医死仮面(マスケラー・アスクレピオス)

設定

「仮面の13人」の流れを汲む秘密犯罪結社「仮面武闘會」(マスカレイド)のメンバー。
 ヴェネツィアのカーニバルで見られるような衣装を身に纏い、鳥の嘴のような仮面をつけ、髑髏のついたアスクレピオスの杖をついて歩いている。その優れた医術を応用した「暗殺医術」の使い手。身体能力は魔人の中でも上位に入る。
 仮面は組織の秘密を守るためのモノで、かなりがっちりと顔面を覆っており、拳銃で撃たれてもヒビが入る程度ですむ強度だが、完全に割れたり、顔から離れたりすると仮面に込められた魔人能力が発動し、爆発する。火力は手榴弾程度。また、仮面をつけたまま本体が死んでも爆発する。
衣装もかなり丈夫な素材で出来ており、その内側や持っているスーツケースに仕事用の医療器具が収納されている。
 組織は徹底した秘密主義をとっており、ボスでも構成員の情報は最低限しか知らない。他のメンバーはどうか知らないが彼はプライベートでも人前では仮面をつけており、親しい人間は1人もいない。仮面をかぶる以前の自身の痕跡は完全に消し去っている。自分だけが自分の姿を知っていればいいという考えからである。好きな場所は自分の家。欲しい能力はATフィールド。アンチ人類補完計画。
今回は組織の都合から大会に参加させられることになったが、生き残ったら組織を抜けようかとこのことで考えている。

魔人能力『サナティック・アスクレピオス』

古今東西のあらゆる医術を極めた結果会得した殺人医術。当然普通に医療行為をさせても魔人界屈指の名医で、闇医者としての仕事もしている。自身の肉体にもあれこれ手を加え、魔人としての強靭な肉体を更に強化している。
殺し方はメスで刺す、斬る、鍼でツボを突く、縫合糸で括って切断(糸使いのイメージ)、毒を盛るなど。杖の先端からは毒針が、髑髏からガス麻酔薬が出る。
鍼が使えない状況だと指で突くこともある。人中などを突かない限り魔人相手に致命傷は望めないが、激痛を与えたりは出来る。体捌きなどは中国拳法っぽい。
本人もかなり病的な精神の持ち主のせいか、精神科医の素質だけは皆無である。

【ワンミニットエクスタシー】
薬物投与、気功、脳内麻薬などの相乗効果で1分間だけ普段とは比較にならない身体能力、集中力を得られる。使うとしばらくは身動き出来なくなるので滅多に使わない、使う状況に追い込まれることを恥と考えている。

プロローグ

タイトル「ジョン・スミスの溜息」


「ターゲット:オオツキ タロウ 場所:日本・東京 条件:事故死に偽装して殺害 要注意事項:魔人SP 期限:一週間以内」


 N.Y市内のとあるマンションの一室で、ジョン・スミスは次の任務内容を知らせるメールを受けた。
ジョン・スミスは無論偽名なのだが、「ジョン・スミス」になる以前の人生の痕跡を抹消した彼には本名と言っても差し支えない。
名前とは他人に呼ばれるためのモノである。他人に一切の関心を持たない彼には自分の名前などアルファベットや番号と同じモノと思われた。

 彼の組織「仮面武闘會」は徹底した匿名性を方針としており、構成員は、たとえボスにも最低限の個人情報しか明かさない。
依頼者のイデオロギーを一切問わないことも他者の内情への徹底した無関心さが現れている。彼はこの組織を好ましく思っていた。
徹底的に表面だけの事務的な人間関係で結ばれていることが彼の理想であった。

 ヴェネツィアのカーニバルで見られるような衣装を纏い、鳥の仮面を模したマスクを付ける。
この瞬間、彼の「ジョン・スミス」というキャラクターは完全に覆い隠され、代わりに暗殺者「医死仮面」(マスケラー・アスクレピオス)という
キャラクターが与えられる。この仮面は、元々中世ヨーロッパにおいて外科医が身につけたとされるモノである。
仮面は素顔を隠すだけでなく、それ自体が1つのキャラクターを象徴しているのだ。

日本 都内のとある飲食店

「仮面をつけて生きるのは~息苦しくてしょうがない~」

店内に有線で流れる曲のワンフレーズを聞いた瞬間、ジョン・スミスは仮面の下で激しく嘔吐した。
防護服の役割も兼ねるこの衣装は通気性を犠牲にしている。逃げ場の無いゲロは首から下を激しく汚し、ゲロの臭いがさらなる嘔吐を誘う。

「お客さま!どうなさいました?」
不審な格好の客が突然倒れこんで苦しそうにしているのを見て、店員が駆け寄ってきた。

「いや大丈夫だ」

流暢な日本語でそう答えるが、その声はニュース番組でプライバシー保護のために使われるような異常に甲高いモノだった。
店員は一瞬ぎょっとした顔をすると、すぐに下がる。

トイレでカメラの類が無いかチェックした後、仮面を外し、顔と襟元を拭き、薬を飲んだ。
「仮面をつけて生きるのは息苦しくてしょうがない」聞いた瞬間に嘔吐する嫌悪感を覚えた。
人と人は決してわかりあえない。宗教、人種、性別、国籍、思想…そのようなことは別に。
だって違うのだから。自分と他人は。

なのに人と人は理解し合えるはずだなどという吐き気のする幻想を世界は共有している。
それを端的に表したのがあのフレーズだ。

本当の顔など他人には決して見せたくないし、他人の本当の顔など見たくない。
自分がどんな人間かは自分だけが知っていればいい。

「男には自分の世界がある。喩えるなら殻に篭る一匹の蝸牛。」

ジョン・スミスの「自分の世界」は自宅と、外出時はこの衣装の内側、仮面の下である。


「さっきから何のつもりだ?」

予約してあるホテルに向かう途中、人通りの少ない路地裏に入ったところで、先程から感じていた視線の主に声をかけた。
距離は10m程。背を向けているが、洋服店のウインドウが視線の主の正面からの姿を映している。
妙な動きを少しでもすれば振り向きざまにアスクレピオスの杖から毒針を射出する態勢が出来ていた。

「流石ですね。私は敵ではありません。結昨日家からの使いで参りました。『仮面武闘會』代表選手の医死仮面様。」

視線の主、スーツの男はそう言ってこちらに歩み寄り、握手を求めてきたが無視した。

「結昨日家?選手?どういうことだ?何故私を知っている。」

「それは、こちらを見ていただきたい。」

男はそう言うと懐からUSBメモリを取り出し、バリバリと食い始めた。そして視線をビルの壁に向けると、目から光が発せられ、
壁に映像が投影された。
魔人だ。

映しだされたのは、見覚えのある顔だった。「顔」と言っても紙袋を被っているが。
「仮面武闘會」のボス。会ったのは組織に入ったときに一度きりだ。

「君に出したオオツキ暗殺の指令、アレは嘘だ。本当の指令は彼らの主催する大会に出ることだ。詳しいことは彼らから説明があるだろう。申し訳ないがこちらも組織の都合があって、誰か1人を出さなくてはいけないんだ。こちらからの報酬に加えて、大会の優勝賞金も君が受け取って構わない。それでは健闘を祈る。」

音声は男が口で再現していた。ボスの声は自分のそれと同じ異常に甲高いモノで、人間に発声できるとは思えなかったが、
どうも男は食った媒体に記録されている内容なら必ず再生できる能力の持ち主らしい。

「そういうわけです。拒否権はあなたにありません。」

映像が終わると男はそう言った。男の能力は戦闘には使えそうに無いが、それ以外に、自分に向けられるいくつかの視線に彼は気づいていた。
それら全員をこの場で相手にして無事でいられる確証は彼には無かった。


「わかった。その大会とやらに出よう。」

「Good!」

男の爽やかな笑みにイラつきながら、彼は大会が終わったら組織を抜けることを決意していた。
表面上の関係だからこそ、実害のある虚偽は言語道断である。

これからは闇医者一本で食っていこうと思ったが、闇医者となれば今よりは人に接する機会が確実に増えることになる。
どちらにしても自分の未来は今より憂鬱なモノとなりそうだ、と仮面の下で溜息をついた。


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最終更新:2011年10月19日 23:15