流血少女エピソード-矢達メア-







■エピソード
私は本が好き。
雨の日は一日中、本を読んで過ごす。
本を開けばいつでもそこには、素敵な世界が広がっている。
胸躍る冒険、涙誘う悲恋、背筋凍る恐怖、腹の底から怒りの湧く邪悪。
全てを忘れて、本の中の世界に没頭してめくるめく時を過ごす。
本を読んでいる間だけは、雨の音だって気にならない。

私は雨が嫌い。
雨は私の大切なものを、ぜんぶ壊してしまった。
私の生まれた小さな山あいの村は、雨に押し流されて消えてしまった。
住んでいた家を失い、友達は散り散りになった。
濁流の中に飲み込まれ、還ってこなかった子も何人もいる。



その雨を降らせたのは、私のお父さんだ。
お父さんは、優秀な雨乞い師だった。
もう長いこと会っていない。
お父さんがどこに居るのか、お母さんは教えてくれないから。

もう、お母さんはお父さんのことを愛していないんだと思う。
だけど、まだ離婚はしていない。
私のためにそれが一番いいからだ、とお母さんは言う。
でも私は、お父さんを一番苦しめるためにそうしているんじゃないかと感じている。

私は、両親のことを好きなのか嫌いなのか、判らなくなってしまっている。

私は本が好き。
たとえひと時だけでも、嫌なことをみんな忘れさせてくれるから。
いつか、誰かが、私をどこか違う世界に連れてってくれないだろうか。
白馬の王子様なんて、高望みはしない。
このつまらない世界から連れ出してくれるのならば、それが悪魔だって構わない。



最終更新:2013年07月26日 22:30