流血少女エピソード-片心叶実-





 ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



「ご、ごめんなさいっ……!」

 私――片心叶実の人生で初めての失恋は、小学校六年生の時でした。
 一年生の頃からずっと一緒に遊んでいた親友が、私の初恋の相手。
 ぺこりと頭を垂れたまま、その子は申し訳なさそうに言葉を紡ぎます。

「女の子同士だし……その、そういう対象には見れない、かな……」
「あーっ、そっかそっか! こっちこそごめんね、変なこと言っちゃって!」

 言葉を重ねるその子のほうが泣きそうで、私は平気な顔を装います。
 別れて家に帰って、双子のお姉ちゃんの膝でわんわん泣きました。
 お姉ちゃんは私が落ち着くまで背中をさすってくれました。

「お姉ちゃん……ヒメゾノ学園に進学するんだよね?」
「うん。綺麗な新校舎とか、いいなあって思うし」
「……私もヒメゾノに行く」
「えっ」

 私の言葉に、きっとお姉ちゃんはびっくりしていたと思います。
 お姉ちゃんの膝に顔を埋めたままだったので確認できませんでしたが。

「叶実、サンチューに行くって言ってなかったっけ?」
「もう決めたの」

 サンチューというのは、地元の○○市立第三中学校のことです。
 小学校が一緒の子はみんなそこへ行き、私もそれに倣うつもりでした。
 ですが、この失恋が私を変えたのです。私は顔を上げます。

「ヒメゾノ学園は女子校だから、女の子ばっかりが集まってくるんだよね?
 そこにならいるかもしれない……『女の子のことが好きな女の子』が。
 ――もとい、『私のことが好きな女の子』が!!」
「へ、へえー……」

 お姉ちゃんの呆れたような視線はだいぶ慣れっこだったので動じません。
 私は決意したのです。女子の園で、運命の相手を見つけることを!
 あと地元の中学は告白のことが広まってそうで、なんか気まずいし!

「とりあえず、お父さんとお母さんを説得しなきゃね……」
「うん! がんばろ、お姉ちゃん!」
「えっ、私も手伝うの!? まあいいけど……」
「やったあ! お姉ちゃん愛してるっ!」
「はあー、あたま痛い……。あと、ヒメソノね。ソ」
「ソ!」

 なんだかんだ言って優しいお姉ちゃんと一緒に、両親に頼み込ました。
 渋い顔をしていましたが、最後には「愛実がいれば」と認めてくれました。
 あ、愛実というのはお姉ちゃんのことです。片心愛実お姉ちゃん。



 ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



 ――さて、そんなこんなで私立妃芽薗学園へ入学した片心叶実ですが。
 ――寮での生活もかれこれ1年が経過した片心叶実ですが。
 ――さまざまな出来事を経験した片心叶実ですが。

「あー……私、もう付き合ってる相手いるんだ。ごめんね?」
「……はい」

 ――――このたび、通算5連敗を成し遂げた片心叶実ですが。



「うわあああん! お姉ちゃああああん!」
「はいはい、辛かったねーよしよし」

 私の運命の相手は、いったいどこにいらっしゃるのでしょうか……。



 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



             片心叶実 エピソードSS



 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



「ぐすっ……私の一体なにがダメなんだぁ……」
「恋人がいたんじゃしょうがないって」
「雰囲気出すために礼拝堂まで呼び出したのに……」
(相手の子、道中気が重かったろうなあ)

 お姉ちゃんの膝をびしょびしょに濡らすのも、こんな風に背中を
 さすってもらうのも、2年前のあの日からこれで5度目になります。
 先日中等部の2年に進級しましたが、早速出鼻を挫かれた気分です。

「つらい……私が好きになった人が私のことを好きなってくれるだけで
 いいのに……」
「……そうだね。難しいね、恋愛って」
「好きになってくれる人だけを好きになれたらいいのに」
「奥華子?」
「うん」

 他愛のない話をできる程度には回復しました。
 立ち直りの速さは、この連敗の日々で培われたものです。嬉しくない。

「もうこの際、まどか様にお願いしてみようかなー、なんて」
「ああ、あの噂の? ……って、叶実、そんな腕時計持ってたっけ?」

 びくっ!
 お姉ちゃんの言葉に私の心臓は大きく跳ねます。

「それ、どうしたの?」

 確かに私の手首には、今日の朝にはなかった、腕時計みたいな物体が
 巻かれています。
 文字盤の代わりに、ゴツいハートがくっついています。ダサいです。

「あー、いやあ……あはは……」

 私は適当に笑って誤魔化します。
 お姉ちゃんは納得しかねる表情でしたが、それ以上は追及しません。

 私の心労の種は、絶賛記録更新中の連敗だけではありません。
 この『ハートブレイカー』なる機械と、それにまつわる奇妙な邂逅――。



 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



              ≪ 後逸ユアハート ≫



 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



(これ、ホントどうしようかなあー)

 放課後の、少し日が落ちた空に手をかざします。
 私の手首には、変わらずハートブレイカーが装着されています。
 なぜだか外せないのです。溜め息をつきながらブラブラ歩いていますと、

「ん――?」

 気付けば、空の向こうからこちら目掛けてなにかが飛んできています。
 それが野球のボールであると、このままだと私に激突すると、危ないと、
 そう認識した瞬間、私の口は反射的に『それ』を口走っていました。

「ら――らぶりめーしょん!」

 言葉と共に、ハートブレイカーのゴツいハートをパカリと割ります。
 刹那、時が止まり、私の肉体は白光に包まれます。
 見る間に私を包む衣装は制服から赤い全身タイツに変貌します。
 露わだった素顔をどこからか降ってきたヘルメットが覆い隠せば――

「口上未定! 玉砕戦隊シツレンジャー!」

 名乗りもそこそこ、私は動き出した時の中で、目前に迫ったボールを
 キャッチします。
 そして素早くハートブレイカーのハートを戻す! 変身解除!

「ふうっ……! だ、誰も見てないよね?」

 キョロキョロと辺りを見回しますが、人はいないようです。セーフ。
 こんな恥ずかしい姿、他の人に見られていたら生きてけません。
 反射神経・筋力・その他諸々が強化されたヒーローモードでなければ、
 私の額には大きなタンコブが出来ていたでしょう。危険な賭けでした。

「大丈夫ッスかー!?」

 と、野球部のユニフォーム姿の女の子がこちらへ駆けて来ます。
 私は手を振り、ボールを指差します。
 その子は帽子を脱いで挨拶し、私からボールを受け取ります。

「怪我とか大丈夫でしたか?」
「はい。キャッチしましたんで」

 その言葉を聞いて、彼女は目を丸くします。
 私は自分の失言に気付いていません。

「……あの打球を? カンタンに?」
「ええ、バッチリ!」

 ぐっぱっと手をほぐす私を見つめ、その子は爛々と目を輝かせます。
 彼女は素早く一歩近づき、私の手を両手で握り締めます。
 どくんっ――。私の鼓動が、熱く高鳴ります。

「私、3年の早川! あなた、ウチの部で私と組まない!?」
「はひっ……!」

 鼓動のリズムはどんどんと勢いを増し、目の前の彼女は心なしか
 キラキラエフェクトに包まれたように輝いて見えます。

 嗚呼、とうとう出逢ってしまったのでしょうか……私の運命の人に……!



 ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



「――ってことがあったんですよーえへへ」
「なるほど、良かったじゃないか」

 礼拝堂の端に設えられた懺悔室の中で、密やかに言葉を交わします。
 他に人はいませんでしたが、念のため、ということらしいです。

「これで失恋記録を伸ばせる。チャンスだな」
「全然チャンスじゃないですよそれ!」

 なんと不吉なことを言うのでしょう!
 しかし彼女の――シスター下呂の目的を鑑みれば当然の発言でしょう。
 私の脳裏に、昨日の失恋直後の出来事がリフレインします。


 ・
 ・
 ・


「うううっ……」

 呼び出した相手はお帰りになり、礼拝堂には私一人が残されました。
 何度振られても、泣きそうになる程の悲しさには慣れません。

「いやー、ドンマイドンマイ」
「っ!?」

 誰っ!?
 思わず跳び上がり、声のした方に首をぐりんと向けます。
 見ると、懺悔室から修道服を纏った女性が出てきます。美人さんです。

「驚かせてすまないね。私はシスター下呂。ご覧の通りのシスターさ」
「は、初めまして。片心叶実です。えと、見てました……?」
「なかなかの玉砕っぷりだったねえ。惚れ惚れしたよ」
「~~~!!」

 やはり見られていた! 一部始終を!
 恥ずかしさに顔から火が出そうな熱さを感じていると、シスター下呂は
 コツコツと近づいてきます。その手には、大きな腕時計のようなものが。

「お詫びと言っては何だが、これをプレゼントしよう。遠慮するな」
「はあ……」

 押し付けられるように手渡され、私はその謎の物体を手に入れました。
 シスター下呂の説明に従って腕に巻くと、カチッと音が。
 不審に思って外そうとしますが、なんたること! 外れません!!

「ちょっ、これ! なんなんですか!」
「どう、どう。それは『ハートブレイカー』だ。イカすだろう?」
「いえ全く」

 にべもなく突っ撥ねます。
 シスター下呂は少ししゅんとしましたが、咳払いひとつ、続けます。

「……まあいい。じゃあ次は、『ラブリメーション!』と叫んでみるんだ」
「な、なんですかそれ……! 嫌ですよ恥ずかしい!」
「一回、一回だけ。騙されたと思って、ホラ」

 ぐいぐい詰め寄るシスター下呂。
 うぐっ、美人さんに頼まれると折れそうになる私の弱点が……。

「ら……らぶりめーしょん……?」

 顔を赤くしながら、恐る恐る言います。
 その刹那、白光に包まれ制服から全身タイツへ換装! ヘルメットON!
 同時に私は悟ります――ああ、自分は今、変身ヒーローになったのだ!

「口上未定! 玉砕戦隊シツレンジャー!」

 口が自然と動き、身体も無意識にポーズをとります。

「……えええ!? なにコレ!?」

 直後、己の奇行に愕然とします。
 そんな私を見、シスター下呂は満足気に頷きます。

「うむ。やはり私の見立て通り、素晴らしい失恋エネルギーの持ち主だ!」
「せ、説明してください! なんなんですか、これ!」

 私の詰問に、シスター下呂は楽しげに答えます。
 曰く、これは女の子の失恋エネルギー(なんですかソレ)を使って
 莫大な戦闘力を生み出すとかなんとからしいです(うろ覚え)。
 シスターはそれの調査?をしているみたいです。難しい話は苦手です。

「要は、ガンガン恋愛してバンバン失恋してほしいってことさ」
「お、お断りますそんなこと!」
「大丈夫、君なら出来る! 私が保証する!」
「いらないですそんな保証! う、うわああああん!!」

 失恋からのこの怒涛の展開に、私の頭はもう許容量限界でした。
 礼拝堂の出口へ疾駆する私の背中に「明日も来いよー」とかかる声を
 振り切ります。いくら美人さんが待ってるとはいえ、もう来ませんよ!


 ・
 ・
 ・


 まあ来ちゃってるわけなんですけどね。

「とにかくがんばれ。応援しているよ」
「それは成否どっちですか?」
「ん? あっはっは、言うまでもないじゃないか」

 うぐぐ、馬鹿にして……!
 今に見てなさい! シツレンジャーなんか廃業にしてやりますよ!!



 ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



「最初は難しいかもだけど、一緒に頑張ろうねー!」
「はーい!」

 私は今、マスクやプロテクターなどを着けてキャッチャーボックスに
 座っています。
 中途半端な時期の入部ではありましたが、早川先輩の口利きの
 おかげか、最初からバッテリーパートナーとして練習に参加しています。
 なんかこう、嫌な子みたいな感じですけど、愛の前には仕方ないのです。

「それじゃ、投げるよー!」
「ばっちこい!」

 マウンドに立つ早川先輩と私の距離は、およそ19メートル。
 でも心の距離はもっとすぐ近く……なんて! きゃっ!
 とか言ってる間に振り被る早川先輩。私もぐっと構えます。

「――わあああっ!?」

 速ッ! 怖ッ!
 剛速球の迫力に思わず目を瞑った私の脇をボールが抜けていきます。
 目を開けてみると、早川先輩はぽかーんとしています。
 私はキャッチングを買われて入部したのですから拍子抜けは必然です。

「す、座ったり防具つけたりしてると、視野とか、なんか違いますね!」
「だ、だよねー! だんだん慣れてこっか!」

 互いにアハハと笑い合います。
 インチキキャッチを謝罪するならこのタイミングだったのかもですが、
 私はこの運命の出逢いをふいにしたくなかったのです……。
 それに、嘘を現実に、ってなんかカッコイイですしね! やったるで!

「それじゃ、気を取り直してもう一球!」
「はいっ!」

 そういえば、野球におけるキャッチャーは、ピッチャーにとって
 「女房役」と呼称することがあるそうですね。
 つまり、昨日の早川先輩のスカウトは即ちプロポーズだったのでは――

「わぎゃっ!?」

 ――などと考えていたら、先輩の投球が顔に命中してしまいました。
 マスクがなければ顔面がぐちゃぐちゃになっていたのでは……!? と
 恐怖するレベルの痛さです。泣きそうです。

「あっ! ごめん、大丈夫!?」
「ふぁい……」

 息がピッタリのオシドリ夫婦には、まだ遠そうです……。

 そして、そんな私たちの練習風景を見つめる影の存在に、私たちは
 気付いていませんでした。



 ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



「痛たた……!」
「我慢しなさい。……まったく、痣ばっかつくっちゃって」

 お姉ちゃんが溜め息混じりに冷やしたタオルを当ててくれます。
 あれからも早川先輩との居残り練習は続きましたが、当然ですが私は
 全然捕球できませんでした。先輩の微妙な表情が忘れられません。

「まあ……これも愛の勲章ってヤツかな……!」
「そりゃ良かったね」

 私のカッコイイ台詞もお姉ちゃんにかかれば一蹴です。
 それでもなんだかんだで介抱してくれるお姉ちゃんは優しいです。

「明日も遅くなるの?」

 患部に大きめの絆創膏を貼ってくれながら、お姉ちゃんが尋ねます。

「うん。明日も、その明日も遅くなるよ」
「……そう。あまり無茶しないようにね。はい、おしまい」
「ありがとーね、お姉ちゃん……ほわああ」

 処置が終わり、お姉ちゃんが救急箱を片付けるのと同時、私も大きな
 あくびをします。
 ヘトヘトになるまで運動した反動で、非常に眠いのです。

「疲れたし、もう寝るね……おやすみ……」
「おやすみ」

 ベッドに入って、ものの数秒で眠りに落ちます。
 お姉ちゃんの大きな溜め息は、夢の中の私には聞こえません。



 ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



 ばんっ! という快音と共に、ミットにボールが収まります。
 夫婦の営み(投球練習)が始まり一週間ほどが経過しました。
 私も徐々に夫への御奉仕(捕球)が板についてきたような気がします。

「片心ちゃん、だいぶ巧くなってきたねー」
「えへへ、それほどでもありますけど!」

 初遭遇のとき以来、初めて早川先輩にまともに褒められました!
 これはいよいよ時が来たのでは……いざ告白タイムなのでは……!?

「先輩、あの……私、先輩のこと、」

 ピーッ! ピーッ!
 間抜けな電子音が私の言葉を遮りやがります。
 なにを小癪な! しかし、その発生源がハートブレイカーであることを
 みとめると、なにか不吉な予感が私の脳裏を掠めます。

「な、なにアレ……!?」

 先輩が震え声で呟きます。
 視線を追うと、2メートル超のクリーチャーじみた怪人がいました。
 キャッチャーマスクやミットをモチーフにしたらしい外見です。

「アベ……アイカワ……タニシーゲ……!」

 意味の分からないことを口走りながら、怪人は猛然と近づいてきます!
 怪人が向かってくるなら、私も変身して迎え撃つべき――?
 でも先輩にあのダサい格好が見られちゃう! それは絶対に嫌!

「シマ……サトザッキ……ギンジローウ……!」
「――あぶないっ!」

 ――その私の逡巡が、致命的な状況を生んでしまいました。
 私が迷った隙に、すぐ目前まで迫っていた怪人の魔の手。
 寸でのところで先輩は私を突き飛ばし、攻撃から庇ってくれました。

「あうっ!」

 地面に倒れた私は、すぐさま身体を起こします。
 私を庇った先輩の無事は――?

「う、ぐうっ……!」

 苦しそうな声を絞り出しながら、先輩は怪人のミットに捕まっています。
 やがて、かくりと身体の力が抜けたようになります。
 気を失ったのでしょうか……ある意味、チャンスです。

「先輩……今、助けます!」

 私は毅然として立ち上がり、怪人を睨みます。
 ハートブレイカーに指先を添え――高らかに唱えます!

「ラブリメーション!」

 白光が私を包み(以下略)玉砕戦隊シツレンジャー参上!
 後悔はこいつを倒してからすればいい! びしっと怪人を指差します!

「怪人め! 先輩を放しなさい!」

 私の言葉に、怪人は手の中の先輩を地面にそっと横たえます。
 ……従うのかよ! しかもだいぶ優しい手付き!
 いや、あくまで狙いは私一人、ということでしょう……!
 眼前の敵を討つべく、私は武器を――

「――ん?」

 ……えーっと、こういうヒーローものって、なんか剣と銃を両立してる
 感じの武器が支給されてるんじゃありませんっけ……?
 なにも貰ってないんですけど……素手なの……?

「ジョージ・マッケンジーッ!」
「ひっ!」

 向かってきます!
 手から光線を出したりできる気も全くしないので、素手で相対するしか
 ないのでしょう。覚悟を決め、いざ尋常に!

「や、やあーっ!」

 がっしりと組み合います!
 ヒーローのチカラで強化された肉体は、体格で大きく差のある怪人が
 相手でもなんとか渡り合えています。すごい!

「早川先輩は……毎日、遅くまで居残って練習してたんです……!
 何か……大切なものを追い求めるように……!
 そんな、ひたむきな姿が素敵な、きらめく汗が眩しい先輩をっ……!」

 急き立てられるように私は言葉を紡ぎます。
 すると、怪人はその動きを鈍らせます。よく分からないけど好機!
 必殺技など存在しないので、とりあえず強化されたパワーで全力攻撃!

「てやーっ!」

 叶実チョップ!!
 攻撃を受けた怪人は、しばしの硬直の後――爆発!

「きゃーっ!?」

 びっくりして思わず叫んでしまいましたが、ダメージはなかったです。
 爆発で生じた煙が晴れると、そこには女の子がひとり倒れていました。
 キャッチャーマスクにミット……この子が怪人の正体でしょうか……?
 私のチョップによる外傷などは特にないようでほっとします。

「う、うーん……」

 と、どうやら早川先輩も気が付いたらしいです。
 ひいっ、こんな恥ずかしい格好を見られちゃたまらない!
 ってことで、私はフェンスの裏へと猛ダッシュし、変身を解除します。

「一体なにが――って、塚本! ちょっと、起きてよ塚本!」
「うっ……は、早川先輩! えっ、グラウンド!?」

 私も出て行こうかと思いましたが、なにやらお知り合いな雰囲気……?
 出るタイミングを逸した私の見つめる中、二人の会話は進みます。

「確かさっきまで、怪人みたいなのがいたと思うんだけど……」
「怪人……ですか?」

 早川先輩は気を失っていたみたいで、塚本さん(同級生の子です)も
 怪人になっていた間の記憶はないみたいです。
 私のあの恥ずかしい格好を覚えてる人はいないようで安心しました。

「……そうだ! 私、塚本に見せたいものがあるんだ! 座って!」

 何かを思い出したように、先輩は塚本さんをキャッチャーボックスへと
 促します。
 先輩自身もマウンドに立ち、ワインドアップ。
 塚本さんの構える先を見据え……力強い投球! 突き刺さる白球!

「――ッ! 先輩、今のっ……!」
「うん、そうだよ」

 驚いた様子の塚本さんに、にこりと微笑みかける先輩。
 い、一体どういうことなんでしょう……二人だけの世界っぽい……。

「『剛速球があれば他はいらない』私と、『制球力も大事』な塚本。
 方針の違いで大喧嘩しちゃったけど、いなくなって初めて気付いたんだ。
 あんたの存在の大きさ、ってやつに……!」
「先輩っ……!」

 二人は顔を朱に染め、うっとりと見つめ合っています。
 えっ、なんですかこの展開。きいてませんよこれちょっと。ねえ。

「一週間、キャッチングが全然ダメな子と組んで……思い知ったの。
 私には制球力が必要なんだって」
「こっそり見てましたけど、あの子、すごいへたっぴでしたね……」

 仕方ないじゃないですか! 最初のあれはインチキだったんですから!
 っていうか、私のキャッチング技術が向上してたんじゃなくて、先輩の
 制球力が向上してたから捕れるようになってたのね……あうう……。

「そして制球力が身についたら、あんたに言おうと思ってたんだ。
 塚本……いや、ミホ! もう一度私と組んで! むしろ付き合って!」
「早川……いえ、トウコ先輩。不束者ですが、よろしくお願いします……!」

 二人は瞳を潤ませながら、ひしと抱き合います。
 夕焼けが二人を鮮やかに照らします。

「うそぉ……」

 私、完全に踏み台じゃないですかー! やだー!



 ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



「うええええん……またダメだったよぉ……!」
「よしよし、可哀想に」

 お姉ちゃんに慰められながら、私の連敗記録が5から6へ更新されます。
 机の上の退部届までもが、私を嘲笑っているように感じられる夜でした。


 ★ 後逸ユアハート おしまい ★





 ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



「ん、しょっと……重いぃ……!」

 野球部での失恋からひと月程が経ちました。
 いくつもの培養土の袋を抱え、私は危なっかしい足取りで歩きます。
 明らかに腕力の許容限界を超えているのが分かります。
 このままでは倒れてしまうんじゃないかと少し不安になったり――

「うわ、わわっと!?」

 あーっ、言ったそばからこれだよ!
 足元が見えなかった私は石に躓き、体勢を立て直そうとして逆に後ろに
 よろけてしまいます。このままでは後頭部が地面に激突してしまう――

「あらあら」

 ――ところでしたが、その致命的接吻は訪れることはありませんでした。
 私の背後で、肩を掴んで受け止めてくれた存在がいました。
 ふわりと漂う香水のようなお花の香りが、私を優しく包みます。

「あ、すみませ――あ゛っ!!」

 転倒による怪我は免れましたが、一難去ってまた一難とはこのこと!
 今度は山と積んで運んでいた袋が崩れて落ちてきそうです。
 このままでは後頭部に袋が激突してしまう――

「あらよっと!」

 ――ところでしたが、その致命的接吻が訪れることはありませんでした。
 私のつむじギリギリで、袋を掴んで守ってくれた存在がいました。
 私をすっぽりと覆う大樹のような影が、私に安心感をもたらします。

「「 大丈夫だった? ――――むっ! 」」

 私を助けてくれた二人は見事にハモり、次いで互いを睨みます。

「マツリちゃん……叶実ちゃんは、私が先に助けたんだけど?」
「ハーン? アタシはより危機的な状況から叶実を助けたぜ、ハナ?」

 私こと片心叶実と、睨みあう両者・ハナ先輩とマツリ先輩は三人とも
 この妃芽薗学園の緑化委員です。学園にもっと緑を!な委員会です。
 園芸部との違いは、怖い方が園芸部、怖くない方が緑化委員会です。

「大体マツリちゃん、この前私が置いといた種、勝手に片付けたでしょ!」
「言いがかりだ! それを言うならハナもアタシの苗どっかにやったろ!」
「「 あーだこーだ! 」」

 ハナ先輩は草花による緑化を、マツリ先輩は樹木による緑化を
 それぞれ推進していて、それが元でよくぶつかっていたりします。

「あの、お二人とも、どうもありがとうござ――」
「叶実ちゃんっ! 私とマツリちゃん、どっちの助けが嬉しかった?」
「そんなの決まってるぜ! アタシだよなあー、叶実!」
「あ、あわわ……!」

 私はお二人の間に挟まれ、よくこんな感じであたふたしてます。
 お二人とも、もう少し仲良くできないものでしょうか。複雑な気分です。



 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



              ≪ 衝突ガーデニング ≫



 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



「ってことがあってさあ。いやあー、モテる女はツラいよねえー!」

 自室にて、私はお姉ちゃんにさりげない近況報告を行います。
 なんだかんだ言って可愛がって頂けるのは非常に嬉しいことなのです。

「へー、そう」
「もう! お姉ちゃん、ちゃんと聞いてる?」

 お姉ちゃんのそっけない返事に、私はぷりぷり怒ります。
 恋愛フラグの報告はシスター下呂にもするように言われているのですが、
 あの人は失恋!失恋!と囃し立ててきて、結局シツレンジャーのことも
 詳しく教えてくれないので、美人さんですがあまり話したくないのです。
 この前の失恋も「さすが私の見込み通り!」とか言われましたし……!

「二人の先輩が、あんたをダシにしてイチャついてるって話でしょ?」
「ちー! がー! うー! 私にもついに訪れたの! モテ期!!
 ここまで絶妙に縁がなかった私も、やっと運命の相手を見つけたの!」

 今日のお姉ちゃんはちょっといじわるです。
 私が二週間ほどずっと似たような惚気話をしている所為ではないと
 思うのですが……まったく不思議です。
 逃げるように野球部を退部し、いつもより重めに落ち込んでいた私を
 慰めてくれていたお姉ちゃんも、ひと月もたてばこんなものです。

「ハナ先輩は優しくてね! あとすごくいい匂いがして、一緒にいると
 胸がきゅんてなるの!
 マツリ先輩はとにかくカッコよくて! いつも元気で、見てるこっちも
 元気をもらえるの!」

 私は大好きな先輩の魅力をこれでもかと力説します。
 身振り手振りを駆使し、体験談も交え、私のテンションも最高潮です。

「分かった分かりました。とっても素敵な先輩なんデスネ」
「そうなの! でもでも! 私、一体どっちの先輩を選べばいいの!?
 二人とも素敵すぎて決めきれないよっ! 嗚呼、切ないっ!!」

 そう、それが大問題!
 ハナ先輩とマツリ先輩……お二方とも違った魅力を持っています。
 どちらかを捨てるなど、とても出来ません。重婚? そんな贅沢な……!

「こんな子の一体どこに惚れるんだかねえ……」

 くねくねと身を捩る私に、お姉ちゃんの呆れた視線と言葉が刺さります。
 ふ、ふんっ! こんな私がいいという運命の相手はきっといます!
 そしてそれは、きっとハナ先輩とマツリ先輩のどちらかなのです!



 ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



「ソノカちゃん、そっちはどうー?」
「あんまり量ないですし、すぐ終わりそうですー」

 明くる日の放課後、今日の委員会活動は草むしりです。
 地味な作業のですが、雑草を抜くことは植物の生育に大事らしいのです。
 下級生の緑化委員のソノカちゃんと手分けしてぷちぷち抜いていきます。

「おーい、叶実!」
「マツリ先輩!」

 そんな私の元へ、マツリ先輩が駆け寄ってきます!
 今日は先輩はお仕事なかったはずですが……まさか私に会いに!?

「ちょっと手伝って欲しいんだけど、大丈夫か?」
「はいっ! 今すぐ参ります!」
「よっしゃ! じゃあ行くか!」

 マツリ先輩の先導のままに私はその場を後にします。
 一瞬くるりと振り返って、ソノカちゃんにゴメンネのジェスチャー。
 ソノカちゃんは曖昧に笑って手を振ります。
 申し訳ありません……ですが、私は愛に生きるのです!


 ・
 ・
 ・


「マツリちゃん! ここにはチューリップを植える予定だったんだけど!」
「ハナぁ、知らないってそんなこと! 早いもん勝ちだって、なあ叶実!」
「あわわ……!」

 大変な状況です……!
 マツリ先輩が新しい苗を植えようとしたところは、ハナ先輩が前から
 チューリップの球根を植えようと目をつけていた場所らしいです。

「叶実ちゃんも叶実ちゃんよ! どうしてマツリちゃんと一緒にいるの!」
「あ、はい、お手伝いを頼まれて――」
「へーんっ! ハナよりアタシのほうがいいからに決まってんじゃん!」
「まあっ!」

 お二人の間にバチバチと火花が散ります。
 場所の取り合いという明白な火種が存在するためでしょうか、なんだか
 今日のお二人はいつも以上にヒートアップしているように見えます。

「そういうことなの叶実ちゃん!?」
「言ったれ叶実! ホントのとこ、どうなのか!」
「え、えーっと……!」
「私とマツリちゃん!」「アタシとハナ!」「「 どっちがいい!? 」」

 ほぎゃー! なんという修羅場になってしまったのでしょう!
 昨日も言ったとおり、私にはお二人を順位付けすることなど出来ません。
 ならばどうやってこの場を収めるか……やはり正直に言うしか……。

「えーっとえーっと……!
 ハナ先輩はいつも優しくて、仕事に不慣れだった私がミスしても
 怒らずに仕事を教えてくれて、あとすごくいい匂いがして……!
 マツリ先輩はいつもカッコよくて、私が困ってるとすぐに助けに
 飛んできてくれて、見てるとこっちまで元気をもらえて……!
 あの! 私、どっちか一人なんて選べな――――」
「「 違うっ!! 」」

 私の精一杯の激情を、二人の先輩の叫びが遮りました。
 そしてお二人は間髪入れず、同時に言葉を続けます。

「マツリちゃんの良い所はそれだけじゃないわ! 闇雲に助けに行くんじゃ
 なくて、力仕事に向いてない子には荷物を代わりに持ってあげたり、
 やり方がわからない子には自分が先に実演することで教えたり、
 ガサツなようで相手のことをちゃんと見ているの!」
「ハナはただミスを見逃してるだけじゃあないんだ! そのミスを自分の
 所為にして、先生や他の生徒に謝ったりしてるんだ! 普通の精神じゃ、
 他人のミスを庇って自分の責任になんてできやしねえ!
 ただ『優しい』なんて言葉じゃ形容できない優しさがあるんだ!」

 両先輩は迸るように捲くし立てていきます。
 感情のこもった叫びが私の鼓膜をびりびりと揺らします。

「叶実ちゃん!」「叶実!」「「 なにも分かってない!! 」」
「は、はひぃ……!」

 私は完全に呆気にとられてしまいました。
 激情を出し切ったご様子のお二人は、しばし荒くなった呼吸を整え、
 その後、ゆっくりと互いを見やります。

「ま、マツリちゃん……私のこと、そんな風に思っていてくれたの……?」
「ハナこそ……そんな風に言われると、なんだか照れちゃうぜ……!」
「「 えへへ……! 」」

 二人は互いを熱っぽい瞳で見つめ合い、肩を小突き合ったり指を
 絡め合ったりしています。
 これまでの諍いが、そして先ほどまでの舌戦が嘘のようです。

「ええぇー……」

 いや別にいいんですけど……仲良くしてほしかったですし……。
 でもこれ……ゆ、夢なら覚めてほしい……。

「ぷらんてーーーしょーーーーーん!!」

 愕然とする私の耳に絶叫が、次いで手首の忌まわしいアイテムの鳴らす
 警告音が飛び込んできます。
 私はゆらりと幽鬼めいて振り返り、ハートブレイカーに触れます。

「……ラブリメーションっ!!」

 涙声の変身コールが轟き、私は痛い色のスーツとヘルメットを纏います。
 ダブル失恋直後のためでしょうか、ひと月前とは比べ物にならない程の
 エネルギーが渦巻いているのが実感できます。
 目の前の怪人(麦藁帽子にタオル、軍手がモチーフぽいです)など、
 飢えた狼の前にぶら下げられた生肉のようなもの……!

「きえええええーっ!!」

 嘆きの口上省略からの――叶実フライングパワーボム!!
 激しく地面に叩きつけられた怪人は硬直の後、爆発。
 爆発痕の元には、ソノカちゃんが倒れています。君だったのか。

「ごめんねソノカちゃん……あとでアイス奢ってあげるから……」

 私は変身を解除しながら、目を回して気絶している彼女に詫びます。
 さて、周りを省みず変身した私でしたが、予測通り正体バレの心配は
 なさそうです。

「マツリちゃんっ……!」
「ハナっ……!」

 唯一目撃者になり得そうな人たちは、お互い以外は眼中にないのです。
 うう、自分で言ってて辛くなってきた……。

「ふむ。計算以上の、素晴らしいデータだ」
「うわあっ!?」

 いきなり背後からした声に私は跳び上がります!
 振り向けば、シスター下呂が忙しなく手帳に何かを書き込んでいます。

「お、お久しぶりです……」
「うむ。このところ報告をサボっていた件については、今日の働きに免じて
 不問にしてあげよう。まさかこれほどまでとは思っていなかったよ」
「はあ……ありがとうございます……」

 シスター下呂の目は興味深そうに輝いています。
 失恋エネルギーを糧にチカラを得るハートブレイカー、そしてその研究。
 私の今日の失恋は、彼女に思いの外の燃料を与えてしまったようです。

「先月も、初戦にしては期待以上の失恋エネルギーを発揮していた。
 さすがは私の見込んだ逸材……まさに、失恋の星の下に生まれた女!」

 まーたこの方は、ひとの傷口に粗塩を塗りこんできてからに!!
 しかも先月の戦いも知ってた! ホントもう何なのこの人!

「うわあああああんっ!!」

 私は泣きながらその場を逃走しました。



 ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



「……で、今度はダブル失恋したわけね」
「あああっ……! お姉ちゃあん……!」

 お姉ちゃんの膝に顔を埋め、私は赤子のように泣きじゃくります。
 連敗記録は7飛んで8にまで伸ばしました。泣かずにいられようか。

「…………やっぱりお姉ちゃんの言うように、私、魅力ないのかな……」

 えぐえぐと嗚咽しながら、つい弱気な言葉を零してしまいます。
 そんな私の頭に、柔らかな手がぽんと乗せられます。

「大丈夫。いつか絶対、叶実の全てを好きになってくれる人が現れるよ」

 お姉ちゃんは私の頭を撫でながら、優しく慰めてくれます。
 私はまたぶわりと涙腺が決壊してしまいます。

「うううーっ! もうお姉ちゃんしか信じられない……!」
「よしよし。泣き止んだら、叶実の好きなアイスを食べようね」
「……私ばにら」
「はいはい、分かっておりますとも」


 ★ 衝突ガーデニング おしまい ★





 ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



「――以上で中間試験の返却を終わります。今回赤点だった生徒は、
 放課後に課題のプリントを取りに来ること。提出期限は今週中です」

 英語の授業が終わり、お昼休みの時間になりました。
 仲良し同士で机をくっつけたり並んで食堂に向かったり、思い思いの
 方法で憩いの時を過ごそうと生徒たちが動き出します。

「叶実ー。あんた今日は食堂か購買か……って、どうしたの」
「…………」

 私(片心叶実)は机に突っ伏したまま、返却された答案用紙を持った手で
 頭を抱えています。
 呼びに来たお姉ちゃんは私の手をこじ開け答案を奪います。

「うわあ……」
「なにその反応!? もっと慰めるとかないの!?」

 私はがばっと跳ね起きお姉ちゃんに詰め寄ります。
 まあ私の試験結果が壊滅的なのは確かなわけですけども。
 どれくらい壊滅的かというと、課題を提出しなければいけないくらいです。

「自業自得でしょ? 私が勉強してる横でずっと遊んでたのはどなた?」
「…………」

 ぐうの音も出ません。
 しかし無情にもお腹はぐうと鳴ってしまいます。

「……腹が減っては戦ができぬって昔の偉い人が」
「然様ですか」



 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



              ≪ 片道トライアングル ≫



 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



「はあー、憂鬱……」
「しゃんとしなさい、しゃんと」

 御飯も食べて、放課後です。
 私はお姉ちゃんと一緒に職員室へ向かっています。
 お姉ちゃんは私の監視役とかではなく、普通に日直当番なのです。

「失礼しまーす」
「失礼します」

 入室し、お姉ちゃんは担任の先生の下へ、私は英語の先生の下へ。
 目的のデスクには、なんと先客がいました。
 同じクラスの河原マリコさんです。彼女も赤点だったのでしょうか。

「あら、片心妹さんも来ましたね。一緒に聞いてください」

 私は河原さんと並んで、先生のお話を聞きます。
 話を要約すると、課題自体の締切は今週いっぱいですが、提出したら
 課題の確認テストを行うそうです。それに不合格だった場合、さらに
 課題を出され、合格できるまで地獄のマラソン状態……!

「き、厳しすぎますよ! 赤点だったんですよ私たち!」
「しっかりと課題を解けば合格点はとれるように作っています。頑張って!」

 ぐっ!と握り拳を作る先生。む、無責任!
 私たちはプリントを携え、重い足取りで職員室を後にします。
 すると、出てすぐのところにお姉ちゃんが待っていました。

「おかえり。どうだった?」
「もう、かくかくしかじかだよー!」
「ふーん。大変ねえ」

 お姉ちゃんは他人事みたいに言います。
 いやまあ実際他人事なんですけど、でも私に勉強を教えるのは他ならぬ
 お姉ちゃんの役目ですからね。お姉ちゃん、成績すごく良いですし。

「河原さんも頑張って。分からない問題とかあったらいつでも頼ってね!」
「は、はいっ……」
「ちょっとお姉ちゃん、私と態度違いすぎない!? 私も頼らせて!」
「あんたは自分の所為で課題になったんだから自分の力で乗り切りなさい」
「そんな殺生なー!」
「あの……職員室の前で、その、うるさくするのは……」

 私とお姉ちゃんが言い争っていると、職員室のドアが小さく開いて、
 隙間から担任の先生がジロリと覗いてきました。
 その責めるような視線に、私もお姉ちゃんもピタリと争いを止めます。

「「 す、すみませんでした……! 」」

 すかさず二人でペコペコと平謝りします。
 お姉ちゃんは先生からの信頼も厚いのでこんなことで印象を悪くしては
 いけませんし、私に至っては成績すら悪いのに心象まで悪くなっては
 最早明日の命も存在しません。

「……とりあえず、部屋戻りましょうか」
「……そだね。河原さんも一緒にどう?」
「えっ……いいんですか?」
「うん! 一緒にお姉ちゃんに勉強教えてもらおうよ!」
「河原さんを抱き込めば自分もお零れに与れると思って……まあいいけど」
「じゃあ、その……よろしくおねがいします」

 そんなこんなで、三人で連れ立って寮の部屋に帰るのでした。



 ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



「だから、そこ違う。この場合の接続詞はこっちを使うんだって」
「わあーん! もう無理だよおー!」

 勉強会が開始されてから30分程が経過した頃。
 度重なるペケにより私の集中力も枯渇し、私はベッドに身体を投げます。

「いいもん……私一生日本にいるから英語なんていらないもん……」
「まったくこの子は……。……河原さんはどう? 分からないとこある?」
「あっ……。えっと、ここの部分が、少し……」
「どれどれー?」

 私がすっかり飽きてしまった後も、河原さんは勉学に励んでいます。
 その姿を、私はベッドにごろんと寝転がりながら観察します。

 河原マリコという女の子のことを、私は正直ほとんど知りません。
 彼女とは今年から同じクラスになったので、話したのも数回程度。
 大人しくて口数も少なく、あまり仲の良い友達がいる印象もありません。

「ああー。そこはね、動詞の変化が……こう。ね?」
「わっ……! あ、ありがとうございます……!」
「あはは、いいって。河原さん、飲み込み早いし、教えてて楽しいよ。
 このままがんばろ!」
「はいっ……!」

 ですが、こうして見ていると、彼女が暗い性格であるとは思えません。
 引っ込み思案な面はあるようですが、一生懸命に努力し物事に打ち込む
 ことができる、強い心を持っているようにすら感じます。

「叶実、いい加減サボるの終わりにしなよ。河原さん、もうすぐ終わるよ」
「サボりじゃなくて休憩ですぅー……えっ、ウソ!! もう!?」

 い、いくらお姉ちゃんのサポートがあったとはいえこんなに早く……!
 河原さん、もしかしてやれば普通にできる子なんじゃないでしょうか。

「やっぱり河原さん、やれば勉強、普通にできるじゃない。
 失礼かもだけど……どうして赤点なんてとっちゃったの?」
「えっと……」

 これぞ双子というべきか、お姉ちゃんも私と同じ疑問を持ったようです。
 お姉ちゃんからの問いに、河原さんは答えに窮してる様子。

「あっ、答え難かったら無視してもらっても全然構わないからね?」
「その……あ、相部屋の方が……。毎晩、お友達を部屋に呼んで……」

 つっかえつっかえでしたが河原さんは話してくれました。
 相部屋さんが毎晩友達を部屋に招き、そこで騒いでいるとのことです。
 その際、河原さんは飲み物を買いに行かされたり見回りの先生が
 来ないか偵察させられたり、とても勉強できる環境じゃないらしいです。

「部屋を変えてくれるよう寮監の先生に頼んでみたりは?」
「……私、相部屋を申し込むような仲の良い友達とか、いないですし」

 首を振り、河原さんは悲しげに呟きます。
 友達がいないから、というのは直接的な理由ではなく、おそらく相部屋の
 その方が恐ろしいのでしょう。ただでさえ気弱な河原さんですから、
 心強い親友がいれば、というのはあるかもしれませんが。

「お姉ちゃん」

 私の呼びかけに、お姉ちゃんは微笑み、頷きます。
 やはり考えていることは同じなようで私も笑みが零れます。

「河原さん、今日、泊まってかない?」
「えっ……!」

 河原さんは驚いて目を丸くしています。

「ホラ、今まで河原さんとあんま絡みなかったじゃない?
 これも何かの縁ってことで、もっと仲良くなりたいなーって!」
「もちろん、河原さんが嫌じゃなければだけどね」
「そんな、嫌じゃないですっ! ……あっ、その……すごく嬉しい、です」

 言い切った河原さんは顔を真っ赤にして俯いちゃいました。
 その仕種が可愛らしくて思わずドキッとしてしまいます。
 ともあれ、決まりです。私とお姉ちゃんは顔を見合わせて笑います。

「じゃあ私、寮監の先生に伝えてくるね。ちょっと休憩タイムってことで」
「やったー!」
「あんたはずっと休んでたでしょうが」

 立ち上がり、お姉ちゃんはパタパタと部屋を出て行きます。
 こういうときは優等生が行った方が都合がいいですからね。なにかと。
 お姉ちゃんの足音が遠ざかってゆく中、河原さんが頭を下げます。

「その……すみません。ご迷惑をおかけして……」
「謝んないでよー! 好きでやってるんだし、困ったときはお互い様!」

 実際私もお姉ちゃんも好きでやっているので、問題ナッシングです。

「むしろ、私たちの方がごめんね。なんか無理言っちゃったみたいで」
「そんなことないですっ。片心さんも片心さんも、こんな私に優しく
 してくれて……って、あれ?」
「ぷっ……あはははっ! それじゃどっちがどっちか分かんないよっ!」
「そ、そうですよね! ごめんなさいっ……!」

 いたって真面目な顔で繰り出されたボケが私のツボにドストライクし、
 私はしばしベッドの上で笑い転げました。
 続く謝罪まで生真面目だったのも含めて相当ポイント高かったです。

「はあっ、はあっ……! 私のことは叶実でいいよ。お姉ちゃんは愛実ね」
「分かりました、叶実さん。……私のことも、マリコって呼んでください」

 顔を赤くしながら微笑むマリコちゃんに、私の心臓が高鳴りました。
 私の中で、マリコちゃんに対する庇護欲がむくむくと湧き上がります。

「う、うん。改めてよろしくね、マリコちゃん」
「はい、こちらこそ。叶実さん」
「へへ……!」
「えへへ……」

 この気持ち……! 覚えのあるこの感情は、紛れもなく恋です。
 マリコちゃんのようなタイプの女の子に感じるのは初めてでしたが、
 それゆえにこの気持ちの強さ・確かさが分かります。
 河原マリコちゃんこそが、私の運命の相手に違いありませんっ……!

「……あっ。私、なにか飲み物買ってきますね。皆さんの分も」

 マリコちゃんが立ち上がります。
 私は「そんなこといいって」と引き止めますが、マリコちゃんは首を振り、

「なにかお礼がしたくて……私が好きでやるんです」

 そう言って、にこりと微笑み、部屋を出て行きました。
 先ほど私が使った言葉のお返し、といった具合でしょうか。
 打ち解けてみると、こんな冗談まで言える本当に良い子です。

「ずっとここにいればいいのになあ~~~」



 ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★



(叶実さんも愛実さんも、良い人だなあ……)

 私――河原マリコは、購買部を目指し寮の廊下を歩いています。
 片心叶実さんと片心愛実さん。
 とても優しい二人のおかげで、私は久しぶりに心から笑えた気がします。

(チカちゃん……私、がんばってるよ)

 チカちゃんは去年私のルームメイトだった子で、この学園での唯一の
 親友でした。
 しかし2年生に進級する直前、いきなり姿を消してしまいました。
 例の神隠し現象……だと思います。

 すごく悲しくて、勉強にも身が入らず、新しい相部屋の方との不調和も
 あり、この頃は精神的にかなり参っていました。
 手を差し伸べてくれたお二人には、本当に感謝してもしきれません。

 このまま三人で生活できたら、どれだけ楽しいでしょうか――

「あれぇ、マリコじゃん。どこ行ってたんだよォー。心配したぜ」

 弛緩していた身体に緊張が走り、有頂天だった思考も地に墜ちます。
 声の主は坂本さんという方です。……私と相部屋の方です。
 彼女は私の姿を見とめ、ゆっくりと近づいてきます。

「まあいいや。これからみんなを呼ぶんだよ。部屋帰ろうぜ」

 目の前の坂本さんが笑います。
 その笑みすら、私には恐ろしいものにしか感じられず――

「……嫌、です」

 気付けばそう言っていました。

「……あ? なんつった?」
「あの……き、今日は、お友達のところにお泊りするつもりで……!
 というか、できれば……あの部屋には、もう戻りたくな、」
「ハッ! ……そうかよ」

 勢いで思っていることをぶちまけてしまいましたが、後悔はありません。
 手を差し伸べられても、掴まなければそれは助けにはならないのです。
 その手を掴むために……私は一歩、踏み出さなければいけません。

「あたしンとこは嫌かよ。なあ、マリコよォ!」

 坂本さんの手が私に迫ります。
 私は目を瞑り身体を強張らせます。

 ……………………。

(……あれ?)

 数秒後、いつまでも訪れない手に疑問を抱き、目を開けます。
 ――私を庇うように立ち、坂本さんの手を掴む愛実さんがいました。

「……なんだお前」
「彼女の友達よ」

 私は混乱のあまり言葉を発せずにいました。
 どうして愛実さんがここに? どうして私なんかを助けてくれるの?
 もし……もし彼女まで標的にされてしまったら、どうすればいい?

「あたしとマリコの問題だ。関係ないだろ」
「関係あるわ。彼女は今日、私の部屋に泊まるの」

 言葉と共に、愛実さんは私の手を握ります。
 暖かな何かが流れ込んでくるような感覚がして、私の震えも止まります。
 思わず私の瞳から涙が零れてきてしまいました。

「彼女が怖がってること、嫌がってること……お願いだがら考えてあげて」

 愛実さんの言葉に、坂本さんはばつが悪そうに舌打ちし、

「……今日のところは勘弁してやる。じゃあな」

 踵を返し、自分の部屋の方へと去っていきました。
 坂本さんがいなくなった後、愛実さんは懐からハンカチを取り出します。

「はい。それと先生に許可は貰ったから、今日はよろしくね」
「あの……本当にごめんな、」

 私が頭を下げるより早く、愛実さんは掌を出してSTOPを表し、

「いいってば。私も叶実も好きでやってるんだから。困ったときは、ってね」

 叶実さんと同じ言葉。
 さすがは双子だなあ、と思うと、ほっこりして笑みが浮かんできます。

「……ありがとうございます。今日はよろしくおねがいします、愛実さん」

 言ってから、はたと気付きました。
 私が愛実さんを名前で呼ぶ経緯を彼女は知らない――!
 やだ、馴れ馴れしい子と思われてしまったろうか。慌てて説明しようと
 した私に彼女はクスリと微笑みかけ、

「うん。帰りましょっか、マリコちゃん」

 その言葉が、その微笑が、私の心にじんわりと広がって、私の顔は
 かあっと真っ赤に染まります。
 爆発してしまうんじゃないかという程の拍動の正体も分からず、
 この甘やかな幸福感をずっと味わっていたいと思いました。



 ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



「はあーっ! お、終わったあ……!」

 休憩が終わって勉強再開。晩御飯。勉強。お風呂。また勉強……。
 そして時刻は午後11時を少しまわったところ。
 私は見事、課題を終わらせました! 疲れました……!

「お疲れ様。あんたにしては、よく頑張ったわね」
「私、課題を出された日のうちに終わらせるとか初めてだよ……」

 ちなみにマリコちゃんは帰ってきてすぐ課題を終わらせてしまいました。
 それに飽き足らず試験対策の勉強までしていて……なんという勤勉さ。
 で、今はお風呂に入ってます。お姉ちゃんが一番風呂を勧めましたが、
 家主より先にはとても……と固辞されてしまい、それで今に至ります。

「お風呂ありがとうございました……」

 と、丁度出てきました。
 お風呂上りのせいでしょう、顔を真っ赤にして、ぽうっとした様子です。
 とても色っぽいです。お姉ちゃんのパジャマもよく似合っています。

「どうする? 久しぶりに頭使って疲れてるなら、もう寝ちゃう?」
「人をワンパクな小学生男子のように扱わないでよお姉ちゃん……。
 せっかくマリコちゃんが来てるんだしさ、コイバナしようよ! へへ!」
「こ、こいばな……!」
「あんた、ホント好きねえそういうの」

 ふんっ、浮いた話の一切無いお姉ちゃんのような人が珍しいのです。
 見なさいマリコちゃんを。顔をさらに赤くしてしまっています。
 こういった話題に慣れていないのでしょうか、初々しくて可愛いです。

「最初はそうだなー……マリコちゃんに話してもらおっかなー!」
「!?」

 硬直するマリコちゃん。おっふ、なんだかゾクゾクします。
 庇護欲を掻き立てることは、すなわち嗜虐心を煽ることでもあります。
 女子に意地悪する男子小学生の気持ち、今なら少し分かる気がします。

「今好きな人とかいる!?」
「えっ……えーっと、その……!」

 顔を限界まで赤く染め、忙しなく周りをチラチラ窺う仕種。
 か、可愛すぎます! 思わず涎が垂れてきそうです。もっといじめたい!
 お姉ちゃんがゴミを見るような目で私を見てますが積極的に無視です!

「今まで付き合ったことある!?」
「はわっ!」
「今までちゅーとかしたことある!?」
「はわわっ!」
「今まで――」
「いい加減にしなさいっ!」

 すぱーんっ! と快音が響き、お姉ちゃんが私の頭をはたきました。
 ついつい興奮して身を乗り出していた私は丁度良く迎撃された形になり、
 結果、顔面が床に激突しました。鼻の骨がすごく痛いです。涙目です。

「い……痛いじゃん!」
「それは何より。痛くしたつもりだったから。……マリコちゃん、大丈夫?」
「はぃ……」

 マリコちゃんは頭から煙が出そうな様子です。
 うーむ、堪能しました。

「じゃあ次はお姉ちゃんね! お姉ちゃん、好きな人いる!?」
「っ……」

 お姉ちゃんがギクリと身じろぎします。
 この反応……もしかして、お姉ちゃんにも春が!?

「うっそーーー! 誰、だれ!?」
「……いないわよそんなの! くっだらない!」

 お姉ちゃんはピシャリと言い放ち、そっぽを向いてしまいます。
 うぐぐ……すごく追及したいですが、お姉ちゃんは非常に一途というか
 頑固な性格ですので、一旦シャッターを閉めてしまった以上、よほどの
 ことが無い限り再び開かれはしないでしょう。また後日か……!

「そういうあんたこそ、あのダブル失恋からこっち、なんああった?」
「ダブル失恋?」
「ぎゃーっ! その話はやめて!」

 あの二人、日を追うごとにどんどん親密さが上がってて、今ではもう
 ずーーっとベタベタしてるんです。とてもツラいので思い出したくない!
 マリコちゃんはきょとんとしてますがノータッチでお願いしたいです。
 お姉ちゃんの勝ち誇ったような笑みが憎たらしい……!

「ごほんっ! 実は私ね……今、好きな人がいるんだ」
「そ、そうなんですか!? わあ~っ……!」

 私のカミングアウトにマリコちゃんは目を輝かせます。
 純情ないい反応だ……! 「またかコイツ」みたいな荒んだ目をしている
 どこかのお姉ちゃんとは大違いですね!

「それで私ね、今度の確認テストに合格できたら……告白、するんだ」
「はうっ……素敵……!」
「なんか死亡フラグみたいね、それ」

 縁起の悪いこと言わないでください! 折角自分に酔ってるんですから!
 まったく、マリコちゃんの反応を見てください。その瞳はより一層輝き、
 まるで宝石みたいに煌いています。
 お姉ちゃんもこういう乙女な反応が出来ないんですか?

「私も……合格したら、告白しようかな……」

 何事かをボソリと呟くマリコちゃん。
 聞き取れなかったのはお姉ちゃんも同様のようで、二人で「ん?」と
 マリコちゃんに注目すると、彼女は慌てた様子でかぶりを振り、

「な、なんでもないですっ!」

 と言って、小さく俯きます。
 それと同時、お姉ちゃんが何かを思い出したように手をぽんと叩きます。

「そうだ。確認テストなんだけど、可能なら明日中に受けちゃいなさい」
「なんで!? 今日の明日だよ!」
「だからいいんじゃない。今日勉強したことを忘れないうちに受けた方が
 いいと思うの。特にあんたの記憶なんて、いつまで残ってるか怪しいし」

 むむ……ほんのり馬鹿にされてる気がしますけど一理ありますね……。
 付け加えるなら、テストの日程がもう少し後になったとしても、それまで
 テスト勉強に励むかというと恐らくなにもしない自信もあります。
 しかし、そうなると告白もだいぶ早いなあ……まあ望むところですがね!

「気は重いけど、明日受けるか……。マリコちゃんもそれでいい?」

 私は傍らの少女に呼びかけます。
 しかし彼女から返事は無く、見るとすうすうと寝息を立てています。
 私たちは顔を見合わせてクスリと笑い、マリコちゃんに布団をかけ、
 電気を消して就寝します。

「もうちょっと詰められる?」
「んー……はい、どう?」
「いい感じ、いい感じ」

 私のベッドはマリコちゃんが寝てしまっていたので、今日はお姉ちゃんの
 ベッドに入れてもらいます。
 一緒に寝るのは、その……まだ早いですし……えへへ……!

「おやすみ、お姉ちゃん」
「うん、おやすみ」

 背中合わせで身体を横たえると、脳の疲労は確かに存在したようで、
 急激に眠気が襲ってきます。抗わず、まどろみの世界へとダイブします。

(――好きな人……告白……か。出来るわけないじゃない、そんなの)

 眠りに落ちる直前、背後でお姉ちゃんの溜め息が聞こえた気がしました。



 ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



「「 ほわわあ…… 」」

 翌朝です。
 朝食をとるため、三人で並んで食堂へと向かっています。
 マリコちゃんとあくびがシンクロしたという、たったそれだけのことで
 これだけ幸せな気分になれるのですから、やはり恋は素晴らしいです。

「っ……!」

 突如、食堂の入り口でマリコちゃんが立ち止まります。
 怯えた表情で身体も僅かに震えていて、ただ事で無い様子です。
 彼女の視線を追うと、ちょっと怖い感じの女の子のグループがいました。

「マリコちゃんの相部屋の人」

 お姉ちゃんがこそっと耳打ちしてきます。
 なるほど、あの人たちがマリコちゃんに横暴な振る舞いをしていた……!

「大丈夫だよ」

 震えるマリコちゃんの手をとり、私は力強く握り締めます。
 見れば、反対側でお姉ちゃんも同じく手を握っています。
 震えが止まり、マリコちゃんは私たちの手をぎゅっと握り返しました。

「……チッ。行くぞ」

 相部屋さんグループはその場を立ち去ります。
 食べ終えて帰るところだったのでしょうか。規則正しい生活習慣です。
 何事もなく良かったです。マジで。だいぶ怖かった……。

「ありがとうございます。何度も……」
「気にしない気にしない! それよりおなかペコペコだよー」
「そうね、早く御飯をいただきましょう」
「ありゃあ? お姉ちゃんが食い意地張ってるなんて珍しいねえー?」
「大事なテストがあるかもだからね。腹が減っては戦が出来ぬ、でしょ?」
「うぐっ……! それを引っ張るの……!」
「???」



 ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



 朝食後、私たちはホームルーム前に先生に課題を提出に行きました。
 お姉ちゃん曰く、そういうところで熱心さをアッピールすることが
 大事なそうです。優等生虎の巻ですね。勉強になります。

「……というわけで、確認テストを今日の放課後にでもやったりって、
 どうですかね、できませんかね……?」
「うーん、そうねえ……。私の受け持ちで赤点はあなたたち二人だけだし、
 折角片心妹さんがこれだけやる気になってるんだもの、水を差しちゃ
 悪いものね。分かりました、放課後に2階の空き教室でテストします」
「了解でっす!」
「分かりました……!」

 職員室を出、廊下で待機していたおねえちゃんにグッと親指を立てます。
 お姉ちゃんは顔をほころばせます。

「良し、良し。じゃあ放課後まで、休み時間は復習タイムね」
「うへえぇ……今日一日の我慢だ……」
「ふふっ、一緒に頑張りましょう」

 一緒に、ですって! なんか照れますねへへへへ!
 ええ、がんばりますよモチロン! テストを突破し、あなたのハートも
 射抜いて魅せます! 決意を胸に私は一歩を踏み出し――

「やーあ、久しぶりだなー叶実ちゃん。ひと月振りかな?」

 ずっこけました。
 声をかけてきたのは、いるはずのない人。懺悔室の住人。
 私にハートブレイカーを押し付けた張本人ことシスター下呂です。

「誰?」
「シスターさん……?」

 お姉ちゃんとマリコちゃんも困惑気味です。
 それも当然でしょう。私ですらだいぶ混乱していますし。
 とはいえ、彼女がわざわざ出向いてきた以上、失恋エネルギーの話を
 されることは読めます。つまり、二人には聞かせられません。

「あっ……私、あの人と用事があったんだった! ごめん、先行ってて!」

 言い残し、私はシスター下呂の元へ足早に去ります。
 うん、我ながら自然な振る舞いだ。これは怪しまれまい。
 チラリと後ろを確かめると、お姉ちゃんがマリコちゃんを促して教室へ
 歩いてゆきます。うんうん、それでオッケー。

「……ご無沙汰してます」
「うむ。君が来てくれなくてとても寂しかったぞ」

 くっ、どう考えても「失恋報告がなくて」という意味なのに嬉しく感じて
 しまう自分の単純さが憎い……!

「今日は、一体なんの用ですか? いつもお忍びだったのに」
「用? やだなあ、久しぶりに君の顔が見たくなっただけさ。それだけだよ。
 ところで、さっきの二人が君の次の失恋対象かい?」

 せめて恋愛対象とか言ってください!
 そういうところが苦手なんですよう、この人。それさえなければ、調子の
 いい言葉も素直に喜べるのに。
 ――って、ダメです! 今の私には心に決めた人がいるんですから!

「ちっちゃい子の方は、まあ、好きな子です。もう一人はお姉ちゃんですよ」
「叶実ちゃんのお姉さんかあ。なるほど、道理でどこか似ているはずだ」

 双子ですからねえ。そっくり、とまではいかないですけど。
 でも色々と似通ってるのは確かで、私が思ってることはお姉ちゃんも
 思ってたりしますし、身長とか胸とかの肉体面も似たり寄ったりです。

「ということはアレかな? 彼女もまた失恋の星の下に生まれたのかな?」
「その表現やめてください。……でも、実際どうなんでしょう。
 全然話してくれないんですよね。本当に好きな人いないのかな?」
「ほーお」

 シスター下呂は興味深そうな声音で何度か頷きます。
 なにかが彼女の琴線に触れたのでしょうか。そのまま会話の無い時間が
 少し続き、やがて辺りに鐘の音が響きます。

「あ、予鈴。すみません、ホームルームなんで私行きますね」
「うん? ああ、呼び止めてすまなかったね。たまには顔を出すんだよ」
「考えときます! じゃっ!」

 適当な返事を残し、私は教室へと急ぎます。
 曲がり角を横切る際に目の端で先ほどいた場所を見ますが、そこに
 シスター下呂の姿はもうありませんでした。



 ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



 時間は流れ、お昼になりました。
 休み時間のたびにお姉ちゃんがやってきて監視するので、居心地は
 良くなかったながらも復習はバッチリです。テストも希望が持てます。

「うーーーんっ」

 私は伸びをし、凝り固まった身体をほぐします。
 そうする間にお姉ちゃんとマリコちゃんも集まってきます。
 今日のお昼は購買のパンなどをつつきながら、教室で引き続き勉強する
 という予定なのです。お姉ちゃん監修なので徹底的です。

「購買が混む前に急いじゃいましょうか」
「そうしよっかー」

 気持ち早歩きで教室を出ます。
 なにを買おうかと他愛の無い雑談に花を咲かせる中――
 ピーッ! ピーッ! と、それは鳴り響きました。

「うぇっ!?」

 私の手首に装着されたハートブレイカーが警告音を発します。
 けたたましい騒音にお姉ちゃんは顔をしかめます。

「……ねえ。前から訊こうと思ってたんだけど、それ……」
「あ、アラームが故障しちゃったみたい! ごめん、先行ってて!
 私ちょっと機械に強い友達んとこ行って直してもらってくるから!」

 一日に二度も「先行ってて」を使うことになるとは。
 それも、こんな大事な日に。しかし腐ってばかりいられません。
 駆け出す私の背後にお姉ちゃんの声がかかります。

「ちょっ……叶実!」
「私コロッケパンね! よろしくー!」

 私の足は止まりません。背中越しに叫び返し、そのまま走り去ります。
 後でお姉ちゃんにきつく詰め寄られるかもしれませんが、それはそれ。
 今、怪人から日常を守れるのは、私しかいないのです。たぶん。

「あの、愛実さん……」
「はああ……仕方ない。あの子の分も買っときましょう。いこ」
「はい……」



 ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



「はあーっ、はあーっ……!」

 息を切らせた私の前には、今回の怪人が佇んでいます。

「…………」

 ジャージに木刀がモチーフ、でしょうか。過去最高に恐ろしいです。
 場所は校舎の裏。幸いにも、周りに人影はありません。
 私は変身するべく、ハートブレイカーを構えます。

「とっとと終わらせてお昼食べるんだから……ラブリメーション!」

 瞬く間に私は赤色全身タイツに包まれます。
 おそろいの色のヘルメットを被り――玉砕戦隊シツレンジャー参上!

「てやーっ!」

 先手必勝! 主導権を握るべく先制のキックを放ちます!
 が、怪人は容易く私の蹴り足を弾きます。
 間髪入れず体勢の崩れたところへ木刀で追撃――!

「ぐっ!」

 木刀の一撃を腕でガードします。
 当然ですがめっちゃ痛いです。目に涙を溜めながらぐっと堪えます。
 失恋の心の痛みに比べれば、こんなもの屁でもないっ!

「やーっ!」

 腕はじんじんと痺れているので、連続でキックを繰り出し反撃します。
 怪人は木刀で攻撃を弾きながら小刻みに突きを放ってきます。
 得物を持ち、攻撃と防御に隙が無い……こいつ、今までの怪人と
 比べ物にならないくらい強いです! なんなんですか幹部ですか!

「わっ! たっ! とおっ!」

 ヒーローと怪人の激しい攻防! ……といえば聞こえはいいですが、
 実際は終始怪人に主導権を握られています。
 私はじりじりと追い詰められ……遂に校舎の壁に背中がぶつかります。

「せ、せめて一発でも当てられれば……!」

 これまでの怪人は、私の一撃でみんな爆発しています。
 ヒーローの攻撃には怪人を浄化するチカラがあり、一発でも攻撃を
 当てればイケる、というのが私の仮説です。さっき考えました。
 ゆえにこのガードの堅い怪人には非常に苦戦しているわけですが……。

「なにか反撃の手立ては……!」

 辺りを見回しますが、そんなものが都合よく転がっていることなど
 考えがたいですし、事実ありません。
 一方、怪人は木刀を水平に構え、全力の突きを繰り出します!

「きゃーっ!」

 私は間一髪で転がり避けます。
 一瞬前まで私の頭があった壁には、深々と木刀が突き刺さっています。
 その威力の凄まじさに慄いている場合ではありません! 敵の武器が
 固定されている今がチャンスです!

「うおーっ!」

 咆哮と共に私は殴りかかります。
 これさえ当てれば――! 対する怪人は木刀から両手をパッと放し、
 私の腕を易々と掴みます。オゲエーッ! ヤバイ!

「こ、これでもかーっ!」

 すかさず掴まれていない方の腕でもパンチを繰り出しますが、これも
 読まれていたのか、流れるようにもう片方の手でキャッチされます。
 今の私は、両腕を怪人の両手で掴まれている状態です。まずいです。

「あわわ……!」

 なんとか振り解こうとしますが、筋力も向こうが上のようで微動だに
 しません。
 怪人は頭を軽く後ろに振り……勢いをつけてのヘッドバッド!

「あぐっ!」

 怪人の額が私の額を強かに打ちます。
 衝撃に私は後方へと転がってゆきます。ヘルメットは半壊し、私の
 素顔が覗いています。ちょっとこれ装甲薄くないっすか?

「…………」

 怪人はゆっくりと木刀を抜き、上段に構えます。
 いよいよトドメを刺すおつもりでしょうか。本格的にピンチです。
 しかしフラつく身体では、立ち上がるだけで精一杯です。
 絶体絶命の四文字が私の脳裏に瞬いた、次の瞬間――

「――おらあああッ!」

 怪人の構えた両腕に跳び付く人影がありました。
 大きく腕を振って剥がそうとする怪人でしたが、その存在は執念深く
 しがみついています。
 今こそ……今こそ、戦局を打開するチャンスです! 動け、私!

「ちぇあーーーっ!」

 突撃敢行!
 私の接近に気付いた怪人は前蹴りで迎撃を試みます。
 ですが――それは読んでいました! 無理やり身体を捻り、回避!
 回避した勢いのままに身体を振り……必殺の叶実裏拳!!

「ッ……!」

 私の拳は怪人の腹部に突き刺さりました。
 直後――他の怪人と同様、盛大に爆発します。
 爆炎が晴れると、そこにはジャージ姿の少女が倒れています。
 うーん、この子、最近どこかで見たような……?

「はあーっ、はあーっ……! おう、助かったぜ……!」

 思案していた私に声がかけられます。
 怪人の木刀に取り付いてチャンスを作ってくれた人です。
 その人は……よく見ると、今朝食堂で会った、マリコちゃんと相部屋の
 方じゃないですか!

「こ……コチラコソ、助力ニ感謝シマス」

 複雑な心境で、思わず声音を変えて返答します。
 相部屋さんは不可解そうに眉を顰めます。

「まあ、身内だからなぁ、そいつ……。身内といえば、マリコが世話に
 なってるな。片心叶実」

 ば、バレとるーーー!?
 あたふたしていると、相部屋さんが顔の右半分を指差します。
 なにかと思って触れてみると、自分の素肌に触れます。アッ、そういえば
 ヘルメットが壊れてるんでした。は、恥ずかしい!!
 あと、見覚えがあったのは、怪人さんも今朝見かけたからみたいですね。

「……世話っていうか、なんていうか。あなたに言われる筋合いはないよ」

 変身を解除しながら、私はつっけんどんに返します。
 愛しのマリコちゃんをいじめていた人に和やかな対応ができるほど、
 私は大人じゃないのです。

「……信じられねえかもしんねえけど、いじめるつもりはなかったんだ。
 最初に会ったときのあいつ、すげえ絶望的な表情で……なんとか
 元気づけてやりたくて……」

 相部屋さんはぽつぽつと語りだします。
 曰く、相部屋になった直後のマリコちゃんは非常に沈んでいたそうで、
 相部屋さんは元気づけたいと思い部屋に友人をたくさん呼んで賑やかに
 しようとしたらしいです。

「でも、ダメだった。あたしとあいつじゃ、なんてーか感覚が違くて……。
 あたしは騒ぐしかやり方を思いつけなかったし、呼んだ連中は連中で
 マリコをパシリくらいとしか思ってねえみてぇだったし、でもあたしも
 そいつらを注意して自分から離れられるのが怖くて……」

 最初の小さな間違いがどんどん広がり、大きくなって、彼女たちを
 互いに苛んでいた、ということでしょうか。
 結果自体は許せるものではないですが、相部屋さんもまた苦しんでいた
 ようです。

「そのこと……マリコちゃんに伝えて、やり直せば……」

 そして、少し話しただけですが、彼女がマリコちゃんに好意を抱いている
 ことも感じられました。それなら、なおさら打ち明けるべきです。
 しかし相部屋さんは自嘲的に笑い、

「今更あたしがなにを言っても、あいつを怖がらせるだけみてぇだ。
 ……分かってんだ。もう新しい居場所も見つけたみてぇだしな」
「そんな……誤解くらいは解こうよ! 好きなんでしょ!?」

 相部屋さんは一瞬ドキリとした表情を見せますが、すぐに首を振ります。

「あたしの入る余地はねぇよ。分かんだよ、ずっと気にしてたからさ。
 昨日と今日とで、あいつを救っちまったヤツがいることはさ」
「――え?」

 予想外の言葉に、私は呆気にとられます。
 そんな私の反応に、相部屋さんは驚いた様子です。

「おいおい……あれだけ近くにいて気付いてなかったのかよ。
 あいつが、マリコが見てるのは――」



 ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



「叶実、遅いわねえ」
「道に迷っていたりするんでしょうか……」
「さすがにおなかがすいたわね……先に食べちゃいましょうか」
「だ、ダメですよう」
「ふふ、冗談だって。そういえばマリコちゃんはなにを買ったの?」
「えっと、メロンパンです。甘いの好きなので……」
「ああー、なんかマリコちゃんぽいかも」
「ま、愛実さんは、なにを買ったんですか?」
「私は叶実の分のコロッケパンと、カツサンド。テストに勝つ、ってね」
「わあっ、縁起いいですねっ」
「あはは。まあ、テスト受けるのは私じゃないんだけどね」
「じ……じゃあ……」
「?」
「その……ひとくち……貰っても、いいですか? ご利益、的な……」
「うん、もちろん! あ、私もメロンパン、一口食べていい?」
「は、はいっ!」

 机をくっつけ、笑い合う二人の姿。
 その片方、マリコちゃんは、ほんのり赤い表情をコロコロと変え、心から
 楽しげな様子です。お姉ちゃんに向ける視線は、私がマリコちゃんや
 かつて振られた相手の方々に向けていたものと同じ光を湛えています。

「……あっ! 叶実、遅い!」
「叶実さん、おかえりなさい」
「――遅れてごめーん! やー、帰りに寄ったトイレが混んでてさあー!」

 静かに心が崩れる音を、おくびにも出さぬよう努めました。
 今回は、泣いて飛び込む膝はないのですから。



 ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



「……うん。片心妹さんが82点で、河原さんがなんと100点!
 二人とも文句なしに合格です! よくがんばりましたね!」
「ほっ……良かったあ」
「良かった良かった」

 努力の甲斐あり、テストは無事突破することが出来ました。
 次は最初から合格点を取ること!と言い残し、先生は退室します。
 私は帰り支度を始めたマリコちゃんに向き直ります。

「ね、さ。昨日私、テストに受かったら告白するっていったじゃん?」
「あっ……そうですね! えっと、がんばってください!」

 まっすぐな瞳で応援してくれるマリコちゃん。
 胸に刺さらないといえば嘘になりますが、でも、こういう子だからこそ、
 好きになったのだと思います。

「その……今から、するね」
「えっ」
「河原マリコさん。あなたが好きです」

 私の告白に、マリコちゃんは驚愕し目を見開きます。
 微かに頬を染め、しかし視線は僅かに沈みます。その反応で、告白の
 回答が予想通りであろうことを感じます。

「……ありがとう、ございます。
 こんな私を好きになってくれて、本当、すごく嬉しいです。
 ……でも、ごめんなさい。私その、好きな人が、」
「知ってる。お姉ちゃんだよね」

 マリコちゃんが顔を上げます。
 驚きと恥ずかしさが入り混じった表情です。
 しばらく言葉無く唇を動かした後、振り絞るように言葉を発します。

「じゃあ……どうして……?」

 好きな人がいると分かっている相手に、どうして告白するのか。
 理由はいくつかあったと思います。その中のひとつに、自分の気持ちを
 殺すことにした相部屋さんに対する当て擦りもあったかもしれません。
 でも、一番は――

「――お姉ちゃんなら、って。
 私の自慢のお姉ちゃんなら、きっと心から応援できる、って。
 それなら、安心して失恋できるなあ、って。そう思ったんだ」

 言い切ったと同時、マリコちゃんが私に抱きついてきます。
 瞳からはボロボロと涙の粒が零れています。

「叶実さんっ……! ありがどう、ございまずっ……!」
「あはは、これじゃどっちが振った側かわかんないね」

 ひとしきりそうしていた後、泣き止んだマリコちゃんは私から離れます。
 ペコリとお辞儀し、雨が上がった後の快晴のような笑顔で言います。

「……私、愛実さんに、告白してきます」
「うん! ファイト!」

 私が立てた親指に、マリコちゃんも応えて親指を立てます。
 マリコちゃんは小走りで教室を出て行き、私だけが残されました。
 そんな私の肩に、ぽんと手が乗ります。

「いやー、いい振られっぷりだったよ。私、感動して泣きそうだ」
「ええ、なんとなく来そうな気はしてましたよ」

 今更紹介する必要も感じませんが、まあ、シスター下呂です。
 私の記念すべき9敗目を見られていたようですね。
 いつから見ていたのかは存じませんが。

「なんだかんだ言いながらもコンスタントに失恋エネルギーをチャージして
 くれるんだから、君はシツレンジャーの鑑のような隊員だ。嬉しいよ」
「別に好きで失恋してるわけじゃないですけど」
「やはり君は失恋の星の下に生まれたようだな。望むと望まざるとに
 関わらず、君の恋路には常に敗北の宿命が待っているということ……!」

 相変わらず好き放題言ってくれます。
 言われっ放しも癪なので、私も少し楯突いてみようと思います。

「……じゃあ、これだけ働いてる私に、なにか御褒美は無いんですか?」
「うん? ああ、これは気が利かなかったね。なにが欲しい?」

 まさか受け入れられるとは思っていなかったので、自分で言っておいて
 おねだりに悩んでしまいます。
 少し考えて、私は口を開きます。

「そうですね……。モノとかはいらないですけど、情報が欲しいです。
 シツレンジャーってなんなんですか? あの怪人は?
 ……あなた、何者なんですか?」

 核心を突いた私の言葉に、シスター下呂は驚いた表情を見せます。

「ふむ、そうきたか。まあ、働き者の君に私も礼儀を示さねばなるまいよ。
 いいだろう、お答えしよう。心して聞くがいい」
「はいっ……!」

 謎の人物、シスター下呂。
 その正体が、ついに明かされようとしています。

「『シスター下呂』の名は偽名だ。本名は明かすことは出来ないが……。
 その代わり、身分は教えよう。私は十束学園の研究者――“教員”だ。
 礼拝堂を拠点とし、主に魔人の分析・改造などを行っていてね。
 シツレンジャーは研究対象の『人造魔人-タイプ・モデュレイテッド-』の
 発現形態のひとつだ。ハートブレイカー……武装に因子を組み込み、
 複数の人間が同時にシツレンジャーという同一の魔人能力を得る。
 能力自体はささやかな肉体強化に過ぎないが、武装さえ取得すれば
 君のような非魔人でも扱えるし、高二力フィールド化でも発動できる
 優れものさ。まあ、その分『失恋エネルギー』という適正が必要とされる
 のだけれどね。
 懺悔室でこっそり本部と通信していたところ、丁度君が振られていてね。
 礼拝堂だけに、あの出会いは神の思し召しだったのかもしれないね。
 怪人も似たような研究によるものだろうが、一体誰が放ったのだろうね。
 まあ、出来損ないの尻拭いも仕事のひとつだ。君には引き続き頑張って
 ほしい。――――と、まあそんなとこだ。理解できたかな?」
「いえ、全く……」

 シスター下呂が実はシスターではなく先生だってことは辛うじて……。

「あっははは! まあ、君ならそうなるだろうと思って話したんだがね!」
「むっ。なんか馬鹿にされてる気分……!」

 実際理解できていないんですけどね。
 本当ならもっと分かりやすい説明を求めるところですが、口ぶりから
 察するに、これ以上詳しくは教えてくれないでしょう。

「おっと、おしゃべりが過ぎてしまったね。私はそろそろお暇するよ」

 仰々しい仕種でシスター下呂は扉に向かって歩き出します。
 廊下に出る直前に首だけ振り向き、

「じゃあね、叶実ちゃん。今後とも良い失恋ライフを」
「お断りですよーだ。べっ」

 舌を出す私をクスリと笑い、シスター下呂は出て行きました。
 さて、再び私一人です。この教室には用が無いのは確かなのですが――

(今帰っても、お姉ちゃんとマリコちゃんの邪魔になっちゃうかもだしなあ)

 失恋直後にこの気の利かせよう! 己の成長が誇らしいやら悲しいやら。
 シスター下呂とのお話でだいぶ時間を潰せましたが、もうちょっと遅くに
 帰りたいところです。適当にブラつくか、と結論して、私も教室を出ます。



 ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



「……あれっ?」
「っ!」

 とりあえず飲み物でも、と思い購買へ向かっていた私は、そこで
 会うはずの無い人と遭遇します。
 お姉ちゃんです。たったひとりで、こんなところで。

「あれ? マリコちゃん、帰ってないの?」
「……帰ってきたわ。お話も聞いたわ」

 お姉ちゃんの暗い声のトーンから、嫌な予感が背筋を撫ぜます。
 なんて答えたの――? 訊きあぐねる私に、お姉ちゃんは口を開きます。

「……断ったわ」
「どうしてっ!?」

 私はお姉ちゃんに詰め寄ります。
 お姉ちゃんは鬱陶しそうに顔を背け、

「……別に、あんたに関係ないでしょ」

 私を押し退けて立ち去ろうとします。
 ……私の中で、感情が噴火しました。
 その冷たい背中に、気付けば私は言葉を発していました。

「――やめちゃいなよ、そんな恋」

 お姉ちゃんが振り返ります。
 その瞳に浮かぶ怒りの色には気付いていましたが、もう、止まりません。

「……やっぱり、好きな人、いるんだよね?
 でも昨日の反応とか、今までの浮いた話の無さとか、お姉ちゃん、たぶん
 その恋を成就させる気、ないよね?
 ……そんな恋、なんの意味があるの?
 お姉ちゃんを好きだって言う人を傷つけてまで、拘る意味あるの?
 そんな恋さ……いっそのこと、諦めちゃ、」

 私の言葉を遮るように、胸に衝撃が走ります。
 お姉ちゃんが私の胸倉を両手で掴んでいます。俯いているために表情は
 分かりませんが、肩は振るえ、嗚咽の音が聞こえています。

「……なんで」

 声がして、お姉ちゃんは顔を上げます。
 ぐしゃぐしゃに歪んだ顔で、その双眸からは涙を流しています。

「なんであんたに、そんなこと言われなくちゃならないの……!?
 ひとの気も、知らないでっ……!!」

 言い切ると、お姉ちゃんは手を放すと、踵を返して去っていきます。
 今度こそ、私はお姉ちゃんを止められませんでした。
 いつも強くて優しかったお姉ちゃん。そんなお姉ちゃんの涙を初めて見た
 衝撃に、私は呆然としていました。



 ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



「……おはよ」
「おはよう、ございます……」

 あれから部屋に戻った私はマリコちゃんと、お姉ちゃんを待ちました。
 しかし、待てど暮らせどお姉ちゃんは帰らず、こうして夜が明けました。
 ちなみにマリコちゃんの宿泊許可は、一週間分も申請していたようです。
 その用意周到も、褒める相手がいないのでは空しいばかりです。

「愛実さん、どこにいるのでしょうか……」
「友達のとこに泊まってると思うんだけど……教室で会ったら、話してみる」


 ★ 片道トライアングル おしまい ★





 ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



 決意と共に教室へ向かった私たちは、予想外の事態に直面します。
 お姉ちゃんが授業に出てきません。
 あの優等生が、先生に連絡もせずに、です。

「どうしてしまったのでしょう……やっぱり私が変なことを言ったのが、」
「いや、原因はたぶん私の方。マリコちゃんは気にしないで」
「でもっ……!」

 自然、楽しいはずのお昼休みも暗い雰囲気になってしまいます。
 休み時間ごとに手分けして聞き込みを行ったりもしたのですが、有力な
 情報は得られませんでした。

「…………もし、このまま帰ってこなかったら、私っ……!」

 絶望的な表情で呟くマリコちゃんの手をぎゅっと握ります。

「大丈夫。お姉ちゃんは絶対に見つける!
 ……放課後は、マリコちゃんは部屋で待ってて。お姉ちゃんが
 戻ってくるかもしれないから」
「分かりました……。あの、叶実さんは……?」

 私は頭の中に、ある場所を思い描きます。

「……もしかしたら、手掛かりを見つけてくれるかもしれない人に、
 心当たりがあるんだ。その人のところに行ってみる」



 ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



「やあ。昨日の今日で、なんて殊勝な心掛けだろう」
「シスター下呂」

 久しぶりに訪れた礼拝堂には、憎たらしくも美人さんのシスター下呂の姿。
 私の呼びかけに、彼女は首を傾げて続く言葉を待ちます。

「お姉ちゃんが、昨日から行方不明なんです。なにか知っていませんか?」

 シスター下呂が何かを知っているとは思っていませんでした。
 ですが、彼女は常人とは別の技術ないしは知識、繋がりなどを有している
 はずです。手掛かりを見つけることが、もしかしたらできるかもしれない。

「君のお姉さん……昨日見た子だね。……フゥーム」

 呟きながら、ごそごそと白衣の中をまさぐります。
 なにか追跡アイテムとか、そんな感じの便利なものでもあるのでしょうか。

「実はね。昨日の深夜、いつもの如く学園を深夜徘徊していたのだが」

 思わずツッコみたくなる発言ですが、積極的にスルーします。
 突っついても藪から蛇が出てくるイメージしか沸きませんし。

「その道すがら、こんなものを拾ってね」

 そう言って、手帳のようなものを取り出します。
 近づいて受け取ると、ウチの生徒手帳であることが分かります。
 私これどこやったか覚えてないよ……携行してる人いたんだ……。

「場所が場所だけに、つい回収してしまったよ。まあ、名前を見るといい」

 生徒手帳の最終ページには、顔写真を貼り、名前や緊急連絡先、実家の
 住所等を記すページがあります。
 わざわざ生徒手帳を携行してる人なら、そこもしっかり書いてるでしょう。

「っ……!」

 ――片心愛実

 名前も。顔も。紛れもなくお姉ちゃんです。
 私は生徒手帳を固く抱き、シスター下呂に詰め寄ります。

「どこっ……どこで、これを!?」
「あそこだよ、あそこ。中等部校舎2階、踊り場の鏡のところ」

 その場所に、覚えの無い生徒はこの学園にはいないでしょう。
 踊り場の鏡の噂。なんでも願いを叶えてくれるという、まどか様の噂。
 同時に不穏な噂も存在します。確か、鏡の中に引き擦り込まれるとか。

「お姉ちゃんは……鏡の中に引き擦り込まれた、ということ……?」
「さて、ね。私はオカルトは専門じゃないからねえ。
 まあ、気になるなら調べてみればいいし、なんならそのまどか様とやらに
 『お姉ちゃんを見つけてください』とお願いするのも一興じゃないかな」

 いつもと変わらぬシスター下呂の不躾な物言いですが、今は逆にそれが
 安心感を生んでいました。不思議なものです。

「ありがとうございました。あの、これなんですけど……」
「ああ、お姉さんの生徒手帳なら、もちろん君が持っていくべきだろう。
 お姉さんにちゃんと返してあげるんだよ」
「……はいっ! では、失礼します!」

 私は早足で礼拝堂を退出します。
 深夜の3時に起きるなら、今から寝ておかないと寝過ごしそうで不安です。



 ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



 むくり。

 私はベッドから身を起こします。
 枕もとの目覚まし時計の示す時刻は、午前2時30分。
 丁度良い時間に起きられたようです。さすがは私の体内時計。

 マリコちゃんを起こさぬよう、こっそりとパジャマから制服に着替えます。
 お姉ちゃんがおなかをすかせているといけないので、カバンに少しですが
 食料と水を入れます。よし、これで準備万端!

「あの……」
「うわあっ!?」

 マリコちゃん起きてた!!
 曰く、明らかに様子がおかしかったので寝ないで待っていた、とのこと。
 で、ですよねー。いきなり午後8時くらいに寝るとか言い出したら、
 そりゃ怪しむなという方が無理ってもんですね。

「本当に、行くんですか?」
「うん。まあハズレかもしんないけど、一応、ね」
「…………」

 不安そうな表情を見せるマリコちゃん。
 もし、私まで消えてしまったら……、と心配してくれているとしたら、
 それは非常に嬉しいことです。大丈夫、ちゃんと帰ってきますよ!

「あ、そうそう」

 私は思い出したようにマリコちゃんに声をかけます。

「あの、相部屋の人」
「坂本さん、ですか?」
「うん。あの人、そんなに悪い人じゃないからさ。出来ればでいいけど、
 仲直り……っていうか、一回ちゃんと話してみるといいと思うよ」

 マリコちゃんは目をパチクリと瞬かせます。
 まあ、いきなりこんなことを言われても分かったとは言えないでしょうが、

「分かりました。いつか、必ず」
「えっ……いいの!? 自分で言っといてなんだけど、いいの?」
「はい。……叶実さんがそう言うなら、きっと、大丈夫です」

 そう言って、マリコちゃんはにっこりと微笑みます。
 ああ、この子は、たぶん既に本来の強さを、マリコちゃんらしさを
 取り戻しています。これなら、私がいなくても、もう大丈夫でしょう。

「……じゃあ、またね!」
「はい、また!」

 静寂が包む寮に、扉を閉める音がほのかに響きました。



 ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆   ★   ☆



「やあ。これは偶然」
「絶対偶然と違うでしょう」

 現在時刻は午前2時50分。
 件の鏡の前に到達した私は、絶賛深夜徘徊中だったのでしょう、
 シスター下呂に会います。

「そう警戒しないでくれ。栄えあるシツレンジャー第一号である君に、
 ささやかながら餞別を持ってきたんだ」
「せんべつ……?」

 そう言うと、シスター下呂は紙袋のようなものを示します。
 中を見せてもらうと、うげえ、大量のハートブレイカー……!

「もし『向こう』で良さそうな人を見つけたら、是非シツレンジャーに
 勧誘してくれたまえ。いなかったら、投擲武器としてでも使ってくれ」
「は、はあ……ありがたく頂戴します……」

 なんというか、本当に研究意欲の逞しい人だなあと思いながら紙袋を
 受け取りま重っ!!

「ちょっ、これ何キロですか!?」
「うーん、そうだなあ。大体9キロくらいかな」
「重すぎですよ! シリアスなシーンに変なボケ挟まないでください!」
「あっはっは。あまり大声を出すのはまずいんじゃないかな」
「ぐぬぬ……」

 く、口の減らない……!
 とりあえず、この大量のハートブレイカーは持って行くことにします。
 突っ返すのもなんですし、私が安心して未知の世界に踏み出せるのは、
 最初は嫌で嫌で仕方なかったこの謎アイテムのおかげでもあるからです。

「おっと、もうすぐ午前3時だね。じゃあ私は深夜徘徊に戻るよ。
 君の武運を祈っているよ、叶実ちゃん」
「……はい。色々と、お世話になりました。また、礼拝堂で」

 手をひらひらと振りながら、シスター下呂は階段を降りてゆきます。

(……さて)

 ここからは、正真正銘の独りです。
 この先にお姉ちゃんがいるのか。――連れ戻せるのか。正直、不安です。
 ですが、あんな別れ方をしたままサヨナラなんて、絶対に嫌です。

「まどか様、まどか様、おいでください」

「まどか様、まどか様、おいでください」

「――まどか様、まどか様、おいでください」

 絶対に、お姉ちゃんを見つける!!


 ☆ 片心叶実 エピソードSS おしまい ☆


なんだかんだでお姉ちゃん優しい!
そして小学校6年生の時点で同性愛に目覚めてた叶実ちゃんすげー。
将来有望ですね!
あ、やっぱり無意識にポーズをとっちゃう系なのか…w
野球怪人だー!
しかも最後は思いっきり物理攻撃!
不思議パワーで浄化するとかそういうので は無いんですね…w
叶実ちゃん報われない!これで失墜6回目!
園芸部との違いww 緑化委員会は怖くないんですね、良かった!
「きえええええーっ!!」って叫びがなんつーか酷いw
叶実ちゃんの狂乱ぶりが伺えますね!
マリコちゃん良い子だ!可愛い! 神隠し…。
途中から流血少女っぽい要素もちゃんと入ってる!
キャー愛実姉さんカッコイイ!
恋話で赤くなるマリコちゃん可愛いな!あざとい!
おぉ…相部屋さんも彼女なりに頑張ってたのか。
切ないな…今まで頼りにしてたお姉ちゃんが失恋した相手の好きな子なんだ
もんなぁ…。
叶実ちゃん良い子だな!伊達に(失恋の)場数を踏んでるわけじゃないな!
ええー!?シスター下呂さん十束学園の"教員"だったのかよ!
転校生の久我原史香ちゃんと同僚だ!
おおー!流血少女のエピソードに絡めた終わり方だ!いいなーこれ!
文量の割りにとても読みやすく、スラスラ読めました!

ふええ・・・おもしろい・・・15点じゃ足りないよぉ・・・

最終更新:2013年07月31日 01:22