第16話 Re:START-ゼンコクタイカイ-
「地獄の闇合宿って知っとるか?」
それは、他愛もない都市伝説。
「なぁにそれ、知らんよぉ」
呼び方は、他にも様々にある。
「何でも、参加者が次々に呪われて命を落とす合宿だそうじゃ」
何でも、参加者の大半が事故にあった過去の実話が元なのだとか。
「もぉ、何でそがんことようるん?
明日大会なのに、よう寝れんよ……」
明日大会なのに、よう寝れんよ……」
それは、布団を並べた友人のした与太話。
友人をちょっと怯えさせよう、そのくらいの気持ちで話した空想。
友人をちょっと怯えさせよう、そのくらいの気持ちで話した空想。
「ハハハ。期待のアイドルがそんなんでどうすんねぇー。
よう肝っ玉大きくせんと」
よう肝っ玉大きくせんと」
彼女達は、知らない。
その話で語られている、地獄の合宿の本当の名前を。
その話で語られている、地獄の合宿の本当の名前を。
「もう……はよう寝んと先生に叱られるよ」
――第68番雀力強化プログラム。
大層な名を冠したそれは、決して都市伝説ではない。
大層な名を冠したそれは、決して都市伝説ではない。
「わしはもう寝るけぇ。怖くて寝れんなんてことないようにな」
ケラケラと笑う少女もその友人も、そのことを知らないのだ。
いや、国民の中で知っている者はほとんどいない。
いや、国民の中で知っている者はほとんどいない。
「誰のせいじゃ思っとるん……」
何故ならそれは、とてもよく出来たシステムをしているから。
呪いなどでは決して無い、人による悪意。
呪いなどでは決して無い、人による悪意。
その内容とは、ズバリ殺し合い。
文字通り命を削り、麻雀の腕を上げるのだ。
勿論ほとんどの人は、そんなことを拒否するだろう。
しかし、拒否ができないように様々なシステムが存在している。
勿論ほとんどの人は、そんなことを拒否するだろう。
しかし、拒否ができないように様々なシステムが存在している。
「ハハハ、怖がりなんがいかんのじゃ?」
そして一番良く出来ているのは、『決して情報が外に漏れない点』である。
殺し合いを管理する側は大金を積まれており、周囲の仲間が同じ事をしているため罪悪感も薄れている。
一人だけ裏切ろうという気になかなかさせてもらえないのだ。
一人だけ裏切ろうという気になかなかさせてもらえないのだ。
最後の一人になった者も、主催の持つ巨大な力に戦う意志を喪失する。
殺し合いという事実を隠蔽し事故で通すだけの権力を持っているのだ。
自ら殺めてしまった友のためにも、無謀な戦いで無駄死にをするわけにはいくまい。
麻雀力が確かに上昇していることで、その想いは尚更に強くなる。
皆のためにも、生きてこの麻雀力で麻雀をするのが自分の使命――そう、思わせるのだ。
殺し合いという事実を隠蔽し事故で通すだけの権力を持っているのだ。
自ら殺めてしまった友のためにも、無謀な戦いで無駄死にをするわけにはいくまい。
麻雀力が確かに上昇していることで、その想いは尚更に強くなる。
皆のためにも、生きてこの麻雀力で麻雀をするのが自分の使命――そう、思わせるのだ。
「もう……ええけぇ、寝るよ」
今年も、その残虐な催し物は数回開かれている。
しかしその中でも特別な大会が、今年は行われていた。
スポンサーが政府という超弩級の大物。
そんな、残虐非道の大会が。
しかしその中でも特別な大会が、今年は行われていた。
スポンサーが政府という超弩級の大物。
そんな、残虐非道の大会が。
「はいはーい。おやすみー」
そんなことを、彼女達は知らない。
いいや、ほとんど誰も知らないと言っていいだろう。
今までいくつかの大会でスポンサーを務めてきた大企業ですら知らないのだ。
そのくらい極秘扱い。国家機密。一大プロジェクト。
いいや、ほとんど誰も知らないと言っていいだろう。
今までいくつかの大会でスポンサーを務めてきた大企業ですら知らないのだ。
そのくらい極秘扱い。国家機密。一大プロジェクト。
「おやすみ」
これは、そんな凄惨な大会よりちょっと後――
その大会の参加者達が本当に参加したかった大会『全国麻雀選手権大会団体戦』が開かれる日の物語。
その大会の参加者達が本当に参加したかった大会『全国麻雀選手権大会団体戦』が開かれる日の物語。
☆ ★ ☆ ★ ☆
「せやからな、そこで思ったんや。
お、ここで一萬切ったら清老臭消えるんちゃうかて!」
「はいはい」
「……ってホンマに聞いとるんか!?」
「聞いとるよー」
「九筒をカンしていたから、一萬を持っていたらカンしているだろうと思うよう仕向けた、と」
「そう、そこでこの灰色の脳細胞が……」
お、ここで一萬切ったら清老臭消えるんちゃうかて!」
「はいはい」
「……ってホンマに聞いとるんか!?」
「聞いとるよー」
「九筒をカンしていたから、一萬を持っていたらカンしているだろうと思うよう仕向けた、と」
「そう、そこでこの灰色の脳細胞が……」
わいわいがやがやと歩く集団。
彼女達は、ここで現在開かれている全国高等学校麻雀選手権大会の参加者だ。
彼女達は、ここで現在開かれている全国高等学校麻雀選手権大会の参加者だ。
「ん? どうしたん、おねーちゃん」
現在は一回戦が全て終了した所である。
次に駒を進められるのは、僅か四人に一人だけ。
姦しい彼女達は、その勝者となれた者達。
次に駒を進められるのは、僅か四人に一人だけ。
姦しい彼女達は、その勝者となれた者達。
「……ん、ああ、ちょっと先行っとき」
その中の一人、目付きの悪い少女が不意に立ち止まる。
そして手をひらひらさせ、他の少女に先へ行くよう促した。
そして手をひらひらさせ、他の少女に先へ行くよう促した。
「ほんまにどうしたん?」
「トイレですか?」
「ああ、ちょっと野暮用や」
「トイレですか?」
「ああ、ちょっと野暮用や」
目付きの悪い少女――愛宕洋榎は、言うが早いかツカツカと歩き出した。
ただ帰るだけなら真っ直ぐ行けばいい通路を、わざわざ一人右折して。
ただ帰るだけなら真っ直ぐ行けばいい通路を、わざわざ一人右折して。
「ああ、そうや。ついでにジュースでも買うつもりやけど、何かいるか?
多分そない長ならないし、ジュース片手に追っかけたるで」
「奢り? じゃあ私コーラ」
「アクエリアスを……」
「ドクターペッパーが飲みたいのよー」
「醤油2リットルお願いします」
「ほんまに飲めよ!?」
多分そない長ならないし、ジュース片手に追っかけたるで」
「奢り? じゃあ私コーラ」
「アクエリアスを……」
「ドクターペッパーが飲みたいのよー」
「醤油2リットルお願いします」
「ほんまに飲めよ!?」
思い出したかのように立ち止まり、洋榎は仲間を振り返る。
それから、単独行動の侘びに軽い買い出しくらいしてやろうと名乗り出た。
それから、単独行動の侘びに軽い買い出しくらいしてやろうと名乗り出た。
「あ、じゃあ私追加でネギと白滝、あと豚肉」
「だったら卵もほしいのよー」
「ほんならついでに土鍋こうてきて」
「夕飯まで奢らす気か!? しかも調理器具から!」
「だったら卵もほしいのよー」
「ほんならついでに土鍋こうてきて」
「夕飯まで奢らす気か!? しかも調理器具から!」
わいわいと騒ぎながら、洋榎は再び歩を進める。
その遥か先に、一人の少女がいた。
その遥か先に、一人の少女がいた。
「ほんじゃ頼みますー」
「寄り道しないでよーおねーちゃん」
「知らんおじさんについてったらあかんよー」
「小学生か!」
「お釣りは好きにしてええでー」
「最初っからウチの銭や!!」
「寄り道しないでよーおねーちゃん」
「知らんおじさんについてったらあかんよー」
「小学生か!」
「お釣りは好きにしてええでー」
「最初っからウチの銭や!!」
その少女は、ずっと俯いている。
喧騒をちらりと見ることさえしない。
喧騒をちらりと見ることさえしない。
「暗くなる前に帰るのよー」
「何かあったら電話してください」
「道に迷ったらお巡りさんに聞いたらええでー」
「オカンか!!」
「おねーちゃん、行き先に女の子いるけど、くどく気とちゃうやろな」
「会場内でやらしーことして出場停止、なんてことは避けて下さいよ」
「アオカンか! ……何言わせんねん!!」
「何かあったら電話してください」
「道に迷ったらお巡りさんに聞いたらええでー」
「オカンか!!」
「おねーちゃん、行き先に女の子いるけど、くどく気とちゃうやろな」
「会場内でやらしーことして出場停止、なんてことは避けて下さいよ」
「アオカンか! ……何言わせんねん!!」
ケラケラと笑う少女達の集団が、曲がり角から見えなくなる。
最後にツッコンだ後、洋榎は視線を再び前方に戻した。
最後にツッコンだ後、洋榎は視線を再び前方に戻した。
「……ノーリアクションかい!」
妹が言ったように、くどくというわけではない。
だが、洋榎の目的がその少女に声をかける事だというのは、間違いではなかった。
しかし、少女は自分に対する言葉だとは気付いていない様子で、未だに俯いている。
俯いている故、まだ集団を相手に喋っているとでも思ったのだろう。
だが、洋榎の目的がその少女に声をかける事だというのは、間違いではなかった。
しかし、少女は自分に対する言葉だとは気付いていない様子で、未だに俯いている。
俯いている故、まだ集団を相手に喋っているとでも思ったのだろう。
『……イラッシャイマセ!!』
仕方が無いので、洋榎は自販機の前に立つ。
機械音が、無駄に歓迎してくれた。
下手したら、役満あがった後のチームの皆より歓迎してくれているかもしれない。
……それはそれで寂しい。
機械音が、無駄に歓迎してくれた。
下手したら、役満あがった後のチームの皆より歓迎してくれているかもしれない。
……それはそれで寂しい。
『アリガトウゴザイマシタ!!』
やたら元気のいい自販機から、キンキンに冷えた缶を取り出す。
大会とタイアップしているスポーツドリンクで、洋榎が自分用に購入したのだ。
俯く少女に歩み寄り、それをほっぺにくっつける。
大会とタイアップしているスポーツドリンクで、洋榎が自分用に購入したのだ。
俯く少女に歩み寄り、それをほっぺにくっつける。
「ひゃうっ!?」
そこで、ようやく少女は顔を上げた。
弾かれたように上げさせられた、と言った方が正確だけども。
とにかく缶のひんやりとした感覚が、ようやく少女に洋榎のことを認識させた。
弾かれたように上げさせられた、と言った方が正確だけども。
とにかく缶のひんやりとした感覚が、ようやく少女に洋榎のことを認識させた。
「ふふん。ようやっと顔上げたか」
ドヤ顔で、洋榎が少女に声をかける。
それに対し、少女は露骨に顔を歪めた。
どう見ても歓迎はしていない。
それに対し、少女は露骨に顔を歪めた。
どう見ても歓迎はしていない。
「…………なんね?」
ようやく搾り出されたのは、弱々しい涙声。
よく見ると、洋榎に向けられた目も真っ赤に腫れ上がっていた。
よく見ると、洋榎に向けられた目も真っ赤に腫れ上がっていた。
「何やシケたツラした奴がおる思うてな」
フフンと笑う洋榎に向く視線は冷たい。
無理もない。
何せ今の少女にとって、洋榎は一番会いたくない相手なのだから。
無理もない。
何せ今の少女にとって、洋榎は一番会いたくない相手なのだから。
「……誰のせいじゃ思うとるん……」
「ふふん。そりゃあこのヤオ九牌の洋榎と呼ばれたうちの凄さのせいやな!!」
「…………」
「ふふん。そりゃあこのヤオ九牌の洋榎と呼ばれたうちの凄さのせいやな!!」
「…………」
渾身のドヤ顔。
対するは、顔を背けるリアクション。
対するは、顔を背けるリアクション。
「ま、まあ、普段は別にそんなにヤオ九牌集めとるわけとは違うけどな」
慌てて洋榎が今の冗談をフォローをする。
ジョークの類であることくらい、少女は重々承知していた。
何せ、洋榎達の高校は五指に入ると言われている。
牌譜くらい、大会出場選手なら見ていて当然と言えよう。
ましてや、一回戦で洋榎達と当たる所なら。
ジョークの類であることくらい、少女は重々承知していた。
何せ、洋榎達の高校は五指に入ると言われている。
牌譜くらい、大会出場選手なら見ていて当然と言えよう。
ましてや、一回戦で洋榎達と当たる所なら。
「それにほら、あれや。あれはうちの迷彩が完璧すぎたわけやからな。
振り込んだのはしゃーない、あれは振らせたうちを褒める場面や」
振り込んだのはしゃーない、あれは振らせたうちを褒める場面や」
――そう、先述の通り、洋榎は勝者となった側。
そして目の前の少女は、洋榎と先ほど戦った者。
つまり、“夏”が終わりを迎えてしまった者なのだ。
それも、洋榎に役満を振り込むという、最悪の形で夏を終えてしまった者。
そして目の前の少女は、洋榎と先ほど戦った者。
つまり、“夏”が終わりを迎えてしまった者なのだ。
それも、洋榎に役満を振り込むという、最悪の形で夏を終えてしまった者。
「……なんなん? 追い打ちかけに来たん?」
口を開いてくれたことに、洋榎は内心ほっとする。
黙りこくられていたら、正直少々厳しかった。
しかし言葉を交わしてくれるというのなら、まだトークで挽回出来る。
黙りこくられていたら、正直少々厳しかった。
しかし言葉を交わしてくれるというのなら、まだトークで挽回出来る。
「ま、うちを忘れられんようにするっちゅーのは魅力的やけど、死人に鞭をバチコンするほど鬼やないで」
言いながら、勝手に洋榎は横に座る。
それを見て、少女は露骨に顔を歪めた。
それを見て、少女は露骨に顔を歪めた。
「何やシケた面しとるのがおったから、声かけてみただけやで」
「……ほっといてほしかったのう」
「……ほっといてほしかったのう」
露骨なまでの拒否反応。
無理もない。こんなこと、勝者が敗者に対して取る行動ではないのだから。
それでも会話が成立したことに、洋榎は気分をよくする。
無理もない。こんなこと、勝者が敗者に対して取る行動ではないのだから。
それでも会話が成立したことに、洋榎は気分をよくする。
「一応顔見知りやからな。一度会ったら友達で毎日会ったら兄弟やで。
一期一会っちゅーやつや。いちごちゃんだけに、なんつってな」
「…………」
「……あれ? いちごで合うてるやんな?」
「……そうよ。ちゃちゃのんは、佐々野いちご。そいで、ほんとになんなん?」
一期一会っちゅーやつや。いちごちゃんだけに、なんつってな」
「…………」
「……あれ? いちごで合うてるやんな?」
「……そうよ。ちゃちゃのんは、佐々野いちご。そいで、ほんとになんなん?」
佐々野いちご。
それが、泣いていた少女の名前である。
広島弁から窺い知ることが出来る通り、広島の代表だった。
そして、5万点ものリードを失い、敗退する原因を作ってしまった選手でもある。
それが、泣いていた少女の名前である。
広島弁から窺い知ることが出来る通り、広島の代表だった。
そして、5万点ものリードを失い、敗退する原因を作ってしまった選手でもある。
「あ、いや、だから、一期一会といちごをやな……」
「そんくらい分かっちょるよ……何の用なのって言うとるの」
「そんくらい分かっちょるよ……何の用なのって言うとるの」
相変わらず、いちごの反応は冷たい。
とはいえ洋榎はへこたれない。
ハナからにこやかに談笑できると思っちゃいなかったのだから。
とはいえ洋榎はへこたれない。
ハナからにこやかに談笑できると思っちゃいなかったのだから。
「さっき言うたやろ。シケたツラした奴がおったから声をかけた。
それ以上でもそれ以下でもないわ」
「そう……じゃあもう帰って。ちゃちゃのん、一人になりたいけえ」
「そうはいカンドラ! 折角大勝して気分ええのに、まーたしょげられたんじゃぁ気分悪いやん」
「……ちゃちゃのんの勝手じゃけぇ、ほっといてくれん……?」
「そないなこと言われても、楽しく麻雀やるのがうちのポリシーやからなぁ~~。
クッソつまらんツラされたらこっちとしても楽しないし、笑かそうするのもうちの勝手や」
それ以上でもそれ以下でもないわ」
「そう……じゃあもう帰って。ちゃちゃのん、一人になりたいけえ」
「そうはいカンドラ! 折角大勝して気分ええのに、まーたしょげられたんじゃぁ気分悪いやん」
「……ちゃちゃのんの勝手じゃけぇ、ほっといてくれん……?」
「そないなこと言われても、楽しく麻雀やるのがうちのポリシーやからなぁ~~。
クッソつまらんツラされたらこっちとしても楽しないし、笑かそうするのもうちの勝手や」
親指を自身の胸にぐいと突きつけ、ふふんと洋榎は笑みを浮かべる。
それから、自慢気に言った。
それから、自慢気に言った。
「それに、誇ったってええで。
一回戦で負けたとはいえ、相手は今年の優勝校・姫松様だったんやから」
「…………ふえ?」
「今年のうちはやるでー! 優勝間違いなしや!
最強優勝校様相手に中堅戦まで大量リードしてたんや、誇ってええで」
一回戦で負けたとはいえ、相手は今年の優勝校・姫松様だったんやから」
「…………ふえ?」
「今年のうちはやるでー! 優勝間違いなしや!
最強優勝校様相手に中堅戦まで大量リードしてたんや、誇ってええで」
笑う洋榎の瞳は、自信に満ちあふれていた。
いちごは、思う。
自分も試合に敗れるまでは、こんな目をしていたのだろうかと。
なんとなく負ける気なんてしていなかった自分は、こんな風に自分を信じていたのかと。
いちごは、思う。
自分も試合に敗れるまでは、こんな目をしていたのだろうかと。
なんとなく負ける気なんてしていなかった自分は、こんな風に自分を信じていたのかと。
「そんなこと言うて、次で負けるんじゃないんね。次、永水じゃろう?」
「ハッ! 確かに勝負には時の運っちゅーもんもある。
せやけど、次は2位でも上がれるんや、どうということはないわ」
「……真嘉比高校には去年の個人戦で6位だった銘苅さんがおるんじゃ」
「ああ、そうか、そっちはそれどころじゃなかったから、他校の試合は副将以降見てへんのか」
「ハッ! 確かに勝負には時の運っちゅーもんもある。
せやけど、次は2位でも上がれるんや、どうということはないわ」
「……真嘉比高校には去年の個人戦で6位だった銘苅さんがおるんじゃ」
「ああ、そうか、そっちはそれどころじゃなかったから、他校の試合は副将以降見てへんのか」
勿論、洋榎とて次で当たりそうな3校の試合を全てチェックしたわけではない。
ザッピングしながら、注目の試合だけを見ていたのだ。
全員分のチェックは、今晩改めて牌譜を見ながら録画したものを見ていく手筈になっている。
ザッピングしながら、注目の試合だけを見ていたのだ。
全員分のチェックは、今晩改めて牌譜を見ながら録画したものを見ていく手筈になっている。
「銘苅、負けたで。完敗や。真嘉比も姿を消した」
「嘘……」
「マジやで。何か、宮なんとかっちゅーところが意外な強さで上がってきてたわ」
「……そう……」
「嘘……」
「マジやで。何か、宮なんとかっちゅーところが意外な強さで上がってきてたわ」
「……そう……」
再び、いちごの表情が曇る。
そんなに強い雀士がいるなら、是非とも手合わせしたかった。
けれど、もうそのチャンスは自分と仲間達にはない。
自分が、そのチャンスを叩き潰してしまったのだ。
そんなに強い雀士がいるなら、是非とも手合わせしたかった。
けれど、もうそのチャンスは自分と仲間達にはない。
自分が、そのチャンスを叩き潰してしまったのだ。
「ま、そやけど、うちの妹も十分強いからな。まあ負けることはないやろ」
「……確かに、強かったけども。大した自信じゃね」
「そらそうよ。うちは自分とチームメイトを信じとるからな」
「……確かに、強かったけども。大した自信じゃね」
「そらそうよ。うちは自分とチームメイトを信じとるからな」
再び、洋榎がいちごに挑発めいた笑みを浮かべる。
少し会話が弾んだからか、いちごはもう目をそらさなかった。
それでも、やはり言葉は紡げないでいる。
少し会話が弾んだからか、いちごはもう目をそらさなかった。
それでも、やはり言葉は紡げないでいる。
「誰かさんとは違う。仮に負けても、次のためにすぐ前を向くわ」
誰かさん。
それが誰を指しているのか分からぬほど、いちごの脳みそは粗末でなかった。
それが誰を指しているのか分からぬほど、いちごの脳みそは粗末でなかった。
「………………」
「大体、エースがしょぼくれとっても何もならんやろ。
自分を責める暇があるなら、反省点を何とかするため動き始める方がええ」
「……分かっとるよ、そんくらい。ほいじゃけど……」
「ま、ショックで前を見られへんことがあるっちゅーのはよう分かる。
うちの凄さを目の当たりにしたら誰もが俯いてまうからな。
まさに眩し過ぎる太陽みたいな存在っちゅーことや」
「大体、エースがしょぼくれとっても何もならんやろ。
自分を責める暇があるなら、反省点を何とかするため動き始める方がええ」
「……分かっとるよ、そんくらい。ほいじゃけど……」
「ま、ショックで前を見られへんことがあるっちゅーのはよう分かる。
うちの凄さを目の当たりにしたら誰もが俯いてまうからな。
まさに眩し過ぎる太陽みたいな存在っちゅーことや」
いちごにしたら、痛い所を突かれた。
一人落ち込んでいても、何も変わらないことくらい分かっている。
分かっていて、それでもなお現実から逃れるために、控え室にも戻らずにこんな時間まで一人廊下で泣いていたのだ。
一人落ち込んでいても、何も変わらないことくらい分かっている。
分かっていて、それでもなお現実から逃れるために、控え室にも戻らずにこんな時間まで一人廊下で泣いていたのだ。
「……分かっとる……」
さすがにいちごも再び俯いてしまう。
しかし、もう黙りこくることはなかった。
言われたくないことを、言われたくない相手に、散々言われてしまったのだ。
傷ついているからこそ、感情的に反論せずにいられない。
しかし、もう黙りこくることはなかった。
言われたくないことを、言われたくない相手に、散々言われてしまったのだ。
傷ついているからこそ、感情的に反論せずにいられない。
「そがんこと、あんたに言われんでも分かっとるわ……!」
いちごの顔が再び上がる。
その表情は、激しい感情のためか醜く歪んでしまっていた。
さすがの洋榎も、これには少し驚いたらしい。
茶化すように「ピッチピチ~の18歳、お姉サン雀士」などと歌っていたが、ぽかんと口を開けたまま音を発するのを止めた。
感情的に発せられた広島弁が思った以上に怖かった、というのもある。
だがそれ以上に、目に涙を溜めた表情が、想像以上に鬼気迫るものであったことが大きい。
その表情は、激しい感情のためか醜く歪んでしまっていた。
さすがの洋榎も、これには少し驚いたらしい。
茶化すように「ピッチピチ~の18歳、お姉サン雀士」などと歌っていたが、ぽかんと口を開けたまま音を発するのを止めた。
感情的に発せられた広島弁が思った以上に怖かった、というのもある。
だがそれ以上に、目に涙を溜めた表情が、想像以上に鬼気迫るものであったことが大きい。
「ちゃちゃのんは、エースじゃ……!
アイドルじゃ言うて祀り上げられて、取りざたされて、持て囃されて……」
「……結構自覚あったんやなぁ、お神輿やっちゅー」
「でも負けた! ちゃちゃのんのせいで!
あんたみたいにチームを勝利に導くことなんて出来んかった!!」
「……ま、まあ、うちはほら、特別っちゅーか」
アイドルじゃ言うて祀り上げられて、取りざたされて、持て囃されて……」
「……結構自覚あったんやなぁ、お神輿やっちゅー」
「でも負けた! ちゃちゃのんのせいで!
あんたみたいにチームを勝利に導くことなんて出来んかった!!」
「……ま、まあ、うちはほら、特別っちゅーか」
あくまでも、洋榎はおどけ倒そうとする。
押されていても、そのスタンスは変わらなかった。
押されていても、そのスタンスは変わらなかった。
「……分かっとる。ちゃちゃのんは、特別にはなれんかった」
「…………」
「だからっ!」
「…………」
「だからっ!」
暫時、間。
「……今度は、負けん。“鹿老渡が”、姫松を倒す」
「――――はっ!」
「――――はっ!」
楽しげに、洋榎が笑った。
そして、言う。
そして、言う。
「勿論そん中にゃあ、お前も入っとるんやろ?」
「当然。今度は、全力のコンディションでチームも戦わせてもらうけぇの」
「当然。今度は、全力のコンディションでチームも戦わせてもらうけぇの」
いちごの所属する鹿老渡高校は、今回ベストなスターティングメンバーではなかった。
『アイドル人気の高いいちごを立てる』という価値基準でオーダーを組んだのだ。
だからこそ、強敵揃いでリスキーな先鋒や大将、そして地味すぎる副将や次峰を避けて中堅になったのである。
『アイドル人気の高いいちごを立てる』という価値基準でオーダーを組んだのだ。
だからこそ、強敵揃いでリスキーな先鋒や大将、そして地味すぎる副将や次峰を避けて中堅になったのである。
「コクマでは、ちゃんとベストなオーダーにしよるよう先生に言うけえ」
「その結果レギュラー落ち、なんてことにならんようにな」
「その結果レギュラー落ち、なんてことにならんようにな」
いちごは、今回で痛感した。
自分はアイドルとして、スタートして、チームを導くほどの力は持っていない。
だからこそ、最後の大会であるコクマこと国民麻雀大会では、自分本意なオーダーをやめてもらおうと。
そして、“アイドル”ではなく“ただの凡人・佐々野いちご”として、“鹿老渡のメンバー”として、戦おうと。
そんないちごを、洋榎がケラケラとからかう。
自分はアイドルとして、スタートして、チームを導くほどの力は持っていない。
だからこそ、最後の大会であるコクマこと国民麻雀大会では、自分本意なオーダーをやめてもらおうと。
そして、“アイドル”ではなく“ただの凡人・佐々野いちご”として、“鹿老渡のメンバー”として、戦おうと。
そんないちごを、洋榎がケラケラとからかう。
「大丈夫。今ここで愚痴ったらスッキリしたわ。
もう気持ち切り替えて練習できるわ。大丈夫」
「うちはサンドバッグか!? ロバ耳ホールか!?
もっとこう、アロマテラピー洋榎的なかっこいい異名の方がええし、
愚痴ったらスッキリなんて八つ当たりめいた理由はやめて、うちに癒されたってことにせぇへん?」
「意味分からんし、そもそもあんた、癒し系とは程遠いと思うわ」
もう気持ち切り替えて練習できるわ。大丈夫」
「うちはサンドバッグか!? ロバ耳ホールか!?
もっとこう、アロマテラピー洋榎的なかっこいい異名の方がええし、
愚痴ったらスッキリなんて八つ当たりめいた理由はやめて、うちに癒されたってことにせぇへん?」
「意味分からんし、そもそもあんた、癒し系とは程遠いと思うわ」
冗談を言う余裕が、いちごにも生まれてきた。
いちごは、笑う。
アイドルと呼ばれただけある、天使のような微笑みで。
いちごは、笑う。
アイドルと呼ばれただけある、天使のような微笑みで。
「……何や、可愛いツラしとるやないか。やっぱりしょげてへん方がええで。
まあ、そのツラをしょげさせるのは最高に気持ちよかったけどな」
「変態みたいじゃね、そん言葉」
「強者っぽいって言うてくれんか」
まあ、そのツラをしょげさせるのは最高に気持ちよかったけどな」
「変態みたいじゃね、そん言葉」
「強者っぽいって言うてくれんか」
洋榎は胸を張って言う。
それから、続けた。
それから、続けた。
「ま、これも何かの縁や。優勝旗片手に遊びに行ったるわ。
んで、コクマのための練習試合と行こうやないの」
「お、来てくれるん? 大阪の人は交通費ケチって遠征なんてようせんと思っとったけぇ」
「阿呆、学校が出してくれるんやで! 人様の金で旅行しない理由があるかい!!」
「……ちゃちゃのん達はオマケなん?」
んで、コクマのための練習試合と行こうやないの」
「お、来てくれるん? 大阪の人は交通費ケチって遠征なんてようせんと思っとったけぇ」
「阿呆、学校が出してくれるんやで! 人様の金で旅行しない理由があるかい!!」
「……ちゃちゃのん達はオマケなん?」
呆れるようにツッコむいちごを見て、洋榎は満足そうに笑みを浮かべる。
それから緩んだ空気を満喫するように缶ジュースを空け、飲みながら談笑を続けた。
それから緩んだ空気を満喫するように缶ジュースを空け、飲みながら談笑を続けた。
「あと、あれ食うてみたいわ。広島風お好み焼き」
「なぁに? 食べたことないん?」
「お好み焼き言うたら関西風やからな。
何かサンドイッチみたいでちゃんと火ぃ通っとるのか怪しい広島風ってーのを、いっぺんくらいは食うてみたるわ」
「……ほいじゃあちゃちゃのんも、下品にぐちゃぐちゃ掻き混ぜた関西風ちゅうのを食べてみたいのう」
「なんやと!? 下品言うたなあ!!」
「なぁに? 食べたことないん?」
「お好み焼き言うたら関西風やからな。
何かサンドイッチみたいでちゃんと火ぃ通っとるのか怪しい広島風ってーのを、いっぺんくらいは食うてみたるわ」
「……ほいじゃあちゃちゃのんも、下品にぐちゃぐちゃ掻き混ぜた関西風ちゅうのを食べてみたいのう」
「なんやと!? 下品言うたなあ!!」
大げさに立ち上がり、指を指して声を上げる。
勿論、洋榎が。
いちごはというと、どこか楽しそうにそんな洋榎を眺めている。
勿論、洋榎が。
いちごはというと、どこか楽しそうにそんな洋榎を眺めている。
「そっち行った時、大阪のお好み作ったるわ! ホットプレートくらい持っとるやろ!?
うちの作る本格大阪お好み焼きの美味さに腰抜かせェ!!」
「あるけど……許可する前からウチに泊まる気満々なん?」
「あ、布団ある? 冬用のでもええんやけど」
「ほんまにガッツリ泊まる気なんね……まあ、ええけど」
「え? ええの!? マジで!?」
「あ、うん」
うちの作る本格大阪お好み焼きの美味さに腰抜かせェ!!」
「あるけど……許可する前からウチに泊まる気満々なん?」
「あ、布団ある? 冬用のでもええんやけど」
「ほんまにガッツリ泊まる気なんね……まあ、ええけど」
「え? ええの!? マジで!?」
「あ、うん」
家はそこそこ広いし、親との仲も悪くないので、泊めることくらい問題なかった。
それにしても、一気に距離感縮まり過ぎではないかと思うが。
それにしても、一気に距離感縮まり過ぎではないかと思うが。
「じゃあ、泊めてもらおか。徹夜で十七歩でもするか!」
「お、ええよ。あれ、面白いけぇ」
「分かるクチやないか」
「あ、ほいじゃあ夕飯、ちゃちゃのんが関西風お好み焼き作ってもらうお礼に、ちゃちゃのんがあんたに広島風の作っちゃろうか?」
「お、ええなー。家庭の味やん」
「お、ええよ。あれ、面白いけぇ」
「分かるクチやないか」
「あ、ほいじゃあ夕飯、ちゃちゃのんが関西風お好み焼き作ってもらうお礼に、ちゃちゃのんがあんたに広島風の作っちゃろうか?」
「お、ええなー。家庭の味やん」
それから、しばらく談笑した。
洋榎のくだらないボケをいちごは馬鹿正直にツッコむ。
気分をよくし、洋榎は更にボケ倒す。
そんな時間が過ぎていく。
洋榎のくだらないボケをいちごは馬鹿正直にツッコむ。
気分をよくし、洋榎は更にボケ倒す。
そんな時間が過ぎていく。
「そういや、知っとるか? この噂」
「何……?」
「何……?」
にやりと笑み、洋榎が人差し指を立てる。
それから、神妙な顔つきで、小声で呟いた。
それから、神妙な顔つきで、小声で呟いた。
「呪い合宿の地獄の特訓っちゅー話や」
「あー……うん、聞いたわ。そん時は、闇合宿とか言う名前じゃった気がするけど」
「あー……うん、聞いたわ。そん時は、闇合宿とか言う名前じゃった気がするけど」
いちごは思い出す。
昨晩、寝る前に友人が言っていたことを。
おかげでなかなか寝付けなかった。
昨晩、寝る前に友人が言っていたことを。
おかげでなかなか寝付けなかった。
「あれな……噂やないらしいで。本当に呪われた合宿はあるんだと」
「えー……そんなまさか」
「ほんまやで。実際、こう言われとるんや。
――長野の連中は、その呪いで行方不明になったって」
「えー……そんなまさか」
「ほんまやで。実際、こう言われとるんや。
――長野の連中は、その呪いで行方不明になったって」
長野県。
いちごでも、知っている。
かつては風越女子という高校ばかりが出てくる地味な県だったが、昨年は突如現れた龍門渕高校が大暴れしてくれた。
だから、チェックはしていたのだ。
いちごでも、知っている。
かつては風越女子という高校ばかりが出てくる地味な県だったが、昨年は突如現れた龍門渕高校が大暴れしてくれた。
だから、チェックはしていたのだ。
「確かに、不思議な事件じゃけんど……さすがにそれは不謹慎じゃ」
けれど、龍門渕高校は全国に来なかった。
昨年のレギュラー全員が残っていたにも関わらず、決勝戦で風越女子諸共無名の清澄高校とやらに敗れ去ってしまったのだ。
しかし、その清澄高校も、この大会には姿を見せていない。
昨年のレギュラー全員が残っていたにも関わらず、決勝戦で風越女子諸共無名の清澄高校とやらに敗れ去ってしまったのだ。
しかし、その清澄高校も、この大会には姿を見せていない。
「噂や噂。でも実際、呪われてるとしか思えへんで」
清澄高校のメンバーは、行方不明になった。
長野県県大会決勝のメンバーで合同合宿をしに行って、そこで消息が途絶えているらしい。
勿論合同合宿故、行方をくらませたのは清澄高校だけではない。
龍門渕高校も風越女子のレギュラー陣も、軒並み消息を絶っている。
長野県県大会決勝のメンバーで合同合宿をしに行って、そこで消息が途絶えているらしい。
勿論合同合宿故、行方をくらませたのは清澄高校だけではない。
龍門渕高校も風越女子のレギュラー陣も、軒並み消息を絶っている。
「確かにそうじゃのう……あの娘ら、可哀想やねぇ」
故に、長野代表は今年は風越女子となった。
行方不明の決勝4校の内、風越以外は控えがいない少人数の部だったのだ。
そのため、繰り上げで風越女子の2軍が長野代表となったのだが……
精神的支柱であるレギュラー陣を失ったショックが抜けきれず、また作戦指揮をとるコーチも行方不明のため、
チームとしてガタガタのまま挑まされるはめになったのだ。
勿論、結果は惨敗。長野の夏は一回戦で終了した。
行方不明の決勝4校の内、風越以外は控えがいない少人数の部だったのだ。
そのため、繰り上げで風越女子の2軍が長野代表となったのだが……
精神的支柱であるレギュラー陣を失ったショックが抜けきれず、また作戦指揮をとるコーチも行方不明のため、
チームとしてガタガタのまま挑まされるはめになったのだ。
勿論、結果は惨敗。長野の夏は一回戦で終了した。
「そうやなぁ。ま、何が起こるか分からんっちゅーことや」
「……うん」
「うちらは、いつ死んでも悔いなんてないよう生きようや」
「……なんか、不思議じゃのう。まともなこと言われよると」
「うちを何だと思っとるんや! うちかてまともなこと言うで!?」
「歩く東スポみたいなもんか思っとったんよ」
「信用0%ッ!!」
「……うん」
「うちらは、いつ死んでも悔いなんてないよう生きようや」
「……なんか、不思議じゃのう。まともなこと言われよると」
「うちを何だと思っとるんや! うちかてまともなこと言うで!?」
「歩く東スポみたいなもんか思っとったんよ」
「信用0%ッ!!」
そうやって騒いでいた時だった。
鹿老渡のメンバーを引率する先生が、曲がり角の向こうから姿を見せたのは。
鹿老渡のメンバーを引率する先生が、曲がり角の向こうから姿を見せたのは。
「あ、先生!」
「ああ、佐々野か……こがぁな所におったんか……」
「はい……心配おかけして、申し訳ありませんでした」
「ああ、佐々野か……こがぁな所におったんか……」
「はい……心配おかけして、申し訳ありませんでした」
立ち上がり、いちごが頭を下げる。
洋榎はというと、座ったままジュースを飲み、そんないちごを眺めていた。
洋榎はというと、座ったままジュースを飲み、そんないちごを眺めていた。
「あの……いいですか?」
「……何がだ?」
「合宿を、して下さい」
「……何がだ?」
「合宿を、して下さい」
その言葉に、先生は目を丸くする。
そこには、通常考えられない程の動揺が見て取れる。
だがしかし、いちごも洋榎もそれに気付かない。
そこには、通常考えられない程の動揺が見て取れる。
だがしかし、いちごも洋榎もそれに気付かない。
「強くなりたいんです。もう、負けないように」
「…………」
「だから、お願いします」
「…………」
「だから、お願いします」
先生は目を泳がせる。
迷っているのだ、どうするか。
そして、しばしの逡巡を経て、ようやく口を開いた。
迷っているのだ、どうするか。
そして、しばしの逡巡を経て、ようやく口を開いた。
「どうしても……強ぅなりたい、か?」
「はい」
「辛いし、苦しいぞ。決して楽しいものじゃありゃせん。それでも、やるか」
「はい」
「時間だけじゃない。多くのもんが犠牲になる。それでも、やりたいんね?」
「……はい。きっと、皆も同じ気持ちだと思います」
「ほうか……」
「はい」
「辛いし、苦しいぞ。決して楽しいものじゃありゃせん。それでも、やるか」
「はい」
「時間だけじゃない。多くのもんが犠牲になる。それでも、やりたいんね?」
「……はい。きっと、皆も同じ気持ちだと思います」
「ほうか……」
先生が、軽く天井を仰ぐ。
そして、告げた。
そして、告げた。
「分かった……やろう」
「本当ですか! ありがとうございますっ!!」
「……やるしか、もう道はないのかもしれん。きっと、そういうことじゃね」
「…………先生?」
「いや、なんでもない。
……佐々野達を信じるちゅうことだ。きっと皆、強うなってくれるとな」
「本当ですか! ありがとうございますっ!!」
「……やるしか、もう道はないのかもしれん。きっと、そういうことじゃね」
「…………先生?」
「いや、なんでもない。
……佐々野達を信じるちゅうことだ。きっと皆、強うなってくれるとな」
どこか、先生の目に違和感を感じる。
だが、その違和感は漠然としすぎていてよく分からない。
だが、その違和感は漠然としすぎていてよく分からない。
首を傾げるいちごを現実に引き戻したのは、ガコンという音だった。
「話も纏まったみたいやな」
振り返ると、洋榎は立ち上がっていた。
くずかごの前に居ることから、先程の音は洋榎が缶を捨てた音だと分かる。
いつの間にか、飲み干していたようだ。
くずかごの前に居ることから、先程の音は洋榎が缶を捨てた音だと分かる。
いつの間にか、飲み干していたようだ。
「うん……おかげさまで。前向きになったっちゅう点じゃ、感謝しとるよ」
「なら、コクマでうちらを楽しませるって形で恩返ししてもらおか~」
「そん時は、勝つのはちゃちゃのん達じゃけどね」
「なら、コクマでうちらを楽しませるって形で恩返ししてもらおか~」
「そん時は、勝つのはちゃちゃのん達じゃけどね」
クスクスと笑ういちご。
先生への違和感は、もう頭に残ってなかった。
先生への違和感は、もう頭に残ってなかった。
「ほんならそろそろ行くわ。ちぃとばっかし長居しすぎたし」
「あ、もうこんな時間……そうじゃのう、ちゃちゃのんも、皆のとこ戻らないと」
「ほな、これで。残りの試合は是非ともうちらを応援してや~」
「うん……じゃあね」
「あ、もうこんな時間……そうじゃのう、ちゃちゃのんも、皆のとこ戻らないと」
「ほな、これで。残りの試合は是非ともうちらを応援してや~」
「うん……じゃあね」
手をひらひらと大振りし、洋榎は廊下をあとにする。
騒いでいた時に買い物を頼まれていたのに、手ぶらで帰っていいのだろうか、といちごは思ったが、何も言わずに見送った。
そんないちごに、先生が言う。
騒いでいた時に買い物を頼まれていたのに、手ぶらで帰っていいのだろうか、といちごは思ったが、何も言わずに見送った。
そんないちごに、先生が言う。
「私達も、行こう……皆が、待ってる」
「はい!」
「はい!」
もう、いちごの目に涙はなかった。
あるのは希望の光だけ。
合宿を経て、強くなって、コクマでライバルと戦う――
そんな未来が待っていることを、頑なに信じていた。
あるのは希望の光だけ。
合宿を経て、強くなって、コクマでライバルと戦う――
そんな未来が待っていることを、頑なに信じていた。
そんな夢は、そう遠くない未来、木っ端微塵に砕かれるのに。
☆ ★ ☆ ★ ☆
「うーん……」
頭が、痛い。
休日の日、目覚ましを鳴らし忘れたせいで夕方まで寝てしまった時の、寝過ぎて辛いあの感覚によく似ている。
休日の日、目覚ましを鳴らし忘れたせいで夕方まで寝てしまった時の、寝過ぎて辛いあの感覚によく似ている。
(今何時……?)
佐々野いちごは首を傾げる。
確かに、自分は寝ていた。
だがしかし、寝過ぎることはありえないのだ。
何故なら、自分が寝たのは帰りのバスの中であり、最長でも広島に到着するまでの時間しか眠れないのだから。
確かに、自分は寝ていた。
だがしかし、寝過ぎることはありえないのだ。
何故なら、自分が寝たのは帰りのバスの中であり、最長でも広島に到着するまでの時間しか眠れないのだから。
「…………あれ…………?」
携帯を探ろうと、ポケットに手をやる。
そこで、おかしなことに気が付いた。
肘が、肘掛けにぶつからない。
勿論、隣にいる友人にも当たらなかった。
まるで横に何も無いかのようだ。
そこで、おかしなことに気が付いた。
肘が、肘掛けにぶつからない。
勿論、隣にいる友人にも当たらなかった。
まるで横に何も無いかのようだ。
「ん…………」
サービスエリアにでもついて、皆降りてしまったのか。
ならば自分もお手洗いに行っておこうか。
ひとりぼっちは寂しいし。
そんなことを思いながら、重たい瞼を無理矢理開いた。
異常な眠気のせいで、その作業にすら苦労する。
ならば自分もお手洗いに行っておこうか。
ひとりぼっちは寂しいし。
そんなことを思いながら、重たい瞼を無理矢理開いた。
異常な眠気のせいで、その作業にすら苦労する。
「…………!?」
だがしかし、ぼやける視界に映る景色が、急速に意識を覚醒させた。
視界には、可愛い後輩の後ろ姿が映っている。
“本来なら、座席が見えていなくてはいけないのに”だ。
視界には、可愛い後輩の後ろ姿が映っている。
“本来なら、座席が見えていなくてはいけないのに”だ。
「ちょ、皆……!?」
よく見ると、見知った背中は1つではない。
そこには、共に全国に行った麻雀部の仲間達が揃っていた。
そして誰もが、ほとんど動かないでいる。
おそらく自分と同じように、眠りこけているのだろう。
なにせ、皆一様に俯いてしまっている。
そこには、共に全国に行った麻雀部の仲間達が揃っていた。
そして誰もが、ほとんど動かないでいる。
おそらく自分と同じように、眠りこけているのだろう。
なにせ、皆一様に俯いてしまっている。
(なんじゃ、ここは……!?)
よくよく考えると、自分も起床時は机に俯せていた。
勿論バスの中でそんな姿勢はとっていないし、机まで歩いてきた記憶もない。
つまり意図は分からないが、誰かが机に寝かせるよう動かしたということになる。
勿論バスの中でそんな姿勢はとっていないし、机まで歩いてきた記憶もない。
つまり意図は分からないが、誰かが机に寝かせるよう動かしたということになる。
「いちご!?」
後ろから声をかけられる。
振り返ると、そこには一番の親友がいた。
振り返ると、そこには一番の親友がいた。
「こりゃあ、どういうことじゃ?」
「分からんよ……ちゃちゃのんも今起きたところじゃけぇ」
「分からんよ……ちゃちゃのんも今起きたところじゃけぇ」
もはや眠気は消し飛んでいた。
席を立ち、友人達を起こして回る。
その途中で、後ろから「先生!」という声が聞こえた。
どうやら先生もここにいたらしい。
誰かが先生を起こしたようなので、起こした友人と指示を仰ぎに行った。
席を立ち、友人達を起こして回る。
その途中で、後ろから「先生!」という声が聞こえた。
どうやら先生もここにいたらしい。
誰かが先生を起こしたようなので、起こした友人と指示を仰ぎに行った。
「佐々野……皆……」
先生は、泣き出しそうな顔をしていた。
それから、言った。
搾り出すように、掠れた声で。
それから、言った。
搾り出すように、掠れた声で。
「…………すまない」
どういうことか。
いちごが問い詰めようとした時、ガラリと扉が空いた。
そういえば、皆を起こすのに夢中で、外に出てみるという発想がなかった。
いちごが問い詰めようとした時、ガラリと扉が空いた。
そういえば、皆を起こすのに夢中で、外に出てみるという発想がなかった。
――結論から言ってしまうと、出ようとしなくて正解だったのだが。
「はいはーい、静粛にー」
扉を開けて入ってきた男の人に、一同がざわめく。
男の人はパンパンと手を叩き、静かになるよう促した。
それでも当然、このざわめきは収まらない。
男の人はパンパンと手を叩き、静かになるよう促した。
それでも当然、このざわめきは収まらない。
「まったく。人の話を静かに聞けないとは最低ですよー。
そんなんだから、無様にも初戦で敗退するんです」
「なっ…………!」
そんなんだから、無様にも初戦で敗退するんです」
「なっ…………!」
広島に帰ったら茶化されるかもしれないという覚悟はあった。
それでも、初対面の人間にいきなり言われて良い気はしない。
それでも、初対面の人間にいきなり言われて良い気はしない。
「何でおどれにそがんこと言われなきゃならんのじゃ……!
おどれにゃぁ、あいもしゃしゃりもなぁーわい!!」
おどれにゃぁ、あいもしゃしゃりもなぁーわい!!」
しかし、後輩の一人が、男の人に噛み付いた。
彼女はキャプテンに可愛がられていた娘で、レギュラーにはなれなかったけど、献身的にチームのために動いていた子だ。
憧れていた先輩達を侮辱され、頭にきてしまったのだろう。
彼女はキャプテンに可愛がられていた娘で、レギュラーにはなれなかったけど、献身的にチームのために動いていた子だ。
憧れていた先輩達を侮辱され、頭にきてしまったのだろう。
「あいもしゃしゃりも……ああ、関係ない、という意味ですか」
広島弁ガイドブックのようなものをめくりながら、男の人は不敵な笑みを浮かべる。
どうやら、広島の人ではないようだ。
じゃあ、何故ここに?
どうやら、広島の人ではないようだ。
じゃあ、何故ここに?
「何でそんなことを言われなくちゃならないか、ですが――僕は皆さんと関係なくはないからです。
まあ、つまり」
まあ、つまり」
一拍おいて、男の人が皆の顔を見渡す。
そして、告げた。
そして、告げた。
「今日から僕が、皆さんのコーチとなります。よろしく」
ざわめきが一層大きくなる。
コーチ、監督、先生――それぞれいるという学校も、確かにある。
しかし、多くの所は呼び名が違うだけでコーチ兼監督兼先生が一人いるだけなのだ。
何と呼ばれるかはチームによりけりで、例えば長野県の名門・風越女子はコーチと呼んでいたはずだ。
あそこも、監督や引率の先生を見かけることはほとんどない。
実質コーチが全て兼任しているのだ。
コーチ、監督、先生――それぞれいるという学校も、確かにある。
しかし、多くの所は呼び名が違うだけでコーチ兼監督兼先生が一人いるだけなのだ。
何と呼ばれるかはチームによりけりで、例えば長野県の名門・風越女子はコーチと呼んでいたはずだ。
あそこも、監督や引率の先生を見かけることはほとんどない。
実質コーチが全て兼任しているのだ。
「どういうことなん、先生」
そしてそれは、鹿老渡高校にも言えること。
今までは、先生一人でやってきたのだ。
それが、何故。
今までは、先生一人でやってきたのだ。
それが、何故。
「すまない……すまない皆……」
「先生……?」
「こうするしか……なかったんじゃっ……」
「先生……?」
「こうするしか……なかったんじゃっ……」
おかしい。
それが、いちごの抱いた感想だった。
仮に先生が学校をやめ、別の人にコーチを頼んだのだとしても、この反応は変ではないか。
このリアクションでは、まるで――――
それが、いちごの抱いた感想だった。
仮に先生が学校をやめ、別の人にコーチを頼んだのだとしても、この反応は変ではないか。
このリアクションでは、まるで――――
「ふむ。鋭い人は、もう嫌な予感を察知しているようですね」
男の人が、ふふと笑む。
その視線は、いちごに向けられていた。
その視線は、いちごに向けられていた。
「そうです。都市伝説にもなっている、地獄の特訓。闇合宿。
まあ言い方は様々ですが、それを僕の管理の元、この鹿老渡高校でも行うことになりました」
まあ言い方は様々ですが、それを僕の管理の元、この鹿老渡高校でも行うことになりました」
数名が、「えー」だの「嘘ー」だの声をあげる。
咳払いを1つして黙らせようとしたあとで、男の人はこう言った。
咳払いを1つして黙らせようとしたあとで、男の人はこう言った。
「先生はァ、引退して一人安全な位置にいることを拒まれました。
皆さんの糧になるべく、自身もこの合宿に参加して下さるというのですね。
非常に素晴らしい、教育者の鑑です。はい拍手-」
皆さんの糧になるべく、自身もこの合宿に参加して下さるというのですね。
非常に素晴らしい、教育者の鑑です。はい拍手-」
室内に、男の人の拍手の音だけが響く。
いちごの親友が、その状況で呟いた。
いちごの親友が、その状況で呟いた。
「合宿なのはええけど、じゃったら事前に言うてくれたらええのに。
着替えもそげいにないし、お母ちゃん達も心配しちょるわ」
「ほうじゃほうじゃ、これじゃあまるで、拉致じゃけぇ」
着替えもそげいにないし、お母ちゃん達も心配しちょるわ」
「ほうじゃほうじゃ、これじゃあまるで、拉致じゃけぇ」
いちごは、思う。
まるでも何も、拉致そのものであると。
そして思い出す。
都市伝説では、参加者の大半が死亡しているということを。
まるでも何も、拉致そのものであると。
そして思い出す。
都市伝説では、参加者の大半が死亡しているということを。
「まるで、じゃなくて、拉致監禁そのものですよ」
軽く苦笑し、男の人は淡々と告げた。
「貴女達のほとんどは無事に家まで帰れません。
そして拒否権もありません。
『何を犠牲にしてでも強くなる』――――そのくらいしないと、貴女達は這い上がれません。
ですから弱者の方々には、その“犠牲”になってもらいます」
そして拒否権もありません。
『何を犠牲にしてでも強くなる』――――そのくらいしないと、貴女達は這い上がれません。
ですから弱者の方々には、その“犠牲”になってもらいます」
犠牲。
その言葉に、喉が詰まる。
何も、うまく考えられない。
その言葉に、喉が詰まる。
何も、うまく考えられない。
「……大丈夫じゃ。犠牲になんかさせん。
わしはちゃちゃのんを見捨てんし、誰も犠牲になんかさせへん」
わしはちゃちゃのんを見捨てんし、誰も犠牲になんかさせへん」
不安げないちごの手を、親友がそっと握る。
そして、笑った。
大会の前の晩見せた悪戯めいたものでなく、安心させるような笑みを。
そして、笑った。
大会の前の晩見せた悪戯めいたものでなく、安心させるような笑みを。
「わしらは全員でクリアしたるわ、どんな特訓じゃろうとな……!」
獰猛な笑顔で、親友は男の人に宣言した。
全員で、無事に乗り越えてみせると。
それを聞き、いちごも少し前向きになる。
全員で、無事に乗り越えてみせると。
それを聞き、いちごも少し前向きになる。
「そう、じゃね……こんな事態、考慮しとらんかったけど……でも」
でも、覚悟はしていたのだ。
辛い特訓が待っていることは。
それを承知で、強くなりたいと言いに行ったのだから。
辛い特訓が待っていることは。
それを承知で、強くなりたいと言いに行ったのだから。
「ちゃちゃのんには、頼りになる皆がいるから。
絶対、脱落者なんて出さんよ。皆で、強くなっちゃる」
絶対、脱落者なんて出さんよ。皆で、強くなっちゃる」
それは、決意の言葉。
鹿老渡は、自分一人のチームではない。
姫松相手に大量得点してくれた仲間など、皆一定の力を持っているのだ。
犠牲になる弱者になんて、絶対にさせない。
鹿老渡は、自分一人のチームではない。
姫松相手に大量得点してくれた仲間など、皆一定の力を持っているのだ。
犠牲になる弱者になんて、絶対にさせない。
「……やれやれ、勘違いをしていますね」
そんないちごを見て、男の人はやれやれと溜息をつく。
結束力を強めるというのも団体戦には必要なのに、そこまで言うことはないんじゃないか。
そう思っていた、その矢先。
結束力を強めるというのも団体戦には必要なのに、そこまで言うことはないんじゃないか。
そう思っていた、その矢先。
「まず、鹿老渡はもう団体戦は捨てました。
秋の国民麻雀大会、その個人戦に絞って行きます」
秋の国民麻雀大会、その個人戦に絞って行きます」
個人戦のみに絞る。
そんなこと、初耳だった。
そんなこと、初耳だった。
「絞る理由は簡単、この合宿を合格するのは一人だけだからです。
勿論公平を喫しますし、実力主義ですから安心して下さい。
アイドル的人気で優遇され続けていた方もいらっしゃるようですが、今回は関係在りません。
今からのサバイバルを勝ち抜いたものだけが、コクマの個人戦に出られます」
勿論公平を喫しますし、実力主義ですから安心して下さい。
アイドル的人気で優遇され続けていた方もいらっしゃるようですが、今回は関係在りません。
今からのサバイバルを勝ち抜いたものだけが、コクマの個人戦に出られます」
露骨に貶められて、さすがに不快感を覚える。
けれど、アイドル的人気のために、中堅に置かれていたという自覚はあった。
それ故に、何も言い返せない。
けれど、アイドル的人気のために、中堅に置かれていたという自覚はあった。
それ故に、何も言い返せない。
「そう、サバイバルなんです。
協力して与えられたミッションを生き残るのでなく、潰し合い、戦い合いの合宿です」
協力して与えられたミッションを生き残るのでなく、潰し合い、戦い合いの合宿です」
潰し合い。
確かに、レギュラー争奪戦直前の合宿は、往々にしてそういうものだ。
限られた椅子を奪い合い、正々堂々戦い合う。
そういう、友情もある。
でも――――
確かに、レギュラー争奪戦直前の合宿は、往々にしてそういうものだ。
限られた椅子を奪い合い、正々堂々戦い合う。
そういう、友情もある。
でも――――
「ルールは簡単です。単刀直入に言いましょう」
地獄の闇合宿。地獄の特訓。
様々な言い方があるけれど、正式名称を鹿老渡の生徒は誰一人として知らなかった。
様々な言い方があるけれど、正式名称を鹿老渡の生徒は誰一人として知らなかった。
第68番雀力強化プログラム。
そう、もうお分かりだろう。
これは、冒頭でお話ししたように。
これは、冒頭でお話ししたように。
「ちょっと皆さんには、最後の一人になるまで、殺し合いをしてもらいます」
殺し合いという、悪趣味な残虐ゲームなのだ。
「そ……んな……」
いちごは、呟く。
自分達に降りかかった、恐ろしい運命を否定するように。
自分達に降りかかった、恐ろしい運命を否定するように。
「そんなん考慮しとらんよ……」
――これは、悲惨な結果となった全国麻雀選手権大会よりちょっと後。
一人の少女にふりかかった、都市伝説の物語。
一人の少女にふりかかった、都市伝説の物語。
【本編より数日後 第68番雀力強化プログラム鹿老渡高校大会 ゲーム開始】
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広島県大会決勝戦 | 佐々野いちご | PROGRAM START |
大阪府大会決勝戦 | 愛宕洋榎 | 全国大会二回戦 |