハギヨシ本人の口から、語られるべきなのだろう。
ハギヨシ本人の口から、語られるべきなのだろう。
「まあ、知ってると思うけど、一応、ボク達から先に情報を言った方がいいのかな?
全員、簡単に情報開示って言うことで」
「私達は、南西の村でスタートして、そこでバッタリ出会ったんだじぇ!」
全員、簡単に情報開示って言うことで」
「私達は、南西の村でスタートして、そこでバッタリ出会ったんだじぇ!」
和と再会したことで、優希は目に見えて明るさを取り戻した。
友人である和にとってもそれは喜ばしいことだし、チームを組む一達にも喜ばしいことだった。
友人である和にとってもそれは喜ばしいことだし、チームを組む一達にも喜ばしいことだった。
「大体、地図で言うとI-02くらいだったんじゃないかな?」
「そこで確か、試し撃ちをしてる音を聞いて駆けつけて遭遇したんだよな!」
「そうそう。一応、どんなもんか試したかったからね」
「そこで確か、試し撃ちをしてる音を聞いて駆けつけて遭遇したんだよな!」
「そうそう。一応、どんなもんか試したかったからね」
そう言って、一はS&W357マグナムを軽く掲げる。
透華が武器の所持を放棄した今、透華の身を守る一番の武器は一の持つコレということになる。
透華が武器の所持を放棄した今、透華の身を守る一番の武器は一の持つコレということになる。
「素人には難しいって説明書にあった通り、ちょっと反動は強かったかな。
でも、何とか使いこなせそうではあったよ。何発か撃ってみたけど、感覚は掴めたし」
「……試射済み、というのは大きいですね。
誤って仲間を撃つ可能性も減りますし」
「携帯性に優れてるし、護身用には丁度いいしね」
でも、何とか使いこなせそうではあったよ。何発か撃ってみたけど、感覚は掴めたし」
「……試射済み、というのは大きいですね。
誤って仲間を撃つ可能性も減りますし」
「携帯性に優れてるし、護身用には丁度いいしね」
素直に、和は一に敬意を払う。
この短時間に試射を済ませ、ある程度使えるようにまでしていたとは。
和自身は、試し撃ちを行ったものの、その難しさを痛感するだけで実用レベルにまで精度を向上させることは出来なかった。
というか、大半の者は出来ないとみていいだろう。
やはり、一は優秀だと言える。
この短時間に試射を済ませ、ある程度使えるようにまでしていたとは。
和自身は、試し撃ちを行ったものの、その難しさを痛感するだけで実用レベルにまで精度を向上させることは出来なかった。
というか、大半の者は出来ないとみていいだろう。
やはり、一は優秀だと言える。
「でもその銃、確か所謂コンバットマグナムですわよね?」
S&W357マグナム。
その名称は、その名の通り357マグナム弾を使用しているからである。
より正しい製品名はS&W M19。
取扱説明書にも、こちらの名前で記載されていた。
そして透華が口にした通り、この銃こそが、かの有名な『コンバットマグナム』なのである。
その名称は、その名の通り357マグナム弾を使用しているからである。
より正しい製品名はS&W M19。
取扱説明書にも、こちらの名前で記載されていた。
そして透華が口にした通り、この銃こそが、かの有名な『コンバットマグナム』なのである。
「ああ、うん……357マグナム弾を使ってるから、S&W357マグナムとも言うけどね」
一が敢えてその言い方をしていたのは、コンバットマグナムの知名度故のことである。
フィクション世界でも大活躍する銃なだけあり、名前だけなら知ってる者がいてもおかしくはない。
「何か漫画で見たことのある強い銃」という印象だけでも、極力殺傷行為を避けたがる透華達はあまりいい顔をしないだろう。
実際この場に居る者の大半は名前だけなら知っていたわけであり、その判断は正解だったと言える。
もっとも、一番その威力を知られたくなかった相手は、物を見ただけでコンバットマグナムだと特定してしまったけど。
フィクション世界でも大活躍する銃なだけあり、名前だけなら知ってる者がいてもおかしくはない。
「何か漫画で見たことのある強い銃」という印象だけでも、極力殺傷行為を避けたがる透華達はあまりいい顔をしないだろう。
実際この場に居る者の大半は名前だけなら知っていたわけであり、その判断は正解だったと言える。
もっとも、一番その威力を知られたくなかった相手は、物を見ただけでコンバットマグナムだと特定してしまったけど。
「お二人とも詳しいんですね、銃」
美穂子が驚きの声を上げる。
和としても、少々意外ではあった。
確かに和にもコンバットマグナムという単語は聞き覚えがあったが、それをデザインから特定するのは不可能といってもよい。
和としても、少々意外ではあった。
確かに和にもコンバットマグナムという単語は聞き覚えがあったが、それをデザインから特定するのは不可能といってもよい。
「まぁ、これでも一応、はじめと一緒に海外で銃を撃ったことがありますから」
ふふん、とやや自慢気に透華が無い胸を張る。
実のところ透華の記憶に残っているスミス・アンド・ウエッソン社製の拳銃がコンバットマグナムだけであったというだけの話なのだが、そのことを透華は伏せておいた。
そうして、透華はささやかな優越感を手に入れる。
実のところ透華の記憶に残っているスミス・アンド・ウエッソン社製の拳銃がコンバットマグナムだけであったというだけの話なのだが、そのことを透華は伏せておいた。
そうして、透華はささやかな優越感を手に入れる。
(……意外な所で、有能な可能性が出てきましたね)
そんな透華を和は冷静に分析する。
お人好しなだけの無能だと思っていたが、少し情報を修正する必要がありそうだ、と。
お人好しなだけの無能だと思っていたが、少し情報を修正する必要がありそうだ、と。
「それで……コンバットマグナムだと、何か不都合でも?」
「原村和。貴女もドラマか映画で聞いたことありませんこと?
コンバットマグナムという銃の持つ威力の高さを」
「原村和。貴女もドラマか映画で聞いたことありませんこと?
コンバットマグナムという銃の持つ威力の高さを」
和は別に、銃に詳しいわけではない。
知識と言えば、コルトパイソンの取扱説明書に書かれていたことくらいだ。
そしてその中に、弾丸が357マグナム弾であったことが書かれていたのを覚えている。
知識と言えば、コルトパイソンの取扱説明書に書かれていたことくらいだ。
そしてその中に、弾丸が357マグナム弾であったことが書かれていたのを覚えている。
有限である弾薬は、どこかで調達せねばならない。
いつか銃が集まった時、弾薬を使い回せる銃を中心に持ち運べるよう、真っ先にその情報は頭に叩きこんでおいた。
特にコルトパイソンは隠し持つことに決めていたため、かさばる取説は破棄してきていた。
念のため、ビリビリに破きトイレに流してある(最も、それが原因でトイレは見事に詰まったが、まあ、問題ないだろう)
いつか銃が集まった時、弾薬を使い回せる銃を中心に持ち運べるよう、真っ先にその情報は頭に叩きこんでおいた。
特にコルトパイソンは隠し持つことに決めていたため、かさばる取説は破棄してきていた。
念のため、ビリビリに破きトイレに流してある(最も、それが原因でトイレは見事に詰まったが、まあ、問題ないだろう)
とにかく、コルトパイソンもコンバットマグナムと同じ弾丸であることは間違いない。
3から始まる連続した奇数ということもあって、非常に覚えやすかった。
万が一忘れてもいいように、一応携帯のメールボックスにメモが残してあるが、確認するまでもないだろう。
3から始まる連続した奇数ということもあって、非常に覚えやすかった。
万が一忘れてもいいように、一応携帯のメールボックスにメモが残してあるが、確認するまでもないだろう。
「そんなに、強いんですか?」
「私の記憶違いでなければ、90年代半ばに拳銃で最強と言われてた弾丸ですね、357マグナム弾は」
「あと、確か、コンバットマグナムは、コルトパイソンと同程度の威力を誇ると聞きましたわ」
「私の記憶違いでなければ、90年代半ばに拳銃で最強と言われてた弾丸ですね、357マグナム弾は」
「あと、確か、コンバットマグナムは、コルトパイソンと同程度の威力を誇ると聞きましたわ」
透華の口から、コルトパイソンの名が挙がる。
一瞬ヒヤッとしたが、和は決してポーカーフェイスを崩さない。
コルトパイソンを隠し持っていることがバレていても、今ならどうとでもできる。
そう己に言い聞かせて、黙って話を聞くことにした。
一瞬ヒヤッとしたが、和は決してポーカーフェイスを崩さない。
コルトパイソンを隠し持っていることがバレていても、今ならどうとでもできる。
そう己に言い聞かせて、黙って話を聞くことにした。
「あ、それなら知ってるじぇー。漫画で結構見たからな!」
「人体を貫通し、向こうにいる者にも当てられる程の威力があります」
「そういえば、冴羽リョウも左手で威力を殺してたじぇ。結構危険なんだなー」
「人体を貫通し、向こうにいる者にも当てられる程の威力があります」
「そういえば、冴羽リョウも左手で威力を殺してたじぇ。結構危険なんだなー」
どうやら、バレている様子はない。
話は、徐々に脱線していった。
話は、徐々に脱線していった。
「ええ。ですから、極力使わない方がいいですわ。威嚇に使うにしては、威力が高すぎますし」
「なるほどなー。じゃあ、威嚇とかの時は私のコイツでやった方がいいのかー」
「なるほどなー。じゃあ、威嚇とかの時は私のコイツでやった方がいいのかー」
言って、優希はレミントン・ダブルデリンジャーをポケットから取り出した。
そのことに、和はぎょっと目を丸くする。
そのことに、和はぎょっと目を丸くする。
「優希の武器って……」
ちらりと、拡声器に視線を移す。
和は、拡声器が優希の武器だと思っていた。
しかし、優希はこうして銃を持っている。
ハギヨシも、肩から銃をかけているのに、だ。
和は、拡声器が優希の武器だと思っていた。
しかし、優希はこうして銃を持っている。
ハギヨシも、肩から銃をかけているのに、だ。
どう考えても数が合わない。
それとも、この拡声器は島の中で拾ったということなのだろうか。
それとも、この拡声器は島の中で拾ったということなのだろうか。
「……片岡優希様の支給品は、先程まで使っていたあの拡声器ですよ。
それは、元は染谷まこ様のものでした」
それは、元は染谷まこ様のものでした」
その視線に気がついたハギヨシが、淡々と事実を告げる。
告げないわけにはいかないことが分かっているためだろうか、透華も気不味そうに俯くだけで何かを言うことはなかった。
告げないわけにはいかないことが分かっているためだろうか、透華も気不味そうに俯くだけで何かを言うことはなかった。
「え……?」
「――私と、透華お嬢様は、染谷様に会っているのですよ」
「――私と、透華お嬢様は、染谷様に会っているのですよ」
間抜けにも、和の口はぽかんと開け放たれていた。
敢えて泥を被ろうとするハギヨシを遮って、今度は透華自らが口を開いた。
敢えて泥を被ろうとするハギヨシを遮って、今度は透華自らが口を開いた。
「私が、いけなかったんですわ。
視界の悪い森の中で、深く後先も考えず、染谷まこと――池田華菜の元に、現れたから」
視界の悪い森の中で、深く後先も考えず、染谷まこと――池田華菜の元に、現れたから」
池田華菜。
唐突に出てきたその名前だが、和にとってはそこまで意外ではなかった。
美穂子が華菜に名指しでメッセージを告げたときに、何かがあるとは思っていた。
そして、染谷まこと同時に名前が挙がる。
そうなると、次に続く言葉は簡単に予測が出来た。
唐突に出てきたその名前だが、和にとってはそこまで意外ではなかった。
美穂子が華菜に名指しでメッセージを告げたときに、何かがあるとは思っていた。
そして、染谷まこと同時に名前が挙がる。
そうなると、次に続く言葉は簡単に予測が出来た。
「だから、その――池田華菜は、染谷まこを庇おうとして……」
「結果、それが不幸な事故に繋がったわけです」
「結果、それが不幸な事故に繋がったわけです」
事故死。
それが、先輩として敬っていた人の死因。
それが、先輩として敬っていた人の死因。
「事故……ですか……」
「ええ。恐らく、透華お嬢様の持っていた銃から庇おうとして突き飛ばしたのでしょう。
突き飛ばされたような格好で、木の枝を目に突き刺し死んでいました。
おそらく、脳まで貫通して即死でしょう」
「ええ。恐らく、透華お嬢様の持っていた銃から庇おうとして突き飛ばしたのでしょう。
突き飛ばされたような格好で、木の枝を目に突き刺し死んでいました。
おそらく、脳まで貫通して即死でしょう」
美穂子が、うっと呻いた。
少し顔色が悪くなっている。
死に様まで克明に伝えられ、想像してしまったのだろう。
少し顔色が悪くなっている。
死に様まで克明に伝えられ、想像してしまったのだろう。
「そう、ですか……」
だがしかし、和は違った。
美穂子同様その死に様を思い浮かべはしたが、抱いた気持ちはまるで違う。
美穂子同様その死に様を思い浮かべはしたが、抱いた気持ちはまるで違う。
――よかった。
それが、和の感じたことだ。
「痛みも恐怖も感じずに、逝けたのではないでしょうか」
ハギヨシなりに、一応気を使ったことを言う。
必要と有らば冷酷なことも言える男だが、必要がなければ基本的には優しさ溢れる執事である。
必要と有らば冷酷なことも言える男だが、必要がなければ基本的には優しさ溢れる執事である。
そして、ハギヨシが言った通りのことに、和は少し安堵した。
和としても、敬愛する先輩二人は極力殺したくなかった。
自分の与り知らぬ所で、出来るだけ楽な死に方をしていてほしい。
それが、和の望みだった。
和としても、敬愛する先輩二人は極力殺したくなかった。
自分の与り知らぬ所で、出来るだけ楽な死に方をしていてほしい。
それが、和の望みだった。
(本当に、よかった……)
嬲られたわけでも、裏切られて傷ついたまま死んだわけでもなくてよかった。
本心から、そう思う。
本心から、そう思う。
――自分が殺した須賀京太郎のように、即死できなかったわけでも裏切られたと知って死んだわけでもなくてよかった、と。
大好きな先輩だったからこそ、本心からそう思えた。
それから、僅かばかりの黙祷を捧げる。
それから、僅かばかりの黙祷を捧げる。
「本当に、事故だったんだと思いますわ。だから、その……」
「……許せるかは分かりません。けど、恨むとまでは言いませんよ」
「……許せるかは分かりません。けど、恨むとまでは言いませんよ」
透華が、少しだけほっとしたように表情を綻ばせる。
和としては、正直許すも糞もない。
むしろ感謝しているくらいだし、そもそも感謝していようが許さないでいようが殺す気なことに変わりはないのだ。
和としては、正直許すも糞もない。
むしろ感謝しているくらいだし、そもそも感謝していようが許さないでいようが殺す気なことに変わりはないのだ。
「それと――私は、文堂星夏様と津山睦月様にも会っています」
俯いていた美穂子の顔が、弾かれるように上げられた。
死んでしまった、大切な後輩。
その後輩の顛末を、聞けるかも知れないのだ。
死んでしまった、大切な後輩。
その後輩の顛末を、聞けるかも知れないのだ。
(……ということは、もう一つ支給品があるということですか)
まこ以外にも死んだ者に会っている、ということは、和にしてみればそれほど意外なことではなかった。
1人どころか2人であったということまでは、さすがに予想出来なかったが。
1人どころか2人であったということまでは、さすがに予想出来なかったが。
というのも、和が透華達の元へ辿り着いた時、そこにいた透華達3人はそれぞれに銃を持っていたからだ。
にも関わらず、透華は当然のように拡声器を手にしており、そして一の傍らにはナタが無造作に置かれていた。
だから最初、拡声器とナタはその場に居ない優希とハギヨシのものだと思った。
優希と一が呼びかけを始めたのだと聞いたため、優希に拡声器が支給され、ハギヨシにはナタが支給されたのだろうと確信に近い予想をしたのだ。
そして二人共支給品を透華達見張り組へと託し、手ぶらで眠りについたのだろう、と。
いくらなんでも無用心だと内心呆れたくらいだ(それでも、襲われるなら目立つ透華達の方だから優希らは安全、という主張ももっともだと思ったため、優希らの元に飛んでいくことはしなかったが)
にも関わらず、透華は当然のように拡声器を手にしており、そして一の傍らにはナタが無造作に置かれていた。
だから最初、拡声器とナタはその場に居ない優希とハギヨシのものだと思った。
優希と一が呼びかけを始めたのだと聞いたため、優希に拡声器が支給され、ハギヨシにはナタが支給されたのだろうと確信に近い予想をしたのだ。
そして二人共支給品を透華達見張り組へと託し、手ぶらで眠りについたのだろう、と。
いくらなんでも無用心だと内心呆れたくらいだ(それでも、襲われるなら目立つ透華達の方だから優希らは安全、という主張ももっともだと思ったため、優希らの元に飛んでいくことはしなかったが)
しかし、ハギヨシは肩に銃をぶら下げたままやってきた。
その時点で、和の仮説は崩れ去る。
そこで、一と優希が村から来たと聞いたのを思い出し、拡声器を現地調達品なのだと考えた。
もっともそんな考えも、優希がレミントン・ダブルデリンジャーをポケットから取り出したことで消し飛んだのだが。
その時点で、和の仮説は崩れ去る。
そこで、一と優希が村から来たと聞いたのを思い出し、拡声器を現地調達品なのだと考えた。
もっともそんな考えも、優希がレミントン・ダブルデリンジャーをポケットから取り出したことで消し飛んだのだが。
そんなわけで、和にしてみたら、誰か死んだ人の武器も持っているのだろうと思うのは難しいことではなかった。
和に驚いた点があるとしたら、ハギヨシが放送で呼ばれている5人の内3人もの人間に会っていたということだろう。
正直この割合は、ハギヨシが殺し合いに乗っていたからこそ出る数値と言われてもおかしくないくらいである。
――実際、その内2人はハギヨシが殺したのだけど。和達にそれを知る由はないが。
和に驚いた点があるとしたら、ハギヨシが放送で呼ばれている5人の内3人もの人間に会っていたということだろう。
正直この割合は、ハギヨシが殺し合いに乗っていたからこそ出る数値と言われてもおかしくないくらいである。
――実際、その内2人はハギヨシが殺したのだけど。和達にそれを知る由はないが。
「自殺、でした。二人揃って、崖から身を投げてしまいました。
どうやら、この巫山戯た催し物に反発し、誰も殺さない内に誰の手も汚さないよう自ら舞台を降りたようです。
止められずに、申し訳ありません」
どうやら、この巫山戯た催し物に反発し、誰も殺さない内に誰の手も汚さないよう自ら舞台を降りたようです。
止められずに、申し訳ありません」
頭を深々と下げるハギヨシ。
彼の言葉に、嘘は感じられなかった。
(もっとも核心は喋っていないのだけど、和達にそれを知る由はない)
美穂子の目から、雫が溢れ出してきた。
彼の言葉に、嘘は感じられなかった。
(もっとも核心は喋っていないのだけど、和達にそれを知る由はない)
美穂子の目から、雫が溢れ出してきた。
しくしくと、美穂子の泣き声だけが響く。
誰も、何も言わなかった。
誰も、何も言わなかった。
それから3分程経ってからだろうか。
その沈黙を、美穂子自らが打ち壊した。
その沈黙を、美穂子自らが打ち壊した。
「ごめんなさい……つい、感情的になって……」
「いえ……普通のことですわ。大切な仲間の、その……そういう話を、聞いてしまったんですから」
「いえ……普通のことですわ。大切な仲間の、その……そういう話を、聞いてしまったんですから」
死という言葉を、透華は意図的に避けた。
その言葉を受け入れるには、まだ早いという判断だろう。
しかし――受け入れがたくとも、受け入れなくてはならない。
生きている者が生き残っていくためにも、いつまでも死者に縋るわけにはいかない。
その言葉を受け入れるには、まだ早いという判断だろう。
しかし――受け入れがたくとも、受け入れなくてはならない。
生きている者が生き残っていくためにも、いつまでも死者に縋るわけにはいかない。
「それで……お二人の支給品は、何だったんですか?」
和は、淡々と質問をする。
京太郎にそうしたように無力で怯える少女を演じてもいいが、主導権を握りやすくしておくためにも冷静な判断が出来る所を見せておきたい。
露骨に相手を傷つけることは避けながらも、きっちり話は進めていく。
京太郎にそうしたように無力で怯える少女を演じてもいいが、主導権を握りやすくしておくためにも冷静な判断が出来る所を見せておきたい。
露骨に相手を傷つけることは避けながらも、きっちり話は進めていく。
「どちらがどちらだったのかは分かりませんが、一つは、そのナタです。もう一つは……」
「このビニール紐だね」
「このビニール紐だね」
言って、一がデイパックから引越しで使うようなビニール紐を引っ張り出す。
どうやら、所謂ハズレ武器のようだった。
どうやら、所謂ハズレ武器のようだった。
「紐、ですか……」
「原村和と被ってますわねぇ」
「原村和と被ってますわねぇ」
三味線糸。
和は、自身に支給された武器を京太郎から奪い取った三味線糸だと嘘をついていた。
ボーガンは置いてきたし、コルトパイソンは隠し通したいのだから、当然の選択と言えよう。
和は、自身に支給された武器を京太郎から奪い取った三味線糸だと嘘をついていた。
ボーガンは置いてきたし、コルトパイソンは隠し通したいのだから、当然の選択と言えよう。
「のどちゃんもハズレ武器だったのかー。
さすが嫁だけあってシンクロニシティだじぇー」
「そんなオカルトありえません」
「まあでも、変な縁は感じるかもね。糸と拡声器なんて、どっちもすごいハズレ武器だし」
さすが嫁だけあってシンクロニシティだじぇー」
「そんなオカルトありえません」
「まあでも、変な縁は感じるかもね。糸と拡声器なんて、どっちもすごいハズレ武器だし」
どちらも人を殺せないとは言わないけれど、と一は心の中で付け加えた。
三味線糸などは返り血を浴びず殺害できる手段であるが、メインウェポンには向いていない。
透華から銃を譲られた今となっては使われることがないだろう。
もしそれを使って牙を向こうにも、透華以外は銃を使って反撃してくる恐れがあるし、その透華には自分がべったりくっついているのだから。
三味線糸などは返り血を浴びず殺害できる手段であるが、メインウェポンには向いていない。
透華から銃を譲られた今となっては使われることがないだろう。
もしそれを使って牙を向こうにも、透華以外は銃を使って反撃してくる恐れがあるし、その透華には自分がべったりくっついているのだから。
――勿論、和が既に糸を使って誰かを殺害している、という可能性は、一にも思い至った。
しかし、すぐにその可能性を打ち消す。
もしそうなら、隠しやすい三味線糸の方を公表する意味が無い。
殺した相手がハズレ武器を持っていたのなら、油断させる意味も込めてそれを公表すればいい。
殺した相手がアタリ武器なら、それこそそれをメインウェポンにしておくべきだ。
それに――そもそも、もう死に様が判明していない参加者は井上純と須賀京太郎の二人だけだ。
どちらも女子と比べれば体格がよく、和が三味線糸で無傷で完勝出来る相手ではない。
もしそうなら、隠しやすい三味線糸の方を公表する意味が無い。
殺した相手がハズレ武器を持っていたのなら、油断させる意味も込めてそれを公表すればいい。
殺した相手がアタリ武器なら、それこそそれをメインウェポンにしておくべきだ。
それに――そもそも、もう死に様が判明していない参加者は井上純と須賀京太郎の二人だけだ。
どちらも女子と比べれば体格がよく、和が三味線糸で無傷で完勝出来る相手ではない。
「ええ……ですから、原村和には私の支給品であるブローニング・ハイパワーを差し上げましたわ」
一は、ミスを犯している。
和が“乗っている”などとは、もうほとんど思っていない。
そう考えた根幹には、透華が関わっていた。
透華が、和と手を組むことを心底望んでいるから――だから、心のどこかで透華の幸せが崩れぬよう和を善人と思おうとしていたのだ。
この判断が何を招くか、この時の一は知らない。
和が“乗っている”などとは、もうほとんど思っていない。
そう考えた根幹には、透華が関わっていた。
透華が、和と手を組むことを心底望んでいるから――だから、心のどこかで透華の幸せが崩れぬよう和を善人と思おうとしていたのだ。
この判断が何を招くか、この時の一は知らない。
「一応、取扱説明書は読みましたわよね?」
「はい。ただ、試射はしてませんし、これも威力と引き換えに扱いにくいのかもしれませんけど……」
「まあ、その辺は慣れるしかないよねぇ……扱いやすくても、やっぱり装填数2発じゃあ心許ないし」
「はい。ただ、試射はしてませんし、これも威力と引き換えに扱いにくいのかもしれませんけど……」
「まあ、その辺は慣れるしかないよねぇ……扱いやすくても、やっぱり装填数2発じゃあ心許ないし」
一が苦笑いを浮かべる。
和が譲り受けたブローニング・ハイパワーが13+1発という装填数を誇るのに対し、
優希が譲り受けていたレミントン・ダブルデリンジャーはたった2発しか装填出来ない。
銃撃戦になった時、確かにこれでは心許なかった。
和が譲り受けたブローニング・ハイパワーが13+1発という装填数を誇るのに対し、
優希が譲り受けていたレミントン・ダブルデリンジャーはたった2発しか装填出来ない。
銃撃戦になった時、確かにこれでは心許なかった。
「あくまでデリンジャーは威嚇用。本格的な戦闘になったら、私が前線に出ます」
そう言って、ハギヨシは肩にかけたカラシニコフを軽く掲げる。
透華はやはり戦闘のことを想定するのに不服そうだが、口に出しはしなかった。
あくまで自分達(というか、自分)を想ってやっているのだと分かっているから。
だから、不服そうにとりあえず話を進めるだけにした。
透華はやはり戦闘のことを想定するのに不服そうだが、口に出しはしなかった。
あくまで自分達(というか、自分)を想ってやっているのだと分かっているから。
だから、不服そうにとりあえず話を進めるだけにした。
「ハギヨシの支給品は、それだったんですのね」
「ええ。私はこのカラシニコフを支給されて、G-08からスタートしました」
「G-08ってことは……あいつらの居る辺りかー」
「ええ。私はこのカラシニコフを支給されて、G-08からスタートしました」
「G-08ってことは……あいつらの居る辺りかー」
優希の言う『あいつら』とは、この巫山戯た催し物を開いたボケクソ共のことである。
……失礼。言葉遣いが少々乱れた。
しかし、このくらい文句を言っても許されるであろうくらいの所業をしている連中なので、多少の暴言は許して頂きたいものである。
……失礼。言葉遣いが少々乱れた。
しかし、このくらい文句を言っても許されるであろうくらいの所業をしている連中なので、多少の暴言は許して頂きたいものである。
「ええ。ですから私は真っ先にそこの観察に赴きました」
「そうでしたの!?」
「そうでしたの!?」
これには、一も透華も目を丸くした。
今までそんなことは言っていなかったではないか。
しかしハギヨシは、平然と言ってのけた。
今までそんなことは言っていなかったではないか。
しかしハギヨシは、平然と言ってのけた。
「ただ見ることが出来ただけで、近付けそうにありませんでした。
地面に線が引かれているわけでもないため、禁止エリアがどこからなのかも分かりませんでしたので。
あまりに成果がなかったため、特に伝えることはないだろうと思い、今まで言いませんでしたが」
「うーん……やっぱり、首輪をどうにかしなくちゃいけないね……」
「となると、やはり智紀と早く合流したい所ですわ」
地面に線が引かれているわけでもないため、禁止エリアがどこからなのかも分かりませんでしたので。
あまりに成果がなかったため、特に伝えることはないだろうと思い、今まで言いませんでしたが」
「うーん……やっぱり、首輪をどうにかしなくちゃいけないね……」
「となると、やはり智紀と早く合流したい所ですわ」
沢村智紀。
透華や一と同じく、龍門渕高校のメンバー。
眠っていたため和は彼女をよく知らないが、どうやらこの状況で頼りになる相手らしい。
透華や一と同じく、龍門渕高校のメンバー。
眠っていたため和は彼女をよく知らないが、どうやらこの状況で頼りになる相手らしい。
「その智紀さん……なら、首輪をどうにかできるんですか?」
「多分、出来るんじゃないかな。ともきー、ハッキングの腕も結構なものみたいだし」
「本部の首輪管理システムに不正アクセスできれば、どうにかなると思われますよ」
「多分、出来るんじゃないかな。ともきー、ハッキングの腕も結構なものみたいだし」
「本部の首輪管理システムに不正アクセスできれば、どうにかなると思われますよ」
そうですか、とだけ答え、和は少々考えこむ。
一達が嘘を言ってる様子はない。
身内贔屓や平和ボケといった気がある透華だけでなく、比較的冷静な意見を述べるハギヨシや一もそう言っているというだけで、信憑性はグッと増す。
もしそれが本当だとしたら、自分と、自分の大切な人――優希と、そして宮永咲が生き残るために、非常に有用な人物となるかもしれない。
3人で帰れるなら、それに越したことはないのだから。
一達が嘘を言ってる様子はない。
身内贔屓や平和ボケといった気がある透華だけでなく、比較的冷静な意見を述べるハギヨシや一もそう言っているというだけで、信憑性はグッと増す。
もしそれが本当だとしたら、自分と、自分の大切な人――優希と、そして宮永咲が生き残るために、非常に有用な人物となるかもしれない。
3人で帰れるなら、それに越したことはないのだから。
「そういえば……その、ちょっと聞きにくいんだけど」
智紀がキーパーソンだという大事な話に区切りが付いたと判断し、一が再び話題を変える。
ちらりと美穂子を見やった後、申し訳なさそうに口を開いた。
ちらりと美穂子を見やった後、申し訳なさそうに口を開いた。
「2人が死んでいたっていう場所、教えてもらってもいいかな」
死者の情報も、今後何らかの形で生きてくるかもしれない。
情報は、あって困るものではないのだ。
一としては、聞ける内に聞いておきたかった。
それに、悲しみに打ちひしがれるあまり、美穂子が話を阻害するようなことをしてくるかも確かめたい。
しかし、美穂子は唇を噛むだけで、これといって文句を言う事はなかった。
情報は、あって困るものではないのだ。
一としては、聞ける内に聞いておきたかった。
それに、悲しみに打ちひしがれるあまり、美穂子が話を阻害するようなことをしてくるかも確かめたい。
しかし、美穂子は唇を噛むだけで、これといって文句を言う事はなかった。
「南東の、崖の辺りです。
島の端から本州が見えるのかを確かめに行き、そこで彼女達が身を投げるのを目撃しました」
島の端から本州が見えるのかを確かめに行き、そこで彼女達が身を投げるのを目撃しました」
半分嘘で、半分本当。
ハギヨシが目撃したのは身を投げようとする所であり、実際に文堂星夏が落下したのはハギヨシの仕業である。
今も崖の端には津山睦月の銃殺死体が横たわっており、もし行かれたら即座に嘘がバレるだろう。
もっとも、弔うべき死体が海の中だと言ってしまえばわざわざ崖の端まで行く理由などなくなるし、
念のため座標までは言わないでいたので、その心配はないと考えているか。
ハギヨシが目撃したのは身を投げようとする所であり、実際に文堂星夏が落下したのはハギヨシの仕業である。
今も崖の端には津山睦月の銃殺死体が横たわっており、もし行かれたら即座に嘘がバレるだろう。
もっとも、弔うべき死体が海の中だと言ってしまえばわざわざ崖の端まで行く理由などなくなるし、
念のため座標までは言わないでいたので、その心配はないと考えているか。
主である透華に嘘をつくことに若干心を痛めるが、必要なことだと割り切っていた。
ハギヨシは、この島にいる誰よりも“オトナ”なのだ。
津山睦月の銃殺も必要だったと自分に見事言い聞かせたし、
弔うことも海に捨てることもしなかったことも、衣服に血をつけないためだからと未練もなく諦めていた。
ハギヨシは、この島にいる誰よりも“オトナ”なのだ。
津山睦月の銃殺も必要だったと自分に見事言い聞かせたし、
弔うことも海に捨てることもしなかったことも、衣服に血をつけないためだからと未練もなく諦めていた。
「そこで、大きな銃声を聞き、森の中で急いで引き返しました」
その銃声とは、勿論ハギヨシ本人が睦月に向けて放ったものだ。
本当は、自身が殺した相手への後ろめたさもあって、早々に立ち去っただけ。
本当は、自身が殺した相手への後ろめたさもあって、早々に立ち去っただけ。
「誰が撃ったか、確認はしなかったのですか?」
「ええ。恥ずかしながら、目の前で人が亡くなって少々取り乱してしまい、確認することも忘れて森の中へと駆け出してしまいました。
カラシニコフがあれば戦えたかも知れませんが……そこまで頭は回りませんでした」
「まあ、それに、カラシニコフは命中精度もよくないしね。確か、故障防止に特化してるんじゃなかった?」
「ええ。恥ずかしながら、目の前で人が亡くなって少々取り乱してしまい、確認することも忘れて森の中へと駆け出してしまいました。
カラシニコフがあれば戦えたかも知れませんが……そこまで頭は回りませんでした」
「まあ、それに、カラシニコフは命中精度もよくないしね。確か、故障防止に特化してるんじゃなかった?」
一の言う通り、カラシニコフは命中精度が高くはない。
カラシニコフことAK-47を製造したソビエトは、精度よりも確実に作動することと生産性に重きを置いていた。
それ故に、現在も各所でゲリラに使われている突撃銃である。
カラシニコフことAK-47を製造したソビエトは、精度よりも確実に作動することと生産性に重きを置いていた。
それ故に、現在も各所でゲリラに使われている突撃銃である。
だが命中精度が低いことと、扱いにくさはイコールではない。
カラシニコフは今なおゲリラで数多く使われている。
少年兵が持っていることも少なくないのだ。
扱いにくい、とまで言ってしまうことはできない。
カラシニコフは今なおゲリラで数多く使われている。
少年兵が持っていることも少なくないのだ。
扱いにくい、とまで言ってしまうことはできない。
「……その後、衣様や透華お嬢様を探して奔走していた所、地面に透華お嬢様の書き置きを発見し追跡したというわけです」
カラシニコフの扱い易さの一因に、フルオート機能がある。
引き金を絞り滅茶苦茶に弾を吐き出し続けるだけで、相手にある程度は当たる。
当たらなくても、ダメージにはなる。
その仕様のおかげで、素人でも『戦う』レベルで十分に運用できる武器である。
引き金を絞り滅茶苦茶に弾を吐き出し続けるだけで、相手にある程度は当たる。
当たらなくても、ダメージにはなる。
その仕様のおかげで、素人でも『戦う』レベルで十分に運用できる武器である。
――とはいえ、『確実に殺して回る』レベルにまで引き上げるのは、なかなか骨がいる作業に思われた。
というのも、先述の通り命中精度はそれほどでもなく、狙撃には向かないのだ。
乱戦で弾幕を張るのには適していても、一人がメインウェポンにして殺して回るには少々不向きと言わざるを得ない。
特に、支給された弾薬が有限の場合は。
というのも、先述の通り命中精度はそれほどでもなく、狙撃には向かないのだ。
乱戦で弾幕を張るのには適していても、一人がメインウェポンにして殺して回るには少々不向きと言わざるを得ない。
特に、支給された弾薬が有限の場合は。
「そこからは、さっき話した通りというわけですわね?」
「はい。お嬢様と合流し、池田華菜様と別れ、そして今に至ります」
「はい。お嬢様と合流し、池田華菜様と別れ、そして今に至ります」
勿論これらの長所と短所は自動小銃全てに共通しているのだが、この島に突撃銃はカラシニコフしか存在しない。
連射機能という点においては、サブマシンガンもそうなのだけども。
とにかくこの島唯一の突撃銃であるカラシニコフは、弾薬の有限性故あまり乱用が効かない。
それを理解したからこそ、ハギヨシは津山睦月らの“始末”の際に実験を行ったのだ。
一発ずつ発射をした場合、どのくらい思い描いた着弾点と現実のそれがズレてしまうかを、確かめるために一発ずつ撃ったのだ。
そして微修正を施し、いざ戦闘になった際に単発の射撃で相手を狙えるようにはしている。
別に、相手を殺さないためにではない。
単純に、“いざ”という時が訪れ島の全員を殺害する必要に迫られた際、弾切れを犯さないよう考えただけのことだ。
連射機能という点においては、サブマシンガンもそうなのだけども。
とにかくこの島唯一の突撃銃であるカラシニコフは、弾薬の有限性故あまり乱用が効かない。
それを理解したからこそ、ハギヨシは津山睦月らの“始末”の際に実験を行ったのだ。
一発ずつ発射をした場合、どのくらい思い描いた着弾点と現実のそれがズレてしまうかを、確かめるために一発ずつ撃ったのだ。
そして微修正を施し、いざ戦闘になった際に単発の射撃で相手を狙えるようにはしている。
別に、相手を殺さないためにではない。
単純に、“いざ”という時が訪れ島の全員を殺害する必要に迫られた際、弾切れを犯さないよう考えただけのことだ。
「私は、残念ながら誰にも遭遇していません」
そんなハギヨシの腹の中を、和は知りようもない。
警戒はしているが、まさか既に人を殺しているだなんて思ってもいない。
それは、和のミスと言えるだろう。
警戒はしているが、まさか既に人を殺しているだなんて思ってもいない。
それは、和のミスと言えるだろう。
和は、必要に迫られたから泣く泣く友を手にかけた。
罪には問われないだろうし、きっと脱出した後にその話を聞いた誰もが人殺しを強要された和の立場に涙を流してくれるだろう。
けれど、和は自分をクズだと考えている。
どんな理由があろうと、信用してくれた友人を手にかけたのだ。
並の神経で出来ることではない。
罪には問われないだろうし、きっと脱出した後にその話を聞いた誰もが人殺しを強要された和の立場に涙を流してくれるだろう。
けれど、和は自分をクズだと考えている。
どんな理由があろうと、信用してくれた友人を手にかけたのだ。
並の神経で出来ることではない。
「学校でスタートさせられて、それからずっと、一人で色々考えながら、ずっと彷徨い歩いていました……」
本当に、学校を出た後は色々と考えた。
いやに冷静な思考回路が、自分の行った行為の下劣さを筋道建てて説明する。
それを受けても発狂できないくらい、心は冷静だった。
いやに冷静な思考回路が、自分の行った行為の下劣さを筋道建てて説明する。
それを受けても発狂できないくらい、心は冷静だった。
否、冷静を装い続けた。
今更引き返せないのだ。
この島で有数のクズに、悪鬼に、下衆に、悪魔に、外道に、咎人に、畜生に、身を落としたのが自分なのだ。
だから、受け入れなくてはならない。
そんなことを思いながら、冷静な思考回路を持って自身を虐め歩いてきた。
この島で有数のクズに、悪鬼に、下衆に、悪魔に、外道に、咎人に、畜生に、身を落としたのが自分なのだ。
だから、受け入れなくてはならない。
そんなことを思いながら、冷静な思考回路を持って自身を虐め歩いてきた。
「学校の方かぁ……目立つ建物だから、誰か居そうなものだけど」
探りを入れているのか、一がそんなことを言う。
――その通り。学校には、井上純がやってきていた。須賀京太郎もそこにいた。
二人共、もうこの世にはいないけれども。和が、手を下したから。
――その通り。学校には、井上純がやってきていた。須賀京太郎もそこにいた。
二人共、もうこの世にはいないけれども。和が、手を下したから。
「ごめんなさい。暗くて怖い、というのもあって、すぐに離れてしまいましたから……」
「まったくのどちゃんは怖がりだじぇー! そこが可愛いんだけどなー!」
「……確かに、森が多いですから出会えなくても不思議ではありません、ね」
「まったくのどちゃんは怖がりだじぇー! そこが可愛いんだけどなー!」
「……確かに、森が多いですから出会えなくても不思議ではありません、ね」
だから和は、この島の中で誰よりも強力なカードを持っている。
ハギヨシが持っていた情報を、一方的に引き出した気になっている。
ハギヨシが持っていた情報を、一方的に引き出した気になっている。
――『原村和ただ一人が、5人の死者全員の死に様を把握している』
半ば事実であるこのことは、和を有利にもするだろう。
だがしかし、今現在この情報は負の効果をもたらしていた。
だがしかし、今現在この情報は負の効果をもたらしていた。
『この島で、人殺しは自分一人』
ハギヨシの嘘を鵜呑みにしたわけではない。
だがしかし、筋道建てて考えた結果、嘘を吐いている可能性が低いと考えてしまっている。
それは、自分と同様、殺人を忌避する者のために殺しを行ったなら、殺した相手の接触自体を隠すだろうと思ったからだ。
ハギヨシの奪った武器が、殺害行為がバレるリスクを犯してまで持ち運ぶようなものではなかったこともあり、
きっと本当に自殺を見ただけなのだろうと思い込みつつあるのだ。
だがしかし、筋道建てて考えた結果、嘘を吐いている可能性が低いと考えてしまっている。
それは、自分と同様、殺人を忌避する者のために殺しを行ったなら、殺した相手の接触自体を隠すだろうと思ったからだ。
ハギヨシの奪った武器が、殺害行為がバレるリスクを犯してまで持ち運ぶようなものではなかったこともあり、
きっと本当に自殺を見ただけなのだろうと思い込みつつあるのだ。
『つまり、ハギヨシは自分ほど腐れていない。透華のために、衣のために人を殺せるレベルに無い』
その考えが、ハギヨシへの侮りへと繋がっていく。
ハギヨシを、そして彼の忠誠心を、見くびる形となって。
ハギヨシを、そして彼の忠誠心を、見くびる形となって。
「私も……誰にも会いませんでした」
どこか申し訳なさそうに、美穂子が会話に口を挟む。
和は一応、美穂子のことも警戒はしていた。
誰も殺害していないことは判明しているが、サブマシンガンという武器は途中で裏切り牙を剥くのに持って来いの武器である。
それ故に、何としてでも奪い取っておきたい。
和は一応、美穂子のことも警戒はしていた。
誰も殺害していないことは判明しているが、サブマシンガンという武器は途中で裏切り牙を剥くのに持って来いの武器である。
それ故に、何としてでも奪い取っておきたい。
「私は森の中でスタートして、情けない話ですけど、どうしたらいいのか分からなくて……」
和は、すぐに動くことは出来ない。
下手に動くと優希を危険に晒してしまう恐れがあるから。
だから、今は手を出せない。
だけど、冷静に品定めは進めておく。
下手に動くと優希を危険に晒してしまう恐れがあるから。
だから、今は手を出せない。
だけど、冷静に品定めは進めておく。
「ずっと彷徨い歩いていて……それで、さっき呼びかけが聞こえて――」
努めて冷静に振る舞う。
脳みそをフル回転させ計算する。
だって和は、勝ち残らねばならないのだ。
咲と優希を、生きて帰らせるために。
脳みそをフル回転させ計算する。
だって和は、勝ち残らねばならないのだ。
咲と優希を、生きて帰らせるために。
――脱出出来るものならば、和だってそれを望む。
格差が生じたとはいえ、優希にだって生き延びてほしいから。
だからこそ、こうして透華達と手を組むことにしていた。
格差が生じたとはいえ、優希にだって生き延びてほしいから。
だからこそ、こうして透華達と手を組むことにしていた。
和の想いは純粋ではなく、確固たる混じり気がある。
場合によっては人を切り捨て、たった一人の優勝者を決めてしまうという覚悟。
そしてそれは彼女だけの話ではない。
一と、そしてハギヨシもそうなのだ。
場合によっては人を切り捨て、たった一人の優勝者を決めてしまうという覚悟。
そしてそれは彼女だけの話ではない。
一と、そしてハギヨシもそうなのだ。
彼女達は脱出という同じ方向を向いているようで、実は内に爆弾を抱えている。
似たようでいて、起爆条件が異なる爆弾。
チンイツというよりは、ホンイツと呼ぶべきメンツ。
似たようでいて、起爆条件が異なる爆弾。
チンイツというよりは、ホンイツと呼ぶべきメンツ。
だがしかし――二種類の者が混ざり合いながらも統一感のあったメンツも、もう間もなく崩壊する。
和がふと、『救いた人』を天秤にかけてしまうことで、殺し合いは加速していく。
まるでドミノ倒しのように、多くの者を巻き込んで。
和がふと、『救いた人』を天秤にかけてしまうことで、殺し合いは加速していく。
まるでドミノ倒しのように、多くの者を巻き込んで。
「それで、あの……一ついいでしょうか?」
そしてドミノは倒される。
和でなく、美穂子の手により。
和でなく、美穂子の手により。
「別行動を、取らせてもらいたいのだけど……」
ドミノは静かに倒れ始めた。
【残り25人】
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第17話 | 龍門淵透華 | 第20話 |
第17話 | 福路美穂子 | 第20話 |
第14話 | 国広一 | 第20話 |
第14話 | 片岡優希 | 第20話 |
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