第18話 Stay young-キャンドンホー-
天江衣は一人だった。
より正確に言うと、彼女の心はずっと独り法師だった。
より正確に言うと、彼女の心はずっと独り法師だった。
ずっとと言っても、6年前に両親を亡くしてからのことである。
それでも齢16の少女にとって、6年とは無限に等しい長さであった。
それでも齢16の少女にとって、6年とは無限に等しい長さであった。
――とはいえ、物理的に独りだったわけではない。
確かに家では隔離をされ、学校では友達一人いなかった。
けれども家には、従姉妹の龍門渕透華や執事のハギヨシ、そしてメイド達がいた。
確かに家では隔離をされ、学校では友達一人いなかった。
けれども家には、従姉妹の龍門渕透華や執事のハギヨシ、そしてメイド達がいた。
しかしそれでも、衣の心はずっと独り法師だった。
ハギヨシやメイド達が自分に優しくしてくれるのは、それが仕事だからだ。
国広一ら友人達も、透華が衣の友達になるように頼んでくれただけである。
要するに、そういう理由で友達をやってくれているだけの間柄。
その透華も、優しかったが従姉妹の域を出ていない。
ハギヨシやメイド達が自分に優しくしてくれるのは、それが仕事だからだ。
国広一ら友人達も、透華が衣の友達になるように頼んでくれただけである。
要するに、そういう理由で友達をやってくれているだけの間柄。
その透華も、優しかったが従姉妹の域を出ていない。
所詮自分は煢独なのだ――そう、ずっと思っていた。
麻雀をしない自分なんて、誰からも必要とはされないのに、誰も自分と麻雀を打って楽しいとは思わない。
そんな自分は、どこまで行っても孤独なのだと、ずっとずっと考えていた。
麻雀をしない自分なんて、誰からも必要とはされないのに、誰も自分と麻雀を打って楽しいとは思わない。
そんな自分は、どこまで行っても孤独なのだと、ずっとずっと考えていた。
「純……?」
でも、違った。
衣は独りなんかじゃなかった。
衣は独りなんかじゃなかった。
――――じゃあ俺たちは友達じゃないってのかよ。
切っ掛けなんて関係ない。
そう言ってくれた。
そう言ってくれた。
「純……」
ずっとずっと傍に居てくれた大切な人達は、家族であり、ちゃんと友達だったのだ。
なのに、衣は、ずっと彼女達のことを疑っていた。
どうせ友達ではないのだと不貞腐れて、どこか距離を取っていた。
なのに、衣は、ずっと彼女達のことを疑っていた。
どうせ友達ではないのだと不貞腐れて、どこか距離を取っていた。
「何……やってるんだ……」
ようやく、友達として新たなスタートを切ったのに。
大事な友達として、接し始めたところなのに。
殺し合いなんてふざけきったイベントで、全てをぶち壊されてしまった。
大事な友達として、接し始めたところなのに。
殺し合いなんてふざけきったイベントで、全てをぶち壊されてしまった。
「純……」
この殺し合いの場において、衣は初めて物理的に独り法師になってしまった。
いつもそばに居てくれたハギヨシですら傍にいない、完全無欠な独り法師。
いつもそばに居てくれたハギヨシですら傍にいない、完全無欠な独り法師。
それでも心は独り法師には程遠かった。
自力で家族を、友達を探すべく、山の中を探索して歩いた。
自力で家族を、友達を探すべく、山の中を探索して歩いた。
暗くて誰も見つけることが出来なかったが――
こうして、目立つ建物の一つ・学校へと辿り着いたのだ。
こうして、目立つ建物の一つ・学校へと辿り着いたのだ。
「起きろ……」
そして、そこに会いたい人は居た。
ここに辿り着く前に、定時放送で名前を呼ばれた唯一の家族――井上純。
それは、家族の死を意味していた。
ここに辿り着く前に、定時放送で名前を呼ばれた唯一の家族――井上純。
それは、家族の死を意味していた。
両親が死んだあの時と同じ。
死んだとだけ伝えられ、実感の湧かぬまま時だけが過ぎていく。
そして徐々に、喪失感に心を蝕まれるのだ。
死んだとだけ伝えられ、実感の湧かぬまま時だけが過ぎていく。
そして徐々に、喪失感に心を蝕まれるのだ。
「純っ……!」
ふらふらと、さまよった。
そして辿り着いた学校。
そこで、再開してしまった。
そして辿り着いた学校。
そこで、再開してしまった。
冷たくなった、家族と。
「う……うわああああああああああ」
純の体に縋りつく。
濁ったその目は天井に向けられており、今は何も映していない。
逞しい肩の間に銀色の矢が生えており、その付け根からは赤い塗料が流れ出ていた。
濁ったその目は天井に向けられており、今は何も映していない。
逞しい肩の間に銀色の矢が生えており、その付け根からは赤い塗料が流れ出ていた。
完全に、死んでいた。
目の当たりにした家族の死体に、実感が一気に襲い来る。
涙と声が止まらなかった。
涙と声が止まらなかった。
危険なことは分かっている。
それでも。
友達の、家族の死に、泣かずにはいられない。
それでも。
友達の、家族の死に、泣かずにはいられない。
「純……純っ……!」
――――かたすぎんだよおまえは。
甘えられない自分に対し、優しく言葉をかけてくれた。
皆が本当の家族に、友達になれたあの日あの時。
真っ先に自分を見つけてくれた人の、優しい言葉が頭の中で何度も流れる。
皆が本当の家族に、友達になれたあの日あの時。
真っ先に自分を見つけてくれた人の、優しい言葉が頭の中で何度も流れる。
――――少しは自分をダマせよ。
もう、あの言葉は聞けないのだ。
頭の中で、記憶を頼りに流すだけ。
本人からは、二度と聞けない。
頭の中で、記憶を頼りに流すだけ。
本人からは、二度と聞けない。
「嫌だ……嫌だっ……! 純っ……純!」
年上だから甘えられないとか、そんな理屈はかなぐり捨てる。
自分をダマして、思いっきり甘えるから。
素直な気持ちを伝えるから。
自分をダマして、思いっきり甘えるから。
素直な気持ちを伝えるから。
だから、だから――――
「目を開けろぉっ……純……!」
「諦めろ。そいつはもう、死んでいる」
「な――――!?」
不覚。
危険なのは分かっていたのに。
接近を許してしまった。
危険なのは分かっていたのに。
接近を許してしまった。
「お前が……純を殺したのか……?」
血にまみれた衣服を纏う女性は、ボーガンを手にしている。
それをこちらに向けていた。
それをこちらに向けていた。
「……もしそうなら、どうするんだ。殺すか? 私を」
もうすっかり明るくなった日差しの差す血塗れの廊下。
その向こうに立つのは、スーツ姿の女性。
彼女は高校生ではない。
風越女子高校でコーチを務めている。
その向こうに立つのは、スーツ姿の女性。
彼女は高校生ではない。
風越女子高校でコーチを務めている。
名を、久保貴子といった。
「……どうも、しない」
怒りは、ある。
けれど、立ち向かおうとは思わなかった。
武器を持っていないというのもあったけど。
それ以上に、怒りに任せて突っ込んで死ぬだなんて死に方したら、皆に合わせる顔がないから。
けれど、立ち向かおうとは思わなかった。
武器を持っていないというのもあったけど。
それ以上に、怒りに任せて突っ込んで死ぬだなんて死に方したら、皆に合わせる顔がないから。
「だから……聞かせてほしい。何で、殺したんだ……?」
純は、人を殺すような奴じゃない。
襲いかかるような悪い奴じゃない。
なのに何で、殺したのか。
それだけが、気になった。
襲いかかるような悪い奴じゃない。
なのに何で、殺したのか。
それだけが、気になった。
「……そういうルールだろう、これは。殺し合いだ。
お前は、どうする気でいるんだ? ただ座って泣いているだけか?」
お前は、どうする気でいるんだ? ただ座って泣いているだけか?」
そういう、ルール。
確かに、これは殺し合いだ。
殺さなくちゃ、殺される。
だけど――
確かに、これは殺し合いだ。
殺さなくちゃ、殺される。
だけど――
「……衣は……断固としてこんな巫山戯た催しには乗らないっ……!」
ようやく、分かったんだ。
衣にも友達が出来るということが。
世界は、こんなにも楽しいということが。
衣にも友達が出来るということが。
世界は、こんなにも楽しいということが。
「だけど……衣は家族をもう失うつもりはないし……誰も死なせたくない……」
だから、殺さない。
だけど、逃げない。
だけど、逃げない。
「衣は……立ち向かう……黙って泣くなんて無様は決して晒さない……!」
死んでしまった、純のためにも。
何もせずに、死んでしまうなんてできない。
何もせずに、死んでしまうなんてできない。
「だから――お願いだ。そのボーガンを下ろしてくれ」
「…………は?」
「衣は戦いたくなんてない。戦わせたくなんか無い。
だから――言葉で、立ち向かう。お願いだ、武器を下ろしてくれ」
「…………は?」
「衣は戦いたくなんてない。戦わせたくなんか無い。
だから――言葉で、立ち向かう。お願いだ、武器を下ろしてくれ」
純の脇に膝をついたまま、頭だけをゆっくりと下げる。
所謂『土下座』のポーズだ。
金色の髪の毛を、純の血が汚していく。
それでも気にせず、額を擦り付け続けた。
所謂『土下座』のポーズだ。
金色の髪の毛を、純の血が汚していく。
それでも気にせず、額を擦り付け続けた。
「……具体的に脱出案でもあるのか?」
「…………ない」
「それで、殺し合いに乗った奴を止められると思っているのか?」
「厳しいことは、分かっている」
「…………ない」
「それで、殺し合いに乗った奴を止められると思っているのか?」
「厳しいことは、分かっている」
止めた所で、今のままでは未来がない。
全員仲良く首を飛ばされるのがオチだ。
全員仲良く首を飛ばされるのがオチだ。
分かっている、そんなことは。
それでも。
それでも。
「だからといって、忍び難きを忍ぶつもりは毛頭ない……
可能性が極小だからと言い訳をして武器を手に取るくらいなら、衣は衣の立ち向かい方をして死にたい」
可能性が極小だからと言い訳をして武器を手に取るくらいなら、衣は衣の立ち向かい方をして死にたい」
死ぬ気は、ない。
だがそれ以上に、殺し合いをする気はない。
どちらかを選べと言われたら、衣は死を選ぶつもりだ。
だがそれ以上に、殺し合いをする気はない。
どちらかを選べと言われたら、衣は死を選ぶつもりだ。
そのくらい衣は殺し合いというものが憎かった。
両親を失った時の喪失感を皆に与える殺し合いが憎かった。
自分から純を奪った殺し合いが憎かった。
両親を失った時の喪失感を皆に与える殺し合いが憎かった。
自分から純を奪った殺し合いが憎かった。
手を染めた本人よりも、殺し合いというものそのものが、憎かった。
そして、そんなものが存在していることが、たまらなく悲しかった。
そして、そんなものが存在していることが、たまらなく悲しかった。
「何度でも、言う。お願いだ、衣に力を貸してくれ」
「…………」
「衣の裏切りが怖いなら、手を撃ってくれて構わない。足でもいい。
痛いのは嫌だけど……それでも、殺し合うよりずっといい」
「…………」
「衣の裏切りが怖いなら、手を撃ってくれて構わない。足でもいい。
痛いのは嫌だけど……それでも、殺し合うよりずっといい」
そう言って、顔を上げる。
瞳に映った久保の顔が、僅かに笑みの形を作った。
それも一瞬で、すぐにまた仏頂面へと戻される。
瞳に映った久保の顔が、僅かに笑みの形を作った。
それも一瞬で、すぐにまた仏頂面へと戻される。
「お前の気持ちはよく分かった。安心しな……私は殺し合いに乗っていない」
「え……?」
「そいつを殺したのは私じゃないと言ったんだ」
「え……?」
「そいつを殺したのは私じゃないと言ったんだ」
言うと、久保はボーガンを下ろした。
そして顎で窓の方を指し示す。
それから、続けた。
そして顎で窓の方を指し示す。
それから、続けた。
「このボーガンはそこの木に括りつけられてたやつだ。
恐らく……そいつは罠にかかって命を落としたんだろう」
「罠……」
恐らく……そいつは罠にかかって命を落としたんだろう」
「罠……」
衣も、既に罠には引っかかっている。
足首にうっすら滲む血液は、純の亡骸に駆け寄ろうとして糸に引っかかった際生まれたものだ。
おかげで純まで辿り着くのに苦労させられた。
足首にうっすら滲む血液は、純の亡骸に駆け寄ろうとして糸に引っかかった際生まれたものだ。
おかげで純まで辿り着くのに苦労させられた。
「それと……トイレで一人死んでいた。須賀、という奴だろうな」
「……そう、か」
「……そう、か」
胸が痛む。
放送で呼ばれていた名だし、会話もしたことない相手だ。
それでも、きっとその友人は純を失った自分くらい悲しんでいるだろうから。
友を知った衣にはその辛さが分かるから、誰かの死がとても悲しく感じられた。
放送で呼ばれていた名だし、会話もしたことない相手だ。
それでも、きっとその友人は純を失った自分くらい悲しんでいるだろうから。
友を知った衣にはその辛さが分かるから、誰かの死がとても悲しく感じられた。
「須賀の方もボーガンだ。あっちはトラップでも何でもなく殺されていた。
……このボーガンの矢は、その死体から回収させてもらったものだ」
「…………」
……このボーガンの矢は、その死体から回収させてもらったものだ」
「…………」
つい、反射的に嫌な顔をしてしまう。
あまりに露骨だったことに、しまったと衣は思った。
しかし久保は、気にする様子もなく淡々と言葉を続けた。
あまりに露骨だったことに、しまったと衣は思った。
しかし久保は、気にする様子もなく淡々と言葉を続けた。
「ボーガンは残していったが、矢は全部持っていかれていたからな……
恐らくどこかで破棄されているんだろう」
「まぁ、利用されたら困るだろうからな……」
「だから、死体から矢を回収せざるを得ない。今はまだ二本だけだ」
恐らくどこかで破棄されているんだろう」
「まぁ、利用されたら困るだろうからな……」
「だから、死体から矢を回収せざるを得ない。今はまだ二本だけだ」
そして、言った。
衣にとって、残酷な一言を。
衣にとって、残酷な一言を。
「だから、次はソイツから回収する。嫌な光景だ、向こうを向いていろ」
「なッ……!?」
「なッ……!?」
死体を、蹂躙する。
要するに、そういうことを言っていた。
要するに、そういうことを言っていた。
「や、やめろ! こら!」
「私には武器がいるんでな……悪く思うな」
「放せ! 純を放せぇ~~~~っ!」
「私には武器がいるんでな……悪く思うな」
「放せ! 純を放せぇ~~~~っ!」
膝を付くと、久保は矢に手をかけた。
纏わり付く衣を全く意に介さず、グリグリと矢を引き抜いていく。
純の血でてらてらと光る銀の矢が抜けた穴から、再びどろりと血が流れ出した。
その光景に、衣は顔をくしゃくしゃに歪める。
纏わり付く衣を全く意に介さず、グリグリと矢を引き抜いていく。
純の血でてらてらと光る銀の矢が抜けた穴から、再びどろりと血が流れ出した。
その光景に、衣は顔をくしゃくしゃに歪める。
純の身体が、冒涜された。
そんなような気がして。
思わず涙が零れ落ちた。
思わず涙が零れ落ちた。
「……耐えられないか?」
「…………」
「安心しろ、それが普通だ」
「…………」
「安心しろ、それが普通だ」
ぽたぽたと床に涙が落ちて行く。
しゃくりあげても、なかなか止まってくれなかった。
しゃくりあげても、なかなか止まってくれなかった。
「だが、悪いな。
――私は普通じゃないんだよ」
――私は普通じゃないんだよ」
ポケットから、久保はハンカチを取り出す。
それを衣に差し出すことはなかった。
血塗れの矢尻をハンカチで拭い、血液を落とす。
それを衣に差し出すことはなかった。
血塗れの矢尻をハンカチで拭い、血液を落とす。
「だから――ここでサヨナラだ。同行なんて無理だろう」
久保は、大人だ。
生き残るために、死体から無理やり矢を引き抜いている。
それで服が血塗れになるのも厭わない、冷静な“大人”だ。
生き残るために、死体から無理やり矢を引き抜いている。
それで服が血塗れになるのも厭わない、冷静な“大人”だ。
分かっている。正しいのは久保の方だと。
それでもそうすぐ割り切れるほど衣は大人ではなかった。
けれどもそれを理由に対立してしまうほど、衣も幼くはない。
それでもそうすぐ割り切れるほど衣は大人ではなかった。
けれどもそれを理由に対立してしまうほど、衣も幼くはない。
「そんな顔をするな。
首輪を止めた時互いに生きてりゃまた会える」
「でも……ひっぐ」
「……あんまグズグズしてんじゃねーぞ。
この程度で下向いてて、言葉で立ち向かうだなんていう最高難度のことが出来るか」
首輪を止めた時互いに生きてりゃまた会える」
「でも……ひっぐ」
「……あんまグズグズしてんじゃねーぞ。
この程度で下向いてて、言葉で立ち向かうだなんていう最高難度のことが出来るか」
その言葉にハッとなる。
そして、涙を拭い、衣は言った。
そして、涙を拭い、衣は言った。
「大丈夫だ、もう泣かない。純のためにも、死んでしまった皆のためにも」
その目に確かな力強さを宿して。
「……いいだろう。こいつをやる」
そう言って、久保は何やら四角い黒い物体を差し出す。
それは、小型の機械のようだった。
それは、小型の機械のようだった。
「これは……?」
「一言で言えば、首輪探知機だ。
こいつがあれば、参加者の位置がわかる。
先手を取れるようになるし、説得もしやすいだろうよ」
「一言で言えば、首輪探知機だ。
こいつがあれば、参加者の位置がわかる。
先手を取れるようになるし、説得もしやすいだろうよ」
現に久保は、探知機を使いこの学校までやってきた。
そこで純の死体を見つけ、エリアを拡大し京太郎の死体も見つけた。
純の体の矢を真っ先に引き抜こうとしなかったのは、潜んでいるもう一人の罠という可能性を考慮して先に確認に行ったからである。
衣の接近に気が付いたのも、探知機のおかげだ。
そこで純の死体を見つけ、エリアを拡大し京太郎の死体も見つけた。
純の体の矢を真っ先に引き抜こうとしなかったのは、潜んでいるもう一人の罠という可能性を考慮して先に確認に行ったからである。
衣の接近に気が付いたのも、探知機のおかげだ。
「何で、衣に……?」
「見たところ、丸腰だからな」
「そうじゃなくて……どうして衣にそこまでしてくれるんだ?」
「見たところ、丸腰だからな」
「そうじゃなくて……どうして衣にそこまでしてくれるんだ?」
衣の問いに、久保が小さく舌打ちする。
(施しが、些か露骨すぎたか。)
観念したかのように、久保が言葉を発する。
嘘を吐いても仕方があるまいとでも考えているのだろう、その声色に、嘘は感じ取れなかった。
嘘を吐いても仕方があるまいとでも考えているのだろう、その声色に、嘘は感じ取れなかった。
「お前は……あの人のお気に入りだったからな」
「あの人……?」
「……気にするな」
「あの人……?」
「……気にするな」
聞いたところで、衣にはよく分からなかった。
だけど、これだけは分かる。
だけど、これだけは分かる。
「理由は、とりあえず分かった……でも、衣がそれを貰うわけにはいかない」
探知機は、自分が貰うべきではない。
「あ? 正気か? こいつがあればお前の目的は達成しやすくなるんだぞ?
「だけど……それをすると、お前が死にやすくなってしまうじゃないか」
「だけど……それをすると、お前が死にやすくなってしまうじゃないか」
いくら純の死体を冒涜したとはいえ、衣は久保に生きていてほしかった。
少なくとも久保は敵ではないし、こうしてこちらを想ってくれてる。
そんな人間を、自分のせいで危険な目にはあわせられない。
少なくとも久保は敵ではないし、こうしてこちらを想ってくれてる。
そんな人間を、自分のせいで危険な目にはあわせられない。
「それに……衣はまだ何も出来ていない。
何の実績も上げてない者が、依怙贔屓で貰っていいようなアイテムではない。違うか?」
「…………」
「第一、それはきっとお前の方が上手く使いこなせるからな……
衣は、その申し出を固辞させて貰う」
何の実績も上げてない者が、依怙贔屓で貰っていいようなアイテムではない。違うか?」
「…………」
「第一、それはきっとお前の方が上手く使いこなせるからな……
衣は、その申し出を固辞させて貰う」
衣の言葉に、久保は少々苛立ったように「いいのか?」と声をかけた。
衣は黙って首を上下にゆっくり動かす。
久保は、また少し憎らしげに舌打ちをした。
衣は黙って首を上下にゆっくり動かす。
久保は、また少し憎らしげに舌打ちをした。
「バカが……そのせいで死んだら承知しねぇぞ」
「大丈夫だ、分かっている」
「……自信の根拠は?」
「無い」
「大丈夫だ、分かっている」
「……自信の根拠は?」
「無い」
呆れたのか、はたまた衣の確固たる意志に気圧されたのか、久保は衣から視線を外す。
そして、衣のアタッシュケースへと目を向けた。
そして、衣のアタッシュケースへと目を向けた。
「しかし、丸腰だが……中身は一体何だったんだ?」
「麻雀牌だ。高級なやつ。でも、こんな状況じゃ大ハズレだな」
「麻雀牌だ。高級なやつ。でも、こんな状況じゃ大ハズレだな」
苦笑いを衣は浮かべる。
しかし一方、久保はやや驚愕を顔に浮かべた。
しかし一方、久保はやや驚愕を顔に浮かべた。
「驚いたな……さすがというべきか……」
「どうかしたのか……?」
「お前は運がいい。ハズレどころか、大アタリだよその武器は」
「ふえ?」
「どうかしたのか……?」
「お前は運がいい。ハズレどころか、大アタリだよその武器は」
「ふえ?」
衣には理解が出来なかった。
身を守れるわけでもない、戦えるわけでもない、そして誰かを救えるでもない――
そんな高級麻雀牌の、どこがアタリだというのか。
身を守れるわけでもない、戦えるわけでもない、そして誰かを救えるでもない――
そんな高級麻雀牌の、どこがアタリだというのか。
「これは、そもそも麻雀能力向上のためのクソ企画だ。
1万人の中から選りすぐりの化物を選び出すための全国大会のシステムと同じ、異能者を見つけ育てるためにあると言ってもいい」
「……あまり全国大会と一緒にはされたくないな」
「……つまり、だ。ある一定の基準をクリアした麻雀力さえ見せつければ、生還の目はあるってことだ」
1万人の中から選りすぐりの化物を選び出すための全国大会のシステムと同じ、異能者を見つけ育てるためにあると言ってもいい」
「……あまり全国大会と一緒にはされたくないな」
「……つまり、だ。ある一定の基準をクリアした麻雀力さえ見せつければ、生還の目はあるってことだ」
衣の指摘をスルーして、久保は言葉を続ける。
ふざけたことを、大真面目に喋っていく。
ふざけたことを、大真面目に喋っていく。
「過去にも、複数人で脱出した事例がある。
一応、首輪が最後の一人と認識するまで殺し合う必要があるが……」
「それで、それでどうやって脱出したんだ!?」
一応、首輪が最後の一人と認識するまで殺し合う必要があるが……」
「それで、それでどうやって脱出したんだ!?」
過去の事例と聞いて、衣が食い付く。
是が非でも聞いておきたい内容だった。
過去の事例を知ることによって、説得の幅は広がるのだから。
是が非でも聞いておきたい内容だった。
過去の事例を知ることによって、説得の幅は広がるのだから。
「工学知識のあるヤツが、首輪を解除し、最後の一人が決まったように見せかける――それだけだ」
「なるほど……でも、それが麻雀牌とどういう繋がりがあるんだ?」
「そいつらは……麻雀で殺し合いを経験していた。
この首輪には、上がりで相手に攻撃を与える擬似超人麻雀システムが組み込まれているからな。
上がることで電撃を浴びせ、戦うことができるんだ」
「なるほど……でも、それが麻雀牌とどういう繋がりがあるんだ?」
「そいつらは……麻雀で殺し合いを経験していた。
この首輪には、上がりで相手に攻撃を与える擬似超人麻雀システムが組み込まれているからな。
上がることで電撃を浴びせ、戦うことができるんだ」
冗談に聞こえるが、大真面目な話である。
衣は息を飲みながら、己の首輪にそっと触れた。
通電性の良さそうなシンプル・フォルムのその首輪は、確かに電撃を浴びせるにはもってこいの道具に思えた。
衣は息を飲みながら、己の首輪にそっと触れた。
通電性の良さそうなシンプル・フォルムのその首輪は、確かに電撃を浴びせるにはもってこいの道具に思えた。
「それで……結論から言うと、そいつらはこっそり脱出することに失敗した。
主催の船に忍び込んで取っ捕まったんだ」
「そ、それで……?」
「そこまで生き延びたハングリー精神や船に忍び込むだけの大胆さ、そして見つかってからもテンパらない肝の座りっぷり……
そして何より麻雀対決で見せた異能麻雀の片鱗を買われ、全員帰してもらったんだ。
合格点に達していたということでな」
主催の船に忍び込んで取っ捕まったんだ」
「そ、それで……?」
「そこまで生き延びたハングリー精神や船に忍び込むだけの大胆さ、そして見つかってからもテンパらない肝の座りっぷり……
そして何より麻雀対決で見せた異能麻雀の片鱗を買われ、全員帰してもらったんだ。
合格点に達していたということでな」
にわかには信じがたい。
けれども、麻雀牌が支給されている以上、嘘だと断じることもできない。
そんな不思議な話だった。
けれども、麻雀牌が支給されている以上、嘘だと断じることもできない。
そんな不思議な話だった。
「だからお前は運がいい。お前の腕なら、すぐに異能麻雀の才能も開花するだろう。
いや、ひょっとすると、お前はすでに開花しているのかもしれない。
そいつで麻雀を打っておけば、首輪の解除さえ出来たら帰宅が約束されたようなものだ。
見つかっても、合格点だと言われて許されるだろうからな」
「……何かやけに詳しいが……何でなんだ?」
いや、ひょっとすると、お前はすでに開花しているのかもしれない。
そいつで麻雀を打っておけば、首輪の解除さえ出来たら帰宅が約束されたようなものだ。
見つかっても、合格点だと言われて許されるだろうからな」
「……何かやけに詳しいが……何でなんだ?」
衣の言葉を右から左に聞き流し、久保は端末を弄る。
その画面には、いくつもの光点が映っていた。
拡大縮小機能を使い、上手く情報を収集していく。
バッテリーに限りがあるという点を除き、完全無欠のアイテムであった。
その画面には、いくつもの光点が映っていた。
拡大縮小機能を使い、上手く情報を収集していく。
バッテリーに限りがあるという点を除き、完全無欠のアイテムであった。
「……北西だ」
「え?」
「そこに、参加者が移動している。理由は分からないが……
まあ、恐らく大きな音でも出しているんだろう」
「え?」
「そこに、参加者が移動している。理由は分からないが……
まあ、恐らく大きな音でも出しているんだろう」
光点の動きから、島で起きている事情を大まかに理解しているのだろう。
久保は更に言葉を続けた。
久保は更に言葉を続けた。
「私はコイツを片手にまっすぐ北西へと向かう。危険が当然伴うが、ま、コイツがあるんだ、何とかなるだろう」
そう言って、軽く探知機を掲げてみせた。
「当然出会った奴には声をかけていく。お前のことも伝えてやる」
その言葉は、衣と別れて行動する前提で語られている。
当然だ、さっきの件で相容れないと分かったのだから。
衣としても、それはとっくに理解している。
当然だ、さっきの件で相容れないと分かったのだから。
衣としても、それはとっくに理解している。
「……一緒に行くのは、やっぱり無しか?」
それでも、聞いた。
話し合いで全てを救うと決めたから。
無理だなんて決めつけて、話し合いを放棄する気はなかったから。
もう一度、聞いてみた。
話し合いで全てを救うと決めたから。
無理だなんて決めつけて、話し合いを放棄する気はなかったから。
もう一度、聞いてみた。
「無理だな。生憎私は、もうお前ほど若くない」
だが――返って来た言葉は、淡々とした拒絶の言葉。
鋭かった瞳が、懐かしむような色を帯びる。
衣には、その意味が分からなかった。
鋭かった瞳が、懐かしむような色を帯びる。
衣には、その意味が分からなかった。
「衣は子供じゃない! もう立派な大人でもいい年齢だ!」
「……道を違えたってことだ」
「……道を違えたってことだ」
はあ、とため息をついて、久保が言い回しを変える。
それで、衣もすんなり引き下がった。
本番の説得では、こんな簡単に引き下がったりしない。
だが今回は、すでに仲間となること自体には成功している。
相反する行動を選んだ人間相手に、『仲間にはなるが別行動』という妥協点を見つけたと言い換えてもいい。
これは、十分すぎる成果と言えた。
欲を出して揉めてしまい、時間を食うのは下策と言えよう。
それで、衣もすんなり引き下がった。
本番の説得では、こんな簡単に引き下がったりしない。
だが今回は、すでに仲間となること自体には成功している。
相反する行動を選んだ人間相手に、『仲間にはなるが別行動』という妥協点を見つけたと言い換えてもいい。
これは、十分すぎる成果と言えた。
欲を出して揉めてしまい、時間を食うのは下策と言えよう。
「とにかく……地図を出せ。書きこんでやる」
衣は地図を取り出して、それから久保に手渡した。
身長差があるせいか、久保は屈むはめになる。
それがまた少し小馬鹿にされているようで、衣にはちょっと気に入らなかった。
身長差があるせいか、久保は屈むはめになる。
それがまた少し小馬鹿にされているようで、衣にはちょっと気に入らなかった。
「このルート――西にまず行くルートを、お前には行って欲しい」
「何かあるのか?」
「ああ……あんまり動いてない、だけども第一回放送後に少し動いた光点がある所だ」
「何かあるのか?」
「ああ……あんまり動いてない、だけども第一回放送後に少し動いた光点がある所だ」
久保は、己の地図に光点の大まかな位置をメモっていた。
そして、その移動経路もメモっている。
島全体を映すと光点の位置がアバウトになりすぎてしまうのが欠点だが、それでもこの情報は参考になるだろう。
そしてそのメモと現在の光点を照らし合わせ、ひとつの結論を久保は出している。
そして、その移動経路もメモっている。
島全体を映すと光点の位置がアバウトになりすぎてしまうのが欠点だが、それでもこの情報は参考になるだろう。
そしてそのメモと現在の光点を照らし合わせ、ひとつの結論を久保は出している。
「こいつは恐らく、怯えているだけの参加者だ。
だから基本動かないし、放送で死人が告げられたり近辺が禁止エリアになったらビビって少しだけ動く」
「そして、また留まる――と?」
「ああ。そいつの説得に行ってくれ。そういう奴の説得こそ、お前の選んだ立ち回り方の真骨頂だろ?」
だから基本動かないし、放送で死人が告げられたり近辺が禁止エリアになったらビビって少しだけ動く」
「そして、また留まる――と?」
「ああ。そいつの説得に行ってくれ。そういう奴の説得こそ、お前の選んだ立ち回り方の真骨頂だろ?」
断る理由などなかった。
確実に、怯えた少女とエンカウント出来るコースを辿れと言われたのだ。
恐らく、他の者とはエンカウントもし辛いコースでもあるだろう。
安全で、なおかつやりたいことを為せる道。
それを、提示されたのだ。
確実に、怯えた少女とエンカウント出来るコースを辿れと言われたのだ。
恐らく、他の者とはエンカウントもし辛いコースでもあるだろう。
安全で、なおかつやりたいことを為せる道。
それを、提示されたのだ。
「……分かった。すまないな、私ばかり借りを作ってしまって」
「気にするな。それが大人の仕事だ」
「衣は……」
「気にするな。それが大人の仕事だ」
「衣は……」
子供じゃない、子供扱いするんじゃない。
そう言おうとするも、先に久保に言葉を続けられてしまう。
そう言おうとするも、先に久保に言葉を続けられてしまう。
「だが――もし、私に借りがあると思ってて、それを返したいと思うなら……
ウチのを――風越の連中を、頼む」
ウチのを――風越の連中を、頼む」
その目は、真剣そのもので。
衣も、思わず言葉を止めてしまった。
衣も、思わず言葉を止めてしまった。
「出来たらで、いい。無理して命を捨てることはない。
だが、もしも出来そうなんだったら――仮に襲って来たとしても、見捨てずに説得してやってくれ」
「あ、当たり前だっ! 衣は誰も見捨てない!」
「そうか……頼んだぞ」
だが、もしも出来そうなんだったら――仮に襲って来たとしても、見捨てずに説得してやってくれ」
「あ、当たり前だっ! 衣は誰も見捨てない!」
「そうか……頼んだぞ」
そう言うと、久保は玄関へと向かう。
ワイヤーを慣れた動作で跨いで行き、あっという間にゴールまで辿り着いた。
ワイヤーを慣れた動作で跨いで行き、あっという間にゴールまで辿り着いた。
「そろそろ、行くぞ。時間が惜しい」
「あ、ああ!」
「あ、ああ!」
慌てて衣も後を追う。
そんな衣を待つでもなく、久保はどんどん先に進んだ。
そんな衣を待つでもなく、久保はどんどん先に進んだ。
「ぜ、絶対……絶対生きてまた会うぞっ……!」
このままもう別れる気だ。
そう悟り、衣は声を張り上げる。
その言葉に、返ってくる言葉はない。
そう悟り、衣は声を張り上げる。
その言葉に、返ってくる言葉はない。
ただ軽く挙げた手が、「ああ、わかった」と言ってくるようだった。
☆ ★ ☆ ★ ☆
久保貴子が天江衣と早々に別れた理由は、彼女自身のエゴにあった。
衣とあまり居たくない、というのが本音だったのである。
衣とあまり居たくない、というのが本音だったのである。
(チッ……何て目ぇしてやがるんだ)
久保が気に入らなかったのは、衣の無垢で力強い目。
それは、自分がとうに無くしてしまったものだった。
そして――
それは、自分がとうに無くしてしまったものだった。
そして――
(私も、あんな目をしていたのか?)
同じように『話し合いで解決しよう』なんて戯言を宣っていた、学生時代の自分自身と同じ目だった。
それはまるで鏡を見ているようで。
無力だった自分が思い出されて、何だか苛立ってしまうのだ。
それはまるで鏡を見ているようで。
無力だった自分が思い出されて、何だか苛立ってしまうのだ。
「……くそっ」
だが――同時に、期待している自分もいる。
確かに衣は、自分と同じく何も出来ずに終わる可能性が高い。
だがしかし、衣の麻雀力ならば、自分では出来なかった形の“上がり”を見せてくれる――そんな気もしているのだ。
確かに衣は、自分と同じく何も出来ずに終わる可能性が高い。
だがしかし、衣の麻雀力ならば、自分では出来なかった形の“上がり”を見せてくれる――そんな気もしているのだ。
似ているからこそ、自分に成せなかったことをしてくれと期待してしまう。
それもまた、エゴなのだと分かっているけど。
それもまた、エゴなのだと分かっているけど。
(私はもう、“大人”なんだよ――)
もう、無邪気な瞳で全員揃って脱出なんて夢は見られない。
話し合いで片を付けようなんて言えない。
話し合いで片を付けようなんて言えない。
今の自分には、守るべきものが多すぎるから。
そのために、自分は手を汚さねばならない。
必要と有らば、悪にだってならねばならない。
そのために、自分は手を汚さねばならない。
必要と有らば、悪にだってならねばならない。
だって自分は、“大人”なのだから。
(ウチの連中は無事だろうな……
あいつ、ああ見えて繊細だし、ぶっ壊れてやしねーか……)
あいつ、ああ見えて繊細だし、ぶっ壊れてやしねーか……)
無理矢理に思考を切り替え、久保は再び移動を始める。
その目に探知機を映して。
その目に探知機を映して。
(福路の奴もへこたれてそうだしな……ったく、面倒な奴らの保護者になったもんだ)
久保は、少しだけ後悔している。
最初の6時間を、探知機の使い方の実験や、光点の移動経路を書き写すのに使ったことを。
探知機のバッテリーをケチった末に、何名かとニアミスしたということを。
――まあ、ニアミスについては、車にでも乗っていたのか相手が予想以上のスピードだったということで、仕方のない側面もあったのだけれど。
それで、複数人で立て籠もっているのだと思った学校が比較的安全そうだと判断し、行き先にしたことを。
最初の6時間を、探知機の使い方の実験や、光点の移動経路を書き写すのに使ったことを。
探知機のバッテリーをケチった末に、何名かとニアミスしたということを。
――まあ、ニアミスについては、車にでも乗っていたのか相手が予想以上のスピードだったということで、仕方のない側面もあったのだけれど。
それで、複数人で立て籠もっているのだと思った学校が比較的安全そうだと判断し、行き先にしたことを。
おかげで、無駄な時間を過ごしたせいで、教え子を一人死なせてしまった。
(貴女も、こんな気持ちだったんですか、キャプテン――――)
思い返すは、学生時代憧れていたキャプテン。
笑顔が素敵で、麻雀が強く、皆から慕われていた。
責任感の強さ故、何でも一人で背負い込む悪い癖があったけども。
笑顔が素敵で、麻雀が強く、皆から慕われていた。
責任感の強さ故、何でも一人で背負い込む悪い癖があったけども。
(結局……私一人になっちまったな……)
キャプテンは、ずっとこの殺し合いに反対していた。
レジスタンスに入ったという噂を聞いただけで、しばらく音信不通になってしまっていたキャプテン。
再会したのは、額に入った写真とだった。
仲間を失った辛さを、たった三人の“生き残り”を失った悲しさを、藤田プロと二人で酌を交わしながら慰め合ったものである。
レジスタンスに入ったという噂を聞いただけで、しばらく音信不通になってしまっていたキャプテン。
再会したのは、額に入った写真とだった。
仲間を失った辛さを、たった三人の“生き残り”を失った悲しさを、藤田プロと二人で酌を交わしながら慰め合ったものである。
(……貴女も……先に逝ってしまうんですね)
その藤田も、今はもうこの世にいない。
今回の殺し合いに反対し、命を落としてしまった。
呆気無さすぎる幕切れ。
あの人は、殺しても死ななさそうだと思っていたのに。
今回の殺し合いに反対し、命を落としてしまった。
呆気無さすぎる幕切れ。
あの人は、殺しても死ななさそうだと思っていたのに。
(殺し合いに反対すればどうなるかなんて、分かりきっていたでしょうに)
それでも彼女は反対した。
それはきっと、衣という存在がいたからだ。
それはきっと、衣という存在がいたからだ。
それほどまでに、大切なものだったのだろう。
(死ぬなよ、天江衣――お前は絶対、生きて帰す)
死んでしまった、藤田の分も。
決意を胸に、久保は光点を目指す。
この時久保はまだ知らない。
自分が到着できる時、すでに事態は大きくなっていることに。
穏便に済ませるには、少し遅いということに。
この時久保はまだ知らない。
自分が到着できる時、すでに事態は大きくなっていることに。
穏便に済ませるには、少し遅いということに。
【残り25人】
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対局開始 | 天江衣 | ― |
対局開始 | 久保貴子 | ― |
第04話 | 井上純 | ― |