緯度が樺太と同じくらいあるアイルランドでは、
アザラシは馴染みの深い動物であり、沿岸ではアザラシがよく見られ、
オークニー諸島、シェトランド諸島では半アザラシの妖精セルキーの伝承がある。
彼らは堕天使だったが地獄に堕ちるには善良だったため、地上の海岸線に落とされた(キリスト教的な表現である。)との説がある。
ときには人間に虐げられ、もしセルキーの血が流れれば大嵐になったと伝えられる。
男のセルキーはよく人間の女と結婚するが、好色で長続きしないと伝えられる。
またセルキーとよく似ているが、アザラシの精にローン(ゲール語でアザラシの意味)もおり、気だてが優しく人間の姿をしているが、自分たちの住処へ行くのにはアザラシの皮を着る必要があった。
ローンたちは真夏の白夜にスコットランドの北岸の浜辺や近辺の島に現れてダンスを踊る。シェトランド諸島では「海のトロー」と呼ばれる。
美しいローンの乙女の皮を手にいれた人間は、彼女を妻にすることができる。
アイルランドではConneely(コネリー、コナーリー)という名字の人は、アザラシと関係があると言われている。あるいは、北ユーイスト島のマック・コドゥム族はアザラシ族の子孫と伝えられる。
"漁師の男が、海で漁をしていると美しい女に出会った。アザラシの妖精だった。男は女のアザラシの皮をかくして、嫁に迎えた。子供達にもめぐまれ、子供達が海に入るとかならずたくさんの魚が捕れた。豊かで幸せな毎日だったが、女は海を見ては寂しそうだった。ある日こどもが家の中に隠してあるアザラシの皮を見つけ、不思議に思い母親に見せると、母はアザラシの皮を抱いて海へ向かって走り出した。子供達が漁をする時には必ず十分な魚がとれると約束して、自分はもう戻れないことを告げた。時折海から子供達の成長を見守ってはいたが、彼女は二度と陸に上がってくる事はなかっという。"
日本の天女の羽衣や鶴の恩返しの話とよく似ている。
アザラシの妖精伝説を扱った映画に『フィオナの海』がある。