流血少女エピソード-斗羅宇魔子-






■エピソード
いつの頃からだろう…他人の心が読めてしまったのは。

どうしてだろう…他人の嫌がることしか見えなかったのは。





宇魔子は生まれながらの魔神能力者であった。
そして生まれながらに醜かった。
否、不気味だったというのが正しかったかもしれない。

宇魔子が物心ついた頃から、彼女は不思議に思うことがあった。
声が聞こえるのだ。誰も喋っていないのに。

彼女は近くの母に聞いてみた。
「お母さん、お母さんは2番目なの?2番目って何?なんで泣いてるの?」
その瞬間、宇魔子の頬に衝撃が走った。


一瞬何が起こったのか分からなかったが、ジンジンと熱を帯びてくることにより、平手打ちを喰らったことが分かった。
『あ、あんたは何を言ってるの!?』
母親は多くの人の真ん中で顔を真っ赤にし、涙を浮かべながら叫んでいた。
宇魔子はひたすらごめんなさいを繰り返すしかなかった。
ほどなく両親は離婚し、父は姿を消した。
その日から、彼女は母親に毎日恨み事を投げかけられながら殴られるようになった。

「心斬逝天」…宇魔子の能力である。
対象のトラウマを覗きこみ、刺激することで怒りを爆発させる。
しかし、この能力はそこで終わることはなかった。

小学校に入学した宇魔子はいじめの格好のターゲットになっていた。
彼女の醸し出す雰囲気が周りをそうさせていたのか、能力ゆえにそうなってしまったのかは分からない。
同学年、先生、はては道行く人まで彼女を不気味に感じ、暴力をふるい、疎ましく思っていた。
そして思わず言葉を口にする度、相手は怒り、さらに宇魔子は暴力を受けた。




中学校に入学した時、宇魔子はスラリと背の高く細い、体型だけならモデルさながらの容姿に成長していた。
それが気に食わない心無い人達から、さらにいわれの無い恨みをかっていた。

その頃の宇魔子はすでにおかしかった。
何か言えば相手が怒り、暴力を振るわれる。ゆえに人との接触を断ってきた。
人間全てを憎んでいた。
動物だけが友達だった。
動物たちは何を言っても怒らなかったからだ。

ある日、彼女が路地裏でこっそりと可愛がっていた子猫にミルクを持って行くと
そこには無残な姿が横たわり、横ではクスクスと笑う同級生の女の子たちがいた。

宇魔子は絶叫した。その姿を見て女の子たちはさらに笑い声を大きくした。
憎い…どうして私ばかり、こんな目に…。

気づいた時には宇魔子は相手に対し声にならない声で叫んでいた。
いつも聞こえていた相手の心の声を、あらん限りぶつけていた。

いつものように顔を赤くし、怒り狂う人間たち。
それでもなお、今まさに溢れかえる自分の思いをぶつけずにはいられなかったのだ。
宇魔子にとってその後の暴力はどうでもよかったのだ。

しかし、宇魔子が叫び終わった後の様子が今までと違った。
怒り狂った人間が拳を振り上げたその時、崩れ落ちたのだ。
口から涎を垂らし、白目をむくものもいれば、虚空にブツブツと何かをつぶやいている者もいた。
宇魔子はその場から逃げ出した。

後日、学校で集会が開かれた。
学校の生徒の何人かが、心を病んだとかで病院に担ぎ込まれたらしい。

宇魔子はほくそ笑んだ。
そして自分の能力を完全に理解した。

「心斬逝天」…対象のトラウマを覗きこみ、刺激する
ことで怒りを爆発させ、そして崩壊させるー。

彼女は自分の能力を研究し高めた。
幸いなことに実験材料は周りにいくらでもいた。
こうして彼女の能力は完成した。
宇魔子は人間を憎んでいた。
それ故に人間を壊すことに躊躇はなかった。

そして、ある噂を聞く。

妃芽薗学園ではどうやら血なまぐさいことが起こっているらしい…。
そうか、そんなところなら人間を壊し放題じゃないか…。
彼女は人間を壊すため、うっすらと笑みを浮かべながら学園へと足を運んだ。

しかし、彼女は気づいていなかった。
すでに母親を壊していたこと、そしてそれによって自分が壊れていることを…。



最終更新:2013年07月26日 23:26