陸軍一佐フジクロ

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高級なダークスーツを折目正しく着込んだ、20代後半程の男。
現在公安部に所属するフジクロと全く同じ名前を持つ正体不明の人物だが、
このフジクロは強化された女神の能力によりダンジョン内に紛れ込んだ、
2017~2018年頃――2014年のクーデター後の、『未来』の同一人物である。

クーデター後は策謀と政治的闘争に明け暮れているため、文官的な印象もあるが、
その本性は、クーデター時の激戦を最前線で戦い抜いた、生粋の戦闘者でもある。
格闘、射撃、ブービートラップ等、軍人として要求されるあらゆる技術の基礎能力が高く、
機械的な正確さと柔軟な機転を兼ね備えたその戦闘には、およそ弱点らしい弱点がない。

【所持品】
フジクロの初期装備は以下の通り。
「サバイバルナイフ×2」
「H&K P9S+サプレッサー」
「高張力ワイヤー(一巻)」
「小型無線機」

以下は12羽の烏がそれぞれ持ち運び、必要に応じて装備を入れ替える。
「H&K P9S」
「予備マガジン」
「高張力ワイヤー(一巻)」
「小型爆弾×9」

【H&KP9S】
ハンマー内蔵式の自動拳銃。45ACP弾使用。装弾数7+1発。
フジクロが初期装備している一丁は、サプレッサーを装着している。

【小型爆弾】
フジクロが自作した、格闘用の特殊手榴弾。サイズは万年筆大の円筒形。
単体では破片をほぼ飛散させず、半径30cm程度の僅かな範囲のみを爆風効果で破壊する。
ピンを引きぬいた後に、投げつける等の衝撃を与える事で、その圧力を感知して起爆する。


「身体スキル」:【CQC Lv.4】【投擲技術Lv.4】
「知的スキル」:【作戦立案Lv.4】【トラップ知識Lv.4】
「固有スキル」:【八咫鴉[魔]】【射撃Lv.4】
「オプション」:【個人兵装各種Lv.5】【小型爆弾×9 Lv.5】

特殊能力『八咫鴉』

フジ家によって生体調整された1本足の烏を、自在に使役する能力。
(烏の身体能力は一般的なハシブトガラス相当)
これらの烏とは常に視覚を共有し、思考するだけで指令を忠実に実行させる事ができる。
聴覚についてはリンクされないものの、烏の足には小型無線機が備え付けられているため、
限定的ながら周囲の音声を得る事も可能。

制約は、能力対象となる烏を、半年以上自らの手で飼育すること。
クーデター時に参戦した烏は僅か3羽であったが、現在はさらに操作可能数が増えている。
今回の戦闘で操る烏の総数は、『12羽』。

プロローグ

「希望崎学園の生徒会に所属していた頃の話だ。
 君も知るように……魔人達が自治を行う希望崎学園は、一つの小さな社会と言っても良い。
 当時の生徒会長は、ド正義卓也という男だった」

「ド正義卓也。名前だけは聞かされたことがあります」

 何らかの会議が行われた後なのだろう。
 四角いテーブルを囲んで整然と揃う椅子と、その一つに尊大に腰掛ける男。
 傍らで姿勢を正して立つ男はそれよりも若く、恐らくは彼の側近なのであろう。
 彼ら2人以外に人影はなく、ただ会話をする声だけが、淡々と続いている。
                         ロール
「能力を持つものにはそれを認めさせる『役割』が必要だ、というのが彼の主張だった。
 それまでは魔人共の烏合の衆であった生徒会を組織化し……
 役員には秩序の維持という役割を与え、それを生徒に周知させた」

「……」

「学園内に魔人の為の『国』を建国しようとしていた、との噂もあった。
 それが本当なのかどうか、結局は分からずじまいだったがな……クックックッ」

「つまりは……防衛大臣。
 この『国家刺客試験制度』の導入は、当時の生徒会の思想の再現でもある、と」

「当時の俺とド正義卓也には、確かに主張で相容れない部分も多くあった。
 だがそれでも、奴の慧眼に認めるべき点が多くあった事も事実だ。
 魔人達が魔人達であるままに、社会へと浸透させる『役割』を与える。
 その効果は俺が、この目で確認している」

「『魔人達の国』のために――魔人部隊という、軍の一部門としてではなく。
 その『能力』によって特権を保証された、自由な組織構造の機関……というわけですか。
 ………………………」

 この男が答えに言い淀む様など、あまり見られるものではない。
 それはつまり、それだけこの法案が突拍子もない夢物語という事でもあるが――
 横に立つ部下に顔を向けぬまま、男は口元を大きく釣り上げて一人哂う。

「これが前例のない提案だという事は分かっている。
 だが、フジクロよ。お前が俺と共に動けば……実現できない話ではないぞ。
 かつてド正義卓也が目指した、『魔人達の国』を作る」

「……。任務ではなく、自らの自由意思やプライドに依って動く。
 そのような魔人達が存在したとして……
 彼らは国のために何を成すでしょうか?
 今の魔人犯罪者と彼らを区別するものは、どこにあるのでしょうか」

「クククッ、そうか」

 男は笑みを崩さない。
 部下が感情論に突き動かされる人間ではないという事は、男とて理解している。
 だからこそ彼は男の側近である価値があった。

「ならばもう少しだけ、考えてみるといい。貴様の納得の行くまで」

「……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「木村沃素、という名の能力者がそちらにいるな」

「……はい」

「彼女の事は知っていた。今の時代からは『先』の話になるのかもしれないが……
 こちらにロクな情報が渡らなかったのは、先の連中を『倒して奪え』という事だったのか?」

(木村沃素様……トーナメントの進行中にそのような事を……
 でも、公安部の諒解を得ずにあの野試合を公開してしまった時の事を考えれば……)

 ダンジョンに紛れ込んだ正体不明の人物への『試合交渉』に木村沃素を送り込んだ判断は……
 果たして正解だったといえるのだろうか?
 彼女の独断がトーナメントの中止を防いだ……と解釈することも、考えようによってはできなくもない。
 現に、このフジクロとリザーバー達の試合は成立している。
 これがそのまま放映されていれば、恐らく公安部の介入は先程のように穏便には行かなかっただろう。

「……恐らくは。
 速川いずみ様の死体の回収のために私が出てくる事は、フジクロ様の予想通りでしょう。
 フジクロ様の状況は先程説明した通りです。
 望むならば、今すぐにでも『元の時代』へと戻す事が可能でしょう」

「説明はそれだけではないだろう。私は、木村沃素の事はよく知っている」

「と、仰いますと――」

「彼女は、君達のイベントを通じ……図書館にいる『この私』の存在を知った。
 だが、あの木村沃素がそれだけで終わるとは思っていない。
 私の推測が正しければ、彼女はどこか別の機関……マスコミか、あるいは……
 より即物的に動くのならば、公安部にいる『この時代の私』にこの情報を売ったはずだ」

「……よく分析しておられます。
 実はこの大会にも既に、公安部の介入が。確証は取れておりませんが、
 情報のリークがあったとすれば、木村沃素様が最も可能性が高いかと」

「ならば、それを聞いた『私』はこう判断したはずだ――
 君達の試合中継を通じて、未来の私が持つ何らかの情報が漏洩すれば、
 それは『今の私』の不利益となる、と。あらゆる手段で、その公開を止めにかかるはずだ。
 公安部を動かしての強制介入とは、私にしても随分直接的な話だがな……」

(違う。不動昭良様の試合での、『転校生の仕掛け』。
 単なる強制介入ではないように仕組まれていた……
 しかも、それすらも恐らくは、この時代……公安部のフジクロ様の)

 すると、木村沃素が公安部から得た『報酬』とは……
 白王みずきを経由して得られる、『転校生化の条件』の事なのだろうか?
 結昨日司はふと、そのような事を思う。

「公安部からは、どのような介入が?」

「フジクロ様に関する全ての試合の公開を、差し控えるようにとだけ。
 先の野試合も、放映されてはおりません」

「……そうか」

 フジクロは小さく呟く。
           、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
「では、最初から能力を隠す意味はなかったわけだな」

「……! やはり、フジクロ様……!」

 『限定全知』では、感知する相手の心理まで読む事はできない。
 しかし薄々感づいてはいた。

 この男……陸軍一佐フジクロは。
 あのリザーバー消化戦、3対1の圧倒的戦力差において……なお!
 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
 本気を出していなかった!!

「それを聞いて安心した。一つだけ、君に頼みたい事がある。
 この能力に巻き込まれてしまった代わり、と言っては大きな頼みになってしまうが」

「承りましょう。確かに、今回の件の責任はこちらにございます」

「先程の話では、トーナメントで優勝した魔人が『2人』いると言ったな。
 彼らの試合の映像は見られないか?」

「なるほど。手配いたしましょう。
 ならば……フジクロ様」

                、 、 、 、 、 、 、 、
「そうだな。できるならば、彼らと戦ってみたい」


 表と裏の優勝者2人を交えた、トーナメント終了後の試合。
 人々に知られることのない……ユキノイベント側にも何ら利益にならない、
 真の意味での『野試合』だ。

 だがその言葉を聞いて、結昨日司の心が僅かに熱を帯びたのは何故だろう。
 自らの心まで計算し尽くして、数多の敵を制圧した渡葉美土が。
 銀河の彼方まで届く最強の一撃で、全ての敵を打壊した池松叢雲が。
 そしてこの男……フジクロが。
 一同に介し、戦う。

 思えば――戦況を把握する自身の能力、『限定全知』。
 もしかしたら彼女自身が、観客以上にこのトーナメントにのめり込んでいたのかもしれない。

「かしこまりました。相応しい試合場をセッティングいたしましょう。
 また後ほど。フジクロ様――」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(……僕としたことが、らしくもない真似を)

 フジクロは……先の野試合の最初のように、
 貸出受付内の事務椅子に座って、やや不機嫌そうに天井を仰いでいる。

 そもそも試合の非公開化は、『この時代』の彼が便宜を図って行ったことだ。
 今の自分が、それをいい事に好き勝手をして良いはずもないのに。

(それでも……もしかしたらこの僕にも、理解できる日が来るのかもしれない。
 この目で。この実感で)

 あの会議室で聞いた言葉が、脳裏をよぎる。
 その時彼は、何を思っただろうか。
 魔人としての自由な意志が認められるのならば、あるいは彼自身も……


(もしかしたら。戦うことで――)


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最終更新:2011年12月05日 22:40