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流血少女エピソード-久我原史香-



「先生―!」

ぱたぱたと足音が近づいてくる。
私――久我原史香は作業を一旦中断し、PCのモニターから顔を上げる。
やって来たのは制服に身を包み、髪の上で結んだ大きな黄色いリボンが特徴の少女。その屈託の無い笑みからは彼女の持ち味ともいえる人懐っこさが伺える。
“学級委員長”のミライだ。彼女には身の回りの世話などをしてもらっている。

「お手紙が届いてましたよ―。えと、白河一さん…?からみたいです。」
「……白河一だと?どれ、見せてみろ。」

その名前は知っている。知っているが、既に”死んだ“はずの人物の名前だ。どういうことだ…?
ミライから手紙を受け取り、内容を読みつつ「白河一」という人物について思いを馳せる。

その女性は、十束学園において学園長を除けば最大権力を持っていると言われるストレングス・テン――――世界を構成する十の力の一端を担うに相応しいと十束学園学園長に認められた存在、その一翼を担っていた。
そして白河一が司っていたのは”時間“。
”時間”は私が十束学園の”教員”として司る”歴史”の上位互換であり、いわば直属の上司だった。
 だがかつて妃芽薗学園でハルマゲドンを引き起こした後、白河一は、工作員としての彼女は”殺された”。
つまり、ストレングス・テンとしての戦闘力、武装、忠誠心などが失われたらしい。現在はただの生徒に成り果ててしまったそうだ。
それ以降は部下として彼女に何かを命令されることもなく、連絡も絶っていたのだが……。

「……ふん。なかなか面白そうな話じゃないか。」
「先生、差し支えなければどんな内容だったのか教えてくれませんか?私にも何かできることがあったら手伝います!」

そう言って、胸の前で小さく拳を握り締めるミライ。彼女の献身的な性格はなかなか好ましい。

「どうやら久々に出張みたいだ。留守中の雑事は頼んだぞ。」
「出張……ですか?」

どこか不安そうな表情でこちらを見つめるミライに、手紙の内容を噛み砕いて説明する。

「死んだはずの上司様から、妃芽薗学園で今度行われるハルマゲドンを引っ掻き回してこいとのお達しだ。……十束学園の指揮系統は絶対。正式に指揮系統から外れたとの下達がなければ、たとえ亡くなったはずの上司といえど命令となれば逆らうことはできんよ。」
「そんな……死んだ上司からの手紙に、”あの“妃芽薗学園に出張だなんていかにも怪しいじゃないですか…危険です。」


手紙の内容を聞いて更に動揺した様子のミライを横目に私は立ち上がり、比較的綺麗な白衣をクローゼットから選び袖を通す。

「――だからこそだよ。血腥い噂の飛び交う妃芽薗学園の歴史に直に触れる絶好の機会じゃないか。……くくっ私がハルマゲドンの歴史を作れるんだ。素敵だと思わないか?あぁ、まったく……歓喜の余り全身が震えてきそうだよ!!」
「むー……」

ミライは頬を膨らませて不服そうな表情をしている。私は無視して支度を続けた。ミライは過保護な所があるからな……。どうせ「そんな危ない所、先生一人で行かせることはできません」とか考えてるに決まってる。

「そんな危ない所、先生一人で――――むぐっ」
ほら、やっぱり。
私より弱いどころか、何の戦力も持ってないクセに一人前に口をききやがる。
発言の途中でミライの口を塞ぐ。

「私がお前の性格をよく知ってるように、お前も私の性格をよく知ってるだろう?一度決めたものはどうあっても覆さないぞ。」
「――っ」
未だ不満気にミライは私を見つめるが、しばらくして観念したように口を塞ぐ私の手をとってどかし、大きなため息をついた。
「わかりました、わかりましたよ!妃芽薗学園への出張に関しては止めませんから、いくつか私の言うことを聞いて下さい。」
「……む、何だ。内容によっては従うことができないかもしれないが、一応聞いてやろうじゃないか。」

その言葉を聞き、ミライは笑顔になる。
そして、何を言い出すかと思えば――――


「まず、夜更かしをしちゃダメですよ!ちゃんと歯磨きもすること。それと、知らない人についていかないこと!最近は悪い大人も多いですからね!それからそれから、」


……流石にキレた。


「~~っ、子供扱いしてんじゃねえええええええええええええ!!!!!私はお前より年上だっつ―の!!!舐めてんのか?ああん??」


私の剣幕に気圧されたのか、目を丸くするミライだったがそれも一瞬のこと。
私の手を両手で包み、顔を俯かせてぽつぽつと呟いた。前髪に隠れて表情は見えない。

「だって……心配じゃないですか……先生は、唯一私が頼れる人間なんですから……。いなくなったらどうしようって……不安で一杯なのに……。さっき私の口を塞いだこの手だって……こんなにちっちゃくて頼りない手で……心配で心配で……」

ぽたっとカーペットに一滴の雫が垂れた。
顔を上げたミライの瞳は濡れていた。

……まったく、コイツは本当にころころと表情が変わるな。

「――大丈夫だ。私はちゃんと帰ってくる。ハルマゲドンだって長居はするつもりはない。場をかき回してすぐお前の所に帰ってくるさ。」

私より背の高いミライの頭をそっと撫でる。
ミライの表情は、安堵に包まれたように見えた。
これで、多分大丈夫だろう。そう判断してミライに背を向け、玄関に向かって歩き出す。

「先生!」
「……なんだ」
背後から声をかけられる。私は一度立ち止まった。

「――いってらっしゃい!!」

そのミライの声は元気で明るい、いつものミライの声音だった。
彼女はきっと、笑顔で送り出してくれてるんだろう。
……そうだといいな。

「あぁ、いってくる。留守は頼んだぞ!」
「はいっ!」

そして私は愛用の武装、黒手袋を両手に嵌め、やがてハルマゲドンの舞台となる妃芽薗学園へと向かった――――。


久我原史香プロローグSS、【END】